勇者と言う夢
一連の流れを考えると責任は王にまで及び、そうなれば権限を削り弱体化させられる。得する人間が居るのは間違いない。確かにこの国はどんな種族でも帰属意識があれば住みやすい良い国だ。だが色々な事情や人が入り乱れすぎて一度何処かから綻びが生まれれば、決壊したダムのようになる気がしてならない。
「何事も無ければそれで良いが、案件的にそれは望めない。分かっちゃいても別人にこの任に当たらせるにはこの段階じゃ無理がある。実に業腹だが頼む。この件に片が付いたその時には大々的にお前の功績を讃える」
「別に讃えて頂かなくても結構です」
「そうもいかないんだよ。功績を立てたのに褒美が無いなんて、それを基準にされたら良くない前例が出来て後進が困る。男爵の爵位を了承したのだって、お前だけでなく民草に夢を見せる為と言うのもあるんだ。夢は過酷な人生を生きる上で絶対に無くしてはならないものだからな」
「俺は夢にはなりたくないんですが」
「誰かの為に成し遂げたのだから壮大な話にされたくない、という気持ちは分からないでも無いが万人がそれを出来ない。勇者になんてなるものじゃないと誰かが言っていたが、なってしまったのなら出来るだけ支えてやりたいと思っている。国を挙げて護る」
何だか勇者になるのが決定したような言い方だが、この世界には冒険者ギルド的にも上の人は居る訳で。しかもおっさんなので勇者は若い方が良いのではと思っている。なりたい人が居たらその人に譲ろう。
「まぁ先の話をするよりも当面だな。暗闇の夜明けはアリーザを狙ってくるだろう。だが直ぐにはこちらも警戒しているので来ない筈だ。お前自身も鍛え知識を蓄えておけ。男爵の報酬だけでなく任務手当も出るし希望があれば叶えられる範囲は叶えよう。報告もあるし必要がある時は遠慮なく来るようにな」
「有難き幸せ」
こうして王様との会談は終わる。具体的な辞令などは町長からアリーザさん同席の元言い渡されるという。アリーザさんが動ける範囲が広くなったのは良い事だしその為に協力出来るからまだマシか。
そう思いながら冒険者ギルドへ向かい今日の依頼を探す。よく見ると周辺地域は基本ブロンズ級の冒険者たちが主で、シルバー級は前に商人の護衛で向かった村の周辺や国営牧場の先の辺り、そして何より強敵が主のようだ。
「それ何かどう?」
シシリーが鎧から少し顔を出しながら指さした依頼は、例の商人を護衛した村の近くの村でお化け花が出没し困っているという。犠牲者は居ないものの怪我人が出ているらしい。
「良いね、行こうか!」
カウンターで依頼を受ける旨を伝え、直ぐに手続きをしてもらいギルドを出て現場へ向かう。報酬は百ゴールドと高額で余程困っているようだ。駆け足で村へと向かい昼前には到着。入口の兵士二人に依頼を受けて来たと伝え、詳しい話を聞く。
「つい最近なのですが、村の近くを通る旅人や商人が襲われる事件が頻発しまして。詳しく話を聞いてみると、皆蔓の様なもので絡め取られ荷物を強奪られているようなのです」
「では誰かが捕らえられ殺害されたとかは」
「そういうものは一件もありませんでした。解放された人の中に人型で頭頂部に赤い大きなツバキを咲かせた者を見たというのがありまして、お化け花ではないかと言う話になり依頼を出した次第です」
「お化け花ですか」
「はい。情けない話ですが我々が確認しても被害を拡大するのでお任せするようにと警備隊長から言われておりまして……又聞きで大変恐縮なのですが」
本当に申し訳なさそうに言う兵士の人に、その為に冒険者が居るので皆さんは村をしっかり守ってくださいと告げる。警備隊長の判断は正しい。兵士は国からここへ派遣され村を警備しているのだから、濫りに動けないし動いてはいけない。
そう考え依頼をこなすべく依頼書を提示し改めて正確な場所を聞くと、どうやら村を抜けた反対側の森の中らしい。持ち物検査をしてもらい村へと入ろうとすると何やら兵士の二人が言い辛そうにしていたので首を傾げる。すると少し俯きながら口を開く。
「あの、大変申し上げにくいのですが」
「何か?」
「是非握手をお願い出来ませんでしょうか」
「自分で良ければ」
そう答えると笑顔になり二人と握手を交わす。何故俺に握手を求めたのかと尋ねると、何と二人は例の村に親戚が居たという。彼らの両親は他所から来たがヨシズミ国に共鳴し住居を移したようだ。
「ジン殿が暗闇の夜明けを退けず、あのまま奴らが居たら我々の家族を親戚が襲ったかもしれませんし、それを斬らなければならなかった。そうならずに済んだのは貴方の御蔭です。我々にとっては貴方こそが英雄だ」
「この件をまさかジン殿が受けて下さるとは思っても居ませんでした。御礼を言える機会がこんなにも早く来て有難いのですが、どうか無理だけはなさいませんように」
二人がかなり恐縮していたのはそう言う理由からかと納得し、心配してくれた礼を言って村の中を進む。ヨシズミ国へ向かう中継地点だけあって宿やご飯屋さんが多い。今度ご飯を食べに来ようと思い色々見ながら進んでいるとあっという間に反対側に着いた。
そこでもさっきと同じようなやり取りが行われ握手をして村を出る。案外町ではいつも見掛け過ぎて慣れているから握手を求めないのかもなと考えホッとしながら森へ向かうと、悲鳴が飛び込んで来た。
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