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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第二章 副業を探して

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村からの帰り道

「あれだ私を助けてくれた人は!」


 見るとふわっとした帽子を被った恰幅の良い髭を生やしたおじさんがこちらを見つけて飛び跳ねる。現場を見に来た兵士は俺だと分かるとビシッと敬礼した。依頼に関して達成し今後は大型花に関する被害は無いだろうと告げると二人とも喜んだ。


村から改めて馬も連れて来て馬車を村へと入れ確認をする。特に取られた物もないようでおじさんは馬を村で購入しシオスまで行くという。俺は依頼を達成したので警備隊長への面会を求めると、兵士に屯所に案内してもらい隊長室で警備隊長と面会。今回の件について説明すると何故か苦々しい顔をして渋々依頼書にサインをして突っ返して来た。


「あの警備隊長は貴族の端くれなのです。だからジン殿に対して良い気持ちがしない様で」

「私たちからすればジン殿こそ貴族であって欲しいと思っていましたし、今回男爵になられたのをうちの隊でも隊長以外は皆喜んで祝杯を挙げたくらいです」


「有難う。皆さんの期待に応えられるようこれからも頑張ります」


 こうして隊長以外の兵士全員と握手を交わし村を後にした。男爵になった余波が思いもよらないところに出て驚く。貴族も王族も働いているとはいえ、出来る人出来ない人もいる。王様の覚えも目出度く引き立てられた人間に対して、元から貴族だった人たちは良い思いは抱かないだろうなとは思う。何しろ自分の席が奪われるかもしれない危険性が高くなるのだから。


「ホント集団で居るのって面倒だね」

「ねー」


 鎧の定位置に座り、大型花から頂いた花の蜜を自前のカップで飲みながら同意してくれたシシリー。依頼を終えのんびりと帰る道は心安らぐなぁと思いつつゆっくり森を歩いていると、後ろから馬車が近付いて来たので脇道に逸れる。


「先ほどはどうも! 馬車に乗って行きませんか?」

「お誘い有難うございます! のんびり帰る途中ですのでお先にどうぞ」


 さっき助けた商人が声をかけてくれたが、生憎急いで帰る必要も無いし森を歩いて英気を養いたいのでお断りする。だが何故かそのまま並走し始めた。視線を向けると笑顔で会釈する。学校に入学した時、知り合いが誰も居ない状況で隣に座った人みたいな雰囲気なんだが。


とは言え相手もひょっとしたらゆっくり走ろうと思ったのかもしれないので、俺は手に持っていた書類を胸元に入れるべく足を止めた。シシリーにも手伝ってもらい仕舞って再度歩き始めると、少し先にさっきの馬車が停まっている。


一応生業として冒険者をやっていて、警備をする場合依頼として受けている立場なので無償でそれをしてしまうとまた御叱りを受けかねない。だが勘違いの可能性もあるので辺りを見回し近くの木の下で腰を下ろす。


 ゆっくりと森にも夕日が差し込んで来て薄いオレンジ色に染まっていく。こうして地面に座りながら暮れていくのを眺めるのは何時以来だろうか。景色は綺麗だがこうしていることには良い思い出は何も無い。


帰る家は園だったし社会人になってからは次の日の為に寝るだけだったから仕方ない。夕餉も同じ。だが今はあの頃と少しだけ違う。宿に戻ればサガやカノンにコウガ、そしてジョルジさんたち宿の人たちもいるので帰らなきゃという気持ちになる。


いつか何か機会があって環境が変われば帰るのが楽しみになるのだろうか。大分環境が変わっているからこれ以上変わるとすれば何だろう。


「ジン、あの馬車まだあそこにいるよ?」


 怪訝な顔をしながらシシリーが指さすと停まっていた。やれやれと思いながら重い腰を上げ馬車に近付く。


「あの、何か御用でしょうか」

「宜しければ町まで一緒に行っていただけないでしょうか」


 やはりそれが狙いらしい。俺は改めて自分の身分を明かし、依頼として仕事をしている行為を無償では出来ないと丁寧に説明しお断りをする。商人はガッカリしたようで目も合わせず頷き、荒っぽく馬車を走らせていく。


「嫌なやつね!」

「まぁまぁ。ああいう人もいるよ」


 シシリーが代わりに怒ってくれたので少しはマシだが、どうも商人関連で良い思い出が無い。この先商売をやるとなってもそこで問題が起こらないと良いなと願うばかりだ。


なるべく出会わない様にゆっくりと森を歩き町の入口に辿り着き持ち物検査を受けて無事中へと入る。そしてギルドへ赴くと早速依頼書を提出し報酬百ゴールドを頂く。


取り合えず早めに宿に戻ってお風呂を頂き、食堂でゆっくりシシリーとご飯を頂きながらのんびりしゃべる。こういう時間があるとさっきみたいな嫌な出来事も大分軽減されて有難いなと感じていた。


「そう言えば何を作るか色々案は出来てる?」

「うん! 小物系を作ろうと思っててーアラクネに貰った糸が凄く良いの! あとは布とかその辺りも探したいわね!」


「布って言うとやはりヨシズミウールか……久し振りに牧場に顔出してみる?」

「え! 良いの!?」


「勿論。二日でかなり稼げてるし、牧場行くくらい問題無いよ」


 とは言えそうのんびりもしてられない。宿も食事もシルバーになったことで冒険者ギルドの直営の宿と言えど料金が上がった。食事が三ゴールドから十三ゴールド、宿泊代が二ゴールドから十二ゴールドになっている。


これでも甘味処が一食八ゴールドで宿はご飯無しで一泊十ゴールドなので破格の安さなのだけど、命の危険が常にある冒険者だからこそ許されている価格だ。


この国の城下町と町の間、製鉄所の近くには大きな病院がある。竜神教の魔法は何でも治せるわけでは無いようだ。司祭曰く、元々持つ治癒能力を魔法により促進し回復させるという。なので冒険で体の一部を失ってしまえば義手などで補う他無いのは元の世界と変わりないし、元の世界の日本にあったような障害を持つ方の保護はほぼ無い。





読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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