古い家の鍵
「要職に就くまでは自由と言うことでしょうか」
「自由とは責任が伴うものだ勘違いする者が多いが。ある意味要職に就いている方が楽かもしれん」
要職に就いていれば嫌でも仕事をせざるを得ないが、そうでないなら貴族や王族のプライドが邪魔をして仕事をしなかったり部下に押し付けて評価を下げてしまう場合もあるだろう。
そうなればやがて断絶となると聞いているが、残っている貴族王族は評価を下げていないから残存している訳で。他の貴族たちはどんな仕事をしてるのか少し興味が湧いて来た。
「先ほど言った国家運営に直接携われる件だが、貴族王族には議会に出席する義務もあるし法案等に関して投票する義務もある」
「議会ですか」
「基本月一回招集がある。法案に関して議論したりして最終的に議決をするが、お前は今の時期で良かったと思う。今の陛下が就任してから一年程は議会が頻繁に開かれ、三か月に一回は他国からの入国を止めたほどだ」
のちにゲマジューニ革命と名付けられた怒涛の一年は、誰にとっても忘れられないものとなったようだ。しかしそれがあったからこそ財政再建も始まり、インフラが整備され福祉なども充実し国民も豊かになったという側面があるので、今は好意的に受け入れられているという。
「陛下が即位する前の貴族は暇で余計な事件を起こしてばかりいた、言い方は悪いが税金泥棒だったからな。剥奪されることもないのでやりたい放題。宰相等は我が世の春を謳歌していた」
「それが今の軋轢に繋がっているのですね」
「そう、特権という物を当たり前に与えられていた者たちからしたら、急に剥奪されたら許せるものでは無いだろう。その上厳しい労働を強いられているのだからな」
それを嫌って爵位を返上し僅かな財産をもって他の国に行く者たちも居たというが、結局やって行けずにほぼ全員帰って来たという。不平不満を持ったまま他国に夢を見て破れて帰って来たところで解消される筈もなく、宰相一派として今も存在しているようだ。
「お前に対して嫉妬している者たちが居るとすればその連中くらいだ。俺たちからすればさっさと返上したいくらいなのに」
急激な改革に反発は付き物。だが一番人数が多い国民たちは喜んで受け入れ、貴族王族もそれを受け入れた者が殆どだからこそ、国の平穏が保たれていると分かる。それでも諦められない者たちが暗闇の夜明けを呼び、更には捕まえた者すら逃がした。
国家国民に対する背信で処罰したいだろうが、宰相と言う大きな壁に阻まれて出来ないのだろう。宰相が外の者たちをもっと入れ込みたいのも、今の国の体制を崩す為には現住する国民では理解が得られないと考えての行動だと考えられる。
だがこの国の状況を好きで入ってくる人が、この体制を崩したいとは思わないんじゃないか。そう考えた時、宰相の最後の方の言葉を思い出し合点がいく。幾ら国の状況が好きでも宗教を盾にされたら信者は抵抗出来ない。
宗教団体幹部の指示を無視できる信者などこの世には存在しないだろう。何しろ信じている神の教えを説き導いている者の一人なのだし、逆らえば最悪異教徒扱いされて家族共々闇に葬られる可能性だってある。政教分離と言うのはとても大事な問題なんだなと今改めて思う。
「私の個人的な見解だが、陛下はお前に政治的な物は求めて居ないだろうあれば良いとは思っておられるだろうが」
「乱がおきた場合の要員としてですね」
「何時の世にも乱はあるし、我が国は常に狙われている。暗闇の夜明けの襲撃がその最たるものだ。国としては常時戦力を欲しているのだから、お前を放っておく訳が無い」
「過大評価かと……偶々大きな事件に遭遇して生き延びているだけですので」
「生き延びられる運も強者には必要だ。強くなるには乗り越えなければならない。それは乗り越えられて当然でない以上、失敗すれば死に繋がる場合も多い。事件の大きさを見てもお前が生き延びているというのは強いのだ」
「今後も運があるよう祈ります。そういえば町長は自分にどんな御用があって御呼びになられたのでしょうか」
「あ、そうだそれを忘れていた」
町長はそう言って立ち上がり、机に向かい引き出しを開けて何かを取り出して戻って来た。
「これをお前に渡そうと思ってな」
テーブルの上に置かれたのは古びた鍵だった。その古さも気になったが恐らく依頼なんだろうなと思いどんな内容なのか気になって尋ねる。するとこれは牧場や製鉄所から少し離れた森の中にある家の鍵だそうだ。
「自分は何を解決したら宜しいでしょうか」
「そうさな、取り合えず見ての通り古い家故、家の中の埃が一番の難敵だろう」
「他には無いでしょうか、その……魔女が居るから倒せ、とか」
恐る恐る尋ねると町長は目を丸くしてから大笑いした。古い屋敷と言えば魔女が定番だと思ったんだがやはり別の世界だと違うのだろうか。
「いやすまんすまん。お前記憶喪失と言うが本当はこの辺りの出身じゃないのか? あの家に魔女が住んでいた何て言うのはもう大分昔の話なのに」
「え、今は住んでないんですか?」
「住んでないとも。義理の母が住んでいた家でもう亡くなって大分経つから古いのだ。本当は家族でそこに住む者があればよかったが、義理の兄家族は他国に定住して帰ってくる気は無いし、義理の弟も同じ。一年に一回会うかどうかでこちらで良いようにしてくれと言うのでな、貸し出そうと思ったのだ」
「いやぁそう言うところに他人が住むのもどうなんでしょう……」
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