牧場での出来事
「御久し振りです。来るのが遅くなって申し訳ない」
「いえ、本来でしたら私たちが出向くのが筋。ジン様はクライド兄様との友情を考えて単身乗り込んで下さったのに」
面と向かってそう言われるととても恥ずかしい。最後まできっちり締めて全部終わりましたよと伝えられたら恰好が付いたけど、最終的にはバレて締めをお願いした辺り三枚目が良いところだなと実感している。
アラクネに聞いた勇者なら、こういう時格好良くキメたんだろうけどなぁ。やはり勇者には程遠いと少しがっかりしながらも安心している自分も居る。そう言うのが一度成功すると期待されてしまうだろうし、案外これで良かったのかもしれないな。
「ほら二人とも座って座って。ブラン、今朝取れたばかりのヨシズミカウのミルクに果物とハチミツをたっぷりいれてくれ」
「畏まりました!」
皆分かり易いほどご機嫌で良かった。特製フルーツミルクを味について感想を述べながら頂き、飲み終えると少し間があってからあの後の話になる。
二人が呪いに囚われし羊を看取り粒子となって消えたのを見届けてから町に戻って来たという。その次の日に国営花畑に居る大型花にも会い、花畑を荒らしてしまったことを詫びて復旧もすると伝えるとそれで十分だと言われたようだ。
全てが決まった次の日の朝、アンナさんの耳は元の位置に戻り体調もとても良くなる。司祭が見たところ呪いの影響も皆無になったと言われ、二人は毎日張り切ってヨシズミシープたちの世話をしていたという。
アンナさんに寄り添っているヨシズミシープたちも嬉しそうだし、頭の上に居た鳥は肩に移動しアンナさんの頭に身を寄せて喜んでいる。この一家の幸せの為に尽力出来たなら三枚目も悪くは無い。
ただ二人はアラクネに会いに森に行ったが会えていないのが気がかりのようで、色々回った後にアラクネに会いに行ってお礼を言っておくと告げると申し訳無いが頼むと言われ喜んで引き受けた。
「陛下から許可を貰い、花畑に先祖代々の墓を建てるつもりだ」
「花さんにも許可を頂きました。花たちに当たる日光を遮らないよう、平らな石に文字を掘って置かせてもらいます」
「花も眠る者も喜ぶような場所になれば皆幸せですね」
これで子々孫々が墓参りに訪れれば呪いに囚われし羊の怒りを鎮められるし、ヨシズミシープたちを大事にしていればいつかまた恩恵が受けられる日が来るかもしれない。もうここまで来たらこちらから何かをしたり心配する必要は無いだろう。後は二人の問題だ。
そこから暫く牧場で作っているヨシズミシープのミルクで出来たチーズなどを頂きながら雑談をし、日が暮れる前に家を出るべく切りの良いところで立ち上がった。
「ではそろそろお暇を」
「おいおいまたそれか。今日はゆっくりしていけよ。我が家の恩人をこんな片手間で返したとあってはそれこそ先祖に怒られてしまう」
「持ちつ持たれつってことで、困ったら是非その時は助けて下さい。それで充分です」
最終的には二人で解決したんだからこちらが偉そうにする訳にはいかない。何よりこれから先困るような問題は必ず出てくるし、何とかご迷惑をかけないようにするがどうしてもかけてしまう可能性もあるので気にしないで欲しいと思ってそう言った。
なら次の日にでもとか色々代替案を提示してくれるイシワラ家の皆さんを宥めつつ、何とか家を出ると盛大に見送られて牧場を後にした。
「気が重いなぁ……どっちから行こうかな」
「何で行きたくないの? 良い事したんだから堂々と行けばいいじゃない」
「何て言うか皆が登校してる中で自分だけ長期で休んだ時って行き辛くなるもんじゃん?」
「何の話か分からないけど、行かなきゃならないなら行きなさい」
先生のように言うシシリーにゲンナリしつつも確かにそうだなと思いどちらを先にするか考える。距離的にはどちらも変わらないものの、ギルドへは簡単ではあるが報告を最初にいれているので王様に挨拶しようと考え城へ向かう。
「おやこれはこれはジン男爵。良くぞ参られましたねギルドより先に」
財務省のシンタ・イシワラさんが丁度受付に居てそう言って出迎えてくれる。ギルドの後に来てたらと考えるだけで胃が痛い。
「……嫌味は止しましょう。兄と義姉の為に尽力して下さって心よりお礼を申し上げます」
兄と義姉って何だっけとなりハッとなる。そう言えばシンタさんもイシワラさんだった!
「その顔だと気付いてらっしゃらなかったようですね。その通りですクライド・イシワラは私の兄です。私までイシワラなのは、嫌な言い方をすると短命である家を継いだのでその予備」
「予備ってそんな言い方」
「いえ大事なんですよ? 国の名家が滅ぶというのは簡単ではありません。あの家はヨシズミ国の繁栄に大きく寄与した家柄。エダンさんの重罪が無ければアンナ殿に遺漏なく移行出来たのです。男が短命なだけならまだ良かったのですが、親族も居らず子も一人と断絶の危機にもありましたし」
「シンタさんは外でも中でも大変ですね……」
「そう思って頂けるなら今後は礼節を弁えて陛下に接してください。正直貴方が陛下に面会すると思うと毎回胃が痛い」
笑顔で釘を刺すシンタさん。悪い事をしているつもりはないが、なるべく胃痛が無いよう気を付けて接しようと思った。それから受付を済ませるとシンタさんが陛下へ取り次いでくれて、直ぐに執務室に来るよう言われ向かう。
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