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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第三章 爵位の意味を探して

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戦までの日常

「じゃあそのシンラの仲間として協力してよ」

「は?」


 最初こちらの意図がわからず困惑していたが、少し間を開けて察したのかソファにだらしなく寄りかかった。エレミアの得意分野である薬草学が広まればシンラが憎み敵対する竜神教が勢力を伸ばすのを阻止するのに一役買える。


こうして早速エレミア先生主催の薬草学教室が急遽開催されることになる。最初急すぎてこないから暇になるに決まっている、と豪語しラウンジで鼻歌交じりでお茶をしていたエレミア先生。


事務員さんたちと簡単な紹介文を書いてギルド入口と中の掲示板に張り出すこと一時間。あっという間にラウンジは埋め尽くされてしまう。エレミアが生きていた時代と今はそう離れていないし、魔法は竜神教の管理によって浸透していない。


しかもヨシズミ国は戦乱からだいぶ離れていて医学が進歩する速度は緩やかだ。竜神教の教会を招致して見てわかる重病人は直ぐに治療できるが、そうでない場合は医者に通わないので気付いた頃には重症化しているパターンが多いと司祭から聞いていた。


戦乱は色々な技術の進化を急激に遂げる。国によっては医学の知識は門外不出らしく、他国には出回っていないものもあるという。鉱山で会ったあのガイラもその一種かもしれない。


「いやぁ凄いですね代行! エレミアさんの授業だいぶ好評なようですよ! 薬草学に興味のなさそうな冒険者たちも聞き入ってます」

「教え方が上手いのかな……今度聞いてみよう。こっちもエレミア先生からの注文を早急に取り掛からないと」


「薬草の管理と怪我人の訪問ですね。代行はどう考えてらっしゃいますか?」

「薬草の管理はエレミアと一緒に誰でも管理できるマニュアルを作るのと、管理の場所の換気をよくする改修をしよう。怪我人の訪問はギルドから依頼を出すのが良いかなと思う。医師が十分であればお願いしたいがそうでもないだろうし」


「一旦それでやってみて良い悪いを洗い出し改善していく方向で調整しましょう」

「よろしく頼む」


 薬草の管理について個人的に思ったのは巨大蜘蛛(ハイアントスパイダー)の糸で粗めに編んだ袋にぶら下げ、季節によって霧吹きがあればそれで吹いて乾燥しすぎないようにするのはどうかなとか色々案を書きつつ依頼書のチェックを続けた。


「つ、疲れた……」


 またしても乱暴に扉を開けて入ってくるとそのまま体をソファにダイブさせるエレミア先生。恨めしそうにこちらを見るも、構わず意見書をテーブルに置いて依頼書の整理を始める。


「良いんじゃない知らないけど」

「そうかじゃあ頼む」


「は!?」

「一応意見は出したんだから実行は任せる。現場で改良してくれて構わない。事務員さんも連れて三人くらいでやってくれると助かるよ」


「どうあってもこの私をこき使おうっていうのね……」

「仕方ないだろ? なんでか他の国にギルド長やベテラン受付嬢や男性受付係が拘束されてて人がいないんだから。俺もやりたくてやってないの子爵だからやってるワケ」


「何もいいことがないわ……」

「同感だね。今この国で貴族になるのは中々大変だからならないほうがよかったと思うよ」


「昔は貴族って楽の象徴だったのにね」

「ノービル殿下たちはそうしたいらしいけど無理じゃないかな。人数が貴族以外多い状況で貴族も楽できない仕組みになっちゃったし」


「思惑と違う」

「人生で思惑通りいった試しがあるみたいな言い方だな」


「……それもそうだわ」

「もしよかったらご飯でも御馳走するよ?」


「結構よ賑やかなの嫌いなの」

「じゃあ甘いものでも」


「頂くわ」


 食い気味に答えるエレミア。時間的にも丁度退勤時間なので、処理済みの依頼書の束と薬草の管理に関する意見書を事務員さんに渡し、二人で退勤し甘味処に移動する。エレミアはこれまで見たことのない笑顔で甘いものを少しずつじっくり味わい歓喜の声を上げた。


「こんな美味しいものがある町を荒らすのは気が引けるわね」

「なら止めておいたらどうだ? どうせここがダメになろうと世界は変わらないだろう?」


「あなたならわかるかもしれないけど、戦略的にこの国が邪魔なのよ。地図で見てもこの国を囲む国々が綱渡り状態で交流している」

「その中の一人に野心があり暗闇の夜明けが協力しているって話か。大方どこかの場所で一般人が魔法を使う実験をしていいとかいう取引をしたんじゃないのか?」


「ある意味ではイエスよ。まぁ元々世界に魔法はあったし素養はあるのよね。元となる粒子が消滅してただけで……あ、お姉さんこのセットおかわりで」

「時間が経てば皆勝手に使うようになるんじゃないか? それこそ急いで使用する方が危険な気がするが……あ、すいませんやっぱり俺もおかわり下さい」


 二皿目のフルーツ山盛りフレンチトーストを頂きながらエレミアとだべる。少しの間だが一緒に働いてみて分かったけど、神様に対するこだわりはあってもそれ以外に対して好戦的ではない。自らの中の問いに答えを出したくてシンラたちとつるんでいるんだろう。


「あなたの言う通りね。そのうち人は勝手に魔法を使うでしょうし、竜神教も想定している。今はそうではないから止めているだけでしょうね。そうでなければ各町に教会を作って治療をするなんて真似はしないはずよ魔法に触れるんだから」

「となると人間教をどうにかすればエレミアとは戦わなくても済むのかな?」


 問いに対して空を見上げて一息吐き、セットに付いていたコーヒーを飲むと自分の分の御代を置いて立ち上がる。


「残念ながら賽は投げられたわ。このくだらない遊びもあと数日。あなたもそれはなんとなく察しているでしょう?」

「数日かはわからないが国境で足止めされたりしているのを聞いてなんとなくね」


「なら遊びは遊びとして割り切りなさい。私たちは敵同士。互いに成し遂げたいこと護りたいものはあるでしょう?」

「エレミアのお姉さんの子どもたちは良いのか?」


 エレミアは鼻で笑うとまた明日と告げて去って行った。どうやろうとこの国を襲撃すれば被害が及ぶのはわかっているはず。それでも確かめたいのだろう、皆が信じる神がいるのかどうかを。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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