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Confesess-1 18

第十八章


 目隠しをされ、手錠をかけられた天美は、そのまま、一田会事務所に連れ込まれた。そこは、中央区の街中にある鉄筋九階建てのビルである。

 だが、肝心な組長の大田山は、所用でまだ、事務所には戻っていないらしく、天美は連れ込まれるとすぐに、応接室に閉じこめられた。

彼女を拉致した三人組は、大田山会長から、次の命令を受けていないので、これ以上は手を出せないのだ。

 一方、天美の方も考えがあるのか、能力を使わずに、おとなしく閉じこめられていた。


 競羅は、客殿で、じりじりした気持ちで待っていた。その待たされている間、出されたお茶も、のどには通らなかった。

 そして、時間を気にしながら、これからの成り行きについて、頭を整理していた。

 彼女の考えていることは、天美が大田山に接触して、ことを起こす前に、総長に、『会長に捕まった一人の少女の救出を手伝ってくれ』と頼んで、連れ出すことであった。だが、ここで待つ時間が、長ければ長くなるほど、その間に合う確率は減る。

また、それもそうだが、それより肝心なことは、どうやって、総長を説得するかだ。

数弥の指摘通り、天美の能力について話すことはやめた方がいいだろう。

 相手はヤクザである。もし能力のことを話したら、組の利益のために、さんざん、利用をされることは間違いない。そんな、最悪なことになるぐらいなら、きっぱり、

 以上のことを考えながら、彼女は腕を組んで池を見つめていた。

 そのとき、大正時代風のメイド服を着た若い女中が、お茶を入れ替えにきた。彼女より下か、まだ成人になったばかりのようである。

「今、お客様が、お帰りになったみたいですね」

 メイドが答えた、その言葉を聞きながら、競羅に、ある考えがひらめいたのだ。

〈そうだ。その言い訳があったね。まずは、やってみるか、他には、これ以上、思いつかないからね。よくまあ、こんな案が浮かんだというか、ここからは度胸が勝負だね〉

 軽い笑みをもらした競羅は、時計をちらりと見た。

〈けどね、これだけ時間がかかっていると、結局は、間に合わないかもしれない〉

 競羅が顔をしかめたとき、宗吉があらわれて、声をかけてきた。

「旦那様、用事が終わったようで。間もなく来ますけえ」


やがて、田之場総長、田々剛日が着流し姿でゆったりとあらわれた。総長もまた、宗吉同様、競羅の顔を見ると懐かしそうに声を出した。

「赤雀か、久しぶりだなあ」

「総長殿も元気でなにより。これは、ほんの気持ちだけどね」

 競羅もそう言うと、買ってきた菓子詰めを手渡した。

「ほほお、これは、また結構なものを。では、遠慮なく頂戴をするか」

 田々は目を細めていたが、すぐに、顔をあらためると、

「ところで、久しぶりに姿をみせたところをみると、何か用事があるんだろう?」

「ああ、そうだよ、よくわかったね」

「やはり、そうであったか」

 総長は少し残念そうな顔をしていたが、気を取り直したように、

「わかった。わしに、できるようなことなら協力をさせてもらうが」

「そうかい。では、遠慮なく質問をさせてもらうよ。まずは、現在、組が巻き込まれている、邦和のグループが絡んだセラスタの事件のことについて聞きたいのだけど、総長殿は関わってはいないだろうね」

 競羅は、まず相手の出方をはかることにした。

「何だ、そんな、用件じゃったのか。あ、あれはな、わしも、よくは知らないのだ。下のものから、簡単な報告しか聞いていないものでな」

 総長は苦い顔をしながら答えた。

「ああ、大物代議士の自白があったとかで、大きな社会問題になったからね。あれは、大田山会長が動いたようだね」

「そうみたいじゃな」

「それで、総長殿はセラスタ人とは?」

「むろん、わ、わしは関係ないぞ! 何を言い出すのだ!」

 田々総長は大きく反応した。普通だったら、このような過剰な反応、何か、やましいことをやっている、と疑うべき案件なのだが、

「だろうね、まさか、大恩ある先代様の遺言を、総長殿が直接破ることはないよね」

 競羅は鋭い目をして言った。

「当たり前じゃ。わしの魂にかかわることじゃ」

 総長は真剣な態度で答えた。魂という言葉からわかるとおり、心のくさびなのだ。競羅は、そのことをよく知っているからこそ、セラスタの事件に首を突っ込むことになったし、今回も、総長に今の質問をぶつけて、あえて試したのである。

「それを聞いて、こっちもホッとしたよ。先代の外国人に対する態度は、本当に厳しかったからね。先代の母方の親父殿が、昔、満州で現地人にだまされて、むごい殺され方をしたということだったし。また、先代自身も、外人からのうまい話にだまされて、身代がぐらついたみたいでね。何かの用事で、外人が屋敷を訪れたことはあっても、出た後は、必ず塩をまいていたね」

「ああ、そうじゃった。先代殿は、ほんに異国者に厳しかった」

 田々総長も感慨深げに答えていた。その表情を見つめながら、競羅はここまでは、自分の考えどおりだと思って、ホッと胸をなでおろした。

 そして、彼女は厳しい言葉を出した。

「そうなると、勝手に動いた会長を処分しなければならないね」

「とは言ってもな。先代様のご意向が通じるのは、わしのとこまでだ。それ以外は、時代も変わったことだし、それに、あやつは、うちの屋台骨である代貸だ。本当に、だまされたというような大きなミスをしない限り、処分ができないな」

 田々総長は、ここまでは気むずかしい顔をして答えていたが、急に目を細めると、

「それよりも、せっかく再会をしたことだし、今から、うまいもの食べに行かないか。年がいくら離れていても、義妹ということは変わらないのだから」

 と、馴れ馴れしい口調で誘ってきた。

「義妹といっても、戸籍上だけだろ。それも、今は関係ないのだし」

「籍を抜いたのは、わしの本心ではないことは知っておろう。組を守るために、仕方なくだ。義妹には変わりがない。さあ、わしの馴染みの店がある。そこに行こう」

「悪いけど、本当にそんなヒマはないのだよ、急ぎの用事があるから来たのだしね」

 競羅は答えながら思っていた。

〈こっちは、会のためになると思って来ているのに、相変わらず、のんきな、ぼんぼん総長だよ。状況が読めないというか〉

「それは、本当に残念だな。それで、その急ぎの用事というのは何だ?」

「今からすぐ、その大田山会長に、連絡を入れてもらいたいのだけどね」

 競羅は何気なく頼んだつもりであったが、田々は、

「大田山なら、先ほどまで、ここで、わしと会っていたが、何か用があったのか?」

 と意外な言葉を返してきたのだ。

「えっ! 総長殿の客人っていうのは、会長だったのかよ!」

 競羅は、思わぬ展開にそう興奮した声をあげた。

 これは、天美の行動を止めるには有利だが、ある意味ではまずいことである。会長の大田山が、すでに、天美が能力を使って、田之場にちょっかいをかけていることを、総長に報告している可能性があるからだ。

 だが、田々はその顔色を見て勘違いをした。そして、次の言葉を、

「お、何だ。そんなにびっくりして、会いたかったのか?」

「か、会長は、どんな用件で、ここに?」

 彼女はそう尋ねるしかなかった。どんな返事がこようとも、後には引けないからである。

「謝罪だ。つい最近も、不祥事で直系の組長が逮捕されたからな」

「それだけなのかい? では会長は、女の子のことについて、総長殿に、何か報告をしていたということはないかい?」

 競羅は思わず天美のことを口に出していた。

「女の子? はて?」

 田々は首をかしげた。

「では、そんな話は出なかったのだね」

「そうじゃ、何も出なかった」

「本当にかい」

「本当だ。ただし、女といえば、お前の話題は出たけどな」

「こっちの!」

 競羅は返事をしながら、身体が震えた。ところが、田々総長の言葉は、

「どうしたのだ? そんなに大した話じゃないぞ。わしの顔を見つめながら、遠慮深そうに聞いていただけだ、『最近、赤雀と連絡を取り合っていますか?』とな。お前、大田山に、ほれられているのかもしれないぞ」

であったのだ。そのあとも、

「あやつはいいぞ。いまだ独り者だし、お前とは、いく分、年が離れているが、そんなことは関係ない。何よりもうちの代貸だ。あやつと一緒になれば、お前も苦労をしなくていいぞ。どうだ、その気なら、わしが仲に入ってやってもいいぞ」

 総長は、自分勝手に言葉を続けていた。

 その一連の答弁で競羅に余裕が生まれた。大田山から、自分が邪魔をしたことは、聞いていないようだし、天美のことも報告されていない感じがしたからである。


 競羅は、次の展開を、どのように持っていこうかと考えた。

彼女も初めのうちは気がつかなかったが、天美と出会った事件のとき現れた人物、加田は、大田山会長から命令を受けて彼女を拉致しにきたのだ。

 つまり、大田山は、彼女がセラスタの秘密メモリーを手に入れようと、動いていたことは知っていたのである。

〈そのことを知っていたのに、大田山は、こっちに、報復の牙を向けてこなかったどころか、総長にも、まだその報告をしていなかった〉

競羅の不安をよそに、田々総長は、相変わらず、のんびりした答弁を、

「どうした。あまりにものことで驚いたか、あのときは、わしも、あんまり、顔をじろじろと見られたので、恥ずかしくなってしまったわい」

〈じろじろと見つめていたって、これは、もしかして?〉

競羅は、ここで、ある理由に思い当たった。

大田山は、彼女の行動について、どう考えたのであろうか? ここで、考えられることは、大きく三つである。

 一つめは、事実通り、警察に頼まれてディスクを取りに来た。だが、その入手を頼んだ人物が下上警視正で、競羅と親戚であることを大田山が知っている可能性はうすかった。

 二つ目に考えられるのは、競羅は、そのディスクの存在をたまたま知った。そして、金にするために中に割り込んできた。それは、結果的に、それは警察の手に入ってしまったが、しかし、そんな簡単に、この極秘情報が耳に入るのだろうか?

 そして、三つ目の考え方は?

「どうしたのだ? 急に考え込んで、お前も、大田山が気になるのだろう」

 田々はまだ誤解をしているらしく、追い打ちをかけてきた。

 そして、競羅の腹は決まった。やはり、会長と総長を分断させるには、それ相応の覚悟が必要だからだ。彼女は、総長の目をまっすぐ見つめると、苦笑しながら言った。

「そうではなく、まったく、逆の理由だよ。ちょいと会長ともめてね」

「それは困るな。どちらも、わしにとって大切な人間だ」

「それよりも、今、一度確かめるけど、会長は、総長殿の顔色をのぞき込むように、こっちのことを、聞いていたのだね」

「そうじゃが」

「そうなると、もしかして、会長は、あの事件のときの、こっちの行動の裏に、総長殿がひかえている、とかんぐったのかもしれないね」

「わしが、お前の裏に、どういうことだ?」

「やはり、そうとしか考えられない。会長が、本当に、そんな態度をしたのならね」

 競羅の意味深の言葉に、

「ちょっと待て、何を言っているのか、わからないぞ。あの事件というのは何だ? 一体全体、わしの知らないところで何が起こっているのだ?」

 田々は大きく反応した。

その態度に、競羅は腹を決めた。今は、大田山会長も、ちゅうちょをしているみたいだが、いずれは、総長の耳に入る可能性があるからだ。そして、

「だから、最初に尋ねただろ。セラスタと邦和が絡んだ事件、あのことだけどね」

と言うと、邦和重化が起こした事件のデータを、警察に届けることになった最初のいきさつについて話し始めたのである。

 だが、もう一つのネガ事件の方は報告をしなかった。さすがに、二度も妨害したとは言えないし、あの時の状況から、自分の面が割れていないと確信をしていたからだ。

 話を聞き、田々の顔が気色ばんだ。

「お前、組の仕事を妨害したのか?」

「誤解をしないでもらいたいね。相手がセラスタと聞いたとき、まさか、うちが関係しているとは、夢にも思わなかったのだから。てっきり、南米に何かコネがある組か、そのセラスタの組織が相手だと思ってね」

「じゃが、邦和グループは、うちと関係あることは知っているはずだぞ」

「確かにそうだけどね、あそこは、うち以外の組織ともつながりがあるはずだし。また、こっちも金が欲しかったところに、そんな、おいしい話を聞いたからね、つい。最後は、もめた結果、警察に取り上げられたけどね」

 競羅は、先ほどの第二案を使って弁解した。やはり、警視正の名前は出せなかったし、金目的にした方が話がしやすいからだ。

 田々は腕を組んで、競羅の目を見つめていた。しばらくの間は、難しい顔をしていたが、結論が出ると、顔をゆるめながら答えた。

「そうか、確かに、そう考える方が普通だな」

「それより、話を本題に戻さないとね。たぶん会長は、そのディスクを手に入れるのを命令した人物が総長殿だと感じてるね。だから、試すような目をしたと思うけどね」

「妨害のバックに、わしがか?」

 田々総長は腕を組んで再び考え始めた。

「そうだよ。だから、こっちの話をしながら、総長殿の顔色をうかがっていたのだよ」

その競羅の言葉に、田々中総長は納得をしたのか、

「なるほど、そういうことだったのか。素直に話してくれて、わしもうれしいぞ」

 と言葉通り笑顔を持って答えたのである。

 その総長の笑顔に、まずは、最初の関門を突破したことを実感した。


さて、ここからは、次の展開である。どのように天美の話を切り出すか?

そして、その口実も腹で固まり、彼女は、再び口を開いた。

「そういうことで、あの事件で、組織が関わっていることを知ったからには、こっちは、事件から手を引かさせてもらったけど、まだ、何かしっくりいかなかったね」

「どこがだ?」

「むろん、会長が、御法度である外国の組織と組んだこと。もしかして、本家に内緒で、何か企んでいるのではないかと、たとえば独立とか」

「それは、考えすぎだぞ。大田山は度胸はあるが、同時に恩義も人一倍強いからな」

「それと、野心もね」

「何を言いたいのだ。結局、お前の頼みは、その最初に仕事を妨害したことを、大田山にあやまりたいのだろう。それぐらいなら、いくらでも仲介をしてやるぞ。何でも、最初は誤解から始まるからな」

 そう言う、田々こそが誤解をしていた。

「まさか、そんなことが理由なら、今日、急いで、ここに来る必要はないね。そんなこと、いつでも頼めるのだしね」

「それなら、どういうことだ?」

「だから、会長の行動を怪しんだこっちは、ある手を打ったのだよ、それが・・」

「ある手だと?」

 田々の眼が心なしに光った。

「その返答の前に、今一度、聞くけど、本当にさっきの会話で、女の子のことは、話題に出なかったのだね」

競羅は、どうしても天美のことを確かめなかったのか、再び確認をした。

「さっきも答えたように、一度も出なかったぞ。何か気になるのか?」

「本当になければ、いいけどね」

 競羅の態度に、田々も腕を組みながら考えていた。そして、思い出したように答えた。

「そう言えば、確か、大田山の奴、わし以外の相手に、メスガキとか、なんか、乱暴な言葉を吐いていたな」

「総長殿以外? どういうことだよ? 詳しく、聞きたいのだけどね」

 競羅は興味を持った目つきになった。

 その彼女の慌てた態度を、田々は前以上に不思議そうな顔つきでながめていたが、すぐに、何でもなかったように言葉を続けた。

「あれか、確か、わしとの面談中に、あやつの電話に部下から連絡が入ったのだ。わしの目の前にもかかわらず、興奮した口調で怒鳴っていたな。『何、それは本当か? でかした、よく、捕まえれたな!』とか言ったあと、『では、すぐに本部に連れて行き、俺が帰るまで、そのメスガキを閉じこめておけ!』とも言っておったな。もしかして、そのメスガキと言われた女が気になるのかな?」

「それは、気になるね。それで、その女のことだけど、他には何も、報告をしてきたことはなかったかい?」

「あとは何もないぞ。わしも、個人的なことなので、尋ねなかったからな」

「では、帰るときも、何か、妙な言葉を、言い残したということは?」

 競羅はしつこく尋ねた。どうしても肝心な用件だからだ。

「そう言えば、『今度、会いに来ますときは、とてもいい土産を、持ってこれるかもしれませんよ』と、いうようなことを言っていたな」

 いい土産、というのは、天美のことであろう。いくら、総長に忠義な大田山でも、まだ、能力の存在を自分の目で確かめていないので、報告をしていなかったのだ。

 競羅は、この一連の答弁で、総長に天美のことが能力のことを含め、何も報告されていないということを確信した。つまり、第二の関門もクリアしたのである。


 ここからは、次はいよいよ天美の救出についてである。これが、一番肝心なことなのだ。彼女は、大きく深呼吸をすると、

「そうかよ。やっぱりねー」

 大げさに驚いたような声を出した。そのトーンが気になったのか。

「今の、やっぱりという言葉は何だ?」

 田々は尋ねてきた。少しだが話にのってきたのだ。

「実は、それが、こっちが打ったある手でね。会長がセラスタの事件に、首を突っ込んだことについて怪しんだこっちは、その様子を探らせるために、妹分をメイドにして、会長の屋敷に潜入させた。その彼女が、とんでもない現場を見たのだよ」

競羅は、天美のことを、メイドにたとえて説明を始めた。これが、さっき、待っていたときに浮かんだ知恵である。

「とんでもない、だと、奴の屋敷で、大量な武器でも見つけたのか?」

 田々は、からかうような目をして尋ねた。それぐらいなら、いとも、簡単につぶせる自信があるのだろう。

「まったく、見当違いだね。あの子の話によると、会長が、自室で罪の懺悔みたいな妙な言葉を、録音機を回して何か吹き込んでいたと」

「何だって、それは?」

「あまりにもおかしな話だったので、こっちも最初のうちは、あの子が何を言っているか、よくわからなかったよ。それに、これもまた、あの子が言っていたのだけど、言葉の端々に、田々総長が、いう言葉が何回かあったみたいだね」

「いったい、奴はどういう気なのじゃ!」

 田々は眼を見開いた。自分が想像したのと、まったく、違う答えであったからだ。逆にいうと、それによって、競羅の言っていることを信じ始めた。

「だから、わからないって言ってるのに。けどね、もし、その録音した何かが存在し、警察か対立している組織の手に渡ったら、総長殿の立場が危なくなるのは確実だね」

「危ないっていう問題じゃないぞ! わしの暗殺を狙っているのなら、身辺警護を強化して、防ぐことができるが、それは、防ぎようがないじゃないか!」

 田々は答えながら興奮をしていた。

「確かに、それはいえるね。暗殺を狙っているのなら、その現場を押さえるのが一番だけど、こればっかりは、さすがの総長殿でも防ぎきれないというか。匿名なら、いざしらず、田之場、最大の実力者による内部告発ではね」

「匿名じゃないのか?」

「あの子の言葉を信じると、そうみたいだね。会長が生の声を、そのまま、吹き込んでいたということだからね」

「ちょっと待て、もう、そんな想像はやめようじゃないか。そこまで言って、奴が無実だと証明されたら、いくらお前でも、ただじゃすまないぞ」

 田々は言葉では脅かしていたが、動揺をしていることは間違いなかった。

 その態度を競羅は見逃さなかった。

「そう言えば、先ほど、会長が言っていたという弁明にもあったように、最近、田之場系の組長たちが、次々と警察に捕まっているね。こんなこと、今までなかったし、やはり、会長が、何か企んでいるということは考えられないかい?」

 天美の能力で起きた出来事を逆手に取って、なおも、総長をゆすぶったのだ。

「確かに、おかしいな。大きな作戦の噂もないのに、急に続くなんて」

「こっちも、まさかとは思うけどね。でも、そうでなかったとしたら、なぜ、妹分を捕まえる必要があるのかね」

「妹分、その子が、あの捕まった少女か?」

 田々の興味を持った質問に、

「ああ、その録音した証拠を手に入れろ、と命令したのがまずかったのか。惜しいね、無事に戻れば、それが手に入ったのに」

 競羅は、いかにも、くやしそうな口調で答えた。

「でも、たまたま、その娘が、好みにあった、ということも考えられるぞ」

「けどね、もし、そうだとすると、総長殿が聞いたような会話にはならないよ。たいてい、こういう、言い回しをするときって、こそこそ嗅ぎまわっていたスパイを捕まえたときだと思うけどね。でかした、と、ほめ言葉も言っているし」

「確かに、そう言われれば、そうじゃな」

 その答える田々の眉間には、何か考え込むように深いしわが寄っていた。

ここが勝負所である。競羅はいかにも腹心の部下が、もう一人の腹心を、け落とすために使うような、毒を含んだ口調に変えて、言葉を続けた。

「ここで、考えられるのは一つしかないね。総長殿は、まったく、知らないと思うけど、以前から、大田山会長は、セラスタの組織と、目立たないような小さな取引をしていたみたいだね。向こうの組織側としても、本当は、もっと、大きな取引をしたかったみたいだけど、外国人との取引は御法度ということになっているから、小規模な取引にとどめていたのだろうね。おそらく、相手側としては、本家の存在を煙たく思っていたと思うけど。

 今回、そのセラスタの組織は、ついに、大きな行動に出たみたいだね。提携話をするぐらいの。その、あいさつがわりというのか、組織側は会長に、用心棒の役を込めて、あるブツの入手を頼んだ。それが、はからずも、こっちが絡んでしまったセラスタの秘密ディスクなのだけど。それの入手を邪魔された会長は怒り狂った。と同時に大きな怯えが走った。こっちが買い取り行動を起こした裏には、本家がいるのではないかと。もしかして、部下の中に隠密か内通者がいて、それを、本家に報告したものがいるのではないかと。その結果、配下のものたちに、より厳しい詮議をし、彼らの離反を招いたと」

競羅の言葉を田々は、苦虫をつぶしたような顔をして聞いていた。その顔色を見ながら、競羅は毒を吹きかけ続けた。

「また、困った会長は、今回のことを、よりによってセラスタの組織に相談した。今のままでは総長殿に邪魔されて、提携どころか大きな取引はできない、さて、どうしたものかと。そして、そこで出た結論は、ほぼ、わかっているよね」

 競羅は意味深の目つきをして、総長を見つめた。

「まさかと思うが、わしの排除か?」

「はっきり、答えられないけど、きっと、今、総長殿の思った通りだと思うね」

「何じゃと! そんなこと、許すものか!」

 田々はいきり立った。競羅は、その手ごたえを感じると、心の中で、もう一息だと思いながら言葉を続けた。

「むろん、そんなことは、今の組織では絶対にできないはずだから、まずは、組織の弱体化をはかったと思うね。配下の組長を次々と警察に逮捕させるという。そして、会長本人は、しばらくの間、セラスタに高飛びをする予定かもしれないね。最後に言い残した、いい土産というのは、警察が現れて総長殿を逮捕しにくる、それを皮肉った言葉、ということも、充分に考えられるね」

 競羅の答弁に、総長は、より深刻な顔になった。そして、恐る恐る口を開いた。

「それで、奴は、いつ、わしのことを警察に売るつもりなのだ?」

 田々は疑心暗鬼になり、ついに、競羅の言葉を信じ始めたのだ。

「さて、そこまでは、こっちだってわからないね。肝心な妹分からの報告が、二時間ぐらい前に途切れたばかりだし」

「そうか。だから、あやつは、得意げな言葉で電話の応対をしていたと」

「そういうことだよ、とにかく、一方的に電話が切られたのだよ。その前に、『いったい、何するの!』と、あの子の声が聞こえてきたけどね」

 競羅は最大の演技力をつかって、いかにも、真実のように報告をした。

 田々は、すべてを納得したような口調で言った。

「なるほど、わしを、急に訪ねてきた理由は、その娘を助けたいからだったのだな」

「それが、結局、それが、恩義ある本家を守るということかもしれないからね」

 しかし、競羅は、はっきりとは頼まなかった。借りを作りたくなかったし、話が自分のペースになってきたからだ。

「よし、わかった。すぐに、その娘を助けに行こうではないか」

 話に乗ってきたらしく、田々の方から提案をしてきた。

「今からかい?」

「そうだ。急いでいかないと、その娘の口がふさがれ、奴を問いつめることができなくなってしまうからな」

 そして、田々はいやな笑いを浮かべ、言葉を続けた。

「それとな、今、一つ考えられることがあるからな。お前と大田山とのいさかいは、それから、ずっと続いていて、あやつの私生活を探るため、子分をメイドとして潜り込ませたが、それが失敗して捕まってしまった。その救出のために、壮大なでっちあげ話をしてきたと、それを確認しないと」

 これは、田々総長が、競羅の言葉を信じてないというよりも、彼女にかけたゆさぶりである。自分が利用されてはいないということを、はっきりしておきたかったのだ。

「まさか、総長殿をだますわけないのに」

「そうだな。たかが救出を頼むだけに、そんな、回りくどい抗弁はいらんな。となると、真の狙いは大田山の排除かな。ははは、すべて行けば、わかることじゃろうて」

 こうして、田々総長は、自分のリムジンに、牛田、蛭田ら二人のボディーガード、競羅の車にも、見張りのために鴇田をつけ、二台の車が一田会事務所に向かった。



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