思惑はどこに
「今やこの国一とも謳われるその武勇を持って国に貢献するべきではないのかね? この国の恩恵を受けているのであれば」
「もちろんこの武は国の為に使いましょう。ですがそれと警備を担当するのは話が違うのではないでしょうか。元々御城の兵士たちを纏める者もおりますし、貴族の中にも担当する者がおりますれば新参が出過ぎた真似をせぬのが良いかと。分を知る者でありたいのでご容赦頂きたく思います」
「では警備担当者たちが良しとすれば受け入れるのかね?」
「先ほども申しましたように自分はまだ爵位を頂いて浅く、ノービル殿下にも言われましたが変わり者故、そういった多人数を纏めるような大役を仰せつかる立場に御座いません」
予想通りどうにかして受けさせようとしてくる宰相。ノービル殿下も巻き込んでなんとか回避すべく堪え続ける。
「では補佐ならどうか」
「右も左もわからぬ者に補佐は出来ますまい。例え付いたとしても評価を下げて爵位を返上することになりましょうから、望むところではありますが現場にご迷惑を掛けられません故重ねて辞退申し上げます」
最初は静まり返っていた場内も宰相が食い下がるのを聞き違和感を覚えたのか騒然としてきた。こうなると宰相もこれ以上は推せないだろう。
「ならば仕方ない。他に我こそはと思う者はおらぬか?」
「私がお引き受けいたしましょうか?」
後ろの方から聞き覚えのある声がしたので振り向くと、そこにはエレミアがいた。受けない場合を想定しての動きか……この場合どう動くのが正解か急いで考えないと。
「おおやってくれるかエレミア殿。であれば彼女に一任しようではないか。皆もそれでよろしいか?」
「宰相閣下、ご提案申し上げる」
クライドさんが手を上げると宰相は頷いた。許しを得たクライドさんは立ち上がり
「彼女もジンと同じで新しい子爵。故に警備を纏めるのではなく、新子爵二人で警備の一端を担う方が負担は軽いのではないかと考えますが、如何でしょうか」
そう提案した。警備を率いるというのをこちらが理由を述べて拒否した時、他から反論が出なかったのは他の人たちも似たような思いがあったからだと思う。仮にもしどうしても担わせたいならという折衷案に対して今はその通りという言葉が飛んできている。
これに対して宰相は思惑と違う方向に進んでしまったのか一瞬立ち上がり前を見る。机に付いた手は握られていて悔しさが表れているような気がした。ならばここは押すところだなと考え立ち上がる。
「クライド殿のご提案に対し是非国家に貢献すべく協力させて頂きたいと存じます。不肖な身では一端を担うのも厳しいですが、新子爵である御仁と共にであれば何とか役目も果たせるかもしれません」
「ジン・サガラ、クライドの提案なら受け入れるのだな」
「宰相がイシワラの家を継ぐよう指名した方にまで推されては断れません」
どこまで想定済みかはわからない。この行動まで予測済みかもしれないが、現時点で対応可能なのはこのくらいだろう。クライドさんがエレミアとセットにしてくれたのはなぜか後で聞いてみよう。
「以上を持って第百二十三回議会を閉会する!」
宰相の宣言が終わると皆拍手をし、陛下と宰相が立ち上がって一礼して外へ出ると少し間をおいてからそれぞれの出口から外へ出ていく。席を立ったり座ったりしていたので抱えていた犬はシンタさんが膝に乗せてくれていた。お礼を述べて受け取り三人で議会場を出るべく席を立つ。
「クライドさんも彼女に違和感を?」
「まぁな。ちょっとした勘だよ勘」
「流石兄上ですね。まぁジン・サガラを男爵に推した辺りからなにかの布石ではないかという声はありましたが、彼女を子爵にする為だとすれば要注意人物に間違いないですね」
「俺たちは基本相手がなにか具体的にしてこない限り見張るくらいしか出来ない。だからこそ調査は徹底的にする。彼女の功績を証言を基に調べたが嘘はない。だが引っ掛かる」
例の逃げ出した暗闇の夜明けは、隣の国の森の中に潜伏していたのを捕らえたようなので調べて見ると確かに痕跡を辿れば捕らえた場所に行きつく。クライドさんは実際の現場を見た時、滞在期間や目印になりやすい岩の近くに隠れていたのを見て可笑しいと感じたという。
そして例のガルーダバチの女王の遺体も学者が調べたところ前の女王の遺体の可能性があるという結果が出たようだ。なぜそれがわかったかというと、解剖し中を見ると内部は外見以上に劣化していたからだという。
何者かが薬物によって外見を整えた可能性があるかもと聞いて、ふとテオドールの顔が頭を過ぎる。あからさまに怪しい人物ではあるが、なんでもかんでもテオドールのせいにしているといずれ判断を誤りそうなので気を付けなければと自分を戒める。
「これだけ宰相が動いて来たとなると具体的な動くのも時間の問題だ。妙な動きを見つけた場合には必ず連絡し合おう」
クライドさんとシンタさんは王妃にも今回の件を報告するとして去って行った。シシリーも犬も退屈だったのかぐっすり寝ていて羨ましい。城下町に出ようかというところでエレミアが待ち構えていたが、抱っこしている犬を見て去ってしまう。
「お前結構強い犬なのかもしれないな」
あのエレミアが見ただけで逃げ出した。これは本当に良い出会いをしたのかもしれないと思いながら家路につく。
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