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第3章 第21話 レベル 2

竜王の紅玉(ドラゴンスフィア)



 フィア対キョンシーのキョンとの戦いの場に突如現れたいくつもの桃色の光球。それを見てもキョンはいたって冷静だった。



(どんな魔法だろうが、私にはノーダメージ。それに当たらなければなんら問題はない)

 光球はフィアの周囲を漂っているだけで動く気配はない。だが、



「おりゃぁっ」

 その中の一つが勢いよくキョンの方に飛び出してきた。フィアが杖で球を叩き飛ばしたのだ。この魔法には偶然だが、フィアとフィアが触れているものに当たると跳ね返るという効果があった。



「くっ……!」

 避けることを知らないキョンはその攻撃を受けるが、ダメージはない。キョンシーだからということではなく、本当にダメージがないのだ。ただ身体が同じ色に光るだけで、異変は何もない。



「どういう魔法……?」

(ウイラ)!」


 光球がキョンに当たって消えたのを確認し、フィアが風魔法を放つ。周囲の光球の一つに向かって。



竜王の紅玉(ドラゴンスフィア)。その効果は魔法の威力強化です。魔法に当たることによってその威力を少しですが上げることができます」


 形のない風の魔法は、光球を吸収したように桃色の輝きを帯びると、軌道を変えて近くにあった別の光球へと飛んでいく。



「でもわたしのミスで効果がもう一つ生まれました。それは、魔法の誘爆。魔法が光球に当たると、近くの光球に自動的に移動しちゃうんです」


 風の魔法は光球の配置に従いフィアの周囲をどんどんと渦巻いていく。チューバ戦、入口での兵士戦に使ったのがこの魔法である。だがこれには、フィアにとっての大きなデメリットがあった。



「だから嫌いなんですよ。こっちは一々光球の配置なんて気にしてらんないので。予期しない方向に飛んでっちゃうとか最悪じゃないですか」


 質料を持たない風の魔法を視界で認識することはできない。それなのに今、風は眩いほどに輝いている。



「でも実は頭がよかったわたしは気づいちゃったんです。この魔法のコントロール法を」


 こんなことは物理的にありえない。そうわかっているのに、確かにこう見える。



「全部吸収しちゃえば、塵一つ残りませんっ!」



 鮮やかな紅に輝く、竜のように。



(まずい――!)

 キョンシーは死なない。だが今キョンの脳に激しい指令が鳴り響いている。



 逃げろ、と。当たれば死ぬぞ、と。どうしようもなく騒ぎ立てる。



 それは人間だった頃の名残だろうか。わからないが、キョンはその本能に従うことにした。まだフィアの周囲には光球が残っている。テレポートゲートに逃げ込む時間はあるはずだ。



「逃がしませんっ!」

 だがその残りの光球はその輝きを失った。フィアが飛び散った肉壁の欠片を手にし、残りの光球に当てたのだ。これで残りは肉片と、キョンのみ。



「いっけーっ! 光竜咆(ドラゴニックファイア)っ!」



 そして肉片を杖で打つと、それに導かれるように光の竜が宙を舞う。標的はもちろん、最後の光を持つキョンだ。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 なすすべもないキョンの身体が竜に呑み込まれる。キョンの身体の光が魔法と反応し、最後に大きな輝きを放つ。そして次の瞬間、キョンの身体は細切れに裂かれていた。



「とどめです! 竜王の紅玉(ドラゴンスフィア)っ!」


 そしてフィアは壁を覆う肉壁に一つ光球を放つ。すると回復する間もなく斬り刻まれ続けるキョンを呑み込んだ竜が軌道を変え、肉壁へと突っ込んだ。



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 キョンの悲鳴と共に爆散する肉壁と付近のベルトコンベア。そして風に混ざって取り込まれていた女性たちが身を投げ出される。



「はぁぁぁぁ……(テラ・)銃乱岩(ガーズ・グーラン)っ!」


 頭の中でゆっくりと術式を編み、いくつもの岩を飛ばすフィア。それは役目を取り戻しために急速に回復した肉壁の間際に積み重なっていく。これでベルトコンベアで女性たちが運ばれることはなくなった。



「が……ぁ、あ……!」


 肉壁の中に残っているのは、復活したキョンの身体のみ。だが上半身を肉壁に埋め、手の先と下半身を外に出しているキョンでは脱出は不可能だ。



「むぅ……むぐぅぅぅぅっ!」

(この……人間に……人間ごときに私がやられるなんて……! 絶対に許さないっ! 殺してやる。すぐに殺してやるっ!)

 脚をばたつかせて抜け出そうとするキョンだが、



「ふぐぅっ!?」

 突如その動きは一度の大きな痙攣によって弱まった。



「ぁ……あぁ……?」

(こんな……ありえない……。私の身体が、感じてる……?)



 粘液に包まれた肉壁に揉まれ、嬌声を漏らすキョン。もう既に肉体は死に、性欲だってなくなったはずなのに。



「ぅぁ……ぁぅ……ふわぁっ」

(やだ……こんなのやだ……なんで私が……人間の……)



 恐るべきは、女性を徹底的に貶める××(チョメチョメ)トラップダンジョンの能力。それはモンスターに人間の感覚を取り戻させた。



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅっ――!」



(こんなところで……ずっとなんて……たすけて……メア……)



「ぐぶっ、ぉぐっ、ぶぎゅっ」

「ふぅー……さすがに疲れました……」


 キョンの下半身がビクンビクンと痙攣しているのを尻目に、フィアは岩を背にして休憩する。その手には自身の現状を示すギルドカードが。



「まだレベル16……中々上がらないもんですねぇ……」



 フィアが最後にレベルが上がってから倒したのは、勇者のミューと無数のスライム。そしてヒャドレッドのチューバとキョン。



 それをもってしても、フィアの才能の目覚めには及ばなかった。

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