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Confesess-1 4

第四章


 天美たち二人は、すぐさま、次の行動を開始した。タクシーを呼び止めた競羅は、天美と一緒に乗り込んだ。走行中、競羅は、考え事で一杯なのか腕を組んだままであった。

 数分たち、タクシーは、数弥との待ち合わせ現場近くに到着した。タクシーを降りた二人は、その待ち合わせ場所に向かって歩き始めた。

 歩いている途中、競羅が話しかけてきた。

「ところで、あんた、家族と一緒にこの国に来たのかい?」

 その競羅の質問に、天美は困った。答えようがなかったからだ。

 しばらく考えていたあと、決心したかのように答えた。

「一人で来たの」

「えっ! 一人でかよ。あんた、十五才だよ。まだ子供だろ」

「この年になれば、海外ぐらい、一人で行けると思うけど」

「言われてみれば、確かに、そうかもしれないけどね。でも、そんなことさせるなんて、あんたの親御さんたちも、大したものだよ」

「わったし、両親、いないの」

そして、天美はポツリと答えた。

「そ、そうかい。変なこと言って悪かったよ。何か、もしかして、そんなような感じもしたけどね。それで、どうして、この国に一人で来ることになったのだい?」

 競羅の問いに、天美は無言になった。何から説明していいのか、わからないからだ。

「そうだね。よく考えたら、簡単に言えるわけないね。聞いたこっちが悪かったよ。それで、向こうの国では、どうやって生活をしていたのだい?」

「親切な人の家に、居候させてもらっていたのだけど」

 ザニエルのカジノのことである。

「それで、どういうことがあったのだい?」

 天美は再び無言になった。競羅は眉を曇らせていたが、すぐに、

「本当に悪かったよ。余計なことばかり聞いて、人は、たいてい、触れられたくないことが、一つや二つあるからね。あんたの、その落ち着いた行動を見ていると、だいたいは、察しがつくし、そのことについては、もう、こっちからは聞かないよ」

 と気づかうような口調になった。

「ありがとう、気を使ってくれて」

「ところで、本題に入るけど、あんたのさっきのしたこと、催眠術じゃなさそうだね」

「お姉さんは、それが、一番聞きたかったんでしょ」

 天美は微笑みながら尋ねた。

「そうだけどね。その、お姉さんという言葉、やめて欲しいね。がらではないから」

「だったら、どう呼べばいいの?」

「みんなは、姉貴とか、姉御と呼んでいるよ」

「でも、せっかくだから、名前つけないと」

「じゃあ。お競姉でいいよ。どうも、さんづけは苦手だからね」

「おけいねえ? 言いにくそう。確か、お姉さん、朱雀っていう名字だったでしょ」

「ああ、そうだけど。その、お姉さんと言う言い方、やはりね」

「それなら、ざく姉って呼ぶから。その方が呼びやすいし」

「ざく姉か。今まで、そんな風に呼ばれたことがなかったけど、その呼び方も、まあまあだね。いいよ、そう呼んでも、あんたは特に気に入ったからね。それより、この不思議なことの話だけど、いったい、どんな装置を使ったのだい?」

「えっ! 今度は装置!」

「ああ、クスリが仕込んである装置だよ。実はね、さっきから、そのことについて、ずっと考えていたのだよ。あれは、クスリによる症状じゃないかとね」

 競羅は、またも勘違いをしているようであった。

「そんな、クスリなんて」

「あんた、セラスタ出身なのだろ。おそらく、向こうでは、合法的なクスリを使ったと思うね。確か日本と南米では、禁止薬物の数が大きく違うって聞いているからね」

「まさか、そんなわけないでしょ」

「まだ、とぼける気なのかい。たぶん、あんたが使ったのは、新しく開発された防犯用グッズだよ。飛び出し針が仕込んである指輪かなんかはめていて、相手にチクリと刺したのだろ。向こうは物騒と聞いているからね。そんな防犯用品があっても不思議ではないよ」

「でも、わったし、そのような指輪なんか、はめてないけど」

「逃げている途中ではずしたのだろ。すでに、タネはわかっているのだよ。こっちが、優しい顔をしているうちに、白状した方がいいよ」

「そんなの本当に持ってないから」

「捨てるはずはないだろ。さあ、見せるのだよ。あんたのポケットの中を!」

 競羅は目を真剣にして追求してきた。その態度に、天美は頭に来た。

「またまた、変なこと言って、初めからないものは、見せられないでしょ」

「ないって、あんた。それなら、どう説明をするのだよ! 催眠術でもない、クスリでもないっていったら、やっぱり、さっきのは芝居だったのかい?」

「それは、違うって、わかってくれたでしょ」

「それは、そうなのだけどね」

 その悩んでいる競羅の顔を見て天美は苦笑いをした。

「何だよ? おかしいのかい」

「そういうわけではないけど、本当に悪いことに使わないなら、教えてもいいけど」

「悪い事って、やはり、何か隠し持っているのかい?」

「だから、そのちからは、わったしの身体から出るの」

「身体から? 何だよ、もったいぶっていっても、やはり、催眠術のことだろ」

「そういうことでなくて、わったしの身体に触れると起きるの」

「触れると? 意味がわからないね。どういうものだよ?」

「だから、わったしに害、与えようとする生き物は、わったしに触れられると、ちからにかかって、わったし襲うこと、できなくなるの」

「はあ?」

 競羅は意味がわからなかった。これだけ聞いただけでは、たいていはそうだろう。

「やっぱり、あんた、こっちを、からかっているのだね!」

「もう! きちんと説明するから、おとなしく聞いて」


 そして、天美は弱善疏の説明をした。説明を聞いても、

「あんた、バカを言っているのではないよ。どこの世界に触れられただけで、相手に対して、悪意をなくす奴がいるのだよ」

 競羅は普通の一般人、当然のごとく信じなかった。

「そこまで言うなら、先ほどの説明、どうするの?」

「どうするのと言われても、こっちも、わけがわからないよ」

「だったら、わったしの言葉、信じるしかないでしょ」

「あんた、普通の人間なのだろ。普通の人間が、そんな能力を持っているわけないだろ」

「では、どういうことだと思うの?」

「その答えが出ないから、こっちも戸惑っているのだけどね」

「それよりも、一つ、気になること、あるのだけど」

 ここで、天美が逆に質問をしてきた。

「気になる事って、何だよ?」

「どうして、ざく姉が、このセラスタ事件について、こんなに詳しいかなと思って?」

「それは言っただろ。ある人に頼まれたって」

「だから、そのある人について聞きたいの」

「それは、どうしても言えないね。あんたを信じ切れないし、状況によっては、相手に、かなりの迷惑をかけることになるからね。言わなくたって差しさわりがないだろ」

「でも、本当に、脅しの道具に使わないと確信できれば協力できるけど」

「あんた、こっちが恐喝に使うとでも・・」

 競羅の語尾がふるえた。予想にもしなかった言葉が返ってきたからだ。

「そういう可能性、考えておかないと」

 その天美を競羅は、じっと見つめた。天美もまた、刺すような目つきで競羅をにらんだ。

 数秒後、最初に声を上げたのは競羅であった。

「あははは、これは参ったね」

 彼女は怒るよりも豪快に笑った。そして、言葉を続けた。

「確かに、こっちも、そんなような風采をしているからね。それにそういう、金に飢えた奴も、つき合っている中には確かにいるからね。けどね。今回、頼んできた人は、絶対に恐喝には使わない、と誓ってもいいよ」

「承知で頼まれたってことは、ざく姉は、よほど、その人に信頼されてるのね」

「そういうことになるかな」

「ざく姉が、警察に、それだけ親しい人がいるなんて知らなかった。それも、お巡りさんクラスでなく大物の」

 その天美の発言に、

「なぜ、あんたが、そこまでわかるのだよ。やっぱり、あ、あんたは・・」

競羅の唇は震えた。先ほどまでの、震えと違い今度は得体の知らない怯えである。

「まあまあ、落ち着いて聞いて」

「これが、落ち着いていられるかよ! やはり、あんたは、すべての事情を知って・・」

「だから、これは、わったしの推理なの!」

「推理だって、いくら何でも、ここまで当たらないだろ!」

「とにかく、落ち着いて。わったしも最初は、さっき言ったように、ざく姉たちが、お金欲しさに横取りしようとしてたと考えたの、だから、あの人たちに追われてたと。でも、話聞いてると、告発に使おうとしてるみたいだし、どうも、考え間違ってたような感じして。それで、ひょっとしてと思って、さぐりの質問したんだけど」

「それが、どうして警察になるのだい?」

「説明すると、ざく姉も、さっきから言ってた、ある人という言葉気になってたの。どこか悪い組織の親分のような感じしたけど、さっきの反応から見て違う。そうなると、次に考えられるの政府筋か警察でしょ。でもこんなこと、会社側が警察に連絡するわけないから、これまた考えられるのは、情報知ってる人逮捕された場合。そのあとのことは、わかると思うけど、普通のお巡りさんなら、こんな極秘情報、知り得ることできないし、知ったとしても一般人に任せないでしょ」

「なるほどね。けどね、なぜ警察が、あんたの言う、その情報源の男を逮捕した、と推理をしたのだい? 推理にしては、ちょいと乱暴だよ」

「カンと言いたいけど、本当の事話すと、その逮捕されたとこ、わったし見てたから」

「見てたってあんた!」

「だって、わったし、五日前に到着したんだから、そのとき空港で、会社の重役みたいな人と、セラスタの二人組、捕まってたし」

「なるほどね、そういうことだったのかよ」

 しかし、競羅は、まだ、天美が男たちを逮捕させたとまでは思ってもいなかった。

「とにかく、そういうことで、わかったの」

「そんな偶然が重なったか、まったく、うまく、隠し通せると思ったのだけどね」

 競羅は残念そうな顔をしていたが、やがて、吹っ切れたように言葉を続けた。

「そうだよ、あんたの想像通り、今回のことは、もとはといえば、警察に勤めている義兄さんからの依頼だったのだよ」

「警官って、お兄さんだったの」

「正確にいうと、実の兄貴の奥さんの弟だけどね。肝心な兄貴は、奥さんと一緒に十五年前から行方不明なのだよ。 失踪宣告の七年も過ぎて、死んだことになっているけどね。何にしても、亡くなった兄貴の嫁の弟ということで、親しくさせてもらっているのだよ」

「そうなの」

「誤解しないでくれよ。義兄さんは奥さんもいるよ。それに、品行方正な人間だからね」

「何も言ってないけど。それで、その義兄さんが警察のお偉いさんなの」

「そういうことかな、ただの警官でなく、国際犯罪が専門の警察庁の幹部だからね」

「やっぱり。でも、本当に警察だったとしても、少し納得いかないことが」

「その納得いかないことって、警察自体がうごかなくて、こっちに頼んだことだろ」

 競羅が先に疑問をついてきた。

「そう、そのことだけど、どうしてかなと思って?」

「詳しいことはわからないけど、捕まった男の自白に問題があったということだよ」

「どういうこと?」

「確かに、あんたが見たとおり、五日前に、成田空港で大捕物があってね。セラスタから来た三人の男たちが、拳銃密輸の現行犯で逮捕されたのだよ。そのときの日本人の男が、邦和重化の南米工場担当長だった人物で」

「やっぱり、そうだったの?」

「そこからが変な話だよ。その逮捕された担当長、真壁というのだけど、奴は警察が聞いてもいないのに、この買取のことを自分から話したのだよ。何か妙だし怪しいだろ」

「怪しいの? わったしは、本当のことだと思うけど」

 天美は、相手が、強善疏に屈していることを承知していたので、反論するように答えた。

「そうかね。よく考えてみなよ。真壁は一流企業の幹部だよ。たかが、拳銃密輸で捕まったぐらいで、なぜ、会社に不利益なことを言うのだい? 義兄さんが、何かの目的で相手が出まかせを言っていると、考えても不思議はないよ」

「確かに、そういう考えもあるけど」

「それに、真壁の自白したディスクの買取場所も、かなり怪しいところだったのだよ。そこはね、セラスタ人が、大勢、出入りをしている池袋のクラブということで。普通こんなことを聞いたら、どう思う?」

 競羅は探るように尋ねた。

「むろん、真実に決まってるでしょ。だって、その人は、そう自白したのだから」

「あんた、しっかりしているように思ったけど、めでたい考え方の持ち主だね。普通は、どう考えても疑うだろ。それで、よく向こうで修羅場を乗り切れたね」

「では、取引、罠だと思ったの?」

「当たり前だろ。義兄さんは、不法外国人を取り締まる立場なのだよ。どこかの組織から、処分をするため、狙われているということも考えられるだろ。うかつに、そんな怪しいクラブに、のこのこと出かけて行けるわけがないだろ。中に入ったら最後、袋叩きになって、殺されるかもしれないのだよ」

「心配なら、大勢の警官たちで乗り込んでけばいいでしょ」

「ところが、それも、少し考えものなのだよ。最近、日本でも、南米人たちの移住が多くなって、彼らが、生きていくために自警組織団を造っているのだよ。つまり、今回の話も、セラスタ人同士の内部抗争ということが考えられたのだよ。ある一団が、対立する一団の力を弱めようと画策した。それで、そいつらのたまり場である、池袋の店に警察が手入れをするようにし向けたって。警察がそんなことに利用されたら、大変なことだろ」

「何となく」

「そういうことで、義兄さんは、あんたと別れた日だったかな、そのあと、こっちを呼び出して、費用として百万を出して、今回のことを頼んできたのだよ。ガセということも考えられたから、この金額までが限界だったけどね」

「でも、それは存在したんでしょ」

「それが、本当に本物の証拠だったらね」

「違う可能性あるの?」

「あんたね。向こうは、なんやかんやいっても、百万で承知をしたのだよ。会社をゆすれば、何十倍も儲かる可能性があったのに」

「もしかして、複製、造ってたかも」

「どうかね。簡単に複製ができるものではないと思うよ。それに、そういうことは、当然、会社の方も確認して取引をするはずだろ。」

「となると、ますます本物だと思うけど」

「けどね、まだ、確認をしていないのだよ。こんなようなことでね」

「だったら、どうして、こんなに、しつこく、狙われてるの?」

「やはり本物かね。しかしそうなると、なぜ真壁という男が、そこまで会社が不利になることを、ペラペラと自白をしたか、大きな疑問が残るけどね」

「それは、わったしが空港で・・」

 天美は、一瞬、空港の出来事を話そうとしたが、言葉を止めた。

 一方、競羅は、難しい顔をしながら腕を組んで考えていた。

「あんたの能力のことといい、本当にわけのわからないこと、ばっかりだよ」


そうこう話しているうちに、いつのまにか二人は、待ち合わせの現場に到着した。

 時刻は午後十時、そこは人通りがまったくなかった。競羅が声をかけてきた。

「待ち合わせ場所は、このあたりだよ」

「何か、もの寂しいところね」

「ああ。どうも数弥、このような場所に追い込まれたみたいだね」

「わざわざ、こんな寂しいところにこなくても」

「それが、ヤクザの追いかけ方だよ。思い出してみなよ。さっきこっちが、どのような場所に逃げ込むことになったか。最初は、にぎやかなゲーム場前、次は、人通りが多いながらもビルの谷間、三度目は人通りが少なくなった道、そして最後は、人気のなかった公園。わかっただろ、奴らに追われると、知らず知らずのうちにそうなるのだよ」

「何となく、わかったような」

「それより、あいつ、本当に大丈夫かね。かなり、まずい雰囲気だったし」

「心配なの?」

「当然だろ。大事なディスクを持っているのだからね。とにかく探すよ」

 そう言いながら二人は、付近を探し始めた。そして、突然、天美が声を出した。、

「人の気配、するけど」

「えっ! 人、ということは、数弥がそこにいるのかい?」

「よくわからないけど、ざく姉、感じないの?」

「ああ、何も感じないよ」

「でも、よくない雰囲気、その新聞社の人、大丈夫かなあ」

「おい、何てこと言うのだよ」

「ははは、やっぱり、ざく姉、彼のこと心配なーんだ」

 再び、天美の頭に火花が飛び散り、激痛が走った。

「痛ーい。また、殴った!」

 天美は当然のように抗議の声を上げたが、

「当たり前だろ、こんなとき、また、人をひやかして」

競羅の目はつり上がっていた。

 天美は不満そうに殴られた頭をさすった。


 そのとき、天美は危険な雰囲気を感じたのだ。彼女は警戒をするように口を開いた。

「ちょっと、ここ、やっぱり、危険な感じするけど」

「何、おじ気づいているのだよ。それとも、ごまかす気かい?」

 競羅が答えたと同時に、

「おい、そっちから、何か声が聞こえてこなかったか」

「そうだな、確かに聞こえたなあ」

 男たちの話し声が聞こえてきた。その怪しい人声に、彼女たちが緊張していると、

「よし、こっちの方を、もう一度、探してみるぞ」

再び男の声がし、すぐに、スーツを着たサングラス姿の四人の男が現れた。

 不気味な落ち着きがあるリーダー格と見える男、その男の右横に一人、背後に二人。その部下三人とも、格闘経験が豊富そうな、肩幅の引き締まった体つきをしていた。

 彼らは、突然の女性二人の出現に驚いていたが、すぐに状況に対応したのか、まずは、

「お姉さんたち、いったい、ここで、何をしていらっしゃるのですかね?」

リーダーが声をかけてきた。言葉はソフトだが、それゆえに不気味である。

「何と言われてもね。ただ、散歩をしているだけでね」

 そして、競羅も答えた。相手を探るような感じで、

「そうですか、では、この場所で、帽子をかぶった若い男を見かけませんでしたか」

「いや、誰も見なかったよ」

「間違いありませんか」

「ないよ。若い男か、いたら、はっきり覚えているよ」

「本当ですか。隠すと、あなたたたちのためになりませんよ」

 リーダーの男は粘っこく尋ねてきた。

〈あんたらね。脅しをするつもりなら、いつでも相手になるよ〉

競羅は一瞬そう思ったが、結局は口には出さなかった。相手から、ヤクザの雰囲気がぷんぷんしていたからだ。たとえ、今、簡単に撃退ができても、さっきみたいに、しつこく追われるのは、目に見えてわかっていた。それなら、初めから関わらないのが利口というものである。しかし、そのとき、

「ふーん。隠すとためにならないって、どういう意味なの?」

 先に連れの少女天美が、相手を刺激する言葉を出したのだ。彼女は前に説明をしたとおり、相手が恐怖感を与えようとすればするほど、強気になるのだ。

「おい、あんた、何を言い出すのだよ」

 競羅は慌ててそう注意をした。

むろん、男たちも驚いた。そして、リーダーの右横にいた部下が声を出した。

「入田社長、この娘、生意気ですぜ」

「待て! タケッ。今は、こんな女どもにかまっているヒマはない」

 入田と呼ばれた、リーダー格の男が武田をたしなめた。

「だけど、おれたち、しろうとになめられたら、終わりですぜ」

「私たちは一般の会社員だよ。それに騒ぎを起こしたら、居場所がわかるじゃないか」

「では、その言葉からすると、まだ、目的の人、見つけてないのね」

 ここで、また天美が声を出した。その言葉に入田は苦笑いをしていたが、

「見つけたのだったら、こんなところで、うろうろしてるわけないだろ」

 気が短いのか、再び、武田がにらみながら返事をした。

 すると、天美は、競羅の方を振り向き、とんでもないことを言ったのだ。

「ざく姉、よかったね。あの新聞記者さん。まだ、見つかってないのだって」

「あ、あんた、こんなところで何を言い出すのだよ!」

 競羅は思いっきり、しぶい顔をした。当たり前であろう。

 その二人の会話を聞き、四人の男たちは、一瞬、目を丸くしたが、すぐに、入田が笑いながら話しかけてきた。

「そうですか。あなたたたちも、例の新聞記者を捜していたのですか?」

「だったら、どうするの?」

 天美も笑いながら答えた。そのときの彼女の顔は生き生きとしていた。

「もちろん、ここから連れて行くだけですよ。関係者ということになりますから」

「そう言えば、社長。別働隊の話では、背の高い女も、あの現場にいたという」

 ここで、背後にいた部下の一人が耳打ちをするように口を開いた。

「そうかマツ、では、こいつは、あの取引場所にいた片割れの女だな」

「だとしたら、どうなるのだい?」

今度は、競羅が同様の言葉を言い返した。天美とは違い、ヤケっぱちという感じである。

「それは、決まっているだろ」

一番血の気が多いのか、何度もセリフを返した武田が競羅につかみかかってきた。

 その行動を待っていた競羅、身体をしずめ、相手がバランスを崩したところ、わきばらに、下から突きあげるようにこぶしを打ち込んだ。

 武田は身体をくの字にまげると、白目をむいてうずくまった。一人脱落である。

「モリさん、行くよ」

と言って、松田が森田と一緒に向かってきたが、彼女は、何なく、二人を回し蹴りを使って彼らを撃退した。その様子を、感心をした目で見つめていた入田。

「女だと、油断をしていたけど、なかなか、やるみたいだね」

そのあと、ニヤリと笑いながら、胸元から拳銃を取り出した。だが、一瞬早く競羅は動いた。すばやく回し蹴りをして、その拳銃を入田の手から跳ね落としたのである。

 音をたてて拳銃は、地面に転がった。

「困ったら、またハジキかよ。しかし、二度と同じ手は食わないよ」

 競羅は吐き捨てるように答えたが、転がった場所が悪かったのだ。

 その拳銃は、何と、競羅の回し蹴りで倒れた男の一人森田の前に転がったのだ。

競羅はしまったと思ったが遅かった。さすが、格闘で鍛えた身体というのか、武田とは違って攻撃が浅かったのか、森田は拳銃を握ると素早く立ち上がった。

 そして、そのまま銃口を、すぐそばで立っていた天美に向かって突きつけた。その様子を見て競羅は顔をしかめ、声を上げた。

「あんたら、またまた、そういうことを」

「どこが、そういうことかな?」

 入田が余裕の笑みを浮かべながら口を開いた。天美が動かないことを、銃を向けられた恐怖で、身体がすくんでいると勘違いをしたのだ。そして、命令調で言葉を続けた。

「さあ、遊びは終わりだ。お連れさんの命が惜しければ、おとなしくしな!」

 結局、競羅も現状況において、天美に拳銃を向けられては、従うしかなかった。口惜しそうな表情をしながらも、いつのまにか立ち上がっていた松田に取り押さえられた。

 その天美も、そのまま拳銃を突きつけられながら、身柄を押さえられたのである。

 それらの様子を見ながら、入田は機嫌よさそうに声を出した。

「さあ、これで君たちは逃げられないよ。あとは素直にしたがってもらうだけさ」

 ところが、ここで、天美が挑戦的な声を上げたのだ。

「そうかなあ。こんなの、いつでも、逃げれると思うんだけど」

「おかしなことを言ってはいけないよ。捕まった上に拳銃、どうやって逃げるのかな?」

「逃げるって、本当に簡単なことだけど。それより、せっかく、こんな場面になったのだから、ここで、あっなたたちの悪事、しゃべってもらおかな」

彼女の決めゼリフが出た。その言葉に、機嫌のよかった入田の顔が変貌した。

「悪事をしゃべってもらうだって? この娘め、おとなしくしていたら、さっきから、小生意気な口ばかり、たたきやがって、逃げられるものなら逃げてみな!」

 表情を険しくして声を荒げたのだ。その様子を面白そうに見ていた天美、

「では、お言葉にあまえて」

答えると同時に弱善疏をはたらかせた。彼女を捕まえていた森田は、電気に打たれたように弾かれると天美を放した。そして、その銃口を入田の方に向けて言った。

「社長はん、もう、娘っこたちを逃がしましょうや。さもないと」

競羅は、その様子を驚いて見つめていた。彼女に取っては、まるで、先ほどの状況を改めて見せつけられているのだ。まるで、ビデオの繰り返しのように、

 自由になった彼女は、あっけにとられている入田を尻目に、競羅を取り押さえている松田に微笑みながら近づいた。そして、その手を握り、弱善疏をはたらかせた。

 その結果、松田も競羅を手放すことになり、彼もまた、

「社長、僕も、この場は逃がすことに賛成です」

 と言って、社長である入田に詰め寄った。

「おまえら、ど、どうしたんだ! いったい?」

 入田は、あまりにものことで戸惑っていた。天美は、そのときを逃さず、能力を使うために入田に触れようとした。だが、それより早く競羅がうごいた。彼女は大きく足をあげ、渾身の力をこめて、入田に回し蹴りをお見舞いしたのである。

 入田は地面に身体を強く打ち、そのまま動かなくなった。

なおも、怒っていた彼女は、天美の能力に墜ちていた残りの二人に近づいた。

「ざく姉、もうやめて、意味ないし!」

天美は叫んだが、競羅の行動は止まらなかった。松田、森田の二人とも、立ち上がれないほどの衝撃力のあるパンチを浴びて気絶をしたのである。

〈あの姉さん、また、やっちゃった。今度は、ちから使う前に〉

天美は複雑な気持ちで、倒れた男たちを見つめていた。



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