造られし花
「何処だ!?」
「右斜め前!」
シシリーの言葉に従い森を駆け抜けると、太い蔓が商人を捕らえて上に掲げ振るっていた。その人が乗って来たであろう馬車は破壊され馬二頭は居なくなっている。
「こういう時に斬るものを買っておこうかな」
「そう言うのは後よ後!」
蔓を斬りたいが所持しているのは元の世界でもあったようなキャンプ用品のナイフだけで、不死鳥騎士団の盾の縁を掴んで脇を締め、素早く薙ごうとする。だがそれを察してか蔓は商人を絡め取ったままこちらを攻撃して来た。
シシリーに相手の居所を探して貰おうかとも思ったが、他にも蔓がある可能性があるので止めバックステップをして距離を取りながら構え
「風神拳!」
着地と同時に右足と右拳を前に突き出す。風が巻き起こり蔓へ向かって渦巻いて行く。風の流れに取り込まれ蔓もぐるぐると周り、やがて商人を解放した。俺は飛んで来た商人を避けて後ろに回り込み、彼の背負っていた荷物を掴んでぐるりと回って勢いを殺して地面に下ろす。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ何とか」
「では急いで村に行ってください。残念ですが荷物は後で回収出来たら御自分でお願いします」
そう告げて俺は蔓を探しに森へ入る。幸い直撃する木は無く少し傾く程度で済んだが、草むらは風が通った場所は薙ぎ倒されていた。注意しながら進んで行くと蔓が奥から二本こちらへ向かって来る。
「近いか?」
「うん!」
シシリーは目を閉じながら定位置から立ち上がり、感覚を研ぎ澄ませながら鎧の縁に掴まるとそう答えた。敵に風神拳は直撃したが体勢が悪く大きなダメージを与えるには至らなかったようで、蔓を鞭のようにして攻撃を仕掛けて来た。それを掻い潜りながら前進を続ける。
「人間如きに!」
「捉えた!」
漸くその姿を見つけたが、話にあった通りの姿をしていて驚く。頭に大きく赤いツバキの花を咲かせた人型をした者が蔓を操っていた。女性のようで蔓はどうやら髪のような仕様らしい。葉っぱをドレスのようにして体に付けていて足元は素足だ。
植物は通常動けないので虫や鳥や人間に種を運んでもらう他無い。目の前の生き物はその欠点を補う為に人型になったのかもしれない。だがこれは突然変異なのだろうかそれとも元からある種族なのか?
「人間を知っているのか?」
「当たり前だ! お前たちのせいで私はこんな姿に」
人型花の体の周りを紫色の気が漂い始めたので距離を取ろうとすると、蔓が向かってきて捕らえられかけたがギリギリで避けて距離を取るのに成功した。人間のせい……この世界に研究所があって遺伝子研究がされて居るとは考え辛い。
となると可能性としてあるのは魔法しか無いし、今の俺の知識の中では司祭たちがそれをするとは思えない。となるとそれ以外になる。魔法制限の会議の他のメンバーだって考えられるが……。
「勘の良い奴!」
「何故他人を襲う? 目的はなんだ!」
「目的だと!? 知れたこと……生きる為だ!」
嘘ではないだろうなと思いつつ、その姿にした人物は目の前の人型花を管理せず放置しているのか。何か思惑があるんじゃないだろうか。とは言え直ぐに答えは見つからないしこの依頼を達成しなければならない。
会話が出来るならお互いの生活圏を護りながら住みたいと思うので交渉して見よう。そう考え避けるのみに専念し問いかける。
「生きる為に何が必要だ?」
「お前に関係あるか!」
「話によっては提供しても良いぞ? お前も狙われ続けるより良いだろ?」
「人間如きに情けを掛けられるなんて!」
「だがこのままだと最悪この森を焼いてしまうかもしれないが良いのか?」
「な、何だと!?」
焼きはしないかもしれないが危ないので気を切り倒し遠くまで見えるようにはする可能性はある。人型花は徐々に攻撃の手を緩め始めやがて止まる。花と言えど森の住人だったのだろうから、自分のせいで森が無くなってしまうとなると心が痛むのだろう……何かそう考えるとこっちが悪役みたいだな。
「……お前はそこらの人間より強いな?」
「多分」
「多分では困る。私が身を寄せている花畑を荒らす奴が居る。そいつを何とかして欲しい」
話を聞くと、人型花は人間と思われる魔法使いによって作られたという。だが大きな破壊があってその隙を突いて逃げ出して来たらしい。そしてこの近くにある花畑に身を寄せひっそりと暮らしていたらしいが、最近現れる者たちによって荒らされ困っていたようだ。
「で、アンタ八つ当たりしてた訳?」
「……奴らが野放しなのも人間があちこち森を壊すからだ。前にも山間にあった城を破壊しただろう? あれのせいかもしれない」
山間にあった城……恐らく不死鳥騎士団の砦だろう。となるとこれまた暗闇の夜明け関連だな。本当に害悪でしかない。魔法を普通の人々に普及させるとか言う前に自然を気にしてもらいたいもんだ。
「何でも良いけどジンならきっと何とかしてくれるわ!」
「そうかなら任せる」
シシリーの言葉にはあっさり従う人型花。ホント居てくれて良かったと思わずには居られない。
「随分とシシリーには甘いな」
「妖精と花は密接に関係している。私たちの朝露から生まれる者もいるしな」
親と子みたいな関係なんだなと思いつつ、先ずは敵を確認したいのでその場所へ案内してもらう。森を更に進んで行くと絨毯を広げたように艶やかな花畑が目の前に現れた。
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