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第3章 第8話 敗者の末路

――――――――――



「あぁぁぁぁぁぁぁんっ」



 一度絡み付いたら決して解けない縄、カースロープがイユの身体に食い込んでいく。首の下を起点に、大きな胸を挟み込み、銃を落としながら腕を後ろに回し、すらっとしたお腹をへこませ、股下をきつく食い込ませる。



「ぁ……あ……ゃ……」

 強烈な締め付けを受け、床に倒れるイユ。なんとか立ち上がろうとするが、動くたびに縄が食い込み、短く喘ぎ声を上げる。



「脚を縛らなくていいの?」

「それはこれから。それよりスーラの脚は?」

「血が抜けたら傷が塞がってたわ。ほんと不思議なダンジョンね」

 イユを倒し、一度深く息を吐いたスーラが近づいてくる。さーて、こっからがお楽しみの時間だ。



「イーユちゃん」

「…………」

「返事」

「んっ」



 私の声に睨みで返してきたので、ロープの先を引っ張って締め付けをさらに強める。まだわかってないようだね、今の状況が。



「今まででだいたい二分かな。つまりあと三分。少なくとも二分はあなたと遊べるわけだよ。なにしよっか。おしゃべりしたいって言ってたよね」

「……早く行った方がいいよ。後悔するから」

「ふふ」

 余裕ぶってミュー様が来るまでの時間を教えちゃったのが失敗だったね。じゃあまず、



「お口、あーんして」

「…………」

「おんなじことやりたいのかな?」

「くぅっ……」



 数秒の躊躇の後、イユがゆっくりと口を開き、


「ういぁっ」

「想定内すぎ」



 魔法の詠唱をしようとしたところを、舌を指で挟んで妨害する。



原初の魔法(オリジンスペル)まで使ってるんだもん。これくらいはやってくるよね」

「ぅぁ、ぁ、ぁっ」

 綺麗な舌を指でなぞり、イユの顔をじっくりと眺める。悔しいのか恥ずかしいのか頬は紅潮し、口の端から唾液の滝が垂れていく。



「私があなたにすることは二つ。移動手段を封じ、言葉を発せなくする。ベターなのは足枷と口枷だけど、時間もないしもっと効率よくいこうか」

「! ゃ、ひゃめっ」



 私が掲げたものを見て、赤くなっていたイユの顔が一気に青ざめる。勇者の秘書官になれるくらい頭がいいんだ。今から自分の身に起きることくらいすぐに察してしまっただろう。



「フィア、おいで」

「? はいっ」

「これに思いっきり魔力を流してイユの口の中に入れてあげて」



 そう言ってフィアに手渡したのは、つい数分前にフィアのお腹を貫いた電属性の魔石弾。これに込める魔力が多ければ多いほど、より強力な電属性の魔法が発生する。



「ぉめんなさっ、ひゅるひてっ」

 フィアが魔石弾を口の中に入れる寸前、イユが必死に命乞いをするが、



「なーんて言ってるのかわからないなー」

「ひゃだっ、ゃ、ゃ、ぁ……」



 そして私が舌から指を離した瞬間、イユの口内に電属性の魔法が入っていった。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ、やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「わ、すごーい」



 魔法の塊を体内に入れられ、イユの身体が激しく痙攣する。白目を剥き、あらゆる体液が身体中から流れ出るが、気絶や死は××(チョメチョメ)トラップダンジョンが許してくれない。それどころか、



「おごっ、ぉ、ぉ、ごぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 激しい電流に顔が上を向いてしまったせいで、魔石は食道を通って胃の中に進んでいく。



「体内に発電器官があるなんてまるでウナギみたいだね。前よりずっと強くなったんじゃない?」

「ぁ、か、はぁ……」



 臓器が焼けたのか、イユの口から煙が上がる。そういえば最近焼肉食べてないな。無事ダンジョンマスターの地位を取り戻せたら祝勝会で焼肉を食べようか。



「……やりすぎじゃないですか」

 床に倒れ、激しく痙攣するイユの姿にフィアが同情の声を漏らす。



「大丈夫だよ。そのうち電気も収まるし」

「そういう話じゃないでしょ」

 スーラもフィアと同じ気持ちなのか、陰りのある表情で私の目を見てくる。これくらいならセーフだと思ってたけど、想像してたより外の世界の人たちは繊細なようだ。



「……そうだね。やりすぎだった。ダンジョンをクリアできたら治してあげるよ」

「だったら……いいんですけど……」

 まったく。イユのせいでフィアたちと険悪になりそうだったじゃん。後でもう少し虐めてあげよう。



「さ、そろそろ行くよ。まだダンジョンに入ってから三分くらいしか経ってないし余裕だと……」



「私が来るまで、よく耐えたな」



 いつ聞いても慣れない。



「三分経って帰ってこなかったら来いとは言われていたが、まさか本当にこうなるとは思っていなかったぞ」



 この声は。もう一生聞けないと思っていたこの声は。



「だが安心しろ、イユ。お前の仇は私が討つ」



 テレポートゲートから現れた声の主。彼女は背中から剣を抜き、私へと向ける。



「秘書官と先祖。そして私自身。ずいぶん世話になったな、青の悪魔」

 


 最初からイユは偽の情報を流していたんだ。五分ではなく、三分。それが本当の制限時間だったんだ。



「貴様はこのミュー・Q・ヴレイバーが討伐する」

王獄炎(オウ・ギル・エムラン)っ!」

「ユリーちゃん、いくよっ!」



 私たちがミュー様を視認した瞬間、フィアが魔法を放ち、スーラが私の手を引いて宙を高速で移動する。



「でもフィアが……!」

「この勝負! あんたさえクリアできれば勝ちなのよっ! ここはあたしたちで食い止めるから――」



 私は基本的に戦いで遊ぶ。



 相手の全てを引き出してから倒す。それが私の戦いだった。



 だって知らないことは怖いから。知らない技術を学ぶために、勝負を急ぐことはしなかった。それ故に敵の反撃を受けることも少なくなかった。



 でも。



「マジックカット」



 ダンジョンマスターが本気を出せば、そんなチャンスは起こらない。



 一定空間内の魔法を全て打ち消す。それが今のダンジョンマスターであるミュー様が召喚したトラップ。



 たったそれだけで、私たちは敗北した。

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