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第2章 第16話 怒りの余波

――――――――――



「フィアが……チューバにやられた……?」



 私が馬鹿みたいにごはんを食べていた時に。私が記憶もなくして酔っ払っていた時に。私が呑気に眠っていた時に。私の友だちが、モンスターに傷つけられていた……?



「この白い液体はチューバのマーキング。一度冒険者がこれをつけられてこの村に逃げてきた時があったけど、その夜の内にどこかに消えたわ。このままだとおねぇも今夜には……!」

 歯を食いしばりながら汚らしい液体に躊躇なく触れるスーラ。拭おうとしたが糸を引くだけで剥がれる気配はない。



「……オープン。ステータスグラス」

 どこかに忘れてきたダンジョンブックを呼び出し、見た人の状態がわかる眼鏡をかける。……体力はゼロだが、魔力は通常モードを維持できるくらいには残されている。スーラの言う通りチューバの呪いもかけられているようで、ダメージを負うことはないが解呪は不可能。もっとも普通の手段ではだが。



「リカバリーポーション、ディスペルポーション、アブゾーブタオル」

 一番効率のいいのはスウナやシスタに任せることだが、スーラの手前モンスター召喚は控えないといけない。私は二種類の薬とタオルを呼び出す。



「……何よそれ」

「フィアを治すための道具。起きるまで少し時間はかかるかもだけどこれで治るはずだよ」

 大きく開いたままのフィアの口に二種類の薬を流し込み、液体をタオルで拭きとる。薬の効果は体力回復と、呪い解除。そしてこのタオルはあらゆる水分を吸収するものだ。



「……うん、これで大丈夫かな」

 苦しそうに顔を歪めていたフィアの表情は安らかなものになり、白濁液も無事拭きとることができた。ステータスも変化が起きてるしこれでチューバの呪いは解除できたはずだ。



「ほんとに!? ほんとに治ったのっ!?」

「まだ寝てるから信じられないかもしれないけど治ったよ」


「そう……。ありがとう、素直に感謝するわ」

 張り詰めていたスーラの表情にも安堵の色が見える。これでこの場は安心かな。



「それにしてもよく冷静でいられたわね。あたしなんてもう怒りで頭がおかしくなりそうだったわ」

「まぁ死ななきゃ何とでもなるから。それに――」


 綺麗になったフィアの頬に触れる。ぷにぷにしてて柔らかい。とっても魅力的だ。これを穢した奴がいる。私の友だちを傷つけたんだ。当然の報いは受けてもらう。



「――私はもう怒りで頭がおかしくなってるから」



 魔王軍幹部だか何だか知らないが、覚悟しておけよ。フィアにやったことを百倍にして返してやる。泣こうが叫ぼうが許さない。命乞いだけは聞いてやる。代わりに簡単に死ねると思うなよ。



「じゃあ私行ってくるかね」

「行くって……まさかチュウチュウトラップダンジョンに!?」


「うん。チュパカブラって夜行性だし今の時間帯なら寝てると思うから」

 別に向こうのゴールデンタイムに行ってもいいのだが、生憎私が夜まで待てそうにない。ダンジョンマスターの真の恐ろしさを見せてやる。



「待ちなさい」

 チュウチュウトラップダンジョンの場所は事前にフィアから聞いている。さっそくテレポートゲートを開いて向かおうとすると、スーラが私の肩を掴んだ。



「大丈夫だって。私一人でも問題ないから」

 大方心配しているのだろうが、他の誰かと一緒に行ったら力をセーブしなくてはならない。それでも負けるはずがないが、不安要素をわざわざ持ち込むことはないだろう。



 安心させるために必死に笑顔を作ったのだが、振り向いた先にいたスーラの真剣な表情が私を突き刺した。



「チューバはあたし一人で倒す。おねぇの仇はあたしが討つんだ!」

「…………」



 そうきたか。めんどくさいな。私も笑顔を崩し、真剣な表情で説明する。



「悪いけどフィアが勝てなかった相手にスーラ一人で勝てるとは思えない。ちゃんと拷問を受けてもいい反応できるくらいには体力残しとくからここで待ってて」

「ごうも……!? ……やっぱりあんた何者? まともな人間じゃないわよね。そんな奴に任せるなんてできないから」



 あーもうイライラする……! こっちはなるべく苦しい拷問の方法を考えなきゃいけないのに。何でこんな三下が私に対等に話しかけてるんだ。フィアの妹じゃなかったら多少痛めつけてわからせてやるのに。



「今は私のことなんてどうでもいいよね?」

「どうでもよくない! 最初からあんたは信用できないのよ! 格闘家らしくもない変な機械は出すし、変な薬も飲ませるし……どうせおねぇのことも洗脳かなんかしてるんでしょ!? じゃなかったらおねぇがこんな怪しい奴を連れてくるわけない!」


「うっさいなほんと……! いいから黙って私の言うこと聞いとけばいいんだよ。私が全部何とかしてあげるから」

「この村を救うのはあたしよ! あんたみたいなよそ者に好き勝手されちゃたまんないのっ! 起動(スタート・アップ)っ!」



 スーラの四肢の鎧から微かな魔力が湧き出る。こんな場所で喧嘩売ってくるとか……よほど余裕がないらしい。



「言ったわよね? こっちは怒りでおかしくなりそうなの。返答次第では力ずくであんたを排除する。あんたは何者なの!?」

「……私だってそう言ったはずなんだけどなぁ」



 もういいや。めんどくさい。そもそも私がこの子に優しくしてあげてるのはフィアの妹だから。でもフィアは私と一緒に××トラップダンジョンで暮らすんだ。もうこんな子どうでもいいよね?



「セレクトコスチューム」

 私の身体が煙に包まれる。この決断は悪手以外の何物でもないのだが……これほど手っ取り早いものもないだろう。



 制服とは本来身分を証明するためのものだ。そしてこの制服はこの世界ではこういう意味を持つ。



「――青の悪魔。それが私だよ」



 私はいつもの、そして私以外にとっては勇者殺しの意味を持つ秘書官服を纏い、スーラと対峙した。

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