町長の御屋敷から森へ
「お前も気を付けてくれ。相手は私たちを狙ってくるだろう」
「心得ました。元々狙われてはいたので今後も変わらず気を付けます」
「うむ。で、昨日お前がギルドに報告した件だが、暗闇の夜明けは絡んで居なさそうか?」
町長としては森の生態も気になるだろうが、やはりそちらの方が気になるようだ。その可能性を考えて調べたが、今のところ暗闇の夜明けがゴブリンを使って潰したせいで新しい種族同士の縄張り争いが起こっている以上は無いと伝える。
「そうか……そのゾンビたちが気にはなるが、お前の話からしてこちらから手を出すと泥沼になりそうだな」
「はい。余計な犠牲を払う必要は無いと考えます。当分は森に近付かない様にして、人間が襲われたら対処するようにした方が宜しいかと」
「幸いあの方角にはこの世ならざる者が居るのは周知の事実。国としてもなるべく近付かないよう注意喚起をしているので濫りには近付かないだろうから問題無いとは思うが、改めて皆に知らせよう」
用件は以上だと言われたので御屋敷を出ようとすると、イーシャさんに是非食事でもと誘われた。だが生憎貧乏暇なし状態なので、誘って頂いたお礼を述べてからお断りすると夕食はどうかと聞かれる。イーシャさんは何か話があるのだろうかと思って考えていると、奥様が現れて是非にと言われた。
奥様には篭手の件もあるし、出会った御蔭で今があるので夕食にお呼ばれする事にして御屋敷を後にして町を出る。シシリーに何処に行くのか尋ねられたのでアラクネに会いに行くと伝えると意外そうな声を上げた。
「そんなに意外?」
「うん、だって皆には近付かない方が良いって言ってたから」
「一応顔見知りだから俺たちは平気かなと思ってね。個人的にアラクネと話したいし」
「何を話すの?」
「糸の供給。シシリーは糸あった方が良いだろ? それにどれくらいの強度かも分からないと商品には使えないし、試すなら早い方が良いから少しだけでも今回貰えたらと思って」
移動しながらそう言うと、シシリーは鎧の定位置で飛び跳ねる。シシリーの御眼鏡に叶うかどうかは分からないが、気を持たせるより早めに解決した方がダメだった場合ダメージが少なくて良い。
「あらこんにちは」
呑気な感じの挨拶の先では血生臭い事になっているが、それはスルーして挨拶をする。そして出来れば糸を少し融通して欲しいと頼むと、傍に倒れて動かなくなっていたウルフに付いていた物を取って払いこちらに渡して来た。
「今回はタダであげるわよ。気に入ったなら今度から物々交換ね」
「何を持ってくればいい?」
「難しいわね……縄張り争いしてるから餌には今一応困ってないし……強いて言うなら大型の昆虫とかが良いわ。物によっては大量にあげる」
「分かった。手に入ったら来るよ。後こないだの件だけどアラクネの事は伏せて報告して置いた。それと暫くはこっちにも入らない方が良いっていうのも付け加えて」
「それは有難う。多少被害が少なくなるのを期待するわ。私としても人間と事を構えるつもりは全く無いし」
「持ちつ持たれつしていけそうか?」
「そっちに敵意が無ければ問題無いわ。見た目が嫌いっていう人も居るだろうけど、蜘蛛って昔から人間を襲うんじゃなくて人間に近付く虫を食べてたのよ?」
「それは知ってる」
確かに元の世界でも夜に蜘蛛を見ると良くないとか先生から聞いたが、それと同時に家に居るとゴキブリ等を退治してくれる有難い存在だとも聞いていたので俺は嫌悪感は無い。
「そっか、だから貴方は私が足を出しても怖がらなかったのね」
「いや、強さを感じたから怖かったけど」
「お世辞でも嬉しい。幾ら個体上位種とは言え格下に見られると困るから同等に見てくれると助かるわ」
「是非今度とも御贔屓に」
「こちらこそ」
あまり長居してもお邪魔になるので、握手を交わし町へと戻る。シシリーは貰った糸をジッと見つめ、何か思い立ったようで定位置から飛び出し家に戻ると言って森の中へ消えて行った。
シシリーなら大丈夫だろうし何か考えがあるのだろうと思って見送り一人で町へと戻る。アイラさんの鍛冶屋に顔を出すと、急な依頼でてんてこ舞いのようだったので夕方まで鍛冶を手伝い宿の風呂に入ってから町長の御屋敷へ向かう。
「おおジン殿ではありませんか!」
御屋敷の前に居た門兵二人がこちらを見つけて駆け寄ってくる。緊急な用事も無いのにこの時間に来たからかと思ったが、どうやら夕食にお呼ばれしているのを聞いていたようでとても歓迎された。何故兵士の人たちに歓迎されるのか首を傾げたが、それは屋敷の中に入って直ぐに判明する。
「よく来たなジン。こちらへ座ると良い」
中庭に町長や奥様、それにイーシャさん以外にも兵士やメイドさん、その家族も集まっているようで大賑わいだった。皆こちらを見て更に盛り上がる。聞けば今日は町長主催の部下たちに対する感謝の宴らしく、それもあってお呼ばれされたらしい。
部下じゃないのに良いのだろうかと思いながら、何故か町長たちと同じ並びに座らせてもらう。
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