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Confesess-1 14

第十四章


前回の通話から三日後、天美は修理された宿の電話を使って、カスタネード家に連絡を取っていた。今回、電話口に出たのはザニエル本人である。

「あっ、ザニエルさん」

「おっ、そろそろ、かかってくるころだと思っていたよ。電話は直ったんだな」

「だから、ヘエンには出させずに、わざわざ、ザニエルさんが出てくれたんだ」

「ま、まあ、そういうことだな」

「それで、ヘエンは、今、屋敷にいるの?」

「いるけどな、気分が悪いということで、寝込んでいる」

「へえ、そうなんだ! では牙助、出してもらえるよね!」

 天美は声をはずませたが、ザニエルの返事は、

「おっと、その前に、電話を一度切らないと、かけ直さないといけないからな」

 そして、すぐに、折り返し電話がかかってきた。受話器を取ると再びザニエルの声が、

「これで、数分間だが、何でも話ができるな」

「そうだね。それで、牙助、電話口に連れてきてくれた!」

「そのことだが。今は出て行っていないのだよ」

「では、いつ戻ってくるの? 今日なの! 明日なの!」

「それがな、いつ帰ってくるかどうか、はっきりしないんだ」

「そんなに難しい用事頼んだの。遠いとことか」

「遠いといえば遠いかな」

 ザニエルの言葉は歯切れが悪かった。その様子に、天美は何か異常を感じ取った。

「では、どこなの! まさか、知らないってことないよね!」

 天美の興奮した声にザニエルは困っていたが、すぐに意を決し、ある言葉を言った。

「実はな、牙助君が失踪をしたんだ! だから、ヘエンも落ち込んでしまったのだよ」

「ど、どういうことがあったの?」

「そのことだけど、今から話すから、落ち着いて聞けよ」

ザニエルはそう言うと、そのときの話をし始めた。

「あれは、そう月食の日であった」

 前置きを言ってザニエルが話した内容とは、


その夜、屋敷内で、ガチャンと窓ガラスが割れる大きな音がした。

 その音は、牙助のいる部屋からしたもので、ザニエルが、気になって部屋にかけつけると、催眠術にかかったかのように、うつろな目の色をした牙助が立っていた。

 その両手には、武器らしき道具が、それぞれ、計二刃握られていた。まさしく、暗殺者が使うような、半円型で、その背に当たる曲線の部分の方を刃にした暗器が、

 ザニエルがあっと思うこともなく、牙助の持った暗器は彼の喉元をかすっていた。

 かすって、ただの衝撃だけですんだということは、暗器が相手にダメージを与えるような材質で造られていなかったからである。その材質が、最低でもプラスチックであったのなら、ザニエルの喉は間違いなく、かき切られていたであろう。

牙助は、おぼろげながら感じていたのだ。いずれ、本格的に目覚め、このような日が来ることを、だから前もって、ふわふわな題材で、その暗器を造っていたのである。

 床に倒され、恐怖で身がすくんだザニエルが立ち上がったとき、すでに、牙助の姿はなかった。割った窓から抜け出していたのであった。

「とまあ、こういうことだったんだ」

「そ、そ、そんなこと、あったなんて!」

 天美もショックであった。今まで約二年、行動がすれ違っていたため、会うことができなかった牙助と、ようやく話ができると思っていたのに、こんなことになってしまって。

「がっかりしただろう。だから、本当は話したくなかったのだよ」

「しかし、月食に動く行動なんて、まるで、裏ラスタ(アトゥラスタ)みたいな」

「その通り、あれは、どう見てもアトゥラスタだ! 奴らが操っていたのだろう」

ザニエルが口にだしたアトゥラスタ、この組織もまた、天美がセラスタ時代、対峙をした相手である。国際的な暗殺団で、近代アメリカ大陸における、政府系要人の不慮の死のほとんどに、このアトゥラスタが関係していると言われていた。

 その成立は古く、古代エチオピア文明が、インド洋を経由して、南米大陸に渡り、一文化を創り上げたときが起源であった。このアトゥラスタと、名乗り始めたのは、十九世紀の始め、インドから連れてこられた奴隷と、アフリカから連れてこられた奴隷が、西インド諸島で融合したときである。目的は、あくまでも暗殺のみ。政治、経済には、一切、興味がないので、普段は表には出てこない組織でもあった。


「でも、牙助は夜の宝石にいたのでしょ。裏ラスタなんて関係ないはずだし」

「いや、どうも、あとから色々と考えると、本籍の方がアトゥラスタだったらしい。ノチェスホェリアにいたのは、おそらく、今は亡き姉を見守るためだったのじゃないかな」

 冒頭の説明でも出てきたが、彼の姉は夜の宝石の幹部秘書であった。

「そんな、裏ラスタとは、わったし、牙助と一緒に戦ったこともあったのに」

「だから、あのときはまだ、覚醒をしていなかったのだよ。先の月食でマインドコントロールが復活したのだろう。まったく、あそこは怖ろしく不気味な組織だよ。それにな、あれからHOWAの事件の追及を受けて、商務大臣と前外務大臣が続けて謎の自殺をとげた」

「えっ、それって、やはり?」

「否定はできないな。だが、あいつは関係ないだろう、肝心な死因が違う、二人とも毒を飲んだ中毒死だ。だいたい、彼らは日本からの援助金を食い物にしたうえ、あれだけの犠牲者を出した事件を隠そうとしたんだ。どのみち、懲役百年以上はまぬがれなかったよ」

「何にしても、そうなったら、わったしも、すぐそっちに戻らないと!」

 天美は意を決した口調で答え、その言葉にザニエルは慌てた。

「いや、まずい。それは、やめた方がいい!」

「だって戻って、牙助、探さないといけないでしょ」

「お前、国がこんな状態なときに、アトゥラスタと一戦構える気か!」

「時と場合によっては」

「その言葉、日本に行ってからも、変わってないというか、我慢強くなっていないな!」

 ザニエルの口調が厳しくなった。

「そんなの、わったしの勝手だと思うけど」

「そんな態度なら、なおのこと帰って来るな! 今、政府が、かなり強引なことをやっている。ノチェスホェリアが壊滅したことにより、政情が不安になり、大量の失業者が出たからな。暴動も増えたし、そんな時期にアトゥラスタを刺激するなんて」

「それ、前も聞いたでしょ」

「その上に、こんなことが発覚したんだ。政府はスキャンダルによって起きた治安悪化をしずめるために、より厳しい政策を取るようになった。その際、以前から反政府的な態度をしている団体をも、前以上に厳しく取り締まるようになったんだよ」

「そうなると、里の方も!」

 天美は自分が世話になったレジスタンスの村、パチュワンの里が心配になった。

「いや、そちらの方は心配はないだろう」

「えっ、それ、どういう意味?」

 彼女は思わず聞き返した。あまりにも妙な返事であったからだ。

「前、俺は、そこまでしてヘエンを雇う理由については話さなかっただろう。その理由はな、お前からの電話では、検閲ソフトが気になって話せなかったのだ」

「というと、それも政府がらみなの?」

「そういうことだ。だいたいな、権力にすりよることが嫌いな俺が、なぜ、国政議員のマレスさんの機嫌をうかがっていたのかわかるか。実はな、政府とパチュワンの里が和睦することになって、その調整役がマレス氏なんだ」

「和睦? 今頃になって、また前みたいに罠じゃないの?」

「だから、それを、確かめるためにもマレス氏が必要なんだ。俺の心証だと、政府は本気で結ぼうとしているだろうな。今のごちゃごちゃな時勢、ブラジルやコロンビアの反政府組織などと組まれたら厄介だからな。そして、アトゥラスタの暗躍、以上、色々なことが重なり、今はデリケートな時期なのだよ。それに、もう一つ理由がある、ヘエンが怒っているんだ。牙助がいなくなったのは、お前のせいだって」

「そんなの、ただの八つ当たりでしょ。わったしだって、そのこと聞いて気分悪いし!」

「とにかくな、ヘエンは、今、お前の声も聞きたくないらしい。だから、電話にも出ないんだ。お前が帰ってきて怒らせたくないのだよ。マレス氏まで影響が行くかもしれないし」

「まさか、そんなことぐらいでマレスさんが」

「いや、たとえばの話だよ。俺だって、孫娘には弱いしな。頼まれたら、もしかして?ということも、ないとは言い切れないし」

ザニエルは答えながら頭をかいていた。そして、その話題を打ち切るかのように、

「それよりもな。お前、今の宿に満足をしているか?」

 と尋ねてきた。その質問に天美は面食らったが、次のセリフを、

「満足とまで言えないけど、また、別の宿探すの面倒だし」

「それなら、これから、ずっと、住む場所を見つけるんだ。今のところだと、また、いつ電話が故障するかわからないからな。それに、住居が決まれば、お前も何かと落ち着くし」

「でも、どうやって?」

「もちろん、買うか借りるんだ。どちらにしても、その費用は俺が全額負担をする」

「と言われたって、そんなこと、今、考えてる余裕なんてないし」

「とにかく、日本で住むことを考えるんだ。それが、お前のためなんだ」

「何にしても、わったしは、帰っていけない、というわけね!」

 天美のボルテージが上がった。

「そういうことだ。わかったら我慢をしてくれ! いるものは、何でも用意してやるからな。さて、今日の話はこれぐらいということで、またこの次だな」

そう言って、ザニエルは通話を終えた。


受話器をおろした天美は、今の電話の内容に納得がいかなかった。そのまま、寝る気分にはなれず、気分転換のため外出をすることにしたのである。

深夜の夜の街を天美は歩いていた。散歩というより、さまよう感じである。すると、向かいから、いかにも、がらの悪そうな三人組が肩をそびやかせて歩いてきた。

 一目でチンピラとわかる三人組に、あたりを歩いていた人は、みな、かかわらないように道をあけ始めた。いつもの彼女なら避けるのだが、今回は、かなり虫の居所が悪かったのだろう。そのまま、まっすぐに向かい、その結果、男の一人にぶつかったのだ。

「おい、姉ちゃん、どこ見て歩いているのだよ!」

その男がすごんできた、

「そっちこそ、何、言ってくるのよ! わったしは、今、最高に気分悪いのだから!」

 天美も思わずそう言い返した。ただでさえ、気分がすぐれない夜である。

「機嫌が悪いだって? それで、俺たちに歯向かうとはなあ、ムラやん」

「タカ、こいつはまた、今日のおかずにちょうどいいぜ、事務所で一丁可愛がってやるか」

 と二人の男、高田と村田が口に笑みを浮かべながら声を掛け合い始めた。

「事務所っていうと、ひょっとして、あっなたたちも田之場のお仲間?」

 天美はいたずらっぽい口調で尋ねた。その態度とセリフに、男たちは面食らったような顔をしていたが、すぐに、最初にぶつかった男が高圧的な態度で声を上げた。

「おーそうだよ。俺は西田、ノ田組系道田組のものだ。どうだ、恐れ入ったか」

「そう、やっぱり、わったしの敵なんだ。それに、かなり下っ端!」

「何だと、この野郎! お前ら、遠慮はいらねえぜ、やっちまえ」

 その叫んだ西田を筆頭に、村田、高田と三人が彼女の身柄を抑えようと、交互につかみかかってきた。だが、その結果は! 当然というか、三人とも弱善疏に墜ちたのである。

 今まで、威勢の良かった男たちは精気をなくし、そのあと、悠然と立ち去る少女の姿をまわりの人たちは目を丸くして見つめていた。そして、その少女天美は、そのとき、今までのもやもや感が吹っ飛び、何とも言えない爽快感を感じたのであった。


翌日から何度も、天美はカスタノーダ家に電話をかけた。だが、ザニエルの返事は同様で、『どんなに頼もうが、国に戻ってくるのは認められない!』の一点張りである。

 天美としても、実際、自分のわがままで、せっかくのパチュワンの里と政府の和解話を壊したくなかったので、それ以上は無茶なことを言えなかった。

また、牙助が失踪した心の痛みも重なり、日に日に彼女の心も荒れていった。その都度、田之場狩りを続けることを、はけ口として不満をはらしていたのである。

 ついに、その行動は競羅の目にあまり、天美の泊まっている宿に現れた。

「最近、田んぼの組長、次々と警察に捕まってるね」

彼女は、すぐさま、天美にその話題をふった。競羅は、その原因が天美であるという、確信を持ち、その行動をやめさせようと思って天美の宿を訪れたのだ。

「そうみたいね」

「そうみたいって、あんただろ。こんなことを起こしている張本人は!」

 競羅の真剣な顔を天美はおかしそうに見つめながら、挑戦するように言った。

「だとしたら、どうするの?」

「決まっているだろ。やめるのだよ」

「あれ、そんなこと言って、良かったの?」

「いいも悪いも、注意は必要だろ」

「でも、ざく姉、こんなようなこと言ってたよね。社会問題になりそうなことは首つっこんじゃいけないけど、田之場については、わったしの判断に任せるって」

「確かに、言ったかもしれないけどね」

「念も押したよね。しっかりと」

 天美は答えながら微笑をしていた。心がダークになっているのか、悪魔の微笑みである。

「けどね。やりすぎたら社会問題になるだろう!」

「どこが?」

「どこがって、あんた、田んぼの組長が次々と逮捕されたら・・」

 競羅に最後まで言わせず、

「だから、どうして、それが社会問題になるの? 悪い奴が捕まるのだから、かえって良いことでしょ。困るの、ざく姉だけじゃない、そのうち昔の友だちも捕まると思って」

 天美はそう答えた。その発言に競羅は内心では腹がたったが、じっと我慢をした。能力を使われては、かなわないからだ。競羅は落ち着いて説得を続けた。

「いや、このさい、友だちは関係ないよ。実際、大きな社会問題になるのだよ。と言っても、今のあんたには、わからないかもしれないけどね」

「わからないなら、それでいいんじゃない」

「けどね、やり過ぎは、絶対によくないよ。向こうの方だって、こう、次から次へと組長が捕まれば、おかしいと思うだろ。こんなことを続けていたら、いずれ、あんたが原因だとわかって、本格的に襲ってくるよ。そうなったら、どうするのだい?」

「それって、かえって望むところだけど」

その返事に競羅は、ただごとではないと感じていた。何というか、おかしいのだ。いつもの天美は、これだけ強気ではなかった。生意気ながらも、まだ可愛らしいところがあった。だが、今は自信満々で憎々しい感じである。

「あんた、何か、いやなことがあったのじゃないかい? どうも、態度が変だよ。何か悩み事があるのなら、こっちが相談に乗るから話してみないかい」

「あっても、田之場の一味に話すことなんて何もないし」

 天美はそう答えるだけである。やはり、目の前の少女の態度はいつもと違う。だが、この問題をほおっておくことはできない。そして、競羅は注意の言葉を続けようとした。

「そうかよ。でもこれだけは聞くのだよ。とにかく、これからは、田んぼを刺激する・・」

「ざく姉、もう、いい加減にして!」

 急に天美のボルテージが上がった。先ほどまで微笑んでいたのと対称に顔が険しくなっていた。情緒不安定そのものという感じだ。競羅が驚くなか、天美はまくしたてた。

「ざく姉は、田之場について、わったしが何やってもいいと認めたの! だから、わったしは好きにしてるの! ということで、田之場について、二度と口出さないこと! もし、今度いさめるようなことしてきたら、わったしだって、前の約束、放棄するからね!」

 その豹変した態度に競羅は処置なしだと思った。今の彼女には、これ以上、何を言っても届かないということを感じたのだ。 結局、とりつくしまがないと悟った競羅は、説得をあきらめて帰っていったのである。


ここは、ある建物内の豪奢な応接室だ。そこで、一人の熊のような男が、これまた、下に熊皮のカーペットがしいてあるソファに座りながら、男性二人と話し合っていた。

 熊のような男は、田之場会長大田山。男たちは、空港で真壁のボディガードをしていた二人組である。男たちは釈放された後、セラスタに帰国することになり、別れのあいさつに来たのだ。その彼らは大田山にある情報を入れていた。

「するてえと、本当に、あの飛行機に乗ってたガキが、すべてのことを引き起こしたのか」

「はい、あの娘が、すべての原因なのです」

 耳にピアスをした男、カムポが大田山に答えた。この男が日本語を話せるのである。

「いまいち、信じられねえなあ」

「わたしどもも同じ気持ちです。空港で、あの娘の能力に引っかかるまでは、あんな簡単に、やられるとは思ってもいませんでした」

「空港って、おめえらが捕まったときのことか」

「そうです。わたしたちが、いたらなかったばっかりに、あのときは、すみませんでした」

「いいってことよ。おめえらは大事な客人だからな。そっちこそ、バカベが、いらんことをしゃべったせいで、しばらくの間、ブタ箱ぐらしをさせて悪かったな」

「ですから、あの、心にもないことを話し出したのには、ある事情があるのです」

「それを、おまえらは、あのガキのせいだというのだろ」

「そうです。何度も申し上げる通り、あのコァンフェセスのせいです」

「そうだ、機内でも、そんなことを言っていたな。コーヒーと思ったが」

「違います。あの少女の通り名です。あの女にかかって、ミスター真壁は空港で、あんな行為をすることになったのです」

「しかしな、それは、おめえらの考えすぎだよ。ガキに誘導されたぐらいで、大勢の前で、罪をしゃべるなんてありえるかよ」

「そんなふうに、決めつけてはいけません」

「つまり、おめえらは、この俺に意見をする気か!」

 大田山は気色ばんだ。

「ノーノー、そういうわけではありません。私たちは、本当に大田山さんのことを心配して、お話をしているのです」

「しかしなあ、さっきも答えたように、どうにも、信じがたいっていうか」

「ですが、ミスター真壁以外、本当に思い当たりませんか。おかしな、自白のようなことをして、大田山さんに迷惑をかけた人たち」

「わからねえなあ」

 そう、なにげなく答えた大田山の頭に、ある人物たちがよぎった。入田と玉田である。

「まさか、あいつらか!」

「やはり、いたのですか」

「違う。あれはな俺が裏切られたのだよ。いつも、目をかけておいたのに、あの野郎どもめ、そろいもそろって警察に、すべてのことをチクリやがって」

「やはり、あったのですね。ですから大田山さん、それは裏切りではありません。その少女の能力によって、ひき起こされたものなのです」

「と言われても、本当に、その場所にガキがいたのかどうか」

「間違いなくいたのです。このところ、一連の怪しげな自白事件には、必ず少女が裏にいるのです。さて、今から、そのことについて、詳しい事情を説明をしたいのですが」

そう答えたカムポは、まず、相方に相談をし始めた。そこまで話していいかどうか。相方のミーレは難色を示していたが、結局、カムポの提案に承知したのである。

相談を終えたカムポは、大田山の方に顔をむけると、

「いま、ミーレの了解を得ました。では恥を忍んで、なぜ、私たちの組織が滅んだか、その理由について教えましょう。話は長くなるけど聞いてください」

 といい、その説明が始まった。

「わが組織、ノチェスフェリアの首領、名前はX様としておきます。X様の、その正体は、国最大のキリスト教教会の大司教でした。X様は大変慎重な方で、表の世界にいるときは、その裏の顔を、絶対にばれないように隠していました。それもそうでしょう、宗教都市ケネスに数百年も前から存在する国最大の教会の大司教ともなれば、近隣諸国、果てはヨーロッパのキリスト教関係の指導者が国を訪れる場合、まっ先に面会する人物なのです。当然、国内での地位は別格で、大統領も、重要な政策のたびに相談をするようなお方でした。その方が、油断からカンフェセスの手にかかり失脚をしたのです」


天美もまた、最初のうちは、まったく、礼儀作法がなっていない半人前であった。

 これでは、とても、接客が必要なお店に出すことができず、そのため、教育係のミレッタは、天美をある場所で修行をさせることにした。上昇志向が高いミレッタは、何と修行の場所に、国一番の教会、第一教会を選んだのである。

第一教会、ミレッタは、まったく知らないながらも、そこは、ノチェスホェリアの本拠地であった。その教会には、やはりいた、かって天美の能力にかかった人物が! 

 上級シスターであった組織の女幹部は、組織の大首領でもある第一教会の大司教に、天美が教会にいることを注進した。報告を聞いた大司教は、能力にかからないように特技である催眠術を使い、天美を捕まえたのである。

天美が捕まったことを知ったザニエルは、当然、その救出にかかった。

二週間後に来る国の独立記念日、間違いなく、その独立セレモニーの最中に天美を処刑すると確信していたザニエルは、その日を目標として、救出作戦を練り始めた。

 まずは、その旨を記した手紙を使者に持たせパチュワンの里に出した。そして、里から、母親代わりのアイデスと鍛錬中の牙助が、三、四人の手練れを連れて駆けつけてきた。

ザニエルの情報によると、かねてから組織は、独立記念日に裏ミサと称し、第一教会内の大きな裏庭で、その教会につとめるシスターを一人捕まえ、いけにえとして、火あぶりにしている。と、今回、間違いなく、その、いけにえは天美になるであろうと、

そして、その独立記念日が、ついにやってきた。第一教会の大聖堂では、賛美歌とともに、独立セレモニーが始まり、その同時刻、中庭では裏ミサが始まっていた。

 十字架に縛り付けられ身動きの取れない天美は、たいまつを持った数人の怪しげな覆面頭巾をかぶった人物たちに、副首領の音頭のもと、『魔女だ!』『魔女を殺せ!』と、ののしられ、今まさに、中世の魔女狩りの如く、火あぶりの刑にさせられようとしていた。

そして、副首領の号令のもと、覆面たちが、十字架の下の薪に火をつけるために向かった。その行動に三人が真っ先に飛び出した。だが三人は十字架にたどり着くと、ナイフを取り出し、天美を縛っている縄を切り始めたのだ。実は、彼らは覆面姿の牙助たちであった。裏のミサの出席者は社会的地位の高い人物が多いため、最初から覆面姿、そのメンバーを察知した牙助たちは、数人をあらかじめ強襲し、身柄を確保していたのである。

十字架から解き放され自由になった天美は、能力を使いまくり窮地を脱した。

一方、大聖堂では、大司教が独立記念祭のフィナーレというべき、神への最高の礼拝をするために、身体を目一杯のけぞらせて、大きくその両手を広げていた。

と、まさにそのとき、静寂と厳粛で静まりかえっている大聖堂の空気を、一変させるような激しい金属音がした。何と、大司教が首にかけていたロザリオの鎖が切れて、地面に落下をしたのだ。得意の証明書偽造技術で、教会の客室係として潜入していたアイデスが、ロザリオに仕掛けをしていたのである。 

 落下音は、大聖堂に響き渡り、大聖堂につめかけた熱心な民衆たちは、その光景に一瞬息をのんだ。大司教も突然のハプニングに顔色を失った。

 そのとき、換えのロザリオを持った一人の見習いシスターが駆けつけてきた。我を忘れた大司教は思わず油断をした。シスターから、そのロザリオを受け取ろうとしたのだ。

 そのシスターの正体は天美であった。彼女はロザリオを大司教に手渡す瞬間、いつものセリフをつぶやき、強善疏を仕掛けたのである。

 彼女が立ち去ったあと、能力にかかった大司教は、自分がノチェスホェリアの首領であることを、大勢の民衆たちの前で自白した。

 国最大の宗教行事、独立記念日のミサ、その神の前での自白、民衆たちは、誰一人疑いなく、それを神の裁きだと思った。神を欺き通した天罰が下ったと判断したのだ。

 数千人の前の自白、さすがに隠し通せることなく、大司教は、かけつけてきた教会の警備員に確保された。と同時に、ノチェスホェリアは壊滅への序曲を奏でたのである。


セラスタの男たちの話を聞き終わった大田山は、一瞬、何とも言えない顔をしたあと、確認をするように声を上げた。

「つまり、あんたらの組織の大ボスは、満堂の教会内で、ざんげをした形になったわけか」

「その通りです、修道尼に扮したコァンフェセスにやられまして」

「しかし、大催眠術師が催眠術にかかるとは、笑えねえ話だな」

「あれは、やはり、ボスも慌てたのでしょう。大勢の観衆の前で、ロザリオの鎖が落ちたのですから、そのときの動揺を見すかされて」

「何にしても、そのガキの催眠術によって、おめえらのボスは裏の顔をはがされたと」

「そういうことです」

「それで、その空港にいたガキが、次にうちの組織を狙っていると」

「そうとしか思えません。私たちの集めた情報で判断した限りは」

「うーん。心当たりがないが」

 大田山は、実際、この段階では、そのあたりのことについて、報告を受けていなかった。

「本当にありませんか。何も、シスターとは限りません。看護婦、裁判所の証人、女性軍人、サーカスのピエロ、新聞記者に変装したこともあるらしいです」

「なに、ブンヤだって!」

 大田山の目が光った。

「はい、警察官僚であった組織の幹部が、合同記者会見どきに、新聞記者に扮装したコァンフェセスの手にかかり、逮捕され、失脚を余儀なくされたという」

「そんなことがあったのか」

「思い当たることがあるのですか?」

「ああ、一つな」

 大田山は釘家が逮捕されたとき、若い女性記者が、そばにいたことについて話した。

 その説明に、二人のセラスタ人は顔を見合わせていたが、すぐに、厳しい表情に戻ると、

「間違いありません。その記者こそ、コァンフェセスつまり自白屋娘の変装です」

 カムポは確信を持った口調で声を出した。

「本当にそうなのかよ」

「残念なことにそうなのです。私たちが留置所にいたとき、あの機内で気前のよかった日本の大臣さんまで捕まっていたのですか。自白屋娘の手にかかって」

 カムポは本当に口惜しそうであった。さすがに、その目つきに大田山もグラッときた。

「とにかく、その、怪しげな術を持っているガキに注意をすればいいのだな」

「はい。初対面のホステス。賭場の女性には特に注意をした方がいいです」

「わかった。そうするよ」

「ご忠告、お聞きいただき、ありがとう御座いました。これで、私たちも心置きなく帰国できます。くれぐれも、コァンフェセスにはお気をつけください」

 カムポはそう言い残し、二人は建物をあとにした。

 男たちが帰ったあと、大田山は難しい顔をした。そして、

〈どうも、いまいち信じられない話だが、俺をおどかすには芸が細かいしな。そんなことをしても、彼らには、何一つ利点はないし、さて、そうなると〉

 と腕を組んで考え込んでいたが、やがて、

〈やはり、いるかもしれないな。真壁の不自然な自白、入田、玉田の裏切り、そして、女記者が近寄った釘家さんの自白か。確かにあの記者、背格好が空港で見たガキに似ていると言えば似ているな。高度な催眠術使いのガキか、俺は引っかからないな、見ず知らずや初対面の女には気をつけるように、という貴重な忠告を受けたからな〉

「だが、俺の前に現れたときは絶対に捕まえてやるぜ!」

 興奮をしたのか、最後は声を荒げてつぶやいていた。




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