第3章 第14話 私のやり方
「せっかく逃げれたのに戻ってくるにゃんて、馬鹿な奴もいたもんだにゃぁ」
××トラップダンジョンのことをほとんど知らないニェオが笑うが、ユリーはそれに全く取り合わず、素早く周囲を見渡し状況を確認する。
「オープン」
その右腕の中には、ダンジョンマスターの力を取り戻したと証明するようにダンジョンブックが収められていた。
「テレポートゲート」
そして一番早く対処すべきであろうキョンシーへと変えられたスーラの元へテレポートゲートを通って移動する。
「あなたもキョンシーにしてあげる」
「ぁあ……あぁ……」
「セイバ」
現れたユリーに襲いかかる二体のキョンシーと、ユリーがモンスターを召喚したのはほぼ同時。
「姫に触れようなど恐れ多いぞ、三下」
だが一瞬早く、ユリーの下へと現れたミニスカ和服を着た少女がキョンの腕とスーラの御札を斬り捨ててみせた。
「人間ごときが……!」
「テレポートゲート」
腕が治ったキョンが即座にかかってくるのを見て、カウンターの要領でテレポートゲートを設置したユリー。ダンジョンの彼方へと消えていったキョンを見ることもせず、正気を取り戻して呆然としているスーラに語りかける。
「スーラ、イユも行かせるからカッパの方お願い。有利な層に飛ばすから」
「ユリーちゃん……。よかった、クリアできたのね」
「うん。二人のおかげだよ、ありがとう」
そしてキョンを飛ばした先とは別の層へと続くテレポートゲートを開き、スーラを送り込む。
「俺を飛ばすって!? できるもんな……」
「アミ」
「イエッサー!」
キャバが口を開いた瞬間、ユリーもまた口を開く。そして現れたのは、迷彩柄の軍服を着たモンスター、アミ。彼女は銃に結ばれた網へと変わる弾丸を撃ち込むと、キャバを包み込んでテレポートゲートに叩きこんだ。
「テレポートゲート」
キャバがこの層から消える少し前。宙を舞うキャバに目もくれず、ユリーは涎を垂れ流して悶えているフィアとイユの下に移動していた。
「イユ、話は聞いてたよね?」
「ぁ……タダ働きは……はぁっ……する気ないよー……?」
息も絶え絶えのイユがそう口答えしたのは、稼ぎ時を見逃さない性分と、単純にユリーのことが嫌いだからだ。しかしダンジョンマスターとなり、向かうところ敵なしのユリーは少しの反抗も許さない。
「つぎ私の命令に『はい』以外で返したら人がいっぱい集まってる場所に転送するから」
「まっ、やっ、わかったからっ、それ、やっ、あっ」
ユリーはイユの身体を縛り上げている縄の先を引っ張り上げて立たせようとする。しかし今のイユの脚はガクガクと震えており、身体の踏ん張りがきかない。その結果股間部を掴みあげている縄のコブに全体重が乗っかり、既に限界寸前のイユを苦しめる。
「『はい』、は?」
「ひゃっ、ひゃいっ、ぁっ、まってっ、ほんとに、もっ、ら、めっ」
イユの答えが気に入らなかったユリーは、縄を上下に引っ張り、さらにイユを責めていく。それに耐えきれなかったイユは、脚をピンと伸ばして海老反りになった。
「ぁっ、きちゃっ、みなっ、やっ、くっ、ふぅっ、っ――――!」
そしてイユの身体がビクンビクンと跳ねたのを見て、イユの身体を地面に投げ捨てた。
「これで満足できたでしょ? 早く行って。スーラに傷一つつけたら殺すから」
「っ、っ、っ――――!」
ユリーに見下ろされながら、イユは悔しそうに瞳に涙を浮かべ、芋虫のように床を這いながらテレポートゲートへと向かっていった。
「フィア、大丈夫?」
「は、はぃ……」
イユを見送ったユリーは、その横で倒れているフィアを起こす。
「できればキョンシーの方に行ってほしいんだけど。無理なら全然……」
「大丈夫です……っ。必ず、んっ、倒してきます……!」
フィアがキョンが通ったテレポートゲートに入ったことで、この場にはユリー、ミュー、ニェオが残される。
「にゃるほどにゃるほど。これで二対一、ってわけか。でもにゃーはおみゃーが口を開く前に喉を掻き切れる。あの転送女を残した方がよかったんじゃにぇか?」
「ユリー・セクレタリー。ここは一時休戦で……」
「あのさぁ、勘違いしないでくれる?」
ニェオには目もくれず、剣を支えに立ち上がったミューに視線を送る。
「私の相手はあんただよ。ミュー・Q・ヴレイバー」
怒りと憎しみと。殺意の瞳を。
「セイバ、おいで」
「はっ。姫の仰せの通りに」
「魂の転職――」
セイバが光の粒子となってダンジョンブックへと消え、同時にユリーの衣服がキョンシーのものからセイバと同じ、桃色のミニスカートの着物へと変貌した。
「――和風衣」
その力は××トラップダンジョンの理から外れたもの。
「お前だけは絶対に許さないっ! 死んでも殺してやるっ!」
人に死を与えることができる力である。




