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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第三章 爵位の意味を探して

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屋敷のお掃除

「起きなさい!」


 夢を見る間もなく、シシリーの大きな声に驚き目を覚ます。だがこの日は瞼が重く再び目を閉じようとすると、おでこをバシバシ叩かれた。母親と言う設定を楽しんでいるだけかと思いきや、段々真面目に母親をやろうとしているのではないかと思い心配になってくる。


他の皆も朝から元気なシシリーに叩き起こされ身支度をし、宿を出て真っ直ぐ雑貨屋へ向かう。


「あらおはよう! 今日は団体さんね!」


 マリノさんが店先で開店準備をしていたので挨拶をして通り過ぎようとすると、ベアトリスが走り出しマリノさんに近寄ると耳打ちする。いつもの爽やかな笑顔が段々真顔になって行き完全に真顔になると、徐に店を閉めて列に加わる。重苦しい空気を吹き飛ばすべく会話を振ってみたが梨の礫。雑貨屋が遥か彼方に思えた。


「イーシャさんおはよう!」


 そろそろか到着かなと思った時、イーシャさんが黒い日傘を差して向こうから歩いて来た。これはこの空気を吹き飛ばすチャンスだと思い元気に挨拶をするもスルーされ、当然のように列に加わる。


怖い……朝から無言で集団が固まって歩いている。そしてまだ着かない。他の人たちも異様な光景に道を開けてくれる始末。ちなみにいつのまにかアリーザさんは人の壁に囲まれてしまい、話し掛けようとしても防がれてしまう。


無言で真顔の集団は雑貨屋に到着するととても手際良く清掃用品を手にし、会計を残して店を出た。急いでお会計をする為中に入り支払って店を出ると、こちらを見もせずに歩き出す。プレステ初期時代ゲームのイベントですらこっちくらい向くぞ。


「わぁ! 凄い雰囲気のある家だね!」

「祖母が暮らしていた家なんですが生前からしっかり手入れしていましたし、父も母も事有る毎に手入れをギルドに依頼して貰っていましたから」


「へー流石町長やるわね」

「……そうですね」


 無言のまま牧場を超え製鉄所を超え森に入り暫く歩いたところにその家はあった。木造の二階建てで確かに年期は入っているように見えるが、想像していたようなおどろおどろしい感じではない。


「取り合えず離れてくれませんか? 鬱陶しいので」


 相変わらずアリーザさんの周りを他の女性陣が囲み続ける。ルキナは自分が背負っている分だけでなく女性陣が放り投げた清掃用品を、家のテラスに入り置き始めたので同じようにしていく。


「聞いていますか?」


 何とかしたいのは山々だけど怖すぎて何も出来ない。何にそんな不満を抱いているのかさっぱり分からないので解決も出来ないしどうしたものか。


「なぁこれ水汲んで来た方が良いよな」

「そ、そうだ」


「水なら右斜め先に行った先の崖に湧水が出てます」


 食い気味にイーシャさんが言うので会話が出来るかと思って笑顔で振り返ると真顔。陶器人形ばりに眉一つ動かさずに立っているのを見て、何も言わずにバケツを持ってダッシュした。


「お前ちゃんとしろよな。俺だって妹のご機嫌を取るの大変なんだぞ? 覚えておけひと月のうちどこかから暫く体調が悪くなるから、そうなったら丁重に扱うんだ。そこをしくじると長いぞ?」

「はいお兄様……」


 三十五歳児、二十代のルキナにとても大事なことを教わる。いやマジでこれは大事だ。妹を小さい頃から面倒見て来たルキナの言葉は実体験だから嘘ではない。生きるのに必死で浮いた話の一つもないもんだから有難い。


ルキナと共にダッシュで両手の桶に湧水を汲んで戻ると、女性陣が先ほどまでと違い和気藹々としていた。やっぱり近くに住んでいた近い世代の女性だから、何かわだかまりがあっても直ぐ解決できるんだな……人間て良いな。


「皆、水汲んで来たヨ! 掃除頑張ろっ!」

「あっ馬鹿!」


 笑顔で近付き桶を持ち上げながら言うと、それまで楽しそうに会話してた女性陣がまた真顔になりこちらを見ている。正直目を見れない。見たらカオスに引き込まれそうな気がしてならない……!


「す、すいません皆さん! コイツ馬鹿なんですよ! こっちこい!」


 腕を掴まれルキナに連行される。意味が分からん何故だ!


「母親ー何かご意見は?」

「王は誰よりも危険を避ける義務がある」


「……はい」


 君主論始まった? と思ったがもうこれ以上余計な事は言うまいと黙々と清掃作業に移る。シシリーは女性陣の下へ行き、ルキナと共にテラスの掃除から開始。ウッドデッキのテラスをデッキブラシでゴシゴシ擦りながら、隙間から泥を外へ出していく。


それを終えると壁に付いた埃や泥を小さなブラシで擦って行く。ちなみに洗剤は灰汁や米のとぎ汁を使用している。また豆類のゆで汁も油を洗うのに効果的だそうで一般家庭に普及していた。


がんこな汚れがあるところに米のとぎ汁を使って軽くこするとあら不思議、結構落ちる。テラスを終えて窓磨きに移行した際に中の様子が見えたが、皆笑顔で会話をしながらテキパキと動いていた。目の奥が笑っていないのは気のせいだろう。


余計なことをしないよう掃除に集中していると、シシリーが窓の近くに来て開けろと言うポーズをしたので通れるくらいに開けると出て来た。そして会社帰りの疲れた人のように溜息を吐きながらぐったりしつつ肩に座る。


読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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