アリーザさんの処遇
「おはようございます!」
「いらっしゃいジン! 今日もボコボコだな!」
アリーザさんのところに顔を出すと、テーブルを囲んでシスターと談笑していた。大分精神的にも立ち直って来たようで最近はトレーニングも始めたという。それを聞いて喜んだものの、自活する為に何か始めたいと意気込む姿を見て複雑な心境になる。
国は未だに彼女の処遇を決めていない。恐らく皆で捕えたシンラもどきが逃げたのも関係しているだろう。町の中だけでも自由に歩けるようにならないかな……この部屋だけで良いというならそのままで良いんだけど、本人は動きたいみたいだし。
「ジン、お客さんが来てますよ」
色々考えながらアリーザさんたちと談笑していると、司祭が声を掛けて来たので二人に挨拶して教会を出る。
「おはようジン男爵」
「お、おはようございますぅ~」
教会の前に馬車が停まっており窓から挨拶するシンタさん。顔だけしか見えないのに圧が凄く感じるのは気のせいだろうか。
「陛下が御呼びです。付いてきなさい」
「はーい……」
前回の事を根に持たれているのか笑顔だが言葉や米噛辺りに怒りを感じる。馬車の扉を馭者さんが開けてくれたので乗り込み、向かい合う様に座るも城に着くまで無言。そこから王様の部屋までも無言。ほとぼりが冷めるまで待つ以外無いだろうし、城へ来るのもそんなに多くないので次くらいには何とかなってると良いなと祈る他無い。
「おう、悪いな急に呼び出して」
今回は王の間では無く執務室に通された。そこには文官たちが書類を持って列をなしており、暫く待つようにと言われて入り口近くの椅子に座って待つ。
ヨシズミ王はぎょろりとした目を忙しなく動かし書類を見て、疑問があれば素早く指摘し訂正をするよう指示を出していく。見た目や声のインパクトとまるで違うテキパキとしたその仕事ぶりに圧巻されていると、あっという間にその長い列は減って行く。
「待たせてスマン」
「いえ滅相も御座いません」
文官たちの書類を処理し職場へ返すと、王は机の横にあるソファに座り前へ座るよう促された。椅子から立ち上がり一礼してからソファに近付き再度一礼してから腰を掛ける。
「先ずは男爵就任おめでとう」
「ありがとうございます。男爵と言われても何かこう、しっくり来ないもので喜んで良いやら分かりませんが」
「だと思う。今直ぐ自覚を持てとか言われても俺だってそんなのは無理だ。こっちの都合で押し付けたようなもんだからこっちでも必要があれば指導していくが、仮に文句を言ってくるような奴が居たら俺に必ず報告しろ。お前の為だけでなく内部の綱紀粛正にも繋がる」
「と言うと文句を言いそうな方がいらっしゃるのですね」
急に男爵なんて言う爵位を褒美として与えようなどと王様は考えないだろう。確かに貢献したかもしれないが町に着て日も浅いし、あの村から来たと言うのもある。爵位を与えるとなるとその国の代表の一人と言えなくもないので、ただの冒険者とは訳が違う。
適当に金品を与えてしまった方が双方にとっても楽な筈。王様もそう考えるだろうなと思っていたし、改めて話を聞いてみて何者かの差し金だったと判明し納得する。
「……まぁそう言う話だ。個人的にも国としてもお前を戦力として当てにさせてもらいたい。なのでまず初めに念を押して報告をしてこいと言ったんだ。そして今日呼んだのは他でもない」
王様が呼んだ理由はアリーザさんの処遇についてだった。上層部でも会議を重ねた結果、謀反を起こす様な気配は無いのである程度の自由は与えるが、誰かの監視下に置くべきだとなったらしい。そこで白羽の矢が立ったようだ。
事件の真相が分からない為直ぐに国外追放などの処分も下せず、更に竜神教からもアリーザさんの保護をと言うお願いが来ていたのでそうなったらしい。ヨシズミ王としても暗闇の夜明け事件は終わっていないと考えているので、竜神教との関係をしっかり保つ為にも了承したという。
「早速国の仕事ですね」
「お前を男爵にする件もアリーザの監視役に指名する件も一度保留し考えるよう言ったが、それでも適任と言われては変に却下し続けるとお前に害が及びかねないので王として下賜した。指名者は敢えて伏せるが接触もさせない。俺の直轄として任務に当たってくれ」
なるほど……俺が爵位を得たのはアリーザさんの件を任せるのに理由が要るからなのか。シンラもどきを上層部の誰かが逃がし、更にはこちらにアリーザさんの監視をさせる。上手くすればアリーザさんと一緒に纏めて処理しようと考えていても可笑しくはない。
「恐らくお前の考えている通りだ。人間だけでなく動物って言うのは自分の領域、縄張りや群れに新入りが他所から来るのを良しとしない、目立つなら尚更な。だが俺としてはお前は俺の国民で貢献もしてくれている。それにも拘らずくだらない仕打ちをしようとするのを見過ごすなど有り得ない。王として厳命する、動きがあれば逐一報告するように」
「はい」
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