第四章 覚醒 (後半)
謎の機械音に声、これはこの状況を打開する鍵なのか?はたまた敵の罠なのか?どうなる黒影⁉
黒影は自分の目を疑った。時間が止まった。これは比喩的な表現ではなく本当に止まったのだ。機械音となぞの声がした瞬間、前触れもなく止まった。止まったのは騎士団たちだけでなく、後ろのエルフ、そして、黒影の体も止まっていた。どういうわけか、黒影の思考だけ止まっておらず、彼自身、戸惑っている状態である。すると、
裏スキル解放 スキル名 魔力操作 を、使用しますか?
と、また謎の声がした。黒影はこの状況にまだついていけていなかった。が、少しわかったことがある。このスキルというのはどうやら黒影自身の一種の力であること。そして、使いようによってはさっきの状況を打開することができるということ。黒影は、少しためてから叫んだ。
「使用する!!」その瞬間、膨大な量の情報が頭の中に流れ込んだ。スキルの使用方法や、それに関わる様々な情報、とにかくたくさんの重要なものが一気に流れ込んできた。そして、時間が進みだした。
「やっちまえ、テメーら!いくぞ!火球弾!!」と、髭面の騎士が叫んだ。
「「火球弾!!」」と、周りを囲んでいた騎士団も叫んだ。
最初に異変に気がついたのは騎士団だった。自分たちが使った魔法、火球弾は、これだけの数を食らえば、常人ならまず死んでいただろう。百歩譲って死ななかったにしても、まともに食らえば重症のはずだ。それなのに目の前の男はどうだ。傷ひとつどころか、服すら燃えていない。避けた様子も見られなかったので、直撃したはずだ。しかし、そんなことは、騎士団の自尊心が高い髭面の騎士以外はどうでもよかった。それよりも、重大なことがあった。
「た、小隊長!魔法が発動しませんでした!」と、騎士団の一人が、髭面の騎士に向かっていった。
「な、なんだと!そんなことがあり得るわけなかろう!」と、騎士団小隊長は叫んだ。
「本当です!先程から、魔法を発動させようとしてもピクリともしません。」これが、黒影の作戦だった。人族の魔法の発動には、空気中の魔力が強く関わっている。人族の体内内蔵魔力は少なく、最低ランクの火球弾もまともに打てないほどだ。そのため、人族は武力で他種族に負けないように研究し、その結果、空気中に飛散した魔力をある特殊な杖状のものを通して魔法に変換するという答えにたどり着いた。そうして、内蔵魔力が多い亜人種に対して対抗できるようになり、今に至ったのだ。つまり、人族にとって、空気中の魔力がないと魔法が発動できないのである。そこに目をつけた黒影が使ったのが、彼の裏スキルである、魔力操作。その力は一定の範囲内の魔力を自由に操作することができるというもので、その効果によって、エルフの村全体に飛散する魔力を消したのだ。これにより、人族は魔法の使用が不可能となり、形勢は大きく逆転した。
「テメーらに説明したところでわからんだろうから簡潔に教えてやるよ。お前らはここでは魔法がすべて使えなくなった。只それだけなんだよっ!」と、言い、黒影は嘲笑した。
「なめるなよ、小僧っ!俺たちは騎士団なんだ。つまりエリートなんだよ!魔法が使えなくたって、剣術があるんだよ!」と、小隊長は言い、剣を抜いた。それにつられて、騎士団は剣を抜いた。ここで、騎士団は二つ目の異変に気がついた。
「あ、あれ?剣ってこんなに重かったっけ?」そう、騎士団が使っていた魔法は攻撃型魔法だけでなく、強化型魔法も使っていた。これも、黒影のスキルにより使えなくなっていた。つまり、黒影のスキルは人族にとっては天敵であった。
「はっ!魔法になんか頼って鍛えてこなかった報いだ!鎧のせいで動けないテメーらなんかただの鉄を纏った肉片だ」と、黒影はそう叫んで小隊長に向かって助走をつけた。
「た、助けてくれ~!!」と、小隊長は泣きそうになりながら叫んだ。
「もっと捻りのある命乞いをするんだな!」と、黒影は叫びながら飛び上がり、小隊長のうざったい髭面に飛び膝蹴りを食らわせた。小隊長は歯を数本と鼻血を出して気絶した。その後の説明は、簡略化しよう。形勢を逆転したエルフ側は、猛反撃。内蔵魔力が多く、空気中の魔力に頼らず魔法が使えるエルフたちは、魔法を使って、騎士団を撃破、黒影自身も、自分達を囲っていた小隊を素手ですべて制圧した。その戦いぶりは猛々しく、デビュー戦にしては、些か上出来すぎた。
謎の声は黒影の覚醒を促すものだった!勇猛果敢に戦った黒影、次回、例の美人エルフと進展が!?
次回10月20日(日)更新予定!!