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第2章 第13話 超絶お馬鹿の頭脳プレー

――――――――――



「来ると思っていました」



 つい数時間ほど前に人とスライムで溢れていたとは思えないほどの静寂に包まれたミストタウンの北側の草原。ユリーたちと別れたフィア・ウィザーはそこに一人立っていた。


 いや、正確に言うなら一人ではなく二人。より正確に言うなら一人と一体。



 つまり、フィアの前に一体のモンスターが現れたのだ。



「これはこれは。まさか出迎えていただけるとは思っていませんでしたよ」



 モンスターとは思えないほど丁寧な口調で微かに笑うモンスター。その体表は緑の鱗に覆われており、腹は醜悪に膨れている。そして人間と同じような体長に加え、さらに二足歩行。しかしその瞳は人間とはかけ離れた大きさでフィアを眺めており、口からは鋭利な牙が覗いている。



 しかしフィアの視線はそこには向いていない。牙と同様の鋭さの爪が生えている手に握られている半透明のチューブ。自身の体長と同じくらいの長さがあり、片方の先端付近が蛇腹のようになっている。どこからどう見ても巨大なストローにしか見えないが、飲み物を飲むために持っているはずがない。フィアの警戒は当然のことだ。



 総じて人間と爬虫類の中間のようなモンスター。見たことはないが、ただ立っているだけなのに確かにフィアを襲う威圧感と迫力から理解することができる。



「あなたは魔王軍幹部、ヒャドレッドの一人。チュパカブラのチューバですね?」

「いかにも。どうやら私が来るとわかっていたようですが?」

「今まで倒されなかったマジックスライムが千体も消えたんです。普通確認に来ますよね」



 話しているだけなのに自然と一歩後ろに下がってしまうフィア。ヒャドレッドは魔王の下の下に位置しているとはいえ、その実力は現勇者と同等だと言われている。


 一応ミュー・Q・ヴレイバーを圧倒したことのあるフィアだが、××(チョメチョメ)トラップダンジョンの力によるところが大きいのが事実。無限に魔力を使えないこの世界でチューバに勝てる保証はない。でも今回は勝つ必要はないのだ。



「あなたは明日わたしのお友だちがお相手します。なので今日は退いてくれませんか」



 フィアはここに戦いに来たわけではない。戦いを避けに来たのだ。ユリーのために。



「今わたしのお友だちはひさしぶりのみんなでのお食事を楽しんでいるんです。ごはんはみんなで食べるのが一番おいしいんです。それを思い出してほしいから……。その邪魔だけはさせません!」



 それがフィアが祝勝会を抜け出し、一人チューバの元に向かった理由だ。ユリーはフィアに依存しているところがあると感じていた。でもそれはフィアが特別だからじゃない。誰でもいいから友だちが必要だったのだ。100年間ひとりぼっちだったユリーには。



 だからフィアはユリーとスーラにお酒を渡した。楽しく言い争いができていたのがうれしかった。その時間をこんなモンスターなんかに壊されてたまるか。



「食事ですか……いいですねぇ。私も食事には明るいのです。ですがみんなと食べる、というのは理解できませんな。食事は一人で全てを貪るのが至高。なんせ人間は捕食できる部位が少ないですから」



 チューバはいまだ構えてはいないが、発言と獲物を品定めするような視線からとても友好的ではないと窺える。だったらもう……!



超嵐(エクサ・ウイラン)!」

 フィアは唱えた。ノーモーションで、超上級魔法を。チャージ時間が少ないので威力は控えめだが、それでも普通の上級魔法使いのそれと同等の力は出るはずだ。



 しかし敵にはマジックスライム同様おそらく魔法が通じない。だから狙いはこれもマジックスライムと同様、足元の地面。これで吹き飛ばされてくれたらいいのだが……!



「!」

 しかし台風が如き暴風は別の風によって掻き消えた。風を当てるのではなく、吸い込むことで。



「ストロー……!」

 風が消えた後に立つチューバの口には、巨大なストローが咥えられていた。これで魔法を吸い取ったんだ。フィアが使える魔法はたった一つを除いて全てが攻撃魔法。動きは直線的で、通用しない相手にはとことん通用しない。でも……。



「布石は……打てました……!」

 それに加え、もう一つ勝てる可能性が出てきた。あくまで可能性だけど……ないよりマシだ。とりあえず失った分の魔力をマジックボールで回復させようと杖の下部を外して一錠取り出すフィアだったが、



「ぐひゃひゃひゃひゃっ! さいっこーだぁっ! 俺が今まで食ってきた魔法の中で一番の威力! 規模! 純度! お前の全部、吸わせろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」



「なっ、あぁっ!?」

 突然口調が変わったかと思えば、チューバは勢いよくストローを吸った。フィアを、呑み込むために。



「くぅぅっ」

 目に見えない空気の吸引に巻き込まれ、フィアの身体は宙に浮かび、凄まじい勢いでチューバへと近づいていく。なんとかマジックボールを食べたが、ここで魔法をチューバに撃っても吸い込まれて終わり。



「でもまだ、終わってないっ! 暴嵐(テラ・ウイラン)っ!」

 フィアが魔法を撃った先は、自身の下。つまり地面。



「あぁぁぁぁっ」

 空飛ぶスライムから着想を得たこの作戦。スライムを飛ばせるのだったら、人間だって飛ばせるはず。マジックスライムとは違って魔法の余波は受けるが、耐えられない痛みじゃない。



超巨大(エクサ・テガ)(・アクラン)っ!」

 高く宙に浮かび上がったフィアは遥か下に見えるチューバに広範囲の水の塊を放つ。でもこれは確実に吸い込まれる。だからこれは目くらましだ。次の攻撃を確実に通すための。



 だがそれは、チューバにもわかっていた。



(目くらましをしたところで所詮出てくるのは魔法のみ。恐るるに足りない)

 湖の水を全部持ってきたかのような量の水を吸い込みながらチューバは思う。おそらく操作可能な魔法を撃ってくるだろうが、この水はチューバだけでなくフィアの視界も塞いでいる。大まかな位置、さらに低速の攻撃にならざるを得ないはずだ。それなら避けられる。



超銃乱(エクサ・ガーズ)(・ザーラン)っ!」

 姿はチューバからは見えないが、魔法を唱える声が聞こえる。それにしてもこの女、一体どんな魔力をしてるんだ。今まで使ったのは超級三つに暴級一つ。途中魔力の回復を挟んだものの、とてもじゃないがそれだけで賄えるとは思えない。



「ぐひゃひゃ……!」

 あぁ、この女を早く吸いたい。この女の、全部を、吸収したい。これほどの魔力だ。どれだけ美味か計り知れない。早く、早くっ!



「何だ、あれは……!」

 チューバには余裕があった。マジックボールを食べたことからフィアは霧霞族であることはわかった。であれば身体能力は低く、魔法しか攻撃方法はない。つまり完封できる。その油断が、見たことのない魔法の発見を遅らせた。



 巨大な水の周囲を取り囲むように浮遊する小さな桃色に輝く玉。それにフィアが発した複数の雷の矢が激突したと思ったら、急激に角度を変え、全ての雷が一直線にチューバに振り注いだ。



「っ! く、ぐおぉぉぉぉっ!」

 それを見た瞬間チューバは回避行動を取ったが、避けきれず一本の雷の矢が脚を貫いた。いや、貫いてはいたのだが、あまりもの威力に右脚が完全に焼け落ちてしまった。



「ぐぎゃぁぁぁぁっ!」

猛風(ギガ・ウイラ)!」

 右脚を失い、地面に倒れるチューバの少し先にフィアが風の魔法を使って着地する。何が起きたのか。チューバが他の雷が全て当たり激しく崩れ落ちたさっきまで自分がいた場所を見てみると、大きく欠けた地面に桃色の光が灯っているのが確認できた。



「貴様ぁぁぁぁっ! 何をしたぁぁぁぁっ!」

「奥の手です。ちなみに説明するつもりはありません。これであなたに勝てると確信できたので」



 右脚を失い暴れ回るチューバを尻目に再びマジックボールを取り出しながらフィアは言う。チューバの明確な弱点を。



「あなた、魔法を吸えるだけで完全に効かないわけではないですね」

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