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第1章 第13話 最強の魔法使い

「ぐ、お、おぉぉぉぉっ!」


 巨大な岩が天井を覆い尽くす。その正体はフィアが放った魔法。石系魔法の超上級呪文、『超岩(エクサ・グーラン)』に加え、範囲拡大の『巨大(テガ)』まで付けた圧死必至の凶悪技だ。



 ミューも聖剣勝者の十字架(エクスカリバー)で切断しようとしているが、斬れるとはいってもその重量を一身に受けていることになる。もう私からは姿すら見えないが、悲鳴のような唸り声だけは耳に届いていた。



「何で……こんな魔法……いきなり……」

「元から使えましたよ。でもこの『月喰いの(エクリプスタクト)(:ルナ)』がないと暴発しちゃうんです。いいでしょー、これ。いっぱいお金貯めて最近買ったんですっ。ぇへへー」



 人間に隕石のような岩を落としながら、恍惚の表情で杖を頬にすりすりする魔法使い、フィア。ていうか武器がないと強力な魔法が使えないなんて話聞いたことないぞ。



 考えられる可能性としては、その才能にまだ身体が追いついていないということ。16レベルのフィアの器はまだまだ小さい。そこに70レベルを超えて使えるかどうかクラスの魔力が注がれて零れてしまっているんだ。そこを高純度の魔力を持つ杖で補強。魔力補助型のポーションを持っていたのも安定性を上げるためか。飲みやすく甘くなっていたのは……この子が単純に馬鹿だからだろう。



王羅激斬(おうらげきざん)っ!」

「!」



 すっかり決着がついた気でいた私たちの空気を引き締めるように巨大な岩が真っ二つに一刀両断される。斬られた岩は貝へと当たりさらに砕け、その礫を浴びながら彼女は再び剣先に私たちを捉えた。



「残念だったな。これで貴様らの敗北は決まった」

 汗だくになりながらも超上級魔法を斬り裂いたミュー。この人もこの人で60代のレベルじゃない。



「フィア、下がって!」

 さっきの水柱に、今の超上級魔法。いくら魔力が高くても既に限界だろう。私はフィアを後ろに下がらせようとするが――。



(テラ・)銃乱岩(ガーズ・グーラン)!」

 フィアが平然と上級魔法を唱えたことで固まってしまった。



「冗談だろ……!」

 ミューに襲いかかるのは人を呑み込めるジュエルシェルと同サイズの岩の嵐。何とか斬れているが、動く余裕はないようだ。



「今がチャンス……!」

「大丈夫ですっ」

 足を止められているミューにモンスターを放とうとしたが、杖の先から大きな魔法陣を出現させているフィアが静止をかける。



「フィ、フィア……なに、それ……?」

 一瞬フィアに向けた視線が彼女に起きた異変のせいで動かせなくなる。



「なんで、蒸気が……!」

 変わらずミューに苛烈な魔法を繰り出しているフィア。その全身から真っ白な蒸気が噴き出していた。



「? わかりませんか?」

「わからな……いや、まさか……!」



 古い書物で見たことがある。遥か昔、人間の限界を大きく超える魔法を操る一族がいたと。その名は『霧霞族(ミスト)』。その名の通り、魔法を使うと霧のような霞を放ち、大きな戦が終わると必ず戦場は白い靄で包まれていたと。



「でも霧霞族は昔魔王に滅ぼされたって……!」

「いつの話をしてるんですか? 生き残りが秘密裏に村を作っていて、今じゃ観光も盛んですよ」



 かんこ……嘘でしょ、伝承でしか見たことがない存在が目の前にいるだなんて……!



「ねぇ、なんで蒸気出るのっ!? 私の予想だと膨大な魔力がマカと化学反応を起こして身体中の毛穴から噴き出しているって感じなんだけどっ!」



 さすがにこの状況でもテンションフルブースト! 今すぐ調べたいっ! すぐ傷は治るし血だけでももらえないかなっ!? あと唾液と髪と……できればマカも取り出したい……!



「けあっ……ま、まぁそうなんですけど……もっと単純ですよ」



 ずっと馬鹿みたいな顔をしていたフィアが引いた目で私を見てくる。それも仕方ない。いつだって研究者は虐げられるものだ。まぁ私は研究者じゃないんだけど……。



「カロリーを燃やしているんですよ、急速に。わたしたち一族は使った魔力をカロリーを消費して回復させることができるんです。くわしくはわからないですけど、それで蒸気が出るみたいです」



 基本魔力とは体力と同じだ。底上げするには地道なトレーニングが必要だし、使ったら休まなければ回復しない。それは××トラップダンジョン内でも同じことである。



 なのにそれをカロリーを使って瞬時に回復させるなんて……! マカが普通の人と違うのか……? や、やっぱり調べてみたい……! このダンジョン内なら失っても治るし、気絶させてその間に……!



 いや、ちょっと待て。カロリーを消費? つまり、身体の状態を変えているってこと?



 でもそれはできないはずだ。××トラップダンジョン内では太らないし、痩せすぎない。入った瞬間にその人の理想的な体型に整えるはずだ。つまりカロリーを消費してもすぐ元の体型に戻ってしまう。



「ねぇ、蒸気が出るとお腹すかない?」

「めちゃくちゃすきますっ。でもなんか今日は調子がいいみたいでずっと腹八分目って感じですね。魔法もいっぱい出せますっ」



 そうか。カロリーを消費したそばからすぐに元に戻っている。だからこんなに大技を連発できるんだ。



大乱斬(だいらんざん)!」

 ミューが凄まじい速度の斬撃を見せ、全ての岩を砕きながら私たちに近づいてくる。でも勇者だって、もう何の驚異でもない。だって今のフィアは――。



(エクサ・)獄炎(ギル・エムラン)っ!」



 強大な魔法を無尽蔵に繰り出せる、最強の魔法使いなのだから。

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