第七章 入国
獣王国についた黒影とティー、そこで待ち受けるものとは⁉
「いや~、すごい活気。まるでお祭り騒ぎだね~」と、猫耳が生えた黒影は声を弾ませながら言った。なぜ猫耳が生えているのかというと、ここ、獣王国では人間に対する嫌悪がエルフ以上だということをティーから聞いたからである。このまま入国したら確実に袋叩きにあって放り出される。それを知った黒影は、彼のスキル、幻影を使い、回りの亜人たちに自分は獣人だと思わせているのである。スキル、幻影は対象の相手に自分の思ったものを見せるスキルである。戦闘向きではなく、潜入などに使われることが多い、今回にはおあつらえ向きの力である。
「当たり前だろ、ここで一週間後に開催されるのはアンバリアトーナメント、世界一の武道大会なんだから。注目度も半端じゃない。優勝すれば名実ともに世界最強、その誕生を見ようと大陸中からたくさんの人が集まるのだから」と、ティーはガラにもなく目を輝かせながら言った。確かに二人の言う通りすごい人で、お祭り騒ぎだ。王都に入るのに行列と入国審査を合わせて十時間以上、それから三時間ほど歩いたが進んだのはたったの百メートル。それだけ込み合っているのだ。道の脇には屋台が立ち並び、ここぞとばかりに客を引き込んでいる。それもこの行列の原因のひとつだろう。
「どうすんだ?このままだと大会のエントリーに間に合わなくなるぞ」と、黒影はキョロキョロと回りを見ながら言った。この男、もはや大会よりも回りの屋台に興味が湧いてきたのだ。口元はヨダレで汚れている。
「そうだな、このままではまずい。だがどうすれば...」と、ティーは考え込んだ。
「ジャーもう諦めて屋台楽しもうぜ」と、黒影は満面の笑みで言った。
「ばっかじゃないのぉ!なんのためにここに来たと思ってんだよ!大会に出るためだろ!」と、ティーは本気で怒った。
「あー、ごめんって。冗談だよ、ジョーダン。わかったからって。しょうがないな。よっと!」と、黒影は、ティーを抱えて飛び上がった。
「ちょ、ちょ、ちょっと、何してんのっ!」と、ティーは叫んだ。次の瞬間、二人は人混みの上に立っていた。地面より三メートル上、何もないところに二人は立っていた。
「ちょっと、スキルを使うなら先に言ってよね」と、ティーは半分呆れながら言った。ティーも裏スキルについては知っている。黒影はティーを信頼に足る人物だと判断したため、教えたのだ。三年間で二人の間には血よりも濃いもので結ばれたといっても過言ではないほど仲良くなっていた。今二人が立っているのは黒影の裏スキル、魔力操作によって作られた、魔力の床である。本来、魔力は触れることのできない空気のような存在だったが、黒影はそのスキルを使いこなし、魔力の形質も自由自在にした。この事を可能にするまでに黒影は途方もない時間を費やした。だがそのかいあって、魔力を自分の思った形に変化させ、物体にまで影響をもたらすことを可能にした。熱い溶岩も魔力操作で掬い上げることもできるし、武器の形にすれば人を殺めることもできる。だがこのスキルをここまでに仕上げるには途方もない努力と、圧倒的なセンスが必要だった。彼にはその両方が備わっており、このスキルを使いこなすことを可能にしたのだ。その力はまさに、ユニークスキルと言っていいだろう。彼の力はそういうものだ。彼自身、自分の力がそれほどのものとは知らないが...
「サー、行くか!アンバリアトーナメント会場へ!!」
「お~~!」
無自覚だが、その力、世界最強⁉無自覚最強男と田舎出の爽やか美男子この二人の旅路はいかに⁉
次回 11月17日更新予定