強引な褒美の話
「陛下、現在でも自分は十分褒美を頂いておりますので過分な褒賞は他の方の悪感情を呼び起こしかねません。どうぞ良い民を持ったと思うのみで収めて頂ければ幸いでございます」
「具体的に俺から直接何か褒美をやったか?」
「さぁ」
シンタさんは陛下に尋ねられたが首を竦めてしらばっくれる。分かり易い……これまでの俺の陛下に対する態度に関して、不満どころか怒り心頭だったからその仕返しだろう。いけないここで引き下がるとズルズル向こうのペースに巻き込まれるっ……!
「だ、男爵の地位を頂きましたが?」
「そりゃ他からの提案もあって了承したんだ。その男爵で何か得したことは?」
得って何だ? この国では陛下の号令によって貴族は給金を減額され普通に働いてる。クライドさんが正にそうだ。あの人は元々の爵位は分からないがイシワラの家を継いで公爵であるはずなのに、牧場で皆と共にヨシズミシープの面倒を見ている。男爵って貴族の一番下なのは陛下も十分知ってる筈……これは自分のしたい話にもってく為の無意味なものだ。負けられない!
「これから毎月少額ながら御給金を頂けるとか。それに商売するにも優遇措置があると聞きましたし、土地の購入も便宜を図って下さると」
「少額だな。恐らくお前が受ける依頼の金額と比べると微々たるもの。そこで相談なんだがな、つい先日上の方の爵位が開いたんだ」
しまった給金の話は省くべきだったか! 見事にそこだけ突かれて話を持ってかれた!
「いえ要りませんよ? 私としては商売の優遇や土地の購入に際し」
「まぁ最後まで話を聞けよ。その爵位に就けばもっと給金は増えるし、土地の取得も容易だ。例えばな、元村の北の森とかお前が権利を抑えればあそこは誰も侵さない領域になるぞ?」
おもいっきり話しを遮られた……悪質な勧誘染みた感じになって来てるぞ? この先碌でも無い事がありそうだなと思い横を見ると、シンタさんがこれまで見たことも無い満面の笑みを浮かべている。腹立つな……元々陛下に対して崇拝染みたものを抱いているから味方では無いだろうが、やられてるざまぁみろみたいな心の声が漏れてるぞ財務官僚!
「どれが欲しい?」
「は?」
「男爵より上なら何でも良いぞ? 何だったら王族でも構わんのだ」
「いや要りませんて」
「そうか、俺が決めて良いか?」
「聞いてますかー? 貴方の民は過分な地位は要りませんて言ってますよー?」
「よしならば公爵だ」
よしならば戦争だみたいなノリで公爵を与えられても困る。国に激震が走る度合いは同じだが。公爵って事実上王族の下で臣下で言えば一番上。町長と同じ地位とか冗談にしても酷過ぎる。事件を二つ解決しただけで公爵は意味が分からない。
「あ、じゃあ辞退しまーす」
「俺に臣下が国難になりそうな事件を解決しても褒美を与えない王になれと? クライドもさぞかし悲しむだろう。愛する妻を助けた男に何の褒美も与えない王など付いていけぬとなっても仕方あるまい」
「よよよよよ……」
横で噓泣きしてるシンタさんに腹は立つが、こんなので負ける訳にはいかない! 男爵ですら良く分からんのに公爵とかお飾りにしても無理がある! とは言え代案が全くない。何か良い案は無いか何か!
「あれ……ゲンジ仮面のおじさんだ……」
寝ぼけ眼のシシリーが鎧から這い出て来て落ちそうになったので慌てて掌で受け止める。ころんと転がり前を向いて陛下を見ると指さしてそう言った。ゲンジ仮面? 何だそれは。寝ぼけているんだな仕方ないなと思いながら陛下を見ると視線を逸らしている。
「わー妖精だ」
「あらお付きの人もこんにちは。変なところで会うのね」
今度はシンタさんが視線を逸らした。状況がサッパリ分からないがこれはいけるんじゃなかろうか。シシリーに尋ねてみないと!
「シシリー、その何とか仮面て何?」
「ん? 私があの牧場でこっそり羊さんから毛を頂いてた時にね? マゲユウルフに追いかけられてたら助けてくれたの。多分この人とこの人」
眠い目をこすりながら説明してくれるシシリー。何でも以前周辺に出没し森を傷つけようとした商人やヨシズミシープを盗もうと窺っていた盗賊を倒したりして回っていたらしい。
「最近トンと聞かなくなったな。大方飽きたのだろう」
「そうですね」
「そうなの? シシリー」
「え、違うんじゃない? 羊さん泥棒をとっちめてその親分捕まえたの見たけど、それ以降出なくなったと思うから用が済んだんじゃないかしら」
「なるほど……」
何とは言わず二人を交互に真顔で見る。シシリーの御蔭で相手のペースを乱したぞ! ちょっと汚い気がするが、弱みを握った様だしこれで公爵を無理強いするのは幾ら陛下とは言え厳しい筈。
「で、何の話だったか?」
「褒美の件で御座います」
涼しい顔であっさり突き放すシンタさんに対し苦い顔をする陛下。咳払いをして話を戻そうとする陛下を純粋な目で見つめてみる。
「何だその目は」
「いえー別にー」
「……分かった! 子爵だ! これ以上は負けられんぞ!」
「えー?」
「一応理由があるのだお前を子爵にする理由が」
「何ですかー?」
「腹立つなコイツ……例のアリーザだ。お前に監視を任せると話したが、それでは足りないと言う者が多くてな。であれば今回の褒美としてだけでなく婚姻の祝いとして子爵の称号を与えるという話で落ち着いた」
「はい?」
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