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第2章 第1話 新しい日常

「おいひいっ、おいひいっ、おいひいっ」

「…………」



 ××(チョメチョメ)トラップダンジョン内でフィアと生活し始めてからだいたい一週間が過ぎた。このだいたいというのは、前後という意味ではない。一週間くらい経った気がするなー、というアバウトな意味合いだ。



 なぜなら××トラップダンジョン内には時間停止能力のあるストップウォッチくらいしか時計が存在しないからだ。眠った時間でなんとなく判断するしかない。



「おはようございますっ、ご主人さまっ」

「あ、おはようございます。ユリーさんもいかがですか?」

「いや……もう私おなかいっぱいだから……」



 というわけで起きてすぐリビングに行ったのだが……フィアがメイが作ったごはんを食べていた。


 いや、食べるのはいいんだよ別に。メイの作るごはんおいしいもんね。でもさぁ……。



「さすがに食べ過ぎじゃないかな?」

 さっき言った通りフィアとの共同生活を始めて一週間経ったのだが、その間ほとんどフィアは食事を楽しんでいた。



 まぁここでは満腹もないし、太ることもないし、眠る必要もないから理論上は一生ごはんを食べ続けることもできるんだけど、にしたってだ。


 同じように空腹だって感じないんだし、そんなせっせせっせとがっつく意味がわからない。しかもすてーきとか、からあげとか、お肉ばっかり。うぷ……気持ち悪くなってきた。さっきは冗談でおなかいっぱいだと言ったけど、本当に胃に何も入らないような気がしてくる。



「メイもありがとね、一週間ずっとごはん作らせて」

「いえっ。ご主人さまが初めてお客さまを招いたんですっ。従者であるわたしががんばらないとっ」

「うん、でもふらふらしてるから一回帰って休んでて。メイ、クローズ」



 私たち人間なら過剰に疲れることで××トラップダンジョンの生命維持効果を使って強制的に体力回復という手段もとれるけど、モンスターであるメイにはそうはいかない。一応ダンジョン内のモンスターは無限湧きなので死んでもいつの間にか復活するはずだが、調査したところ人型モンスターは他のモンスターとは色々生態が異なっている。無理をさせて死んでしまったらそのままかもしれないので大事にしてあげないといけない。



「あとは……セイバとアミか。テレポートゲート、もひとつテレポートゲート」

 続いて私は派遣していた二体のモンスターを帰還させるため二か所のゲートを開く。



「アミ、ただいま帰還しましたっ!」

「姫、しつこいですがもう一度言わせていただいていいですか。私の刀は姫を守るためにあるのです。決して狩猟や解体のためではないのですよっ!」



 帰ってきたのはフィアの食材確保のためにヒトカイブタやアカウシを狩ってきてくれた私の召喚したモンスター。二体ともカバン代わりのイートカズラを何体もぱんぱんにして疲れを感じさせない大きな声を出した。



「姫、聞いていただけていますか。姫、姫っ!」

 申し訳なさそうな顔をしながらも悲痛な声を上げているのは、和服という服装のセイバ。その剣術を存分に発揮してもらい、数の多いヒトカイブタを狩ってきてもらった。



「任務達成でありますっ! アカウシを十頭狩ってまいりましたっ!」

 もう一人はセイバとは違い、綺麗な角度で敬礼し、私の言葉を待っている。名前はアミ。カーキ色のジャケットに迷彩柄のインナー、ミニスカートという服装をしている。アミはこれを軍服だと言っていたが、私の知っている王国軍のものとは大違いだ。モンスター界のことはやはり私にはわからないことだらけだ。


 アミは軍人らしい強力な武器やトラップを自在に操り、アカウシのような上級モンスターも問題なく狩ってしまう。食材調達に持ってこいの人材だ。



「二人ともおつかれ。今日は上がっていいよ」

「イェッサー!」

「姫、ちょっと! ひめぇぇぇぇっ!」


 ふぅ、これで出しているモンスターは全部回収したし、食材も補充できた。一仕事終えたらごはん食べたくなってきたな。ちょっともらうとするか。



「フィア、私にも……」

「ほぇ? なんですか?」


 こ、こいつさっきまでテーブルいっぱいにあったごはんを食べ尽しやがった……! いらないって言ったけど、言ったけどさぁ!



「ま、これが人と一緒にいるってことだよね……」



 ××トラップダンジョンに入ってから100年の間、私は人間と一緒に過ごすことはなかった。メイたちは基本絶対服従だし、時々助ける女の子ともすぐに別れてしまう。だから自分とは違う誰かと共に過ごすというのには慣れていない。



 この中々噛み合わないもどかしさとか、自分とは違う価値観とか、全部が全部新鮮でめんどくさい。



「でもこういうのも悪くないか……」

「? なにか言いました?」

「いや、何でもない」



 今までとは全く異なるスローライフの到来に心がざわつきながらも、不思議と気持ちは晴れやかだった。

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