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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第三章 爵位の意味を探して

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暴走

「あ、ありがとうございました……」


 鍛錬の中身がレベルアップしたので当然終わればボロボロ。司祭の攻撃を軽減するのに精一杯で、自分が攻撃する時には強化出来ず弾かれてしまう。


「まぁ初日にしては上々。ですがこちらも初日ですのでどれくらい可能か確かめていたというのを忘れずに、明日から頑張ってください」


 明日から本気出す、とか言うのは司祭みたいな人が言うと恐怖しか無いから止めて欲しい。何とか気合を入れて立ち上がるもフラフラする。


「では最後に吸気(インヘル)の練習をして終わりましょう。先ず利き腕を突き出してください……ジンは右が利き腕ですか?」

「え、何故です?」


「うーん何か気の通りがぎこちないというかなんというか。以前誰かに矯正された覚えはありませんか? まぁ赤ん坊や三歳くらいまでにされたら記憶は無いでしょうけど」


 そう言われて思い返すも一番最古の記憶はもう園に住んでいたし、その頃先生に矯正された覚えはない。ひょっとすると司祭が言うように赤ん坊から三歳の間に無理やり強制された可能性があるのかもしれないな。


吸気(インヘル)は左でやってみましょう。両方別の役割を持てれば攻撃のバリエーションは広がりますからね」


 早速左手を突き出し目を閉じる。司祭の放出する気を感じ取れと言われ早速感知する。自分の気を使って強化しているのでこの辺りは問題無い。問題はこの先だ。文字通り相手の気を吸うようなイメージをして念じろと言う言葉通りにすると、すうっと風が来るような感じで何かが掌へ当たる。


これが司祭の気かと思いながら続けていると、体が燃えるような感覚に陥る。


「おっといけません終了で」


 司祭に肩を揺すられて目を開けるが、それでも感覚は変わらない。体が今にも暴れ出しそうだ。


「兄様直ぐに吸気(インヘル)を!」

「うおお……!」


 シスターの声が聞こえるより早く司祭に向かって体が動いてしまう。それを驚くどころか微笑みながら見ている司祭。


「中々興味深いですね……普通は生命エネルギーとしての気のみを吸収するだけの筈ですがパワーも似ているレベルにまでなるとは」


 司祭はあっさり左手で勝手に動いてしまった右拳を受け止めたが、衝撃波が発生し髪がバサッとなった。


「私で無かったら死んでたかもしれない」

吸気(インヘル)!」


 呑気に言う司祭との間に入りこちらへ向けて手を突き出しシスターが吸気(インヘル)を放つ。また体が勝手に動いて避けようとしてしまうが、司祭が受け止めていた左手を動かし手首を掴んでくれたお陰で何とか吸い取って貰えた。


「取り合えず私たちやシンラたちにも当分は使わないようにしてください」

「あ、あい……」


 辛うじて声が出せるくらいのレベルまで消耗し床に突っ伏しながら返事をした。結局ダウンしてしまい教会の病棟で三日寝込んでしまう。その間司祭が各所に連絡を入れてくれてシスターやアリーザさんの手厚い看護を受けた。


その三日間でシシリーは二人と仲良くなり楽しそうで良かった。看病されている間、シシリーにまでバブちゃん呼ばわりされたのを終生忘れはしないだろう。覚えてろよと言いたい。


「おお、やっと来たか!」


 本当にここに来る為にどんだけ試練を乗り越えたら良いのだろう、と愚痴りたくなるレベルの日数を掛けて漸く辿り着いた。クライドさんは丁度ヨシズミシープたちを柵の中へ移動させていて、こちらを見つけると急いで入れて駆けて来てくれる。


「本当なら直ぐにでも来たかったんですが」

「災難だったな。まぁ竜神教の施設に居たんだからこれで悪い物も取れたろう」


「そうだと良いんですけどね」


 酷い目に遭ったという話はしないでおこう。定位置に居るシシリーが親のような顔をして見ているのもスルーする。


「こんなところで話もなんだ、中へ入ってくれ」

「いえ、長期間休んでしまったので色々回らないとなりませんから」


「それなら気にする必要はない。陛下にも許可を頂き、ギルドへ事件解決の褒美として休暇を与えたい旨と、その間必要であればこちらから研修と称して人員派遣を申し出ているから大丈夫だ。さぁ中に入ってくれ!」


 いやもう正直それが恐ろしい。男爵と言う過分な地位を頂いたのはヨシズミ国からだが、一応冒険者ギルド所属の冒険者が先なのだ。依頼を受けるより自分で取って来て勝手に解決してるのをギルドが良しとしてる気がしない。


自分が上司なら勝手に動き回る平社員とか、結果を出していても扱い辛くて堪らないだろう。何を言われるかと思うと出社拒否したい気分である。


「よしよしバブちゃん良い子でちゅね~」

「はいはい」


 急に出現した妖精の母親に胸をとんとんされながらあやされる三十五歳児ですよろしくどうぞ。……ったく、どっかにオアシスは無いもんかのぅ。心が潤う暇もないんだが。


そうぼやきつつ先日お邪魔した家に向かい中へ招かれると、皆に盛大な拍手と共に迎えられる。この家にとっては長い間暗い影を落とし続けていた件が解決したからか、心からの笑顔を見られてホッとしている。


「ジン様、ようこそいらっしゃいました!」


 アンナさんの顔は笑顔ではあるが、やはり少し影がある。呪いも解けて耳も生まれた時にあった位置に戻ったが、戻らなかったものもあるから仕方ない。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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