夜の花畑へ
「悪い、待たせたな。どうした?」
「すまない。急に畑に人が紛れ込んで来たのだが、どうやらそいつは奴らを操れるみたいなのだ。けしかけて花畑を荒らされ困っている」
それを聞いて首を傾げた。スズメバチは夜の時間帯は巣の周辺か中での活動が主で遠出はしない。そう考えると操れると考えるのが自然だ。その人間はどんな人物かと聞くと、一人は小太り一人は細身で鎧を着ていたという。
パッと頭に浮かんだのは例の商人とエダンだ。だがそんな手段を持っていたとしたらヨシズミシープに使うだろうし、別件である可能性もあるし切り替えていこうと考え頭を振る。気を取り直して大型花と花畑へ向かう為、一度中へ戻って兵士にギルドへの言伝を頼み近くにあった松明を借りて出発。
夜道を走っていると、道を塞ぐように大きな蜘蛛が現れる。こっちの邪魔をする為に現れたとしたら相手は昆虫を操るアイテムを持っているのか? 不死鳥騎士団の盾を構えたがシシリーが目の前に出て制止した。
「この子アラクネのところの子よ!」
「どうやら我々を乗せてくれるらしい」
シシリーと大型花の言葉に同意するように、目の前の大きな蜘蛛はこちらにお尻を向けて足を深く曲げて腹を地面に付け、乗りやすい体勢になってくれた。蜘蛛の背中に乗るって大丈夫なんだろうか。この子を潰したりしないかと心配になりながらも、普段携帯している布をポケットから取り出し広げ、その背中に乗せてもらう。
二人でかなりギリギリの広さなので大方花と身を寄せ合いながら座る。蜘蛛はゆっくりと歩き出し徐々に速度を上げていく。馬車よりも速い速度で進み、あっという間に村に着くと脇道に入りそのまま花畑へ向けて突き進んだ。
「何だこの酷い光景は……」
空が曇っていていつもの夜より暗いが、はっきりとそれが居るのが分かった。森を抜けて現れた花畑の上を埋め尽くす様に、黄色と黒の縞模様が怪しく揺らめいている。アラクネの仲間が協力し、完全にでは無いにしても大型スズメバチの入る数を減らすべく動き始めたところを突かれたのが痛い。そう考えながら持ってきた松明を草が短い辺りに突き刺し、改めて身構えジッと動きを見る。
「良かったわ来てくれて」
「俺が二人の間を取り持ったんだ、ピンチと聞いたら飛んでこずには居られないよ。それにしてもあの数を正面からやるのは厳しい」
「こっちも出来れば全戦力を傾けたいけど、シオス北の森もまだ落ち着いて無い。幸い向こうは夜行性が殆ど居ないからウチの夜行性メンバーをこっちにある程度導入できた。だけど数が多すぎて御覧の通り大分通してしまったわ」
アラクネが脇からジャンプして来て隣に立つと、蜘蛛側の状況を教えてくれる。本来なら多くの動植物が大人しくしている時間帯だから上手く防げないのも無理はない。この予想外の行動を起こしている彼らを見ると特徴的な異変があった。
それは目だ。元々なりようのない紫色になっており、確実に何らかの影響によって我を失っているのが分かる。こうなると機能停止させたところで止まるのかすら怪しい。
「アラクネ、何が影響しているか分かるか? 大型花は人間が入って来たと言っているが」
「今皆に協力して貰ってその元凶っぽい人間を探してもらっているわ。だけど見つかる前に花畑が破壊されたら元も子もない」
「あの感じからして命を絶ったところで止まる気がしないんだよな」
「同感ね。前までは餌という目的があって襲ってたけど今は目的も無くただ暴れてるだけにしか見えない」
「ならアラクネたちの糸を使って一纏めにしちゃえば?」
シシリーの言葉にアラクネと目を合わせた後考え込む。強度としては問題無いけどがんじがらめにするほどの糸は今吐けないというアラクネに対し、シシリーは大型スズメバチの胴体や首に巻き付けて纏めてしまえば良いという。
一度吐いた糸を撚って強度を増し、五匹くらいを纏めて繋げれば大分動きは制限される筈と語るシシリー。その提案を受け入れ早速実行に移すべくアラクネは目を閉じ俯くと大きく息を吸い込んだ。すると見事なプロポーションが膨れ上がった後、頬を膨らませ口を窄め息を吐くと同時に糸が出て来た。
「取り合えずこんな感じかしら。カイコの方がもっと糸を出せるけど、強度はこっちが上よ」
元の体型に戻ると糸を履き終えたのか手に取りこちらに差し出して来た。長さとしては二メートルを超えるくらいなので、こちらが扱う分には丁度良い。早速それを大型花に端を持ってもらい撚ってから早速大型スズメバチの群れに飛び込んだ。
彼らは前と同じくこちらには見向きもしない。彼らを操っている者たちが居るとするなら狙いは何なんだろうか。大型花はなるべく群れに近寄らずこちらの後を追ってもらっていたが、さっきより近付いた為視線が彼女に向いた。
すると数匹が彼女に向かって移動し始めたので背後から近づき首や胴に走り回って巻き付けた。巻き付いた場所が細く、七匹の大型スズメバチに巻き付けるのに成功。そして勢い良く振り回し目を回したところで改めて一纏めにする。
「ジン、どうやら答えが出たみたいよ」
アラクネの言葉に頷く。狙いは大型花だったようだ。暗闇に怪しく光る黄色と黒の縞模様そして紫の瞳は大型花に視線を集中してゆっくり移動し始めた。
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