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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第三章 爵位の意味を探して

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子爵と子爵

「不穏な動きを見せたからと言って捕まえられない。確実な証拠や現場を押さえなければならないのが辛いところだ。この際だから突いて暴発させた方がスッキリするがな」


 自嘲気味にいう陛下。相手が仲間を集め戦いの準備をしているのがわかっていても何もできないもどかしさと苛立ちがあるのだろう。監視の目は厳しくしていても、先日会ったエレミアのような方法で来られたら無理がある。


「連中が検問を真面目に通る訳もないが念のために固め、町長にも不審者に目を配るよう連絡はしておいた。ギルドにも協力を要請し司祭にも声を掛けている。正直なところ一時的に国の入口を締めたいが、流通が止まれば国民の生活に大きなダメージが出る」

「自分も気を付けておきます」


 生活費を稼がないとならないが、今は国の大事だ。なるべく短めの依頼をこなすなどして不在の時間を短くしながら警戒しておこう。幸いコウガたちもいるので依頼と言う形で彼らに協力をお願いするのも考えなければならない。


「ああ頼む。今日お前を呼んだ理由はもう一つある」

「何でしょう」


「今日議会が開かれる。それに出席するように」


 引っ越して次の日に議会とは運が良い。月一回なのでここで消化してしまえば翌月まで他のことに集中できる。


「何処で行われるのですか?」

「城から出て直ぐ右手にある議会場で行われる。今回は国の財政状況の説明や法案についての提案がある。特に議論を交わすものは無いから安心して参加しろ」


「はい」


 議会は一時間後と聞き、一旦帰るには慌ただしいので城下町を散策することにした。この前もある程度見たが、今回は食事もしようと先ずはレストランを探すべく城を出る。


シシリーと二人で麺類を扱っているお店に入り、酸味の効いたトマトソースパスタをいただく。値段はコーヒー込みで十五ゴールドと、城下町の土地代や観光客が主な商売相手と考えるとお手頃価格だ。商売をこれからやる予定なので、場所や周辺価格も調べてやらないといけないなと思い色々値段について考えてしまう。


「こんにちは、同席しても良いかしら」


 シシリーも食べ終え二人でメニューを見ながら話していると、メニューに影が入り声が掛かったのでその方向を見て驚く。滅びを呼ぶもの(プロフェット)ことエレミア・アナヒルが横に立っていたのだ。シシリーは無言で鎧の中の定位置に戻る。


「駄目?」

「……どうぞ」


 少し迷うも、雑談している中で暗闇の夜明けを攻略する糸口が掴めるかもしれない、という期待もあって了承した。暗闇の夜明けに関するデータは以前戦ったもの以外無い。少しでも得られれば生存確率も上がるし勝ち目もあるだろう。


「ここって何が美味しいの?」

「初めて来たから分からないんだよね。今頼んだのはこれ」


 トマトソースパスタを指さすと、エレミアも同じものにしようかなというので店員さんを呼んでコーヒーとセットで注文する。


「意外に驚いていないみたいね」

「いや驚いてるよ。居るとは思ったけどまさか町中で会うとは」


「確かに今までの暗闇の夜明けならそうだったでしょうが、今回は違うのよ」

「と言うと?」


「私今この国の子爵なの。功績を称えられてね」


 エレミアの言葉を聞いて開いた口が塞がらない。いきなり子爵とはどういう功績を立てたのだろうか。


「例の村を破壊した事件の首謀者でこの国から逃げたウチの下っ端が居るでしょう? あれを突き出したのよ」

「それだけでいきなり子爵とは凄いな」


「あとはそうね……エダンに協力した商人の裏を取って証拠を出したのと花畑を襲ったガルーダバチの女王の死体を引き渡したわ」


 凄いマッチポンプだ。ガルーダバチって言うのは、例のヨダ村の花畑に現れた大型スズメバチのこの世界での正式名称なのだろう。商人も含め用意したのは現場に現れたテオドールに違いない。雑談をして黙って帰るタイプじゃないとは思ったが、こういう使い方をしてくるとは。


「納得いかない顔してるわね……良いわその顔」

「確かに凄い功績かもしれないが、男爵を超えて子爵っていうのには驚いたよ」


「宰相が国王に進言したのよ。ジン・サガラと等しいほどの功績ですから子爵相当だろう、とね。あなたが今朝呼び出されたのも」


 ゾッとして鳥肌が立つ。まさか爵位を与えたのはこの為の布石だったとでも言うつもりじゃないだろうな。陛下からすれば俺の爵位を許可したのに、似たような功績を挙げた外の者であるエレミアに許可をしない訳にはいかない。


「宰相の推薦なのに今やあなたは国王の側近にも等しい。宰相が推薦した私を拒めないのは当然よね。人は明るい未来が好きだもの」


 目の前の少女は笑顔で言うが、腹の中は同じじゃないとわかる。


「随分と楽しそうだな」

「ええとても楽しいわ。だって私は誰の味方でも無いんだもの。なにが目的だ? とかつまらないことを聞かないで頂戴ね?」


 神様を嫌う彼女がやりそうなことは恐らく陛下にとってもっとも嫌なことだろう。そうわかっていても、今なにもしていない彼女を捕らえられない。事件を起こすまでジッと待つしかないのが歯がゆい。


「良いわよ耐え忍ぶ顔も。あなたがモテるのもわかる気がする」

「はいはい。そう言えばこの後の議会にも出るのか?」


「ええもちろんよ。退屈だけど出るのが義務だっていわれたから仕方ないって感じ」



 

読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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