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Confesess-1 15

第十五章


 それからも、天美の田之場狩りはつづき、なおも次々、組長たちが逮捕されていった。

そのことについて、競羅と数弥は、いつもの店、スクープで話し合っていた。

「それは、天ちゃん、ひどい状況すね」

「ああ、もう、どうしようもなかったよ。何か、かなり面白くないことがあったみたいで」

「何があったのでしょうか?」

「さあ、わからないね。聞こうとしたけど、答えてくれなくてね」

「そんなー 天ちゃんの身が心配じゃないんすか」

「心配っていったら、やはり、本家の方だね。警察に、次々と有力組長が逮捕されているからね。組長どもの自白から、どこで、どんな証拠が見つかって捜査が入るか」

「まったく、姐さんは! そういうところ、天ちゃんもわかってるんすよ。この間の会話聞いていたんすから。だから、言うことを聞いてくれないんじゃないすか」

 数弥はそう非難の声を上げた。

「とは言ってもね、優先順位は、やはり本家なのだよ。大きな義理があるからね」

「その本家に迷惑がかかるということで、天ちゃんを説得しにいったんじゃないすか」

「そうだったのだけど、よくよく考えたら、警察も本気では、つぶすことはできないかもしれないね。色々と都合が悪いことがあるからね」

 競羅は答えながらニヤリとした。そして、数弥も反応をするように、

「やはり、あっちの件すか」

「ああ、政治家とつながった右翼の大物がバックについているからね。ものすごく、はっきりした証拠が、おおやけに出ない限り、何とかなると思うけどね」

「その、右翼の大物のことすけど。もし、天ちゃんが、田之場を追っているうちに近づいたら、どんなことになる、でしょうかと思って」

「近づくって、能力にかかって自白するってことかい?」

「ええ、そうす。前、芝垣っていう男が、天ちゃんのスキルにかかって、全面自供したおかげで、邦和グループは、ものすごい打撃を受けたでしょう」

「ああ、数々の不祥事を隠していたり、総会屋の関係が表に出て、消費者からの信用を思いっきり失い。その結果、とほうもない金額の賠償金を支払うことになったからね。外国でも取引をやめた国も、多数出てきたし、本当にグループ全体の危機だよ。これは、下手したら、倒産する子会社が出てくるかもしれないね」

「だからすよ。別の右翼、今度は信之道氏の直系にあたるぐらいの人物が、田之場の幹部と関わって、ひょんなことから天ちゃんのスキルにかかり、すべての罪を自白したら」

「あんた、言ってることわかっているのかい!」

 競羅の目が、より鋭くなった。

「姐さん、どうしたんすか、目がこわいすよ」

「あのね、前回は、総会屋の中でも小物の方だったから、邦和だけですんだのだよ。本当の大物はね、日本の暗部、そのものだよ!」

「暗部とは?」

「文字通り、暗部だよ。日本を支えた財閥は邦和だけではないからね。まだ、色々な財閥があるよ。それも、長い歴史の中では、邦和並みに悪行をしているからね。日本に巣くう大物の右翼は、そういう、とんでもない、絶対に部外者にもれてはならない大重要事項を、知り尽くしているのだよ。そんなのがばれたら、もう、本当にえらい事だよ。邦和事件よりも数倍の大混乱が起こるよ。大会社が次々に倒産し、経済はメチャメチャだよ。あんた、セラスタのことなんて、言っておれなくなるよ」

「そんなことになるんすか?」

「ああ、ことは、それだけではすまないね。日本国が近代に起こした数々の戦争。これも、いろいろと裏があるよね。そんなのが、自白なんかによってばれたら、これはもう、大、大国際問題だよ。今の日本の地位なんて簡単に吹っ飛ぶよ」

「そ、それは、えらいことすよ!」

 数弥は今更ながらも驚いた。

「だから、そんなことを、軽々しく口に出すものじゃないよ。しかし、考えると頭が痛くなるね。今から思うと、あの子にセラスタ事件のこと話したのを後悔してるよ」

「でも、話したからこそ、天ちゃんに助けてもらうことができたのでしょ」

「ああ、そうだけどね。初めから、この事件を知らなければ、よかったと思うよ」

「ですけど、それもまた、天ちゃんのスキルによって始まったのですよね。それを、姐さんの、義理の兄さんである下上さんが知って、こうなったわけですし」

「あんた、何が言いたいのかい!」

「だから、僕が思うに、これは、なるべくしてなったという」

「確かにね、なぜ、天の神様は、あんな、まだ本当の分別が、つかないような年の子供に、あんな力を与えたのかね。実際、セラスタは滅茶苦茶になってしまったし」

「姐さん、今、神様と言いましたね」

 数弥が突っ込んできた。

「いや、それは・・」

 競羅は狼狽した。まったく、思わず口から出た発言だからだ。

「だから、その考えていたら、つい、出てしまったのだよ。それだけ大事なのだよ」

「確かにそうすね。でも、天ちゃん、どうして、こんなことを続けるのかなあ。さっき、姐さん、面白くないことがあるみたい、とか言ってましたね。きっと、イライラするような大きな悩み事ができたのでしょうね。姐さん、聞き出してくれませんか」

「だから、失敗をしたと言っているだろ。あの年頃の子供は、一番、説得が難しいのだよ」

「では、どうするんす。このまま、ほかっておく気なんすか?」

「いや、時期を見て聞き出すよ」

「それって、いつすか? 姐さんも知ってると思いますが、昨日もまた、田之場の組長が捕まったんすよ。こんなことを続けていると、ろくなことになりませんよ」

「そこまで言うのなら、あんたが説得をすればいいだろ」

競羅が反撃をした。その言葉に、数弥はしばらく黙っていたが、やがて言った。

「わかりました。そうしましょう」

「ほう、では、今度は、あんたが、うごくということだね」

「ええ、僕も、今、一度、天ちゃんと話し合ってみたいすから。何とか、説得をしてみます。住んでるところは、まだ変わっていませんよね」

「ああ、まだ、あの宿屋にいるよ。こわいもの知らずっていうか」

「でしたら、まず連絡をとってみますよ。電話は、もう直っていますよね」

「多分ね。それで、わかっていると思うけど、これ以上、いらつかせないようにね」

「ええ、よくわかってます。任せておいてください」

 こうして、二人の話し合いは終わった。


 だが、事態はもう少し進んでいた。数弥と競羅、二人が話し合ってる三日前ほど前、ある場末のスナックで、一人の男性がやけ酒を飲んでいた。

「くそ、あの小娘め、捕まえたと思った瞬間、煙のように消えちまって! おかげで、箱田組長は捕まってしまったし!」

 男は店内で愚痴っていた。そして、なおもボルテージがあがり、

「しかし、どうも、わかんねえ! 考えれば考えるほどわかんねえ! 二度ほど、あの小娘と、やりあったことは確かなのだが、そのあとの記憶がねえ! 他の連中も、同じようなことを言ってる限り、幻ではないと思うが!」

 その叫んでいる男に、

「あんさん。何か、荒れてまんなあ」

 声をかけてきた男性がいた。顔はばが広い、にやけた関西弁の男である。当然、男は、その声をかけてきた関西弁の男にかみついた。

「何だ、あんたは!」

「まあまあ、あんさん。そう怒りなさるな。わても、似たような経験があるさかいに」

「似たような経験、あんたもか」

「へえ、あんさんと同じように、娘っ子に、してやられましたんや」

「それは、俺とは違うだろ」

「まあ、聞いてくれなはれ、わいの場合は、平田という連れと一緒に借金の追い込みをしていたとき、邪魔をしてきた娘っ子がいて、その娘っ子を捕まえたと思った瞬間、記憶が消えてしもうたんですわ。平田もそうだったらしく、首をかしげるだけで。

それで、次の日、親分が運転手の本田と一緒にわいと平田を連れて、また、その客のとこに集金に行ったんやけど、同じような娘っ子が待ち構えていて、そのときも、確か親分の命令で捕まえたはずなんやが、またも記憶だけが飛んでしもうたようで」

「何! 捕まえたとき、記憶が飛んだだと」

「ええ、そのへんの記憶が、パーッと消えてしもうたんや。二度目のときは、気がついたらサツの中や。音田の親分と違って、わいや本田、平田は三日前に放免されたんやが」

「うーん。それは興味深いな。おっと、自己紹介をしておこう。俺は箕田という、ちんけなものだ。職業は無職というか・・」

 箕田はここで言葉を濁したが、相手は、いけしゃあしゃあとして次の言葉を。

「無職、違いますやろ。こっち系でっしゃろ。すぐ、わかりまっせ」

「では、おめえは関西系の!」

 箕田は気色ばんだが、その相手は手を顔の前で振った。

「違いまんねん。上方出身ですが、あんさんと同じ、田之場のもんです。申し遅れましたが、セ田組、音田組下の棚田と言いますねん」

「セ田組か、俺はヌ田組、箱田組配下だ。しかし、同じような話があるものだなあ」

「わいも、今日、あんさんに会うまでは、わいだけ、やられた、と思ってましたわ。それで、あんさんの場合、どないな風やったんですか」

「似たようなもんだ。最初は相方の安田と一緒に立ち退き要求をしに行ったんだ。そこで、小娘が現れたような感じがして、そうだ、確かにそいつを捕まえたはずなんだが、気がついたら、肝心なナシをつけるの忘れていて、安田ともども箱田組長にどやされたんだ。

 それで、その何日かあとに、同じとこに組長が運転手の上田と俺、安田の三人を連れて行ったんだ。交渉中、また同じ小娘がどこからか現れて、それで組長が怒って、俺が安田と一緒に、そいつを確かに捕まえたはずなんだが、気がついたら俺はブタ箱で、そのとき、一緒にいた組長も捕まったと聞いて。本当に、俺、何を言ってるか、わからないだろう」

「何となく、わかります。わいも、いまだに、あのことは、狐につままれたような感じやさかいに。逃げ出した平田からは、わいと本田が、『この件を、うやむやにするように』とか『これ以上、娘ッ子に関わってはいけない』と言うことを叫んでいたと、妙な言いがかりをつけられましたし、ほんま、不思議な出来事でしたわ」

「なにっ、『この件に、これ以上、関わらないように』と叫んだ、だと!」

 箕田の目の色が変わった。それを感じたのか、棚田は慌てて弁解した。

「だから、それは違いますんや。わいは、そんなこと言った覚えはないんです。こればっかは信じてもらわんと、あんさんには、どうも、しゃべりすぎたようで」

「違うんだ。俺も、それと同じ疑いをかけられたんだ。しっぽを巻いて逃げ出した安田に、『おめえと上田、そろいもそろって、いったいどうしたんだ? あの変な娘の言うことを聞いて、「この件から手を引け」とか、「もう、やめよう!」とか叫んだだろう』て、箱田組長が不在のため、まだ処分はされていないが、実際、無職になるかもしれんなあ」

「へえ、そこまで、わいと一緒のことが起きたのでんか。これは縁というか、しかし、こんなこと、お互いに人には言えまへんなあ」

「まったくだ、他の奴らにしゃべっても、誰も信じねえだろうなあ。女の色気で頭がおかしくなったか、狐かムジナに化かされた、と言われるのが関の山だ」

「狐かムジナ、実際、ほんまに、そうかも知れまへんで、つい、最近まで出たと言うし」

「まさか!」

「わかりまへんで、無意識で『関わらないように』なんて叫ぶとは、いかにも」

「何か、ぞっとする話になったな。これは、もっと飲みあかさないと。なあ兄弟」

 箕田がそう声を上げたとき、

「お客さんたち、興味深い話をしてますねえ」

 と声をかけてきた人物がいた。

「何やて」

 棚田がそう言い二人が顔をあげると、そこには、シェーカーを持った青年が立っていた。

「何だ、バーテンさんか」

「バーテンさんはないですよ。僕もお仲間ですよ。皆さんの」

 そのバーテンは、はにかみながら答えた。

「では、同じ田んぼか」

「はい。ム田組に属している代田と申します。みんなには、しろっぺと呼ばれてますが」

「ム田組、そう言えば、あそこの組長も確か、この間、捕まったな」

「ええ、波田組長ですよね。捕まりました。あのときに」

 代田は目を伏せて答えた。

「あのときというと」

「あの、物のもののけに会ったときです」

「物の怪とは、また、けったいなことを!」

「ですが、組のみんなは、少女に化けた物の怪、だと言ってましたし」

「少女、やはり、あの小娘がらみの話だな」

 箕田の目が光った。

「おそらく、皆さんも、同じ物の怪にやられたのでしょうね」

「何にしても、面白そうな話だな。酒のつまみにでも聞かせてくれ」

「わかりました。でも、本当に不気味な体験ですから、覚悟して聞いてくださいね」

 代田は前置きを言うと、そのときの体験談をしはじめた。


「あれは、かれこれ一週間前の夕方でしたか、僕たちが事務所でくつろいでいたら、組員の一人藤田が事務所に、血相をかえて飛び込んで来ました。

『寺の前の公園に少女の幽霊が出て、吉田と田中がたたられた!』と、

 そこには組長もいましたし、仲間たちも初めは馬鹿にしていましたが、結局、面白半分に、そのときの話を聞くことにしたのです。聞いている途中、組長が怒り出しました。

『お前、それで、あの件を反故にして帰ってきたのか!』と、

 どうも、吉田、田中、藤田の三人は、波田組長の命令で、何か交渉みたいなことをやっていたようなんですよ。それが、こんな風に帰ってきたので怒ったようでした。

波田組長は目を怒らせながら藤田に尋ねました。

『それで、そこにいたのは、あの女どもと、幽霊らしき女の三人だけだったのだな』と、

その問いに、藤田は恐る恐るうなずき、組長の怒りも、より増しました。

『それは、あの女どもがダチを呼んでやった芝居だ。まったく、うちの組員たるもの、そろいもそろって、そんな、芝居ぐらいで脅かされやがって! あの女ども、今頃ヤサで大笑いをしているはずだ。今から目にものを見せてやらないとな。行くぞ!』と怒鳴って、

 そして、僕も、藤田や他の四名の組員たちと一緒に、組長についていくことになったのです。そのときは興味半分でしたし、相手が女三人ということで、それなりの想像をして、

大型RVを出し、組員の一人、前田の運転で、その女たちのいる家に向かいました。

 だが、事態は予想外なことになりました。その家の少し手前に騒ぎのあったという公園があるのです。遠回りをすれば、さけることができるのですが、組長は強気でした。

『幽霊なんているわけないだろう。そんなことなんかで回り道なんかしたら、後世までの笑いものだ。それに、あいつらが何を見て、おびえたのか、確かめないとな』と言って、

 やがて、そのRVは問題の寺の前に来ました。庵主もいない、さびれた寺です。

『おい、この場所か?』と、組長が藤田に声をかけ、彼はうなずきました。

 天候もよどんでおり、スモークガラスでは、まわりの様子が、まったく見えなかったので、僕たちは、車を停止させると、サイドのウインドーを開けました。

すると、薄暮の中、ギーコ、ギーコと妙な音が聞こえて来ました。どうも、寺の前の公園の方からです。しかし、その、さびれた公園では誰も遊んでいませんでした。

だが、音だけがします。一同が不審がると、その音は公園の古びたブランコの鎖がきしむ音でした。藤田は、車内から、そのブランコを見て、『あわわ』とふるえ上がりました。

 ブランコには、何と一人の少女が乗って遊んでいたのです。その姿を見た組長は、

『あいつか! 正体をひっぺがしてやる。ものども行くぞ!』と、

 号令をかけ、一同は、車を止めると、その公園に乗り込みました。

 ところが少女は、僕たちの姿を見て、ふくみ笑いをしました。普通の女の子なら、筋者が七人も現れたら、顔色を変えてふるえ上がるはずですが、笑ったのです。それどころか、

『やっぱり来た。また来ると思って待ってたんだ。きっと、親玉もいるよね』と、

 まさに、この世の物ではない証拠か、そのまま、笑みを浮かべながら答えたのですよ。

 その声を聞き藤田は逃げ出しました。残ったのは組長、僕を入れて六人です。組長は、

『ふざけやがって、おい、あいつを捕まえてこい! 岡田、池田』と命令をしました。

命令に従い、岡田、池田の二人は、少女を両端からつかみ、ブランコから引きずり落とそうとしました。ところが、その二人は行動をやめ、おかしなことを言い出したのです。

『かまっていられないから、もう組に帰りましょう』とか、

『この一件から、手を引きましょう』というような。

『お前ら、いったい、何を言っているんだ。おい残ったやつら、前田、福田、代田の三人だったか、とにかく、あの娘をブランコから、たたき落とせ!』と、

 怒った組長は命令をしましたが、僕は足がすくんで、うごきませんでした。それでも、えらいものです。前田と福田の二人は無謀にも少女に向かっていきました。その結果、

『ぼくは、もう、この子に、かまうのやめるからね』

『そうです。本当に、この場から、立ち去った方がいいですよ』と、

 前の二人と同じように言い出したのです。二人の変貌を見て、僕は、これが、たたりだと確信をしました。時間にして、逢魔おうまが時、まさに魔物が現れたのだと、そして、吉田、田中、そして今の四人も、あの魔物の少女にかまって、たたられたのだと。

 そのあと、少女はブランコから飛び降り、僕たちの方に近づいてきました。

 そして、その少女は、その、身体が、わなわなと、ふるえている組長に向かって、『・・しゃべってもらう・・』と、よく聞き取れませんでしたが、という言葉を、

 破れかぶれになったのか組長は、直接、少女に向かっていきました。そして、あえなく、

 そのあと、大声で何か色々と、自白みたいなセリフを語りはじめました。やがて、自転車に乗ったお巡りが二人かけつけてきました。通報でもあったのでしょうね。

 そして、波田組長は、そのまま連れていかれて、二度と組には帰ってきませんでした。

 組のみんなは、あれは、物の怪だったと騒ぎ、それから、あの寺の周辺には、僕を含め、組のものは誰一人近寄らなくなりました。これが僕が体験したことです」

代田の話を聞き終わると、

「ふうー」

 箕田が大きく息を吐き、そのあと言った。

「まったく、そこだけ聞けば、よくできた怪談話だな」

「話ではありません。本当の体験談です」

「それで、今はどう思うのだい?」

「皆様も、物の怪にあって、ひどい目にあったのだなと」

「まさか、俺が、あの小娘らしきものに遭遇したのは、借家の前の通路だぞ」

「わいの方は雑居ビルの中でしたわ」

「ですけど、物の怪というのは、どこにも出ますから。古い建物なんかは特に」

代田がそう答えると、箕田と棚田は、お互いに顔をのぞき込んだ。そして、

「確かに物の怪のたぐいかもしれねえなあ。今どき、狐やムジナが出るわけねえし」

と箕田は同意した。物の怪説を信じ始めたのだ。それ以上の智恵が回らないのであろう。

「せやな。わいも、そないに感じるしかないかな」

「何にしても飲み直そうぜ、しんきくさい話は、なしにしてよ。代っぺ君か、君にも、話を聞かせてくれた礼としておごるよ。パーと飲んでくれ」

 箕田が声を上げ、こうして、その三人の話は、一旦、その場で終わったのだが、


田之場会長、大田山は、その日、馴染みの女のところにいた。

「あなた、このところ、わたしのとこにくる回数、増えたわね」

 女の言葉に、ベッドの横に寝ていた大田山は顔をしかめて言った。、

「ちょっとわけあってな、しばらく、新しい女がいそうな場所に近づけねえんだ」

「それは、大変、いいことね」

「よくねえよ。こう下のものたちの不祥事が続いちゃ、もっと、気晴らししねえと」

「では、気分転換に、面白い話をしてあげましょうか」

「面白い話だと?」

「昨晩だったかな。あなたの部下らしき三人が、面白い妄想話をしていたのだけど」

女は答えた。そう、この女は、昨夜、三人が話をしていたスナックの従業員であったのだ。女はしゃべりながら笑い出した。

「ウフフ、それが傑作なの、盛り上がったとこしか聞かなかったのだけど、あまりおかしくて、おなかの中で笑えてきたわ。みんな、最近逮捕された組長の子分なのだけど、その原因が、何と少女だって? 物の怪みたいな少女が取り付いて、組長が逮捕されたって」

「な、何だって!」

大田山はベッドから飛び起きた。その態度に、当然、女は驚いた。

「何を驚いているの? 責任逃れのための、いい加減な妄想話よ」

「何でもいい、その話、詳しく教えてくれ!」

「詳しくも何も、そんな、最初から最後まで聞いていないから、少しか話せないけど」

 そして、女は、昨夜の箕田、棚田、代田から聞いた部分について話した。

 その話を聞いたあと、大田山は勢いよく声を出した。

「それで、その三人の素性はわかるのか!」

「あなた、そんな話、真に受けるの? さすがに、バカバカしいでしょう」

「いいから、教えるんだ!」

「一人は代田っていう子よ。うちの店で働いている。あとはセ田組の棚田さん。もう一人は初めての人ね。でも、その二人に聞けばわかるでしょう。意気投合をしてたから」

「そうかい、ありがとな」

「でも、あくまでも都市伝説のたぐいよ。本気にして、代田君をいじめないでね」


 翌日、大田山は、代田たち三人を呼びつけた。場所は、重要な雑談にはもってこいの料亭の個室内である。三人とも、最初は、どのようなことで呼びつけられたか、わからずに恐縮をしていたが用件を聞くと、

「なるほど、なるほど、そないな用件で、わてらを呼びつけたんですな」

 まずは、棚田が、くだけた口調で答えた。ものおじしない性格である。

「そうだ。お前らが飲み屋でぐちっていた、その少女のことだ。さて、そいつのことだが、時間がないので、単刀直入に聞くが、おめえら、本当に物の怪だとい思うのか?」

「そら、あんなことできるの、人間ではありまへんで」

 棚田は顔をしかめながら言った。

「違うな、あれは、高度な催眠術だよ」

 大田山の言葉を箕田が思わず復唱した。

「さいみんじゅつ」

「そうだ。催眠術というのはな、幻覚を見せたり、人をあやつるものなのだよ。クスリを使っても、ある程度のことができるけど、おめえらは、そんなもの服用してなかっただろ」

「むろんでっさ。あんなもの、馬鹿な客に売りつける道具ですさかいに」

「箕田、代田、おめえらはどうだ」

「俺もないです。あれは、女に言うことを聞かせるとき、ぐらいに用いるだけで」

「僕もありません。若い組員の中には、使っている子もいるらしいですが」

「だろう。だったら、催眠術だよ。おめえらは、メスガキの催眠術に引っかかったのだよ」

 大田山の説明に、三人はようやく合点がいったらしい。

「するてえと、俺たちは、小娘の催眠に引っかかっただけであって、初めから、狐や魔物も存在しなかったということですね」

「そういうことだ」

「あの小娘めが、今度、見つけたら承知しねえぞ」

 箕田は歯ぎしりをしながら口惜しがっていた。その様子を見ながら、大田山は言った。

「それなら、ちょうどいい、実はお前たちを呼んだのは、そのメスガキを、俺のところに連れて来て欲しいのだよ。色々と利用ができそうだからな」

「えっ、あの小娘をですかい?」

「そうだ、連れてくるんだ。それで、お前たち、そいつの顔を覚えているか?」

「まあ、うっすらと」

「ある程度ですか」

「僕は、はっきりと覚えています。かかりませんでしたから」

代田はそう答えた。

「それなら、話は決まった。お前たち三人に、その任務を与えよう。そのメスガキを見つけて連れてくるんだ。そうすれば、空いた組長の座に昇進させてやるぞ」

「ほんまでっか」

 棚田が目を輝かせた。蓑田も同様である、だが、代田は違った。

「僕は、組長という大それたところまでは遠慮をします。まだ、若いですし、恩を受けた波田の親父さんに、申し訳ありませんから、それに」

「それに、何だ?」

「その少女を捕まえるということですが、果たして、うまく行くのでしょうか。今度も捕まえようとしたら、またしても、催眠術にかかるような感じがして」

 代田は心配声をあげ、その言葉に不安になったのか、棚田と箕田は顔を見合わせた。

「あのな、おまえら、普通、催眠術って、どういうときにかかるか、知っているか」

 その様子を見て、大田山は尋ねたが、誰も答えることができなかった。仕方なさそうな顔をして太田山は口を開いた。

「まったくもう、本当に、ものを知らねえ奴らだな。ほとんどの催眠術っていうのは、相手の眼を見つめて、かけるものなのだよ」

「そういえば、わい、あの娘っ子に見つめられたような」

「俺の方も、はっきりしねえが、かっとしたとき、あの小娘をにらみつけただろうな」

「僕も微笑まれましたとき、かかったのでしょね。だから、身体が動かなくなったと」

 三人の返答に、大田山は満足したのか、言葉が柔らかくなった。

「おまえら、よくわかっているじゃねえか。となると、対処方法はわかるな」

「濃い、サングラスを着用するとか」

 箕田が答えた。

「それもそうだが。もっとも、大事なことがあるだろう」

「大事なこととは?」

「わからないか。本当に、頭の回転が悪いな、それはな、捕まえるとき、絶対に相手の目を見つめないことだ。そうすれば、まずは引っかからないな」

「なるほど、相手の目を見ずに確保する。そういうことですね」

 代田はそう感心したように言った。

「そういうことだ。目隠しなどをして、相手の催眠術をふせぐんだ」

「つまり、確保したら、さっさと目隠しをすると」

「その通りだ。くどいことを言うが、捕まえるとき、絶対に相手の目を見てはいけないぜ」

 大田山はそう念をおすと、

「もっと、ゆっくり話したかったが、急に行かなければならないところが、できちまったんだ。ついさっきも、また直系の一人がサツにパクられちまったからな。残った、お前らは存分に楽しんでおくれ。では、近いうちに頼むぜ、いい返事を待っているぞ」

と言い残し、テーブルに数枚の一万円札を置いて出て行った。

店を出たあと、大田山は思っていた。

〈さーて、あいつらには、メスガキの能力は催眠だと言い切ったけど、まだ何か、少し引っかかるな。今回、捕獲を失敗したら、次の手を考えればいいか。それに、あれが催眠じゃないとしても、俺としてかまわないな。それなりの対策は用意してあるからな。その時は、あんな、ぼんくらたちと違って、しっかりと対策をたたきこんだ、飲み込みのよい、より抜きの精鋭部隊を送ってやるとするか。それまでは、何があっても辛抱が一番だ〉

 たとえ、天美の能力の発動方法が、自分の思ってるときと違っていた場合にも、勝算があるのか、大田山の口からは笑みがこぼれていた。



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