怨念が眠る場所
「……あ、アンナとは誰なのですか? ジン殿。また新しい女性関係ですか?」
真面目なシーンで急に良く分からない問いかけをしに駆け寄ってくるアリーザさん。またって何だまたって。そんなに女性関係が激しかった覚えはないぞ未だに恋人はいないし現在はシシリーと二人旅だし。
「人聞きが悪いですよアリーザさん。今は見ての通りですが」
「シスターがおっしゃっていました。その……ジン殿は女性関係が御盛んだと」
頬を染め俯きながらちらちら見つつ歩くアリーザさん。あのシスター、人の事なんだと思ってるんだ? 誹謗中傷行為対策チームの設立を希望したい。何の得も無い言い掛かりには断固として抗議したい所存!
「きっとシスターの思い過ごしですよ。そんなに御盛んであれば今頃奥さんも居る筈……」
「どうしました?」
「自分で言ってて悲しくなって来た……辛い」
「言えたじゃない」
何故か鎧の定位置に座るシシリーに慰められながらしょんぼりしつつ亜種の前に立つ。頼みの仲間は森の中。観念する以外に道は無い。
「少し大人しくしててくれよ。ちょっと縛り上げるだけだから」
「フフフ……アハハハ! もう勝った気でいるとはお笑い草だ。この私が何の隠し玉も持たずにここへ来たと思っているのか?」
最初大型スズメバチを回収し洗脳の具合を見る為に花畑を壊しているかと思った。だが戦闘があるかもしれないと思って隠し玉まで用意してここに来たとなると、巨大蜘蛛や大型花に対する対策だけではない気がする。
花畑に何か秘密でもあるのだろうか……そう言えばヨシズミウール販売店で初代の妻がヨダの村出身で、最初の一頭に花で作った染料を塗ったって聞いたがそれと関係があるのかもしれない。
「何か目的があってここに来たのか? 大型スズメバチを直接従えるならここじゃなくて巣に近いところから直接首都へ向かえば良いだけだ。そう言えばお前の家の初代妻がヨダの村出身とか」
「何処までも忌々しい奴だ……良いだろうその目でしっかと見て後悔しながら死んでゆけ! 出でよ呪いに囚われし羊!」
その声に反応するように地面が揺れ出し、花畑の中央が隆起し始めた。
「おいおいまさか最初の羊が置き去りにされたのってこっちの方角だったのか?」
「恐らくだけど、嵐が収まった後に祟りを恐れて遺体を見つけ、ここに埋葬し花畑にして霊を慰めようとしたんじゃないかしら」
「推測が確かだとしたらあまりにも乱暴ですね。墓も無いしこれでは誰も墓参りにも来れない。あの姿を見れば臭い物に蓋をしようとしたと思われても仕方ないでしょう」
アリーザさんが指さした十メートルくらいの呪いに囚われし羊は、毛が黒く汚れているだけでなくところどころ剥げ、歯も欠け左目は深い闇が渦巻いている。こちらを見下ろすと大気を揺らす叫び声を上げた。
咄嗟に不死鳥騎士団の盾を突き出しながらアリーザさんの前に出る。衝撃波を何とか凌ごうと踏ん張ったが、足場に亀裂が走ってバランスを崩してしまいアリーザさんと共に吹き飛ばされてしまう。
「ああ……ああ……ああああああ!」
まともに衝撃波を喰らった亜種は地面に押し付けられ、止んだ後にじり寄ってくる呪いに囚われし羊から匍匐前進するように逃げようとしたが、あっさりと食べられてしまう。
「シシリー、あれを何とかする方法は?」
「分からないわ。ひょっとしたらアンナを食べるまで止まらない……もしかしたら国を亡ぼすまで止まらないかも!」
「憎い……私をこんな姿にした一族も、私を大事にしない国も……最早滅ぼし平らにせねば気が済まぬ!」
亜種を取り込んだことで呪いが増幅されたのかヨシズミ国を破壊せんと歩き出す呪いに囚われし羊。テオドールがここに来たのも回収だけでなくこうなるよう仕向けた可能性がある。
自分たちに恨みを持つ呪いに囚われし羊を呼び出せば酷い目に遭わされることぐらい分かるだろうが、国を確実に壊せるとか唆されたに違いない。
「アリーザさん、すまないが司祭やシスターを呼んで来てください」
「ジン殿は?」
そう問われサムズアップしながら微笑んで返し、呪いに囚われし羊へ突撃する。デカいとは言え路線バスが縦になったくらいの高さだ。この世界に来てパワーアップした力なら!
「んならぁああああ!」
「ジン! 踏ん張れぇええええ!」
踏み込んだ足に食らいつき上に持ち上げるべく気張る。ここが正に踏ん張りどころだし、あの二人の幸せの為にもここはジン・サガラの全てを賭けるところだ!
「あがれえええええ!」
「あがっちゃええええ!」
覆気を両腕両足そして腰に集中して施し何とか持ち上げると、蹄に手を添えて更に持ち上げ腰の高さまで来たところで左右に振りバランスを崩させる。
「いっ」
「せーのー」
「せっ!」
「「よいしょーーー!」」
シシリーといっせーのせで掛け声を上げながら右側に背負い投げするように抱えながら地面を蹴り飛び上がる。バランスを崩した御蔭で呪いに囚われし羊はそのまま地面に大きな音を立てながら倒れ込んだ。
「ぐはっ……な、なんだお前は! たかが人間の分際で!」
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