ギルドから町長の家へ
「え」
「え、じゃないのよ。いざという時の為に知っておいてもらわないと。言いたくないけどこの国で反乱がおきて現政権が倒れた場合、一応国とギルドの取り決めで一週間の猶予を与えられその間は安全が保障されてるわ。但しその間に身の振り方を決めないといけないの。残るか離れるかを決める為に、ギルド員を招集しギルド投票を行う。全員分が投票されていない場合は投票を呼びかけないといけないから知らないと不味いでしょ?」
投票の結果を受けて残るなら新政権との交渉、離れるなら撤退に関する交渉をしなければならないらしい。それをスムーズに行う為に上層部数名とは密に連絡を取っていて、情勢は逐一入ってくるという。だがその情報も絶対ではない。そこで陛下やシンタさん、クライドさんとも交流が多い俺に白羽の矢が立ったようだ。
「責任が重すぎるので辞退したいんですが……」
「私に任命権があれば了承したいんだけど無いから無理なのよね。貴方を任命したゲマジューニ陛下とうちのギルド本部に居るギルド本部長に直接言って貰わないと」
「陛下も了承してるんですか!?」
「勿論よ。国にとってもギルドと言う存在は大きいわ。雇用という面だけでなく収入と言う面そして安全と言う面でも。兵士の足りない分を補っているんですから」
おいおい嵌められすぎだろ……子爵だけじゃなくそんな役割まで押し付けられていたとは。子爵になった途端に責任がゴンゴン増えて来たんだが。そら貴族も王族も怒るわこれで薄給なら。
「でもその分特権もあるのよ?」
「お小遣いが貰えるって話ですか?」
「お小遣いはあげられないけど、緊急クエストを発令出来るの」
「……何か権利と義務が等価になって無いんすけど」
「無料で出来るのよ? ギルド持ち」
「いやそんなの発令する予定ないっす。あってもそれに関して細かい条件とかギルドの品位を傷つけないーとかあるんすよね」
あ、初めてミレーユさんを止められたかも。笑顔で人差し指を建てながら停止するミレーユさん。コウガが見たら卒倒しそうなレア状態だな後で自慢してやろう。
「取り合えず本部にもう少し何とかならないか聞いてみるわ……何しろ私名誉男爵なんて役職初めて聞くのよね」
「色々詳しいミレーユさんが知らないとなると適当に作った可能性があるんじゃ」
そう言いながらミレーユさんを見ると再度止まった。今日はレアな日だなぁと思って見ていると無言で立ち上がり、さっき出してくれた資料をすべて持って部屋を出て行く。そして暫くすると戻って来て座り陛下とギルド本部長に使いを出したという。
「悪いけど詳細はまたね。取り合えずうちのギルドでは長に次ぐってところだけ覚えておいてくれればいいわ。さっきの資料も詳細が分かった後で確認ということで」
「分かりました。では今日はこれで」
資料を見て頭に叩き込む作業から逃れられてラッキーだなと思いながら応接室を出ると、兵士が二人受付に居た。
「あ、ジン殿!」
「どうかしましたか?」
こちらを見て二人は声を上げて駆け寄ってくる。何かまた面倒事が起こったんじゃないだろうな……。
「突然申し訳ありません! 町長から家に来るよう伝えてくれと」
凄いなぁ今日は落ち着く暇もない。視線を落とすと、鎧の内側の定位置に居るシシリーは先ほどまで消耗しきっていた感じだったのに、何故か顔色が完全に良くなっていて気持ち良さそうに寝ていた。やっぱ妖精だと吸気とか自然にやってるのかな。
「分かりました。丁度用事も済んだのでこのまま参りましょう」
「かたじけない! 先導させて頂きます!」
こうして町長の家に直行する。今日用件をある程度片付けておけば次の日は多少楽になるだろうし頑張りどころだと自分に気合を入れて歩く。見上げればもう夕闇が迫っていた。
「よく来たな、まぁ座れ」
町長の家に到着して執務室に行くと丁度町長も来たところで中へ招かれソファに座るよう促される。そして町長も向かい合う様に座ると、秘書官にお茶を頼んだのでどうやら話は長いらしい。
「何か不手際がありましたでしょうか」
「功績があって子爵になったそうだな、おめでとう」
町長は苦笑いしながらそう言ったのでお礼を言って頭を下げる。この苦笑いは陛下と同じで自分たちと似たような苦労を背負わされたなと思ってのものだろうと察する。
「恐らく陛下からはもっと上の爵位を提示されたのだろうが、子爵で収めたのは良かったな。私はそういうものに縁遠い生活を送っていたから受けてしまった。昔に戻れるならお前と同じ選択をしただろう」
町長は元盗賊でありうちの師匠とも渡り合った強者だ。そこからギルドに所属し子分たちの再就職先も決めた後、この国で公爵となり町長として勤めているから一番気持ちを理解してくれる人だと思う。
「その、どうしたら良いかさっぱり分からなくて」
「まぁ厄介事を押し付けられるのは間違いない。お前に対する嫉妬があまりないのも実情を知る者が多いからだ。良い事と言えばクビにならない限り給金があるし、要職に就く場合が多いので国家運営に携われるので良い国にしようと頑張りがいがあることかな」
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