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第3章 第18話 100010010

――――――――――




『 ダンジョン突破、おめでとう』



 私が二度目のダンジョン突破を成し遂げた時、頭の中に一度目と同じ女性の声が鳴り響いた。



「いいから早く――!?」

 ダンジョンブックをよこせ、と言おうとしたその時。一度目には現れなかった映像が脳に直接流れ込んできた。それは決してありえないイメージ。



「これは……!」

 いや、今はそれよりも。



「オープン!」

 ダンジョンマスターの力が戻ったのか確認するためにそう叫ぶと、右手に前と同じダンジョンブックが出現する。



「メイ、私のこと覚えてる?」

「はいご主人さまっ! ご主人さまを忘れるなどありえませんっ!」

 次にメイドモンスターを召喚したところ、やはり前と全く変わらないメイが現れた。記憶も問題なく引き続けているようだ。



『これは「ダンジョンブック」。この……』

「テレポートゲート!」

 なおも頭に流れてくる言葉を無視し、フィアたちの下に直通するテレポートゲートを召喚する。今こうしている間にもフィアやミュー様が苦しんでいるかもしれないんだ。急がないと――



「――え?」

 ふと横を向いた瞬間、気づいた。



「私の家が……なくなってる……」

 ニンゲンホイホイを改造し、単なる豪邸へと変えた私の家がただの瓦礫になっていた。



「ミュー様……何もそこまでしなくても……」

 私が憎いのはわかるけど、わざわざ壊すことはなかっただろう。そのまま住めるし、外の世界ではまだ作れていないような薬だってたくさんある。他にもまだ大事なものが――



「――いや」

 そうじゃない。そんなもの、どうでもいい。



 私の家には、あれがある。



『「オープン」と唱えると……』

「くそっ――!」

 私はテレポートゲートの横を通り、私の部屋があったであろう場所に駆け出す。



「お願いだから……無事でいて……!」

 しかしその願いも虚しく、瓦礫の中からボロボロになった私の宝物が出てきた。



「――ご、めんなさい……!」

 口から洩れた言葉は謝罪。



 私の命の恩人。ノエル・L・ヴレイバー様への謝罪だった。



『ユリー。少し気が早いかもしれないがこれを渡しておく。秘書官試験に受かったら最初に私に見せてくれたらうれしい』



 100年前の記憶が蘇る。結局見せることはできなかった、たった一度しか着る機会のなかった、私の宝物。



 ノエル様からいただいた秘書官服のオリジナル。それが、見るも無残な形で私の前に姿を現した。



「あ……あぁ……!」

 もう二度と手に入ることのない、この世にたった一つしかない、ノエル様との思い出の品。



 それを、壊されてしまった。



『君はこの力で何をしたい?』



 頭の中で声がする。これが最後の言葉だったはずだ。



 私がこの力で何をするか。何をしなければいけないか。



 そんなことは、決まっている。私のやるべきことは一つだ。



「私はこの力で――ミュー・Q・ヴレイバーを殺す」




「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 セイバ由来の桃色の刀身の刃がミューを襲う。だが鍔の部分で簡単に防がれ、鍔迫り合いの形に持ち込まれた。



「落ち着けっ! 今はこんなことをしている場合ではないだろっ!」

「うるさいっ! モンスターとかそんなの、私にはどうでもいいっ! 私の全部はノエル様だったのにっ! お前がぁっ!」

 強引に力を加えてミューの剣を弾く。これで終わりだっ!



「死ねぇっ!」

「落ち着けと言っているっ!」

 思いっきり振り下ろした私の剣は、しかしミューに届くことはなかった。



「お前の剣術では私には届かない。一度頭を冷やせ」


 ミューが正論ぶったことを言うと同時に私の刀の刀身が床へと落ちる。勇者の聖剣、勝者の十字架(エクスカリバー)に裂かれることでとっくに砕けていたのだ。



「頭を冷やせ? 私は冷静だよ。冷静にお前を殺そうとしてるんだ」

「お前を傷つけたのは謝る。お前は曾祖母を殺してはいなかった。全て私の勘違いだった。すまない、許してくれ」



 曾祖母? ザエフ様のことか。そんなの――



「――どうだっていいっ!」

 私は剣を逆手に握り、柄の頭でミューの剣を殴って一度距離をとる。



「勘違いなんてどうでもいいんだよ。もう手遅れだ。真実が伝わったところでノエル様からいただいた秘書官服は戻ってこないんだから」

「秘書官服? 何だそれは……。いや、屋敷の中にあったのか。すまない、気づかなかった」

「――は?」



 こいつ。ノエル様からの秘書官服を。気づかない程度のものだって言いやがった。



「やっぱりお前だけは許さない……!」



 そして私はスカートの端を捲り上げて太ももの武器に手を伸ばす。ただの刀なら無理でも、これならあいつにだって届くはずだ。



 魔王が武器にしていたという十手。私はこの使い方を知った。いや、感覚的には知っていたと言った方が近い。



 ××トラップダンジョン最上階に辿り着いた時に流れ込んできた映像。それは、この武器の使い方だった。



 何者かわからないが、黒い影がこれを振るっていた。検証しないで実践に使うのは私の主義に反するが、構わない。たとえこれが魔王が使っていたという危険な香りのする武器だったとしてもだ。



 ダンジョンと魔王に何の関係性があるのかはわからないし、今は興味もない。



 ミュー・Q・ヴレイバーを殺せるなら何だっていいんだ。



 たとえ魔王の力だったとしても、私は悪魔なんだから。



「抜刀――」



 そして私は十手を抜く。この詠唱により、十手はその姿を肥大化させる。長さ的には日本刀と同程度。だがその能力は、鉄の塊を遥かに凌駕している。



「――千方百計(せんぽうひゃっけい)十束剣(とつかのつるぎ)



 魔王の武器の力。悪魔が十分に引き出してやる。

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