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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第二章 副業を探して

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クライドさんの家へ

少し足取りは重い。クライドさんが良い人なのは間違いないし今後とも仲良くしていきたい。例え若い奥さんを貰っていたとしても、それは色々事情があってだから。私利私欲の為ではなく上からの指名だし。


クライドさんは何かを人質にして婚姻を迫る人では無いし、普通にモテるから年の離れた奥さんが居たとしても不思議じゃない。あの人当たりの良い人なら相手に複雑な事情があっても上手くやるだろう。変な心配をしなくても大丈夫だ。


どうも家庭環境が複雑そうなところに行くのは過去を思い出して気が滅入ってしまう嫌いがある。誰もが自分と同じような酷い環境では無いのに。


「ジン、何か顔が変」

「元からだ」


「それは卑下しすぎ……ってあれ何かしら」


 シシリーはずっと弄っていたヨシズミウールで出来た布から手を離し、立ち上がろうと鎧の縁を掴んで前を見た瞬間止まり指を刺す。見るとシオスと城下町の間にある草原のど真ん中に、数頭のヨシズミウールと犬、それにカラフルな鳥を頭に乗せたフードを被った小さな人が見えた。


襲われているのかと思いきや、何やら動物たちが心配そうにその人物の顔を覗き込んでいたので声を掛けるべく近寄る。


「あの、何処かお怪我でも?」

「いいえ。ただ少し風の臭いが変で……貴方は?」


「これは失礼しました。私はジン・サガラと言いましてシオスの町の冒険者です。遠くからお見かけしたところ何やらお連れの動物たちが心配そうな顔をしていたもので、気になってお声がけさせて頂きました」


 近寄って前に回り込む時見えたが、ローブの袖やフードの縁周りに赤を基調とした凝った装飾が施されている。明らかに一般国民では無く身分が高そうな感じがしたので、片膝を地面について頭を下げる。少し間を開けてから顔を上げると、ぱっちりした目に少し頬が赤い柔らかい笑顔の似合う、ベアトリスやイーシャさんと同年代くらいの少女だった。


「申し訳ない余計なお世話をしてしまい」

「いいえお心遣い感謝致します。元はと言えば私たちがここでぼんやりしていたのが悪いのですからお気になさらず。どうぞ立ち上がってくださいまし」


「これは失礼いたしました」

「……昔は気軽に声を掛け合い皆道端でのんびりお話ししたものですが、最近ではそう言うのも無くなりました。城下町とシオスの行き来が地元民で少なくなったのもあるのでしょうね」


「シオスの町は分け隔て無い感じですが」

「以前はもっとフランクでしたが、やはりロンダの村が滅んだのが皆の心をざわつかせているのでしょうね。ヨシズミ王は見た目と違い決断も行動も早い。貴族王族に対する処分だけでなく、そうした異国から移住しヨシズミ国と距離を置く者に対する態度を明確にした」


「冬眠か春の訪れか。新しい流れがしっかりと出来上がるか皆見極めながら準備をしていると言ったところですかね」

「あら、うちの人と同じような事をおっしゃるのですね」


「それは奇遇ですね」

「宜しければ奇遇序に我が家へ寄って行ってくださいまし。丁度雨が降りそうなので」


「雨、ですか」


 少女が俺から視線を空に移す。確かに雲は多いが晴れているから雨が来る感じがしない。胸元のシシリーを見ると首を傾げている。


「お急ぎの用事でもおありですか?」

「いいえ特には」


「なら是非。そこで正解を確かめては如何でしょう」


 とても不思議な感じがするその少女の後に続いて歩く。シシリーは空を眺めながら目を閉じたり鼻で嗅いだりしている。妖精も感じられないものをこの子は感じられるのだろうか。


動物たちはこちらを一切気にせず彼女の周りにしっかりついて移動する。やがて見えて来たのは牧場の建物だった。ここには従業員宿舎兼兵舎もありその家族なのだろう。動物が彼女を護る様に動いているのもきっと普段から面倒を見ているが故だろうな。


「おうお帰り。と言うか珍しい組み合わせだな」


 牧場の建物に近付くとクライドさんが干し草を大きな倉庫へ移動させていて、こちらに気付き声をかけてくれた。やはりこの子はここの子か。


「はい、帰り道で偶然」

「そうなのか? 珍しいが続くものだ。で、ジンはヨシズミウールの話は分かったか?」


「有難う御座いました。色々お話を伺えて助かりました」

「良かった。商売をやるなら幾ら知識があっても足りない。俺としてもお前さんだからと言って融通する訳にはいかないし、出来れば良いお客さんであり友人であって欲しいからな」


「そうあるよう気を付けます。干し草入れるの手伝いましょうか?」

「いや良いよこれも俺たちの仕事なんだ。お前さんの力は認めるがこれも中に居る仲間との連携作業だしな。早くしないと天気が崩れそうだし」


「え?」


 驚いて少女の方に視線を送るとこちらを見て微笑む。この二人には一体何が見えているんだ……シシリーは余計難しい顔をして唸る。


「アンナ、悪いがジンを家に連れて行って暫く相手をしてやってくれ。作業が終われば俺も直ぐに行くから」

「はい。では参りましょうジン様」


 最近自己紹介しなくても何故か顔と名前を一致させられているのでもう驚かない。アンナと呼ばれた少女に続き牧場の奥の方へ移動すると、大きめの一軒家が見えて来た。近付くとドアが開き、ジョルジさんに似た人が燕尾服に似た服を着て現れ恭しく頭を下げる。


「お帰りなさいませアンナ様、それにようこそいらっしゃいましたジン様。どうぞ中へお入りください」

「お邪魔致します。手ぶらで来て申し訳ありません」


 そう言うと目を丸くしながら顔を上げ、優しく微笑みながら頷いてから体を半身にして中へ入るよう促してくれた。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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