シスターとエレミア
城を出て城下町を西に進む。ヨダの村と城の中間にあたる場所に来ると見張り小屋があり、その前に立っていた兵士たちに挨拶をする。
「どこまで行く気だ?」
「まぁそう怖い顔しないでよ。ジンが怖がるわ」
「お前たちが動くとわかっているのだから呑気に出来るわけがないだろうに」
「正確には人間教よ。私たちではない」
「それをサポートしてるのはお前たちじゃないか」
「目的があるからね。もちろんお前には教えないわ”竜の妃”」
シスターの目にも止まらぬ速さで行われた右拳による攻撃を、エレミアの足元から例の魔法で作られた流体金属である美しき女神が出てエレミアを覆いつつ大きな掌になり受け止める。
「へー凄い」
しかしシスターの一撃は流体金属を吹き飛ばしエレミアの左の頭から肩までを露出させた。ダメージを負ってるのかと思ったが眉一つ動かさずエレミアは感心している。
「次は殺すわ」
「あら怖いのね。さっきも言った通りいずれ必ず滅ぼしてやるからそんなに焦らなくても良いのよ? お前たちが滅びるのは必定。敢えて今滅びたいなら滅ぼしてやっても良いけど」
シスターだけでなくエレミアも全く事を収めようと思っているとは思えない。見てる側からすると挑発し合っているようにみえる。となるとこれはエレミアの罠かもしれない。
「おい二人とも警備の仕事中だぞ?」
「そんなものはこの子に言ってやりなさいよ。大国の首都シャイネンに行けば通り名なんて皆知っているのに変よね。まるで誰かに聞かれたくないみたい」
「ちょっ!? シスター!」
エレミアは明らかな挑発を行っていたのでシスターはまた動く。話の途中で止めに入ると決め、素早くシスターにしがみ付いた。前に立ちはだかったところですり抜けられるのはさっきの動きを見ればわかる。なんとか阻止に成功し、あと数センチでシスターの拳がエレミアの顔に当たるところで抑えられた。
「殺すと言ったぞ?」
「挨拶を何度もするなんて老いた犬みたいね。生きた年月的にはそうなのかもしれないけど」
「お前の一族も長生きのはずだ」
「まぁ元祖魔女だからね」
「思い出したぞ……一族の奇病を治すために薬草学を学んでいた年齢不詳の人間がいると以前エルフの里から報告が」
「おわっ!?」
首根っこを掴まれシスターに放り投げられる。下を見ると美しき女神が現れ破裂する。自爆かと思ったが、周囲に留まった銀色の雫がシスターに向かい高速で突っ込んで行った。これは不味い!
「ジン、おはよう……」
「シシリー危ないからもう少し寝ててくれ!」
「え……? わぁ凄い魔法」
鎧の定位置から呑気に顔だけ出して下の風景を眺めるシシリー。美しき女神の銀の球がシスターを襲うもそれを掻い潜りエレミアを仕留めんと動くシスター。太い木に対しても薄い紙に指を突っ込んだように穴をあける銀の球。あんなの人間に当たったら簡単に穴が開きそうな気がしてならない。
「っと! どうやって止めたら良いかなあれは」
「うーん、でもジンが出来るのって一つしか無くない?」
木の枝に掴まりシシリーに問うと明確な答えが返ってきた。確かに言う通り一つしかない。溜息を吐きながら木々を蹴りつつ下へ向かい、覆気をしてから構えを取る。
「風神拳!」
シスターが一瞬左へ退いた瞬間、エレミアのこちらから見て右側へ風神拳を放つ。
「くっ!」
「きゃあっ!」
……あれ可笑しい。昨日の疲れが残っていて思い切り力を入れて放てなかったのに強めの風が渦を巻いてエレミアに向かって飛び、銀の球は纏まって上空へ飛び上がりシスターも横へ吹っ飛んでしまった。
「ちぃっ……また情報が違う! あのポンコツジジイ何考えてんのよ!」
銀の球だけでなくエレミアも吹き飛ばしてしまい、だいぶ先の方で倒れていて悪態を吐きながら地面を叩いている。風神拳の凄い威力で木や雑草を薙ぎ倒していたお陰で離れたところにいるエレミアが見たし声も聞こえるが、ポンコツジジイってまた暗闇の夜明けの新しいメンバーなのだろうか。
考えながらシスターを探しに移動すると、木に寄りかかりながら起き上がろうとしているシスターを発見し駆け寄る。
「シスター、大丈夫か?」
「大丈夫だ。ジンはアイツよりアタイのところに最初に来てくれたのか?」
「そりゃそうでしょ。そんなことより怪我がなくて良かった……申し訳ないなんかわからないけど威力が違くて」
「そうか……アタイのところに」
とても嬉しそうに微笑みながら立ち上がるもよろけたので肩を貸す。俺の風神拳は師匠や司祭のものに比べたら威力自体大したことはないはずなのに、シスターもエレミアもダメージを受けているように見える。これは一体どういう効果なのだろうか。
「ひょっとして俺の風神拳に何か効果がプラスされてたりする?」
「わからない……兄様の修行の内容にはそんなものは入ってなかったはずだけど」
「そう言えばシンラの時も変な感じだったわよね。ただ風を起こすだけの技じゃないって感じ」
「そうなのかな……あの呪いに囚われし羊の時はそんなかんじしなかったけど」
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