城下町へ!
「ジンさん御代わりは如何ですか?」
「有難うロメオさん」
食堂で夕方から朝にかけて皆に食事を提供してくれているメンバーの一人であるロメオさんは、元狩人の冒険者で引退してからここに勤めていた。シルバーの中級だったというが狩人仲間が片付け忘れた罠に掛かってしまい右足を失っている。
ロメオさんは全盛期なら掛かる訳がない罠だったし潮時だったと語っていた。未練はなく今は食堂で皆に楽しく美味しくご飯を食べて貰えるのが幸せだと言い、皆の食生活を支えてくれている。いつも食堂に来ると混む時間帯が多いので話す機会が無かったが、丁度空いてる時に食堂に入るとロメオさんがテーブルを拭いていて声を掛けた時に話が弾み教えて貰った。
竜神教の支部が大きな町にあるのは怪我人の治療や義手や義足をしている人たちのフォローもあるようだ。生きる為の必需品なので修理をその場で素早くしたり、交換をしたり出来るような設備が備え付けられているという。
サガやカノンそれにコウガも来たので少しだけ三人と会話をし、疲れていたので先に部屋に戻ると直ぐに就寝。翌朝いつものように教会での鍛錬やアリーザさんたちとの雑談を終えると、シシリーと共に牧場へ向かう。
「よう有名人! おはようさん」
「クライドさんおはようございます」
有名人になるつもりは無くても男爵という爵位を下賜された手前、そうではないとも言えないので敢えて触れずに挨拶をした。シシリーも挨拶しヨシズミウールの価格について質問をする。クライドさんはここは直接販売所ではないので値段などは城下町の販売所で見て欲しいと答えた。
「分かりました、では直接行って見ますね」
「城下町に行けば”ヨシズミウール販売店”てデカい目立つ看板が出てるから分かるだろう。ジン、国の直営だから問うにしても買うにしても必ず名乗った方がいい」
「割引を期待できるからですか?」
「割引は勿論優先もしてくれる。但し転売などは許されていないから注意な? 国が他国からゴールドを引っ張ってくる大きな手段の一つだから、貴族や王族が割引したそれで商売を始めるのは許可されていない。税金が掛かってるしなヨシズミシープには」
「やってる人が以前いたんですか?」
「ああ、俺の前任者がやっていた。それどころかヨシズミシープを無断で他国に売り渡し、戦争一歩手前にまでなったんだよ。あまりに事件が大きすぎて公表出来ず更に他の貴族からの嘆願で内々に処理された」
死罪だろうと思われたが、私財没収の上爵位も準男爵に降格となったらしい。準男爵ではその人物だけで終わりになるので事実上断絶となるようだ。
「死ぬより辛いんですか?」
「元から貴族、それも上の方だったから一般の人たちにえばりくさってた奴だったから死ぬより辛いかもしれん。相変わらずえばりくさってるらしいから周りはいい迷惑だろうがな」
「その人は今何処に?」
「ここから少し離れたヨダって村の警備隊長をやってる。流石に城下町やシオスには居られないし他国から来た人間たちの村にも謀反を起こす可能性があるので行かせられない。なので一番無難なヨダが選ばれた」
「例えばの話ですけど俺が男爵になると席が埋まるとかそういうのはありますか?」
「それは勿論。税金から給料が僅かでも出るから無駄に増えても国民が困るからな。まぁそいつが抜けた穴を埋めたのはお前じゃ無いし気にしなくて良いんじゃないか?」
告げ口のようで気が進まないがこないだの依頼の件を話すと豪快に笑われご愁傷様と慰めの言葉を頂いた。
「自分の利益を一番に考える奴だから当然器量も狭い。逆恨みされた可能性は捨てきれないが安心しろ、そう言う意味では奴の憎しみは全ての貴族王族だろうから。お前さんの性格とかそういうものではない」
「男爵になって良い事が何一つない気がするなぁ」
「良い事があるじゃないか!」
「何です?」
「ヨシズミウールを優先して少し安く買える」
笑顔でサムズアップするクライドさんに対して苦笑いで返しお礼を言ってその場を後にした。男爵になったんだから何れ良い事がある筈だと自分を慰めながら城下町へ向かう。
「どけどけ!」
のんびり牧歌的な風景の中を歩いていると、前方から砂煙を上げて馬車が突っ込んで来た。この世界には歩行者優先など無いので脇へ飛んで避ける。チラリと見えたが馬車の馭者は昨日の商人に見えたが何をそんなに急いでいるのだろう。
隣りにもう一人人を乗せていたが、鎧を着ていたのは見えても顔は馬車が早すぎて見えず。何か事件があったのかと気にはなったが、分からないのに呼び止められないので今は城下町へ再度歩き出した。
「おお……流石城下町だ」
門兵に持ち物検査をして貰った後中へ入ると、そこは町よりも細かな装飾が施され色鮮やかな建物で埋め尽くされた街並みが広がっていた。前回は馬車で通り過ぎただけだったので見る暇も無かったがこうして見ると流石王様のお膝元。
特に急ぐ用事も無かったのでシシリーと一緒に御店を見て回る。食べ物屋さんは元の世界のカフェテリアみたいに綺麗で凝っていたし、洋服屋さんも煌びやかでおしゃれな服が並んでいた。武器屋を覗くと装飾が豪華な装備が厳重に管理され飾られている。値段を見たがとても買える気がしない代物ばかりだ。
「お客様、何かお探しですか?」
「いえ見てるだけですのでお構いなく。直ぐ出ますから」
「何でしたらその篭手、鑑定致しましょうか?」
声をかけて来た店員の目が光ったような気がする。どうやら武具を扱う者からするとこの篭手はかなりの良品らしい。即断り店の外に出ようとするも食い下がられてしまい、冒険者だから商売道具だし町長の奥様から頂いた物なのでと断ると血の気が引いたような顔をして店の奥に去っていった。
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