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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第三章 爵位の意味を探して

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騒がしい夜が過ぎていく

 今日はとても夕焼けが綺麗で、慣れない仕事を一日して疲れが溜まっていたが少しだけ疲れが取れた気がする。シシリーも懸命に手伝ってくれて今は鎧の定位置でうとうとしていた。のんびり景色を見ながら家に辿り着くと、皆外でまだ作業をしている。


「お疲れ様」

「おうご苦労さん」


「ジンさんお疲れ様でした!」

「ジンおかえりー」


 コウガにサガ、カノンが柵を新しく設けていた。新しい家族の仕事を作ろうという話になり牧場にイーシャさんとベアトリスが相談に行ったところ、ヨシズミシープではない種類なら動物病院を介して飼えると教えて貰い早速そちらにも相談に向かったという。


「コウガたちは良いのか? 依頼を受けに行かなくて」

「暫くはな。一応溜めてた分もある。それより足元をしっかりしておけば何かあっても安心だろ?」


「冒険者は常に危険と隣り合わせだって言われてますから。ギルドでもお世話してくれるでしょうけど、自分たちでなにか出来るならそれが一番いいですよね」

「サガ……立派になって」


「お兄ちゃん素敵!」

「二人ともくっつかないで!」


 カノンと二人で立派になったサガを挟むように抱きしめると嫌がられてしまった。邪魔をしても悪いので中に入るとアリーザさんがしゃがんで新しい家族と向き合っている。こちらに気付いてない様子なので黙って見ていると、暫く動かなかったが恐る恐る掌を出すアリーザさん。


それを見て舌を出しながら固まっていた犬はそっと右足を乗せてみる。するとアリーザさんはキャーと控えめな悲鳴を上げ膝を抱えて転がり始めた。あのクールなアリーザさんがまさかこんな動きをするなんて。


なんとか笑うのを堪えていると不意に目が合ってしまう。素早く目を逸らし


「あ、えっとただいま……今丁度入って来たところなんだ」


 と言い訳をしてみる。


「見ましたね?」

「はい。とても可愛くてずっと見てました」


 目を見開いていたのが泣きそうな、なんともその……情けない顔になって笑いそうになるのを堪えるのが精一杯で嘘を吐く暇すらなかった。


「ばかっ八方美人っ四股おとこっ!」


 散々な言われ方をされながらぽこぽこ鎧を叩かれる。部屋に閉じこもられるよりはマシだと考えそのまま気が済むまでぽこぽこ叩かせ続けた。やがてイーシャさんたちが戻ってくると素早く手を止め何事も無かったかのように振舞う姿は流石だ。


「で、結局この子の名前はなんなの?」


 シシリーの言葉に全員停止してしまう。確かにそれが一番の問題だ。いつまでも犬って言い続けるのも可笑しい。恐らくギルド長代行している間に誰かの意見が採用されたのだろうと思っていた。


「アイスで」

「インで」


「シシュウで」

「アタリで」


「クライで」

「ローラーで」


「ウッドで」


 なんか名前って言うより単語みたいになってるけど真面目にそれを付けようとしたのだろうか。疑問に思い二の句を告げずにいると、言い争いが始まる。聞いているとその件についての話が出てきた。最初はもっと凝ってて意味のある名前にしていたらしいけど、呼びにくいとか別の国ではそういう意味にならないとかになって短くしたらしい。良いのかそれで。


「どれがいい!?」


 全員が候補の名前を上げてから喧々囂々した挙句こちらに選べと言って来た。どれ選んでも角立つじゃんとは思ったけどこのままでは名無しになって埒が明かない。安直ではあるがこれで行こうと思ったものを提案してみる。


「はい、じゃあ皆さんが提案した名前の頭文字を頂きまーす」


 近くに立て掛けてあった連絡用の黒板にチョークで名前を書かせていく。なまえの頭文字を丸で囲み改めてそれを名前とした。


「アイシア・クロウ……なんか凄い名前ね」

「でもこの子賢いし良いんじゃないかな」


「そうですね名前と名字があるのは悪くないかも」

「この家の一員に相応しいですね」


「まぁこの家の一員だしアリかもな」

「じゃあ決まりですね!」


「でも普段はフルネームで呼ばないからアイシアなの?」


 カノンの一言に時が止まる。そしてまた始まる論争。正直付き合いきれないので先に寝させてもらうべく部屋に戻り就寝した。


「アイシアで」

「あ、はい」


 朝日がカーテンに当たりその光で目が覚めた。ベッドから起き上がり外へ出ると皆玄関前で円になるように座っていて、こちらをみるなりそう言って来たのでそれで済ました。大きく頷いた後でそれぞれの部屋に足取り重く戻って行く。今日もここは平和である。


「今日は楽しそうな依頼があるといいなぁ」

「そうだね」


 シシリーとアイシアと三人で朝食を食べ、アイシアには門番として家の周りを頼みギルドへと赴く。


「代行! 事件です!」

「それ昨日聞いたよ」


 入るなりこちらを見つけると昨日と同じ女の子がそう叫んでこちらに来た。デジャヴかと思う展開である。今日は一体何が起きたのかと尋ねると、ギルド長とミレーユさんが月一の会議に出ていてそれが終わって即岐路についたものの、山を越える辺りで天候不順となり通行止めになったそうだ。


仕方なく迂回しようと別ルートに行くとその国のギルドで問題発生。そこのギルド長と協力して事の対処に当たっているという。ヤマナンさんは回復せずダンドさんは関所で通行許可が下りないそうだ。


「頼みます」

「いや困るよこっちも御金稼がないと生活に支障が出るんだけど」


「ギルド長としてお給料が出ます」

「幾ら?」


「わかりません! 私下っ端なので!」


 潔い言葉を聞いて卒倒しそうになる。ギルドの受付と言えば色々な冒険者がくるのでなにかあったところで怯まないのは流石だ。ギルドの入口で押し問答しても始まらないので彼女には受付業務に戻るよう告げて事務室に入る。



 

読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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