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俺の恋敵が人間じゃないなんて聞いてないんだが  作者: 水無月やぎ
第1章 出会いの9月
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#10 全米を泣かせろ

 俺はとにかく、とにっかく必死で勉強した。シャー芯何本消費したんだろ。ルーズリーフ何枚消費したんだろ。こんなに消費したの初めて。普通に全米が泣くくらいのレベルで必死になった。

 “必死”という言葉の意味を本当に理解したのも、ここまで奮い立ったのも……そして、人外のモノとガチンコ勝負したのも、人生初だ。式神とのバトルが人生初じゃなかったら、それはそれで怖い。


 「腹が減っては戦はできぬ!」と常々言っては勉強から逃避していた俺が、飯も忘れてシャーペンを握り続ける姿を見て、全米だけでなく式神も心を動かされたのかもしれない。俺の影響力すげぇ。悠馬は意外にも色々と良くしてくれた。お節介も、この時ばかりは嬉しいものだ。この期間だけは俺の邪魔にならないように、あえて“壁からするっと方式”で部屋に入ってきた。この式神は毎日、炊事→お洗濯→お掃除のルーティンを文句言わずにやってくれた。よくできたお世話係……。式神じゃなくて、嫁として欲しかったわ。あぁ、この式神が華音様だったら良かったのに。


 おっと、妄想が始まりそうだ、危ない。妄想を現実にするためには、今はとにかく勉強しなければ。


 たまには俺も料理くらいは手伝うのだが、この試験前期間は例外で、ぜーんぶ悠馬にお任せ。あいつ俺より手際良いし、ご飯うまいし。要領も顔も良い。……あれ、なんだろうこのムカつきは。まぁ良いや。とにかく悠馬に全てを投げていたということだ。……まぁ、買い出しは未だに俺がやるしかないが。

 だって、悠馬が1人でスーパーに入ったら大変なことになる。

 一般人の目から見ると、こんな感じになるだろう。

 商品とカゴが浮きながら動き出す。商品が勝手にカゴの中にするすると入っていく。万引きかのように見えるのに、金はなぜかきちんと支払われる。人外のモノが視える才能、いわゆる“見鬼けんきの才”がない一般ピーポーは、どうあがいても律儀にカゴを持って、法にのっとったお買い物をしている悠馬を見ることはできない。そうなったら……

 絶対に、絶対に大パニックだ。どんなに少なくとも、1ヶ月間は巷の奥様方のネタになること間違いなし。そんで、その話は彼らによって、時間をかけながら色々盛られていくことになるのである。


「ねえねえ、おたくは見た?」

「いつもスーパーで、カゴが浮いてて!」

「見た見た!」

「バケモンかしら?!」

「いや待って、もしかして魔法使いでも住んでるんじゃない?!」

「うっそ〜、魔法使いってか魔王?!」

「それにしてもお金だけはちゃんと払うのよね、律儀な魔王よね。この町って魔王が住んでるのね〜!」

「魔王の家ってどこなんだろ?」

「誰かの生まれ変わりが魔王になったんじゃない?」

「それなら魔王じゃなくてもしかして怨霊?!」

「えーっ怨霊ここにいるの?!」

「誰の霊かな、そう考えると怖いわ!」

「待って待って怨霊って自炊するの?! たくさんナマ物買ってたけど!」

「自炊ってか生肉そのまま喰らうとか?」

「うわーそれあり得るかも〜!」


 ……とまぁ、こんな感じでとんでもない話が雪だるま式に出来上がっていくことは容易に想像がつく。その“怨霊”が俺の家に帰ってきたと分かれば、あぁ、俺そのものが奥様方の格好の餌食にされてしまうわ。あゝ、悲しい末路。

 なので、買い物は俺が行ってます。


 悠馬の作ってくれる特製カレーや特製オムライスを俺は自分の血に変え肉に変え、一心不乱で学生の本業を務めた。おかげで、はじめて問題集のノートを期限日に出すことができた。涙もろいことで有名な担任は、俺のノートを見て早速声を震わせた。


「ふ、藤井……! は、初めて問題集のノートを! 偉いぞ! でかしたぞ藤井! とにかく出したことが偉いんだ。先生との約束を守ったってことだよ! これは全米が泣くよ!」


 やっぱ全米泣くよね。俺もそう思う。

 この俺の快挙(?)は教員室中に知れ渡ることとなり、他の教師にも、心を入れ替えたと思われたようだ。担任どこまで言いふらしてんだ。俺面識のない先生にまで、「藤井くん、すごいね」って声かけられたんだが。全国大会で入賞した生徒みたいな扱いを受けている。教師陣よ、どんだけ驚いてんだよ。


『京汰……教員室を泣かせるなんて凄すぎる。今まで何やってたんだよって思うくらいに凄すぎる』


 毎度余計なことを言うけれど、まぁ俺も今まで自分何やってたんだって思ってます、はい。

 とにかく俺はめちゃめちゃ急成長していた。

 この成長は式神によって得た、人類の大きな一歩だと考えている。


 さて、この成長をさらなる結果で見せないといけませんね。

 ……いよいよ明日から、中間テストだ。

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