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Confesess-1 17

第十七章


 約二十分後に、そのまま、車で駆け付けた競羅は数弥と会っていた。その場所は、同じく六本木、拉致された喫茶店の近くにあるカラオケ店だ。

 危険領域な話になりそうなので、人に聞かれないように配慮したためである。

「姐さん、本当にすみませんでした」

 店内で数弥は何度もあやまっていた。

「わかった、わかったよ。すんだことは、もういいよ。大切なことは、これから、どうするかということだけどね。それで、あの子は、田んぼに連れて行かれたということだけど、さすがに、どこの組かまではわからないだろうねー」

「いや、わかりますよ」

「わかるって、それは、どこだい?」

「一田会す。彼ら最後に、『大田山さんがお待ちだからな』と、言っていましたから」

「な、何だって、一田会だって!」

 彼女は思いっきり驚いた。一から十の数字がつく組長は、大幹部クラスなのだ。なかでも一田会は筆頭格である。

「当然、姐さんはご存知すよね」

「あのね、一田会はね、江戸から歴代の代貸がつとめる田んぼ一の組織だよ。そんなことを知らないわけがないだろ!」

「そうす。田之場宗家についでナンバー2す」

「実質上はトップだよ。作戦や実行については、よほどのことがない限り、本家は口を出さないからね。つまり、一連のセラスタ事件を、ずっと裏で仕切っていたのは、この大田山だったわけだよ」

「姐さん、わかっていたんすか」

「ああ、あの例の写真を見たとき、おぼろげにね。どうも、風格的にそんな感じがしたのだよ。確信というところまではいかなかったけどね」

「それなら、教えてくれてもよかったのに」

「だから、今も言ったように、はっきりとした確信はなかったのだよ。あんただって、大田山の噂ぐらいは聞いているだろ。何かと悪名をとどろかせているからね、あのとき、こっちが何か、もらしていたら、身体が固まってしまっていたのではないのかい」

「そ、そ、そんなことはありませんけど」

「そうかい、それならよかったね、今回、その大田山のことだけど、引っかかることがあるのだよ。なぜ、奴が、あの子だけ捕まえにきたことだけどね、邦和の事件の、おとしまえをつけにきたとしたら、当然、こっちにも、その手が及んでくるはずだろ。今頃、このように話し合っていることなんてできなかったよ。土の中かもしれないし」

「姐さん、怖ろしいことを言いますね」

 数弥は答えながら震えていた。

「やはり、おびえてるね。とにかくね、一田会の追手らしきものは、こっちには現れなかった。ということは、あの子は別口で探り当てられたということだよ」

「別口といいますと」

「わかっているだろ。あの子、田んぼの前に何度も姿を現していたからね。そのとき、顔を覚えられたとかという可能性があるだろ」

「ええ、そうすけど」

「しかしね、それだけで、御大というか、あの大田山が出てくるかね」

 競羅は答えながら腕を組んでいた。

「そのことなんすけど、僕が思うには、もしかしたら、代貸の大田山会長は、天ちゃんのスキルの存在について、知っているんじゃないかと」

「えっ、あんた、今、なんて言った。奴があの子の能力を知っているだって!」

 競羅は目をむいた。あまりもの発言を聞き、このような態度になったのだ。

「ええ、まだ、そこまで、詳しくは説明をしませんでしたけど」

 数弥はそう言うと、天美が連れて行かれた様子について競羅に説明を始めた。


競羅は数弥の話を聞いていた。聞いているにつれ、だんだんと顔が険しくなった。

「な、何ということだよ! こ、これは、そうとう面倒なことになるよ!」

 思わず声を上げると。そのまま、言葉を続けた。

「しかし、なぜ、また、こんなことになったのだよ」

「わかりません。ただ、考えられることは、以前、天ちゃんの弱い方のスキルに、何度もかかった男たちが、何かおかしいと感じて、会長に直訴のようなこと、をしたのじゃないすか。それで、会長も興味を持って、天ちゃんを連れてこい! と命令をした」

「考えたくはないけど、おおかた、そんなとこだろうね。あの子、派手に動いていたから、やはり、おかしいと感じられたのだろうね。何にしても、本当に厄介なことになったよ。相手に、あの子に能力があるということを、気づかれてしまったのだから」

 競羅は言葉通り難しい顔をした。

「でも、彼ら、天ちゃんに、スキルがあることまでは感じていても、その発動が、どのようなときに行われるか、知らないみたいすね」

「なぜ、そんなことを言えるのだよ?」

「今、そこまで説明をすることができませんでしたけど、あのとき、リーダー格の人間が『目を見るな!』という大きな声を出したんす、どうも、天ちゃんは、無理やりに身体を抑えられて連れていかれたみたいすね」

 数弥は、そのときの様子を思い出して、苦笑をしていたが、競羅は違った。

「だからこそ、そうとう面倒なのだよ!」

「えっ! 姐さん、どういう意味すか?」

「意味も何も、ボネッカは素直に連れて行かれたのだよ」

「ええ、きっと連中は、本来なら、すでにスキルにかかるはずの状態ということを、夢にも思ってはいませんね。催眠術だけに警戒をしていましたから」

「そういう問題ではないよ。あの子が、つかまれていても、おとなしくしていたのだよ。それにね、あんた、さっき、妙な言葉も話していたよね。あの子が、『面白いことになりそうとか、迎えが来そうだから』とか何とか言っていたとか」

「ええ、だから、僕の方も、一緒に連れ去られずにすんだんすよ」

「そういうことではないだろ。まだわからないのかい。あの子は、今回の出来事を、最初から待ち望んでいたのだよ」

「えっ!」

「本当に血の巡りが悪いね。普通はそういう風に感じるものだろ。いいかい、あの子は、わざと捕まったのだよ。田之場中枢部に乗り込んでいくためにね」

「いくら何でも、それは!」

「いや、先ほどの義兄さんの話からみても間違いないね。あの子は、自分の能力が、どれほどのものか知っているからね」

「でも、一田会本部は要塞みたいなとこだと聞いていますよ」

「ああ、こっちが、そんなことを知らないと思っているのかい。確か、あそこは九階建てで、常時、兵隊が百人近くはいるはずだよ」

「えっ! そんなにいるんすか!」

「奴ぐらいの地位なら、それぐらいはいても不思議ではないよ。会長室は最上階だったかな。一階ごとに十人ぐらいは、最低、待機をしているのだよ」

「そんなにいたら、いくら天ちゃんでも」

 数弥の顔が、より青くなった。

「確かにそうだけどね。それが、あの子に不利になるかというと」

「何を言ってるんすか、百人すよ。いくら天ちゃんでも、次から次へと、百人を相手にスキルを使うことなんて、できるわけないじゃないすか」

「普通はそうなのだけどね。どうも、あの子の昔の話を聞いてみるとね」

 競羅はそう言うと、以前、喫茶店で張り込んでいたとき、天美から聞いたセラスタ時代の話を数弥に伝えた。


「天ちゃん、そんなことを話していたんすか!」

数弥は答えながら驚きの目をした。

「ああ、とても、普通では信じられない話だけどね。『相手の人数が多けば多くなるほど、武器もまた、強力であれば強力なほど、被害が大きくなるの』なんて言葉、とてもね」

「それで、姐さんは、どう思うんす」

「信じた方がいいね。あの子のいた国はセラスタ、この間あんたが、さんざん治安が悪い国とけなしたセラスタだよ。そこで、国最大の犯罪組織をつぶしたというのだからね」

「そうすね、それで、姐さんは、このあと、どうなると思うんすか?」

「どうなるって、あの子のことかい?」

「そうす。大田山会長は、天ちゃんをどうするかと思って?」

「奴が、あの子の能力を知っているのなら、いきなり、殺されることはないね」

「そうすね。僕も同意見す。金の卵を産むニワトリを殺すみたいなもんすから」

「かといって、何もしないわけではないから、奴は催眠術だと思っている限り、あの子に触れるだろうね。そして、能力にかかって、罪を自白し始めることになると思うね」

「いいことじゃないすか」

「黙って聞きなよ。このあとが問題なのだよ」

 競羅はそう言うと、険しい顔をしながら言葉を続けた。

「大田山の自白後、あの子はどうするか。普通に考えると、警察に通報するために、ビルを出ようとするだろうね。ところが、そうは簡単にいかないよ、中には百人近くの組員がいるのだから、何人かの組員が、あの子を捕まえようと向かってくるだろうね。あの子は、当然、彼らに能力を使って、逆に自分のシンパにする。そして、その彼らを護衛にしてビルから出ようとする。残った組員たちは黙っていないよね。裏切った屈強な男たちを相手にするのだから、ナイフを持ち出す。あの子は次に、そのナイフを持って、襲ってくる組員たちに、スキをついて能力を使う。その結果、組員たちは、同士討ちをし始め、メチャクチャな状況になるよ」

「それって、とんでもない事態すよ」

 数弥の驚きを無視して、競羅は言葉を続けた。

「ああ、とんでもない状況だよ。けどね、話はそこでは終わらないのだよ。残った組員たちが、どうするかだよ。ナイフを持った相手に応戦するのだから、次はドスかもしれないね。そして、その混乱中に、ドスを持った相手に、あの子は能力を使う。より激しいもみ合いになって、あたりは血の海だよ。そうなると興奮して、ハジキをぶっぱなす奴が出てくるかも知れないね。あの子は、そのハジキを持った相手に、どさくさにまぎれて能力を使う。あとは説明をしなくてもわかるだろ。派手な撃ち合いが一田会内部で起こり、通報で警察が踏み込んだときは、本部内は死体の山だよ。前代未聞の内ゲバ事件の誕生だね」

「そうなったら」

 数弥に最後まで言わせず、競羅は言葉を続けた。

「さすがに、こうなったら、世論だって黙ってないし、警察も本気で動かざるおえないだろうね。田之場は、もう、おしまいだよ。セラスタの、どこかの犯罪組織みたいにね」

「田之場が解散しますか。それは、姐さんにはきついことすね。でも、よく考えたら、それは、日本にとっても良いことじゃないすか」

「日本に良い! 何を言っているのだよ。余計に悪くなるよ」

「悪くなるって、どういう意味すか?」

「いいかい、田之場が弱体したら大事だよ。勢力が少しでも強い単位団体同士が、なわばり争い、とか生き残りをかけて抗争するからね。今まで彼らは、田之場という巨木に従えられて生きていたのだからね。それにね、これまでは、相手が田之場だからといって、おとなしくしていた反対勢力の組織、も攻勢に出てくることは間違いないね。田之場あとを巡っての、広域暴力団同士の全面戦争だよ。あちこちで抗争が起きるし、警察だけでは、とても、手がたりないよ。そうなると、当然、一般人の死人も大勢出ることになるしね」

「それって、以前、話しあっていたこと並みに、まずいじゃないすか」

「以前? ああ、右翼の大物が自白するという話か。あれだって終わってないよ。あの子の暴走を止めなければ、その心配はずっと続くからね。想像するだけで、うつになるよ」

「だから、このまま、放っておくわけにはいかないでしょ。天ちゃんだって、いつも、うまくいくわけないすよ。いずれ、しくじって、ひどい目にあいますよ」

「しくじるか、なるほど、今回だって、その可能性もないことはないか」

 競羅の目に邪悪な光が宿った。

「姐さん、まさか!」

「その、まさかだよ。奴だって、立場上、ある程度は用心深くなっているからね。そういうカンで今までも危機を乗り越えてきたし、今回も、何かいやな予感のようなものを感じて、あの子に触れなかったら、そのまま、縛られたままだろ。だいたい、身体に触れなくても、精神を狂わせるような強烈な麻薬注射ぐらいは、打つことができるからね」

「えっ! そんなことされたら、天ちゃんは! すぐに、助けに行かないと」

「そうなったときは、それが、あの子の運命だったのだろ。それこそ、自分のしでかした行為の清算というか」

 競羅は冷たく言いはなった。

「姐さん、それは、さすがに」

「冷たいとか、ひどいって言いたいのかい。あのね、世の中には価値観というのがあってね、その価値観は人によって違うのだよ、この間、話していて、よくわかったよ。あの子の正義感っていうのは、こっちと、まったく違うということが。必要悪を認めないという」

「必要悪って田之場のことすか」

「それだけではないよ。あの子が能力を使って何をやったか。たかが損失補てん、たかが、わいろの告発、そのおかげで、邦和グループは、よりガタガタになっただろ」

「ですが、邦和を許せなかったのは姐さんも一緒でしょ。立件に協力をしてくれましたし」

「あれは度がすぎたからだよ。よその国とはいえ、何万人も殺すなんて! でも、よくよく考えたら、あれだって、義兄さんから話があったとき、聞き流してしまえばよかったのだよな。ガラにもないことしたおかげで、こんなことになったのだから」

「僕はそうは思いません。助けるべきです」

「あんたね、さっきからの会話を覚えていないのかい。要塞みたいなところに百人近くの兵隊がいるのだよ。本気で、そんなところに行くのかい」

「そ、そうすね。行ったら殺されますね」

「ああ、間違いなく、殺されるよ。そんなところに、なぜ、田之場をつぶす、と言い張る、あの子を命を張ってまで、助けに行かなければならないのだよ」

「ええ、そうなんすけど、天ちゃんは、姐さんにとって、妹のような存在じゃないすか」

「えっ、妹?」

 競羅は思わず口を開いた。突然の言葉であったからだ。

「ええ、僕が見るには、姐さん。天ちゃんを、実の妹みたいに可愛がっていますよ。僕は姐さんをよく見ていたからわかります」

 数弥は答えた。やはり、競羅は、天美を実の姪とは知らないながらも、人から見たら、身内同様に接していたのである。

「それが、どうしたのだよ。あの子は、勝手にこっちの手から離れていったのだよ。あんたの説得だって、まったく、耳をかさなかっただろ」

「ええ、そうですけど」

「それに、こんなことは実は初めてじゃないよ」

「えっ 前にもあったんすか」

「ああ、一度、悪い男から少女を助け出したことがあってね。その子は、本当の姉貴のように慕ってくれたよ。こっちも、同様に可愛がったのだけど・・・」

 競羅は話をしながら、つらそうな顔をした。その態度に反応をした数弥、

「その子、亡くなったんすか」

「ご名算だよ。前の男のところに戻ってね。そこで再び、ゴミくずのようにあつかわれて、それまでだよ。あれほど戻ってはいけないって、何度も忠告をしたのだけどね」

「そんなことがあったんすか」

「このことは、あんたに話したのは始めてだったかな。ということで、言うことを聞かなかった子は、そのむくいが、身にかぶってくるというか。何となく寂しいことだね」

 競羅は本当に暗い目をしていた。

「わかりますけど、再び、こんなことがあってもいいんすか」

「あっていいとは思わないよ。けどね、あらためて念を押すけど、相手は一田会だよ。討ち死にする覚悟があって言っているのだろうね」

「そのことすけど、警察に頼めばいいじゃないすか」

数弥の表情は明るかった。すべて、解決がつくという期待か、

「警察だって!」

「ええ、そうす。もともと、今回の話は、警察官であった姐さんの義理のお兄さんが持ってきた話が最初だったのでしょ。今から、その義兄さんに頼めば、救出に協力してくれるのではないでしょうか」

「つまり、義兄さんにか」

「ええ、そうすよ。ここは、下上さんに頼むしかないでしょう」

「どうも、あんた、こっちが、さっきまで、どこにいたかまでは知らないようだね」

「と言いますと、もしや、下上さんのところにいたんすか?」

「ああ、その通りだよ。今回のことを相談しにね」

「そのとき、もしかして、天ちゃんおスキルについて、しゃべっちゃったとか」

「ああ、こっちで判断をして、すべてを話してきたよ」

「ええ、そんなー」

 数弥は非難めいた声をあげた。

「しかしね、その代わりとというか、あの子のセラスタ時代のことも、少し聞けたよ」

 競羅はそう言うと、警視正との会話について数弥に説明をした。


「コァンフェセスすか」

説明を聞いたあと、思わず声をあげた数弥、

「ああ、そう、大層な仇名をもらっていたよ。まさか、こっちも、あの子が、そこまでセラスタの裏世界に名がとどろいていた、とは思わなかったよ」

 競羅の言葉を、数弥は目をつぶりながら聞いていたが、

「でも、天ちゃんは、天ちゃんなんすよね」

「ああ、そうだけどね」

「それで、その下上警視正の話に戻りますけど、ほかに、警視正はどのようなことをする、って言っていましたか」

「どのようなことって、どういう意味だよ?」

「だから、これからの天ちゃんの立場すよ。田之場に近づかせないように、警察で監視をするとか、色々と言っていたでしょ」

「そのことか、こっちで説得してくれ、と言われたよ」

「えっ! 説得すか」

「ああ、こっちが思うに、義兄さんの方も、正確な判断ができなかったのじゃないかな。連絡がつくうちに必死で説得をしろ、と言われたよ」

「それで、説得できなかったら、どうするんす?」

「それかい。あの子が、怒って姿をくらましたりして、説得できない状態になったら、改めて相談にのるって言っていたね」

「それで、姐さん、納得をしたんすか?」

「その時点では、こんな状況になっているとは夢にも思わなかったからね。聞きたいことも聞けたし、屋敷を出たよ」

「そうすか、本当に惜しかったす。僕の連絡が、もう少し連絡が早ければ、下上さんの耳に、天ちゃんが拉致されたことが伝わったのに」

「確かにそうだけどね」

 競羅の顔が再び曇った。その顔を見て尋ねた数弥

「何か引っかかるんすか?」

「引っかかるも何も、警察に頼むのが、本当にいい作戦かなと思ってね」

「当り前じゃないすか、警察以外に誰を頼むんすか」

「いや、いまいち、信用がおけないね」

「下上さんがですか」

「いや、違うよ。義兄さんなら何も心配はないよ。けどね、外国人犯罪とは関係がない案件だろ。指揮は別の係員が取ることになるよ。そのとき、きちんと対応ができるかい」

「そんなこと言われたら、何もできませんよ」

「それにね、あのときは、動きようがなかったからね。あの子をさらったのが田んぼの一味だとしても、誰かわからなかったし」

「今は違うでしょう」

「ああ、相手が大田山の率いる一田会と判明したからね」

「でしたら、今は対処ができますね」

「いや、そうとばかりは言えないね。大田山はね、能力を利用するために、あの子を連れ去ったのだよ。相手が警察だとしても、みすみす渡すわけはないだろ、間違いなく、説得には応じないね。包囲されても一向に動じないし。警察だって、包囲するだけで何もできやしないよ。突入したら、即、戦争みたいなものだから、そんな度胸はないだろ」

「それは困りましたね」

「ああ、持久戦だよ。大田山は、かなりイラつくだろうね。そのときに、奴はあの子に、こ、これはまずいね。面倒どころか最悪かも」

競羅は思わず口走った。数弥も競羅の言葉の意味が分かったのか、

「まさか、天ちゃん、そのときに・・」

「ああ、奴の性格を分析すればするほど、いやな展開になっていくよ。こういうとき奴は、必ずといっていいほど、何かに当たり散らすからね。それが組員だといいのだけど、あの子に、まともに向かうことになると、もう、想像もしたくないね」

「た、確かに、そ、そうすね」

「だから、警察に頼むのは得策とは言えないのだよ。太田山は、ああいう奴だから」

「ええ、よく考えると、そうすね」

 数弥はそう答えあと、思いついたように、

「それに、持久戦となると、結局、田之場宗家の方も迷惑がかかりますし」

「ど、どういう意味だよ?」

「だって、持久戦になると、派手にテレビ中継をしますよね、当然といいますか、総長も、その中継を見ると思うんす。となると、宗家も大変な立場になりますね」

「ああ、そうだね。胃が痛くなるだるうね。なんといっても・・」

競羅はここまでは、普通にそう答えていたが、突然、何か思い当たったような顔になり、

「そ、総長、宗家だって!」

 と目を向いた。そのあと、口調を厳しくして数弥に迫った。

「今、あんた、総長って言ったね」

「ええ、言いましたけど、それは、その成り行きで出たもので」

 数弥は恐縮していたが、競羅の反応は違っていた。

「そうだ、こっちには、まだ、その手があったんだ。さっきまでは、頭が混乱して、その考えが頭に浮かばなかったけどね! 今度はいい意見だったよ!」

吹っ切れたように声を上げたのだ。

「姐さん、まさか、総長のところに行くとか」

「そうだよ、今から、その本家に行くよ。本家に行って、あの子の救出を頼むことにするよ。今なら、もしかして、まだ間に合うかも知れないからね」

「それは無茶す。いくら、姐さんの馴染みでも、ことが一田会のことすから、簡単には動いてくれませんよ。ましてや、理由は少女一人のことなんて」

「それでも、掛け合うしかないだろ」

「でも、どういう風に話しかけるんす。まさか、天ちゃんの能力のことを含め、今まで動いたこと、すべて、総長に話す気なんすか。もし話したら、大変なことに!」

「わかってるよ。そんなことぐらいはね、本家についてから考えるよ! いいかい、こうなったからには、あんたは、この件からは手を引いた方がいいね」

 競羅の目が鋭くなった。

「えっ、手を引くんすか」

「ああ、そうだよ。さすがに、命が惜しかったらね。あとは、こっちに任せな。もし、警察に報告をしたら、そのときは、どうなるかわかっているね」

「ええ、わかってます、それより、僕は天ちゃんが・・」

「とにかく、任せな! と言っているのだよ。心配は無用だよ、必ずいい方法を見つけるからね。と言うことで、勘定は、いずれ払うから頼むよ」

 競羅はそう答えると、カラオケボックスから急いで立ち去った。

 そのあとを、心配した表情で数弥は見つめていた。


 数弥と別れた競羅は、途中、高級菓子折り詰めを購入すると、田之場宗家に向かった。

 間もなくして、車は、向島の一角にたたずむ田之場総長の屋敷の駐車場に到着した。

 車が止まると同時に、若者が二人駆け寄ってきた。一人は、にきび顔にパンチパーマ、もう一人は、そり込み頭に眉なし、いかにも三下という感じの男たちである。

「おい、そこの車、ここを、どこだと思っているんだ!」

そり込み頭をした男、犬田が運転席に向かって怒鳴ってきた。

 競羅は、その声を無視し、車のドアを開けて外に出た。

 犬田と、もうひとりの男、猫田は、競羅の堂々とした態度を見て、一瞬、息をのんだ。

 あきらかに格が違うのだ。彼女の身体から出る威圧感に圧倒されたのである。

 だが、二人は格下といえども屋敷のボディーガード、簡単には知らない人間を通すわけにはいかなかった。

「姉ちゃん。なんの用だい?」

 犬田はすごむように声を出した。

「あんた、知らない顔だね、新入りかい。おっと、今はそのことより、ちょいと、剛日さんに用があるのだよ。『お宿に雀が遊びに来た』と、伝えてくれないかい?」

 競羅は男たちをにらんで答えた。

 その返事に、二人の男たちは緊張した。いかにも、姉御みたいな雰囲気の女が現れ、昔話をもじったような言葉を言った上、総長の本名を呼んだからだ。

「へっ、雀さんですか」

 犬田は思わず問い返した。

「ああ、田んぼの赤雀、と言えばわかるよ。こっちは、急いでいるんだよ。指をつめたくなかったら、さっさと通した方がいいよ」

「わかりました。しばらく、お待ち下さい」

 犬田はあわてて、屋敷の中に駆け込んでいった。その様子を、もう一人の、にきび顔の男、猫田は口をぽかーんと開けたまま、あこがれの目つきをしながらながめていた。


しばらくして、競羅は、その懐かしき屋敷の玄関に通された。

中の様子は、昔、自分が住んでいた当時と変わっていなかった。

「お嬢、よく、来なすっただ」

 年輩の男性が、懐かしそうな顔をして声をかけてきた。競羅の馴染みのある御用人の佃宗吉である。歴代、御用人はすべて、佃宗吉と名乗り、その名前を次いでいた。

「宗吉さんか、懐かしいね。それより、まだお嬢かよ」

「おいにとっては、今でも、お嬢ですだ」

「仕方ないね、本当に。それで、剛日さんは元気かい?」

「旦那様は、今、大事な客人と会談中でっさ」

「相手は誰なのだい?」

「そいつは勘弁を、いくらお嬢でも、場の秘密ですけえ」

「わかった。それなら待つことにするよ」

「では、こちらへ」

 宗吉に案内され、競羅は長い渡り廊下を通って客殿に入った。

 宗家の客殿は茶室を兼ねたもので屋敷の奥にあった。外には日本庭園が広がっており、池には数匹の鯉が泳いでいた。そして、獅子おどしの音がする、贅沢な造りの庭が見える、この客殿で彼女は待たされることになった。


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