Confesess-1 11
第十一章
数弥の案内で、天美たちは芝浦の倉庫街に到着した。
「この雰囲気、見てみな、本当に、いかにも取引っていう場所だね」
競羅の、その得意げな声に、
「確かに、さびしいとこみたい」
天美もまわりを見回しながら答えた。
「ああ、人の出入りもなさそうだし。劇場にはもってこいだよ。さあ、中に入るよ。あんたの話が本当だと、鍵はかかってないはずだから」
競羅は数弥にそう言い、三人は扉を開けて、報告を受けた倉庫十九番に入った。
中に入った途端、天美は、はっきりと危機感を感じとっていた。そして、次のセリフを、
「ざく姉、血の臭いする。本当に来て、よかったの?」
「何を言っているのだよ。ここに、危険なんて何もないのだよ。意外なことに臆病だね」
競羅は、天美に微笑みながら答えると、数弥の方を向いて尋ねた。
「ところで、数弥、あんたが襲われたのはどこだよ?」
「あのあたりす」
「と言われても、うす暗いからよくわからないね。どこだい?」
その競羅の言葉の途中、突然、倉庫内の照明がついた。と同時に
「記者さん、まさか、ここに戻ってくるとは、思いもしなかったなあ。忘れ物かい?」
不気味な声がしてきたのだ。その声を出したのは、角刈りの男であった。
横には子分らしき男が二人いた。角刈りは、ゆっくりと数弥に近づいてきた。そして、
「さーて記者さん。まずは、あのネガを渡してもらおうかなあ」
胸元からナイフを取り出し、その数弥の顔につきつけてきた。
競羅は、先に動くタイミングを逃した。まだ、目の前の出来事に頭の整理がついておらず、現実を悟る前に数弥が相手の手に落ちたのだ。
角刈りにナイフを向けられた数弥は、ふるえながら答えた。
「ね、ネガは持っていないす」
「持ってないって、今更、そういう嘘は通用しないなあ」
「おや、信じないのかい? 数弥の言っている通り、今、手元には持っていないね」
競羅が加勢するように口を開いた。
「そういう態度に出るのか。では、今から、楽しい拷問タイムを始めるとするかあ」
角刈りは、いかにも楽しそうに、数弥の頬にナイフをあてて、もてあそんでいた。
うかつに動けない競羅は、口惜しそうな顔をして天美を見た。その天美は、いつものように不敵な笑顔を浮かべて男たちを見つめているだけである。
頭を整理し、意を決した競羅は再び口を開いた。
「ところで、一つ聞くけど、あんたら、田んぼのものかい?」
「そうだ。素性は、あの恩田から聞いていると思うけどな」
〈なるほど、本当に、田んぼ、だったのだね、となると、このネガも本物か〉
競羅は心の中で確認をすると、言葉を続けた。
「それで、その恩田っていう男は、どうしたのだよ?」
「むろん、裏切者は処分をさせてもらったよ。その後始末の掃除をしていたら、記者さんたちが戻ってきたということで、運がよかったというか、これで怒られないですむね」
「果たしてそうかね」
「とにかく、早くネガを出して欲しいね。これ以上はもう、持ってないなんて、言い逃れなんてしようしても無駄だよ」
「言い逃れなんてするわけないだろ。あんた、少しは考えなよ。たとえ、忘れ物を取りに来たとしても、あれだけ時間がたっているのだよ。取引をするわけではあるまいし、あんな重要なものを持ってくるわけないだろ」
「では、どこにあるのだ?」
角刈りの口調が変わった。余裕がなくなり、真面目になったようである。
「そんなの当然、新聞社の中に決まっているだろ。こっちは一度戻ったのだからね」
競羅は、実際は数弥の部屋なのだが、個人宅ではまずいと思ってそう答えた。
「ほ、本当か? 記者さんよ」
角刈りは思わず数弥に確かめた。
「そ、そうす」
「そうだよ。この数弥の机の上に置いてあるよ。もし、彼が帰ってこなくても、会社の誰かが見つけるだろうね。表に出ることは確実なのだよ。さあ、あきらめて解放しな」
競羅は憎々しげに答えた。その態度は、天美の能力に頼り切っているようである。
だが、その天美は、まだ、能力を使う気がないのか、じっとしているだけであった。
「ああ、言ってますけど、久保田さん、どうします?」
部下の一人、島田が心配そうに声をかけた。角刈りは久保田というようだ。
久保田は、ナイフを数弥の首筋にあてたまま、考えていたが、やがて、もう一方の手で、ポケットから携帯端末を取り出した。どうやら、上の人間の指示を仰ぐつもりである。
そして、通話ボタンを押し、その久保田と相手の通話は数分続いた。
相手に叱られているのか、久保田は、通話中、何度も頭を下げていた。
その間に、三人は、二人の子分たちに縛られていた。何と天美は能力を使わなかった。考えがあるのか素直に縛られたのだ。
久保田はその通話を終えると、
「シマ、ハラ坊。しっかり見張りを頼むぞ」
と言って、一旦、その倉庫を出て行った。
久保田が出ていくと、競羅は見張りに気づかれないように、天美に小声で話しかけた。
「なぜ、おとなしくしていたのだよ? 奴らのさっきの対応なら、いくらでも、能力を使うチャンスがあっただろ。こっちは数弥が自由になったら、たたきのめそうと思って、待機をしていたのに、その機会がなかったから手を出せなかったけど」
「確かに、最初、使おうと思ったけど、なんか向こうの親玉、出てきそうな感じしたし」
天美も笑みを浮かべながら小声で答えた。
「親玉? では、あ、あんた! そいつを待つために、わざわざ捕まったのかよ」
「そうしないと、この事件、解決しないから」
「いくら、解決にならないといっても・・」
競羅は答えながら顔をしかめた。
「大丈夫、向こう、まったく、わったしのちから、気づいてないから」
「そんな、天ちゃん。そんなことで、僕まで巻き込むなんて、ひどいすよ」
数弥が声を上げた。むろん小声である。
「巻き込むって、変なこと言う。わったしが普通の子だったら、同じ結果なのに」
天美の言葉を聞き数弥は黙った。確かに、その通りだからだ。
「あんたの考えは、よくわかったよ。つまりさっき、あの久保田という奴が、電話をしていた相手が現れたら能力を使うつもりなのだね」
「そういうこと」
「それで、あんたの思っている、その親玉って、問題の代議士かい?」
「その可能性あるけど、たぶん、もう一人の、あの趣味悪い仮面つけてた男」
「おい、待てよ。奴のバッジを見ただろ。田んぼの中でも、かなりの大物だよ。なおさら逃げないとやばいだろ」
「大物の方が面白いと思うけど」
「そういう問題ではないだろ。若頭クラスだったら、こっちの身元だって・・」
その競羅の声に、見張りの男が反応した。
「てめえら、ごちゃごちゃうるさいぞ」
見張りは大声で怒鳴り競羅は黙るしかなかった。
三十分ぐらい過ぎたであろうか。倉庫の玄関が騒がしくなった。
「組長、こちらです」
外から久保田の声が聞こえてきた。
間もなくして、天美たちの前に一人の男性が人物。高級ジャケットに、柄物のネクタイをつけた男である。だが、そのつけていたバッジはお目当てのものではなかった。
競羅は面識のない人物でホッとした。
「皆さん、この人はイ田組の組長さんだ。怖い人だからね、怒らせない方がいいよ」
久保田が笑いながら声をかけてきた。
「イ田組だって? イロハ四十八組の筆頭か?」
「ほお、即座に四十八組と言い返すとは多少は知っているようだな」
玉田は競羅の返答に、含み笑いをしながら答えた。
「おかげさまでね。それより、目的のものはないということ、わかっているだろ。そうなると、こっちには用がないと思うけどね」
「確かそういう話だったな。だがな、その結果、釘家先生には迷惑がかかることになってしまった。その礼をしないといけないな」
「へーえ、お礼、くれるんだ。やはり、もの届けるって、いいことね」
ここで、声を出したのは天美である。やはり彼女は、このときを待っていたのだ。
玉田は、天美の言葉にカチンときた。
「そのせいで、俺たちは大変な状況に陥ったんだ! まったく、親父にどう報告しようか困ってるのに! その責任は取ってもらうぞ。無事に帰れるとおもうな!」
「帰さない? と言うことは、接待してくれるということかな。だったらついでに、ここで、あっなたたちの悪事、しゃべってもらおかな」
彼女の決めゼリフも、今回は、かなり、皮肉がこもっているようである。
「悪事をしゃべれだと、おんどりゃ、いい気になりやがって!」
玉田がすごみを聞かせ怒鳴った。彼はそういう血の気が多い性格なのだ。さすが、筆頭組長、田之場でも武闘派でならした男である。
久保田がニヤニヤしながら、からかうように声をかけてきた。
「おやおや、聞いていなかったのかい。玉さんを怒らせてはいけないって」
「別に、怒らせてるつもりなんかないけど」
「何にしても、こうして、玉さんが来たんだ。じっくり、楽しませてもらうよ」
「それより、組長さん、あんたに、一つ聞きたいことがあるのだけどね」
ここで、競羅が確認するように口を開いた。
「何だ?」
「今、親父に、何とかかんとか、と叫んでいたけど、ということは、まだ今日の不祥事については、あの写真の中の四色バッジさんには報告をしていないのだね」
「当たり前だ。報告できるわけないだろう。だから、貴様らの首を持って行くのだ。それより写真? なぜ内容を知っているのだ。もしかして、あのネガを現像をしたのか?」
「むろん、そうだよ。こっちも確かめるため、写真にするのは当たり前だろ。それぐらいの時間はあったのだしね」
競羅は答えながらホッとしていた。そういうことなら、ここで思う存分、暴れることができるからだ。そして、ニヤリと笑うと、
「そう言えば、確か、そこの子に現像した写真を持たせてあるよ」
天美の方にあごをしゃくったのだ。
「お前が、写真を持っているのだって?」
玉田は天美の方を振り向き、彼女をにらんだ。そして、天美の方も、
「むろん、あるけど。あの変な仮面つけてた男の人、写ってた写真でしょ。趣味わるう」
競羅の作戦を見透かせたのか、からかうように答えた。
「親父に向かって趣味が悪いって! ふざけやがって、俺たちで身体検査をしてやる!」
玉田は興奮して言葉を発すると、久保田の二人の部下に命令をした。
「お前ら、構わないから、ひんむけ」
そして、原田、島田の二人が、にやけた顔をして天美に向かってきた。
まず、島田がいやらしい笑みを浮かべ、縛られた天美の胸元に手を突っ込んできた。と、同時に、原田も彼女のふとももに触れてきた。
ここで、競羅、お待ちかねの弱善疏がはたらいたのだ。能力にかかった、二人の部下は弾かれたように手を引っ込めた。
そして、ポケットからナイフを取りだして、その縛られている縄を切り始めたのだ。
その様子を見ながら、命令通り裸にすると思っていたのか、久保田も玉田も笑っていた。
だが彼らは、すでに弱善疏に墜ちた身である。そのナイフを玉田たちに向けると、
「やはり、逃がした方がよろしいのじゃないですか」
「ボス、こんなこと、やめましょうぜ」
それぞれ、天美を逃がすように詰め寄ったのだ。
「この野郎、何をやっているんだ! 逃がす気なのか!」
怒った玉田は戸惑いながらも、二人をはり倒していた。久保田の方もうごいた。彼は、
「すみません。今から、けりつけますんで」
玉田に答えると、天美に素手で向かってきたのだ。天美は、じっくりと久保田の動きを読み、向かってくるところを、手でつかみ弱善疏を注いだ。
これで、久保田も同様である。能力に堕ちると、天美をかばう行動に出た。
「おい、何をつっ立ってるのだ。俺がおとなしくさせてやる。どけ!」
玉田がいらだっていた声をあげ、久保田を突き飛ばした。 そのあと、ポケットからナイフを取り出し、天美に近づいてきた。組長だけあって戦闘はプロである。
だが縄から解放され、自由になった彼女とは勝負にならなかった。ナイフをくり出してきた手首を、素早くつかんだ天美。と同時に、今度は強善疏を注いだのだ。
やはり、この場のリーダー格、簡単に許すわけにはいかなかったのである。
能力に屈した玉田は、今にも、過去の罪を自白しようとした。だが、今度もまた邪魔が入った。縛られた競羅が、背後から猛然とタックルしてきたのである。
にぶい音を立てて、玉田は床にたたきつけられ昏倒した。
〈あーあ、またまた、こんなことして〉
天美は呆れた思いをしながらも、競羅、数弥のもとに行き、その縄をとき始めた。
「そんなこと後回しにしなよ。当たりも中途半端だったし、奴が起きてくるよ」
競羅の言葉通り、玉田が頭を押さえて起き上がってきたのだ。
「仕方ないね。もう一度、おねんねをしてもらおうか」
自由になった競羅は、玉田を倒そうと飛び出そうとした。しかし、その必要はなかった。
玉田は起きあがると同時に大きな声を上げたのだ。よくよく聞いてみると、過去に殺した人間に対する告白の内容であった。
その様子を見て、競羅が目を丸くして尋ねた。
「おい、ありゃ、何だよ?」
「さあ、僕も、はっきりわかりませんけれど、あの組長、先ほどの衝突したショックで、急に頭がおかしくなったのではないすか」
数弥は、とぼけたような表情をして答えた。
「だから、これこそ、わったしの強い方の、ちからで・・」
天美は説明しようとしたが、その言葉をさえぎるように数弥が競羅に話しかけた。
「しかし、姐さん、今回の事件のことすけど、最初から、素直に考えた方がよかったすね」
「ああ、そうだね。結局、釘家代議士は悪党ってことか」
「ですが、代議士クラスとなると、余程の証拠が集まりませんと告発できませんし」
「このネガだけでは無理なのかい?」
「難しいすね。でっちあげだと言い張られれば、それまですし。警察の方も、このヤクザたちの自白だけで、そこまで、動いてくれるかどうか?」
「だろうね。確かに、こんなことぐらいで動いてくれるほど、めでたくないね。それで、あんたは、どうするつもりだい?」
「まずは、現像した写真の方を持っていきます」
「そうかい。けどね、ネガなしでは合成だと思って信じてもらえないよ」
「いいす。警察の出方がわかりませんし、まず様子をみましょう。では連絡しますよ」
数弥は答えると、携帯端末を取りだして警察に通報した。
次の日、競羅は、自分のアパートに天美を呼びつけ一緒にニュースを見ていた。
すでに、その日の朝刊では、久保田が、恩田という無職の男を金銭のもつれで殺害した容疑で、逮捕された記事が掲載されていた。
同じく、テレビのニュースでも、玉田が過去の数々の殺人を自白し、それによって、それらの殺害を依頼した建設会社副社長と、不動産業会社社長の逮捕をアナウンスしていた。
だが、やはりというのか、彼らの自白のうち、今回、関わった釘家代議士のことは、警察の方に圧力がかかったのか、証拠不十分らしく取り上げてなかったのである。
「どういうこと? 朝から見てるのに、あの政治家、逮捕されないなんて!」
天美の非難めいた発言に競羅は落ち着いた表情で言った。
「結局、金銭的なもつれという、月並みなことで幕引きかよ。まっ、こんなものだね」
「納得しないでよ。数弥さんは、いったい、どうしているの?」
「あいつも、一生懸命やっていると思うよ。けどね、政治家がらみだとね」
「そういう問題じゃないでしょ。どうなったか聞きたいの!」
「わかった。今から、連絡を取ってみるよ」
そして、競羅は電話機の方に歩いていき、その受話器を手に取った。
約一時間後、数弥は姿を見せた。彼は中に通されると、さっそく、言い訳を始めた。
「いやあ、やはり、お堅い新聞社はいけませんね。何かと慎重すから」
「せっかく、あの金もらってた政治家の逮捕、期待してたのに、新聞社では無理なの?」
天美の文句が始まった。
「言った通りじゃないすか。僕が思いますに、あのまま警察にネガを渡していたら、もみ消されていた可能性だってありましたよ。幹部には与党と通じている人もいますし」
「確かに、そういう可能性が高いね。これで、冒険も無駄に終わったか」
「そういうことなら、わったしのちからで、絶対、自白させないと!」
天美は興奮して声を出した。そのとき、またしても、彼女の頭に激痛が走った。競羅が天美の頭に、げんこつを落としたのだ。
「痛ーい、また殴った。今のが一番痛かった」
天美はそう頭をさすりながら声を出した。
「ああ、わざと痛くしたのだよ。懲りない子だね、前も同じ事を言って殴られただろ。とくに、今回は、こっちも面白くないのに」
競羅は天美をにらんで答えた。昨日、目の前で見たのに、まだ、信じてないようである。
頭をさすりながら天美は、すがるような目つきをして数弥を見つめた。すると、数弥は、微笑みながら、天美に向かって軽くウインクをしたのである。
三日後、党本部は深刻な打撃を受けていた。数弥の提出したネガと情報が、系列の週刊誌、ウイークリー真知に流れたからだ。
そして、その話題の、釘家総務会長が、党に事情を説明するため党本部前に現れた。代議士が車から降りると同時に、マスコミが群がってきた。
「逮捕された佐橋海外事業部長と、先生がつながっていたとは本当ですか?」
「先生、逮捕された倉地専務から、いくら、もらったのですか?」
次から次へと、マスコミのリポーターが釘家に質問を浴びせていた。
「すべて事実無根だ! 誰かが、あれを使って、私を陥れようとしているんだ!」
釘家は手を大きく振りながら否定をした。
「先生、うちの社が、その証拠となるネガを、週刊誌に渡したんすけど、どう思います」
真知新聞の腕章をつけた男性が、しらっとした顔をして尋ねた。数弥である。相手を挑発するため、わざと、その質問をしたのだ。
「どう思うって、だいたい、そんなネガ合成に決まっているだろう!」
「ですが、合成したあとは残っていませんけど」
「そんなこと、私にわかるわけはないだろう! 今、わかっていることはな、貴様ら真知どもを告訴することだけだ!」
釘家は数弥を怒鳴った。かなり、真知グループには頭に来ている様子である。
ここで、すぐ横にいたバイザーつきの真知新聞の報道キャップを、深くかぶった女性記者が中に入ってきた。彼女は、釘家代議士の前にマイクを突きつけると、
「そのネガ持ってた恩田さん殺されたこと、知ってるから安心してるのでしょ。そのことは、逮捕された田之場の組長たちに聞いてるはずだから」
と質問をしてきたのだ。真実をつかれ興奮した釘家は、これ以上言わせないように、思わず手で、その女性記者を振り払おうとした。
彼女は、その瞬間を待っていた。目前に迫った釘家の右手を、マイクを持っていない方の手で握ったと同時に、微笑みながら、決めゼリフを言った。
「だったら、ここで、あっなたの悪事、しゃべってもらおかな」
そのあと、いかにも手で振り払われたように、派手に飛んで、地面に倒れたのである。
そう、その女性記者は天美で、数弥の提案で新聞記者のグッズを借りていたのだ。
ついに、一連の事件の決着はついた。強善疏に屈した釘家代議士は、
「そうです。私が邦和側から、まいないをいただき、セラスタの爆発事故を・・」
と突然、大声で自供を始めたのだ。
その行動に、不自然な天美の登場や、倒れ方を怪しんだ記者は誰一人いなかった。彼らは、最初は自供に目を丸くしていたが、すぐに、記者魂が呼び覚まされたのか、みな興奮した様子で、釘家代議士にシャッターの嵐をあびせていた。
やがて、党本部の警備に配置されていたガードマンが釘家の身柄を押さえにきた。
競羅は少し後ろから、この上なく驚いた目つきで、その光景をながめていた。
そして、数弥も、天美に向かって声をかけた。
「天ちゃん。もう起き上がっていいすよ、みんな、あそこに気を取られていますから。さあ、姐さんのところに行きましょう。待ってますから」
そのあと、二人は競羅のいる場所に合流した。
競羅は目を丸くして、声をかけてきた。
「あんた、その様子だと、最初から、こうなることわかっていたのかい?」
「ええ、僕は、そのスキルというものを、完全に信じてましたから。だから、天ちゃんに報道用セットを貸して、今日、この場所につき合ってもらったんすよ。姐さんは、面倒くさいと、ぶつぶつ文句を言っていましたが」
「ああ、バカバカしかったからね。それで、あんたは、いつ信じ始めたのだい?」
「空港の話を聞いたときから、信じ始めていたんすよ。そして、あの組長の自白、意志が強そうな人物でしたからね、あれを見れば普通は信じると思いますけどね」
「それは、あんただけだよ」
競羅は数弥に答えると、深刻な目をして天美に問いかけた。
「それより、あんたが、本当に、こんな能力を持っているとなると、これから、いろいろと考えなければならないね。あんた、これからも政治家に使うつもりかい?」
「それは、今回みたいに許せない事件、見つけたら、遠慮なく使うけど」
「やっぱりかよ。けどね、これからは絶対に、こっちの許可なしでは、政治家に罪を自白させるようなことをしてはいけないよ。そんなことしたら、政局がおかしくなるからね」
「まーた、前と同じようなこというわけ」
天美は挑戦的な目つきをして言い返した。今回は強気である。
「当たり前だろ。時と場合によっては、日本が無茶苦茶になるのだよ」
「だったら、わったしの答え、わかってるでしょ。前、言ったように、悪人こらしめるのに、いちいち、指図受ける気ないから」
「何だって! 逆らう気なのかい!」
「天ちゃん、姐さんの言うとおりにした方がいいすよ。実際、大事になるんすから、それに、姐さん、怒らせたらまずいすよ」
数弥がなだめてきたが、
「ふーんそう、怒らせたらまずいって、そう言えば、ざく姉、今までも、わったしの頭、何度も殴ってきたよねー」
天美は、意味ありげな笑顔を浮かべながら、歯向かってきたのだ。
能力の効果を知った競羅は、魔物に魅入られているように、声も出なかった。
その様子を感じながら、天美は言葉を続けた。
「わったしの強い方のちからは、悪党が、その罪、償うまで、二度と悪いことする気起きなくなるの。ざく姉も、悪いこと、かなりやってそうだから、どうなるのかな? これから自慢の暴力、ふるえなくなることは間違いないかな」
「そ、そうだね。今までは、勝手に、こ、この雀が騒いだのよ」
競羅は弁解をするため、腕をまくって、肩に入れているタトゥを見せた。
「この雀さんが?」
「そ、そうだよ。この雀が勝手に動いて、あんたの頭を殴ったのだよ。こいつは、変な言葉を聞くと、勝手に動く癖があるからね」
「だったら、一応、そういうことにしておいてもいいけど」
天美は許すような態度をしたが、再び、悪魔的な目をして声を出した。
「でも、ちから使われたくなかったら、二度と、頭、殴らないことね」
「わ、わかった。もう、あんたに手を出させないように、雀をしつけておくよ」
結局、競羅はそのように答えるしかなかったのである。
「姐さん、それでいいんすか?」
数弥はとがめるように声を出した。
「しょうがないだろ。いずれ、何とかするよ」
「そんな、何とかするって、言われましても、ここは、きちんと・・」
「もう、この話は終わりだよ。もっと、大事なことについて話が残っているだろ」
「大事なことって何すか?」
「むろん、今回の事件のことに決まっているだろ。まったく、イロハ四十八組が動いていたとは、これは、本格的に田んぼが乗り出していると考えた方がいいね」
「ええ、まことに、姐さんには残念だったんすけど」
「どうも、流れから見て、前回のディスクの件も関係していたみたいだしね。けどね、しつこく言うけど、総長の方は関係ないと思うのだよ。他にも実力者はいるし」
「ええ、写真の人物が怪しいすね。あの田之場、最高級バッジをつけた男すか」
「そうだね、間違いなく奴が黒幕だろうね、たぶん、あの体格から見て、奴の正体は・・」
競羅は答えながら、ある人物を思い浮かべて宙をにらんだ。
そのころ、ある男が、部下から送られた携帯端末の中の画像を見つめながら、
〈これで、釘家先生も終わりだな。恩田の処分は成功したからいいか。あの写真だけでは、たとえ、誰かが俺だと感づいても、いくらでも、言い逃れができるからな〉
と難しい顔をしていた。男の名前は大田山利明、総長以上の影響力を持つ、田之場会長である。飛行機に乗っていた六人組最後の一人で問題の金バッジの男でもあった。
会長は、釘家代議士の状況が気になり、部下に見張らせていたのだ。
〈しかし、先生も情けねえなあ。あんな、小便臭そうな娘記者にやりこめられて、自暴自棄になるとは困ったもんだ〉
田之場会長大田山は苦い顔をしながら、端末内の映像を見つめていた。
一方、競羅の方も、彼女は興奮した口調になっていた。
「これは、かなり面倒なことになるよ。こっちの想像が正しければ、相手は、・・」
その態度を、天美は不審な目で見つめていた。競羅は気づくと、慌てて言葉を止めた。
「姐さん、どうしたんすか?」
「どうしたも何も、ここではまずいよ。場所が場所だろ、党本部近くだし、あんまり長くいると、職務質問をされるよ。それにね」
競羅は数弥に言いながら、天美をチラリと見た。数弥も状況が理解できたのか、
「そうすね。確かにまずいすね」
と答えた。そのとき、彼の携帯端末のバイブが動いたのだ。数弥は、
「このタイミング、おそらく、社からでしょう。こんな、急展開がありましたからね。どういう状況か確かめたいんすよ。ということで僕は、すぐに戻ります」
そして、駈け出していった。
「おやおや、数弥、いなくなってしまったよ。では、こっちも用があるから、またね」
競羅も同様に、これ幸いというような表情をして、反対方向に去って行った。
残った天美は、不満そうな顔をしながら、その走り去る競羅の姿を見つめていた。




