貴族たる者の資格
「皆の者、日頃の精勤感謝する。皆の日頃の労をねぎらう為の宴であるから存分に飲んで食べてくれ、乾杯!」
町長の挨拶で宴が始まり、町長と奥様は色々な人に話し掛けて回る。それを見てどうしたものかと考えたが、自分の顔だけでなく人となりを多少でも知っておいてもらえた方が良いだろうと考え、町長たちとは反対周りで声を掛けていく。
「こんばんはお邪魔します。冒険者のジン・サガラです」
「ど、どうもこんばんは!」
なるべくお邪魔にならないよう御挨拶だけしてと思ったが、皆さん気を遣って色々聞いて下さった。答えられる範囲でなるべく長くならないよう質問に答えたが、俺の話に興味があるようで一人目の御家族から引き止められてしまう。
「まぁまぁ、次の方々も居られますのでまた」
いつの間にか後ろに居たイーシャさんが間に入りそう告げると、その御家族も確かにそうだと笑顔で頷き次へと移動で来た。
「さぁジンもイーシャも御飯を食べなさい。他の皆も疲れてしまう」
何とか一周終わって元の位置に戻ると、町長も奥様も戻って来ていらしたので言われた通り席に着き食事を頂く。イーシャさんが後ろに付いてくれたお陰であの後大分スムーズに回れたので感謝を述べると、小さく頷いただけだった。
勝手な想像でイーシャさんはとても内向的なのかと思っていたが、必要な時には俺よりもしっかりと対応出来る姿を見て自分の浅はかさを恥じる。人間は多面的なので、一つを見て分かった気になってはいけないという先生の言葉を思い出す。
「ジン、甘い物」
「はい」
町長の家に辿り着く前に戻って来て、今は鎧の中で寛ぎつつ食事を食べるシシリー。体調は良いようだが、やはりこういう人数が多いところには出ない方が良いだろうと考え、なるべく見えない様に動く。やがて夜も更けて来て解散となった。
「イーシャさん、町長、奥様。本日はお招き下さり有難う御座いました」
皆さんを見送ってから最後の一人になり片付けを手伝おうとしたが、町長から止められてしまい御屋敷の入口へと移動する。
「ジン様、貴族として位が高くなればこういう付き合いもしていくのです。高貴さには義務が生ずる。ヨシズミ王は貴族だけでなく王族にも何も言いませんが、言わないだけで見ています」
「そうなんですね」
褒美として貴族の位を頂いただけではなく、ある意味ヨシズミ王に試されている面もあるのか……って何で俺が試されるんだ? 一介の冒険者にそんな必要無いと思うんだが。
「まぁそう言う事だな。ジンは今日、男爵としてイーシャの支えがあったにしても満点な対応だった。皆もいつもより満足して帰ったからな」
「今話題の冒険者であり新たな男爵ですものね。皆が払う税金の一部を得る人物がどう言う人か。知らないより知っていた方が払う方も気持ちが違う」
「ヨシズミ王は飄々としてらっしゃいますが非情さを持ち合わせています。お父様もおっしゃられていたと思いますが、民に害為す者は例え王族、親兄弟であろうとも斬ります」
イーシャさんの言葉を聞いて笑顔で頷く町長夫妻。何だか希望してないのにより面倒なところに取り込まれてるなぁ。
「それ故に王にも敵が居る。お前にも出来れば力を貸してもらいたい」
「出来る範囲であればお力になりましょう。ですがまだシルバー級に上がったばかりですので」
「そう言う事にしておこう。今日はこの辺でな。また何かあれば頼む」
「それでは失礼致します」
一礼してその場を去る。食事は美味しかったが何だか食べた気がしない。小さく溜息を吐いて俯くと、シシリーが気持ち良さそうに眠っていた。いつもより疲れたなぁと思いながらも宿へ帰り床に就く。
「やぁおはようございます」
どうも司祭の笑顔の挨拶と言うのはこれまでの経緯からして楽しい予感が一切しない。こちらも笑顔で挨拶しそのまま朝の鍛錬に入る。最近は町を走ったりはせずに組み手をしながら可笑しな点を修正していた。
鍛錬前には青銅の鎧を脱ごうとすると、実戦では着ているのだからそのままで良いと言われそのまま組み手をする。
「うーん……まぁここのところ強敵にも会ってないでしょうからこの程度ですかね」
「そんな頻繁に強敵に会いたくありません」
「強敵と言うのは自分を強くしてくれる有難い存在ですよ? まぁ私たちの上にはドデカいたんこぶがあるので成長が止まったりはしませんけどね」
「ドデカいたんこぶ……師匠はお元気ですかね」
「殺しても死なないですよ。心配しなくとも今日も何処かで御節介をし続けているでしょう」
自分が強くなってるかどうかは分からない。少なくとも司祭を驚かせるまでには至っていないので成長しているような気がしないんだよな。そう言う意味ではコウガみたいな分かり易い上のライバルとか居てくれると良いんだが。
「そう言えばジンはシルバーになったんでしたっけ」
「はい、何か成り行きでって感じですが」
「そうですかおめでとうございます。ではしっかり頑張ってランクを上げて下さい。貴方が強くなればギルド対抗戦に出られるかもしれません」
「ギルド対抗戦ですか」
「各国のギルドがナンバーワンを決める為の武術大会です。代表が代表なのでジンにはまだ大分先の話ですけどね」
「この国のゴールド級ですよね代表って」
「そうです。普段は国の冒険者の代表としてギルド本部に出向しているので会えませんが、居るんですよこの国最強の冒険者が。いつか会えると良いですね」
あっさりと突きを避けられ手首を取られ投げ飛ばされる。こんな有様では当分会えないだろうなと思いながら朝の鍛錬も話も終了した。
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