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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第三章 爵位の意味を探して

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可愛い出会い

 考えても埒が明かないし、日時計を見れば議会の時間が近付いていたので料金を支払い店を後にする。ここから議会場まではそう遠くないのでのんびり歩きながら移動した。


「ねぇジン、あの子ずっと付いて来るわよ?」


 暫く歩いているとシシリーが何か感じたのか、定位置から肩へ移動して後ろを見ると教えてくれた。振り返って見ると確かにあの犬がとぼとぼと歩いて付いて来ている。行く道が同じだからだろうと考え歩き出したが、少しして再度振り返ると変わらず付いて来ていた。


「お前なにか俺たちに用があるのか?」


 通行の妨げにならないよう道の端によってしゃがむと、犬は目の前に着てお尻を付けて座り舌を出している。毛の色が殆ど黒で眉間と鼻と口の周り、首の周りそして前足までが白い。あまり犬には詳しくないが、恐らくボーダー・コリーっていう犬種だと思う。中世ヨーロッパで牧羊犬として飼われていたというのを、本で読んだ覚えがある。


「おやアンタが飼ってくれるのかい? その子」


 移動した場所の近くにあった衣料店から上品そうなおばあさんが出てきて声を掛けてくれる。事情を知っているのかと尋ねると、どうやら以前エダンが牧場をやっていた時に飼っていた犬たちの子どもでは無いかという。エダンが廃業に追い込まれた際に山に捨てられ野良になり、偶に町に下りて来るらしい。


まだ生まれてそう経っていないようで体が小さい。そしてお世辞にもしっかり食べているようには見えなかった。おばあさんに聞くと近くに獣医がいるというので案内してもらう。診断の結果若干栄養失調になっているようで、しっかり薬を飲ませて食べさせれば大丈夫なようだ。


「アンタが飼う意思が無いならうちで引き取るよ」

「引き取って飼うんですか?」


「無理だな。知っての通りヨシズミ国は国営で牧場や畑をやっている。犬も必要な分は国で管理し躾も行っているんだ。この子みたいなボーダー・コリーという牧羊犬をペットとして飼うのはお勧めしない。エダンの落とし子と言われている子たちだから我々も追い回して捕まえて処分したりせず、国に回収を依頼しているが宰相閣下はそんな気はないというのでな。後は察してくれ」

「じゃあ飼います。薬下さい」


 放置してるのにそれを捕まえてきたら処分するなんていうのには同意できないし、宰相がそんな気はないというなら尚更うちで飼いたい。反骨心だけでなくこうして会ったのも何かの縁だと思う。この子がくれたヒントが後で役に立つかもしれないし、そうなると幸運を運ぶ犬かもしれない。


「物好きな男だ。皆がアンタに注目するのもわかる気がするよ」

「確かに物好きかもしれません。皆にとっても珍しいからよく目につくのでしょう」


「得にはならないのにこの犬を救う……その行為行動は俺たち庶民にとっては大事なのさ。陛下は俺たちにとっての星だが、星はいつか流れるもの。それが遅くなればなるだけ俺たちの平和も長くなる。それを願うだけでなく俺たち自身も何かしなければと教えてくれたのはアンタだ、ジン・サガラ」


 どうやら褒美を要らないと断りながらも何度も国の危機に直結する事件を解決したのが、かなりの美談になって広まっているようだ。凄い過大評価されている気がするが、皆にとって良い方向に働くならそれに異を唱えるのは止めよう。そう考えその期待に応えられるよう頑張りますと告げると、宜しく頼むと言われ握手を交わした。なにかあったら来るようにともいってもらえたので、また体調の変化があったらここにお世話になりにこよう。


「ジン、この子の名前なににしようか」

「それは帰ってから考えよう。先に決めるとまた酷い顔をして睨まれる」


 あのプレッシャーを可能な限り避けたいので迂闊な行動はしないに限る。そう考えながらのんきに犬を抱えて歩いていると、日時計が目に入り冷や汗が出た。もうとっくに議会の時間になっていたのだ。全速力で議会場へ向かうと驚いたことに馬車の列が出来ている。


兵士の人に声を掛けて聞いたところ、まだ貴族の入場が終わっていないらしい。本当にラッキーだなと思いながら抱っこしている犬を優しく撫でつつ議会場へと入る。議会場は大聖堂くらいの大きさの建築物でかなり凝った意匠をしていた。


これもまた観光資源になりそうだなと思い受付に行き記帳すると、傍に見学ツアーのチラシが置いてあったので流石だなと思い苦笑いする。


「おやこれはこれはヨシズミ国の英雄殿は遅れて登場ですかな?」


 声の方向を見ると初めて見る人がこちらを向いて立っていた。後ろに目付きが悪いものの着ている服は煌びやかなお供を引き連れている。声を掛けてきた人物は少し癖毛の金髪を肩まで伸ばし、細面で釣り目。落ち着きが無いのかその髪を人差し指でくるくるとし続けていた。


お供よりも豪華な衣装にマントを身に付けていて、陛下よりも凝った装飾の服を着ているのを見ると、例の陛下が倒れた後に担ぎ上げられる人物なんだなと察した。


「遅れて申し訳ありません」

「いやいや初めて参加するなら仕方ない。英雄殿は最近爵位を得たばかり。昨日まで明日の暮らしも知れない人間なら場所や決まりを知らないのも無理からぬこと」


 こういう人取引先にも居たなぁ。君どこ出てるの? 高卒? 何年目? 役職は? ああそんな程度なら業界がわかってないだろうから説明して上げようとか言った挙句、契約したいならもっと上の人間を連れて来いなんて言われたのも今は懐かしい。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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