ヨシズミシープの誕生とエダンの没落
「彼らが組んでいるとなるとまた厄介ですね」
「確かに。ですが最初に申し上げた通り我々が管理しておりますし、証明書等が無ければそれとは認められませんので、価格も足元を見られますから儲けは出ないでしょう。商品化に際しても一部に焼き印を入れさせて頂きますので、それを作ったりと考えると不正する方が手間が掛かりますから」
「ヨシズミウールが高く売れるのは何故でしょう」
「先ほど申し上げた管理の点や国のお墨付き以外ですと、やはりヨシズミシープ独特の毛の強さと肌触りでしょうか。この地域の気候や餌、それに運動など環境面でも研究に研究を重ねています。残念ながらその細部についてお話は出来ませんし、知っているのも極少数の者のみ」
「以前牧場主であった人物は知っていますか?」
「知らないでしょう。正確に言えば知ろうともしなかったというのが正しいのですが。前の牧場主であり現ヨダの警備隊長でもあるエダンはヨシズミウールの生みの親の家柄でした」
エダンの家の初代当主の妻リーサは、農家をしていたエダンの家に嫁ぎ家計を支える為にこの近辺で山菜取りをしていた。その時偶然ヨシズミシープを見つけ人懐っこい一匹と仲良くなり、余った野菜を与える代わりに食欲旺盛な子供にその乳を飲ませたという。
他のヨシズミシープと間違えない様に、毛に出身であったヨダの村近くの花畑で取れた染料を少し付けたという。毎日山菜を取りに行きつつ野菜を与え乳を分けて貰いに行くと、ある時毛が剥げていたのを見て気味が悪くなり帰ったらしい。
その後別の場所で駆け寄って来たそのヨシズミシープを見ると、毛が生えていたのを見てそんなに早く生えるなら大丈夫だろうと毛を刈り取らせてもらい衣服を編んだ。
すると頑丈だが肌触りの良い衣服が出来上がり、売り始めたところ周りから評判となって他の国にも広がり買い付けが来るようになる。初代主と妻は改めてシズミシープを家の近くに連れて来て住まわせ大事に育て繁殖させたという。
やがて評判を聞きつけた国王から、自分の衣装にも採用したいと言われ喜んで衣装に提供。ただ元々のんびりした初代主たちには経営と言う面が厳しく、ヨシズミシープは国で育てて欲しいと願い出て国営になったそうだ。
この功績を称えられ且つ飼育に関しては他の人間には無理であった為、経営を覗いた全てを任せ国に多大な貢献を果たしたとして侯爵の位を賜ったようだ。
「ヨシズミ国を強国にした鼎の一つなんじゃないですか?」
「そうですね。他国からゴールドを引っ張って来れるだけでなく他国に真似できない物は大きな力です。だからこそ管理も厳格ですし、こと国民の生活に直結する悪事に関しては決断を曲げない陛下も死罪を取り下げざるを得なかったのでしょう」
エダンは初代から大分後に生まれた跡継ぎで、両親の期待を一身に背負って生まれて来た。だが牧場には関心が無く社交界に入り浸り貴族王族に媚びを売り、国民を見下すような態度を平気で見せていたという。
今の陛下が即位すると元々貴族王族に対して厳しかった環境は更に厳しくなる。より高貴な者として相応しい態度を示すよう求め、更に社交界を縮小し国に貢献しない者たちには降格又は御取り潰しを行うと宣言。
エダンはそれに反対する宰相グループに入り、牧場に関する勉強をせずに抵抗活動に明け暮れた。その最中に事件は起こる。反対派のデモを知らずに物品を収めに来た両親が列を横切り、それを無礼だとして当時反対派の武闘派で知られた元王族が斬り捨ててしまう。
これで目が覚めるかと思いきや、両親は高貴な者では無いから仕方ないと嘯き周囲からも一層孤立。後を継いだ牧場は荒廃し、更には活動費捻出の為に禁じられているヨシズミシープの密輸に手を染めた。
「よく陛下は我慢されましたね……」
「宰相に免じてといったところですね。元王族も死刑を免れましたが市井の酒場で流れ者に斬り殺され、それが切っ掛けかどうかわかりませんが反対派は瓦解。今では分かりやすい面々だけが残っております。いや申し訳ございません取引と関係ない話を長々と」
「いえ勉強になりました」
「ジン様も製品の計画や販売場所や方法などが決まりましたらもう一度お声がけくださいませ。その時改めて審査させて頂きますので」
「有難う御座います。そう言えば一つ疑問が」
「何でしょう」
「クライドさんは牧場主だから恨まれるのでしょうか。先ほどクライドさんにも注意するよう会う度促したと聞きましたが」
「おやこれは肝心な話を忘れておりましたな。エダンが死罪は免れても御取り潰しとはなったのですが、国としては名家ですのでそのまま潰すのは忍びないとなったのです。そこでエダンの娘と誰か夫婦になる者はとなり宰相の推薦でクライド様がイシワラの家を継がれたのです」
「あー……え、でもエダンってそんな歳でしたっけ?」
「……それはご自分で確かめられては如何でしょうか」
最後にデカい爆弾を頂きヨシズミウール販売店を後にした。お土産に焼き印の入った布を一枚頂きシシリーに渡すと鎧の中で弄り始める。このまままっすぐ帰るのもとても帰り辛い。あんな言われ方したら行かずには居られないじゃないか。一つ大きく息を吐き改めて行くと決めドキドキしながら牧場へと向かう。
読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。




