第三章 危機
前回のあらすじ
この世界に来て最初の出会い、超絶美人のエルフにナンパを仕掛ける黒影であったが失敗するどころか地下牢にぶちこまれてしまった。そこにはエルフたちの積年の恨みがあった...
あれから何日たったのだろうか。この薄暗い地下牢では今が昼か夜かもわからない。なにもないこの空間で気が滅入るような時間を過ごしている黒影の心境は実に複雑だった。あと何日、いや、あと何時間で処刑されるのかという不安と、なぜ自分がこんな目に会わなければいけないのかという怒りで、頭が割れそうになっていた。理由を知らないのだったらこの男はすでにあの手この手で脱出を試みていただろう。しかし、そうしないのはこの男がその理由を知ってしまったからだ。
五日前
「くそが、何で俺が捕まらないといけないんだ。何が積年の恨みだ。俺はここに来てまだ一日だぞ。積もってねーよ。まだ365日分の1だよ。アホか」と、黒影は一人で怒鳴った。
「あーもう、頭に来た。ここ速攻出て話つけてやる」と、黒影が行動を起こそうとしたそのときだった。
「まーまー、そうカッカしなさんな。あの子たちだって君に八つ当たりしているのは重々承知の上だ。それでもするしかないんだよ。そうしなきゃ押さえられない」と、どこからか声がした。
「いやそれでもなぁ、あり得ないだろ、あってすぐカンキ......」黒影はあまりにも自然なことで反応が遅れた。よく考えてもみればこの地下にいるのは黒影以外にいない。黒影の額には、冷や汗が出てきた。大粒の。恐る恐る振り向くと、そこには背中から羽の生えた手のひらサイズの女の子がいた。
......
「ゆ、ゆ、幽霊ーーーーーーーーーーーーーー!?」黒影は悲鳴をあげた。
「な、なんと失礼な、どこからどう見ても神聖なる妖精だろうが」
「嘘言え、妖精ってのはもっとこう妖艶でナイスバディのお姉さんだろっ。てめぃはあれだ、座敷わらしだろう」
「あんだと、よくわからんが悪口を言われたのはわかった。そこに直れっ、小僧~」
十分後
「わかったか、私は妖精。神聖な存在なんだ」と、妖精を名乗る羽の生えた小さな子、アン=クラツパーソンはそう言った。
「ハイハイ、あなたは妖精。神聖な存在ですよ」と、黒影は言った。いや、言ったとは少し語弊がある。正確には言わされたのだ。この発言の前に黒影は顔の原型をとどめないほどボコボコにされた。さすがにもう逆らう気力はない。
「ふうん、わかればいいのよ。それでなんの話だっけ?」
「だから何で俺がこんな目にあってるのかって話」
「あー、そうそう、そだったわね。それじゃあ説明するよ。まず、この世界は二つの大陸に別れているの。ここは亜人種が中心的に支配しているアンバリア大陸。そして人族が支配するバリエチア大陸。現状、この大陸では目立った戦争はなく平和的よ。だけど向こうはそうじゃない。人族は好戦的で、欲望に従順。その昔、まだこの二つの大陸が一つだったとき、人族はたくさんの亜人種を捕まえ、奴隷や、人体実験の対象にされた。この村のエルフたちも例外なくね。それを見かねた先代魔王が極滅魔法を使い大陸を二つに割っちまったのさ。でも人族はまだ懲りずに亜人狩りなんぞをやっていてね。この村からも年に数人行方不明者が出ているのよ。おそらく今ごろは奴隷にされて売り飛ばされているだろうね」
「ちっ、アンな話聞いたらどうすりゃいいかわかんねぇじゃねーか」黒影はますます混乱した顔でそう言った。そのときだった。
ドゴーーン と、爆発音が聞こえた。続いて何発も爆発。地下にいるため、外の様子はわからないが、この地下牢もものすごく揺れている。するとその揺れが原因か、地下牢の鉄格子がひしゃげて出ることができた。黒影はこの機に乗じて逃げ出そうと考え、全力で走った。階段を登り、いくつものフロアを抜け、地上に出ると、そこは、今までに見たこともないような地獄絵図だった。いくつもの死体が横たわり、女子供が逃げ回り、男どもは逃げるものを庇い殺される。女子供は捕まり、手錠をはめられ、車輪のついた牢に入れられていた。この状況で笑っているものがいた。それはよく見慣れた個体だった。地球上で70億体以上生息し、その知力を生かして社会を形成し、地球を支配していた、人間。だが地球上の人間と決定的に違う部分があった。それは甲冑を着て、見慣れない武器をもってエルフたちを襲っていることだ。それはあまりにも非人道的すぎた。そのときだった。
キーーーン と、頭のなかでなにかが起こった。
『テメーが弱いのが悪いんだ。******に、げ...て。*****うわぁぁぁぁぁぁぁぁ』一瞬のことだった。頭のなかに様々な映像が流れ込んできた。
「くそ、こんなときにこれかよ。最近はなかったのにな。」冷や汗をかきながらうなだれていた黒影はそう言って立ち上がった。そのとき、視界に最初に会った美人エルフが入ってきた。脇には小さな子どもを抱え、周りを人族の男どもにかこまれていた。今までひどい仕打ちをしてきたのだ。助ける義理もない。しかし黒影はまっすぐエルフの方へ走った。考えるよりも先に体が動いたとでも言うのか。そして、人族からエルフを助けるかのように構えた。
「な、お前、なぜここにいる。」エルフは困惑した表情でいた。
「決まってンだろ、助けに来たんだよ」
次回更新予定 十月五日(日)《期末テストが近いため延ばさせていただきます》