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第2章 第6話 ユリー・セクレタリーの性

「紹介しますっ。この子はスーラ・ウィザー。わたしの妹ですっ」

 スライムを蹴散らした少女の隣に立ち、フィアは私にそう言った。



 この子がフィアが何度か言ってた妹……まったくそうは見えないな。


 金色に輝くガントレットとニーハイブーツが特徴的なスーラという少女。ぱっと見私と同じくらいの年齢に見える。もちろん実年齢ではなく、17歳としての年齢だ。


 160センチくらいの身長に、少し大人びた顔立ち。胸こそ劣るし、ツインテールが幼さを感じさせるが、誰が見たってフィアの方が妹だと思うだろう。



「おねぇ、この人は?」

「あ、この方はね、わたしの命の恩人のユリー・セクレタリーさんっ。ミストタウンを助けるためにわざわざ来てくれたんだよ? 挨拶してっ」

「ふーん」

 スーラがてくてくと私へと近づいてくる。そしてわずかに私を見下ろすと、小さく嘲笑った。



「この人がミストタウンを救う? あたしが何をしたかもわかってなかったみたいだし、ちょっときついんじゃないの? 悪いことは言わないからさっさと帰った方がいいわよ。恥はかきたくないでしょ?」

「ちょっ、ちょっとスーラちゃんっ」

 挑発的なスーラの言動をフィアが窘めるが、意にも介さず私への暴言を続ける。



「それに服的に格闘家らしいけど、見た感じ筋肉もないし運動ができるってタイプには見えないのよね。あたし何か間違ってる? 何とか言ったらどう?」

 まぁその見立ては間違ってない。私は100年間運動をなるべく避けてきた人間だ。そう思われても仕方ない。



 でもここまで馬鹿にされて黙っていられるほど私は大人じゃない。実年齢じゃなく、感覚的な年齢で。よし、フィアには悪いけど少し言い返させてもらおう。



「ぅぁっ、ぁ、ひっ、ぉ、お、ぁ、あ」



「ユリーさん?」

 あれ、どうしてだろう。なんか声が出ない。口が思った通りに動いてくれない。一度落ち着いて、ちゃんと口を開いて……。



「私はっ! っ!?」



「っ。ちょっと、いきなり大きな声出さないでよっ!」

 ん? 今度は大きくなり過ぎたぞ? お、落ち着けっ。とりあえずちゃんと喋って言い返さないと……!



「確かにさっきは何が起きたかわからなかったけど今はわかるよ。そのガントレットとニーハイブーツはフライメイルだよね。魔法によって空を飛ぶためのアイテム。手のひらと足裏部分に人工的な魔法陣を描いて飛行に特化させた形の魔法を出してるんだよね。まぁ魔力をセーブしないと暴走しちゃうフライメイルをそこまで扱えるのはたいしたものだけどさ、それってジョークアイテムみたいなやつだから実戦で使うのはどうなのかな。あぁでもその魔石の配置は見事だよね。大きさ的に火の魔法で起動、水で空中制御、風で速度向上って感じだよね。私の時代にはなかった考えだから素直に感心するよ。でもやっぱりガントレット着けると他の魔法使えなくなっちゃうしデメリットの方が大きいんじゃないかな」



「ユリーさんっ!?」

 こ、今度はやたら早口になっちゃったっ! 私どうしちゃったのっ!?



「フィ、フィア!」

「は、はいっ」

 とりあえずフィアを呼んで事態の解決を図ることにした。



「どうしたんですか? なんか気持ち悪いですよ?」

「私だってわかんないよっ。あれ? 普通に話せてる?」

 こ、これはまさか……!



「私、知らない人と話すのに緊張してる……?」



「え? でもわたしと初めて会った時は普通に話せてましたよね? ちょっと偉そうでむかつきましたけど」

「ほら、私冒険者のこと家を汚す不快害虫だと思ってるから」


「わたしのことゴキブリと同じだと思ってたんですかっ!?」

「いや今は違うけどね?」



 考えてみればこうなるのは当たり前だ。この100年間、私が圧倒的に有利な立場で人と話していた。助けた冒険者も、モンスターたちも。全部確実に私の支配下にあったから何の緊張もしなかったんだ。



 でも今は違う。私とスーラは完全に対等な立場。下手なことを言って怒らせたらまずいと思ってしまうんだ。こ、これはやばい……!



「テレポートゲートぉっ」

「逃げようとしないでくださいっ! 今ダンジョンブック持ってないから使えないでしょっ!?」


「そ、そうだオープン!」

 ダンジョンブックを呼び出して今度こそ逃げ……。


「というか常にそれを持ってたらどうですか?」

「え? どゆこと?」


「ほら、それ持ってたらいつでもわたしたちを殺せるじゃないですか。それならユリーさんはダンジョン内と同じで上位者としていられるのでは?」

「それだ!」

 フィアにしてはいいアイデア! よし、これで!



「私、最強っ!」

「よっ、世界一っ」

「なにやってんのよあんたたち……」

 私たちの一連の様子を遠くから眺めていたスーラが大きくため息をついた。



「まぁせっかく来てくれたんだし? とりあえずあたしたちの家に来たら?」

 そして何だかんだ言いつつもスーラは、フィアの妹らしくいい子だということも発覚した。

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