第二章 はじめての出会い(ナンパ)
前回のあらすじ
不慮の海難事故に巻き込まれた黒影深夜。目覚めた場所は異世界の海岸だった。普通ではあり得ないことで戸惑っていた黒影だったが、現状を受け入れ、今、動き出そうとしていた。
何分たっただろうか。しばらくの間、黒影は放心状態だった。
「はー、仕方がない。動かなくても餓死するだけだ。とりあえず、寝床を探そう。」そう言って黒影は動きだした。
「はー、にしても広いな。目の前には果てしなく広がる海。足元は白い砂浜。背後には今にも猛獣が飛び出してきそうなジャングル。今、俺がいるところもおそらく島ではない。ジャングルも見た感じ終わりがない。大陸かなんかかな?どうなんだろう」と、黒影は歩きながらそう呟いた。そのときだった。
ガサガサ、ガサガサ
そのときの黒影の脳はカオス状態だった。そのなにか猛獣が動き回っているような音は、黒影を恐怖に陥れ、走馬灯が脳を走り回り、この状況に対する様々な可能性が脳内を踏みつけて回った。もはや彼の顔は言葉では言い表せないほど蒼白でひきつっており、まともな心理状態ではなかった。そんな状態の彼に追い討ちをかけるように、バッッッッと、なにかが飛び出した。
「アーーー、食べないでーー、俺はそんなに美味しくないよ~~~」と、黒影は奇声をあげた。沈黙の時間が流れた。これには黒影も困惑した。てっきり大型の肉食獣が出てきて自分を食べるものだと思って目をつぶっていた黒影は、何が起こったのか理解できなかった。恐る恐る目を開けてみると、目の前には、大きな弓を構えた人が立っていた。いや、人というのは間違いかもしれない。その容姿はまさにこの世の理を逸脱した美しさ、スラッとした細く美しい体に、スレンダーな胸、背中まで伸びた髪はサラサラで金色に輝いていた。顔はおそらく、いや、絶対に地球上のすべての男性にあの人は美人かと質問したのなら確実にYesとかえってくるような美しさであった。ここまでなら、女神に違いないが、百歩譲ってまだ人間と言える。それを人間ではないと言い切れるのは彼女の耳が原因だった。そう、彼女の耳は長く、そしてとがっていた。黒影の頭は今の状況についていけてなかった。しかし、一つだけ彼の脳に浮かんだものがある。それはエルフ!そう、本来ならば仮装したイタイ外国人観光客だと日本人なら考えるであろう。しかし、この現実ではあり得ないようなシチュエーションでの登場、もはや疑う余地はない。そして、エルフと聞いて無反応な男がいるはずはない。男なら誰もが憧れる至高の存在だ。それが生で、しかも目の前にいる。男ならこのあと黒影がどうするか、いや、どうすべきかわかるはずだ。もちろん、彼は期待を裏切らなかった。
「そこのきれいなお嬢さーーん、僕とお茶しませんかーー」そう、ナンパである。男ならまずは、エルフさんとお近づきになりたいはず。これは当然の行動だ。
ズパーーーン
「え?」黒影の顔のすぐ横をなにかがかすめていった。それはおそらく矢である。目の前にいたエルフは弓を構えていたし、今は矢を放ったあとの動きをしている。しかし、ただの矢の威力ではなかった。なにかをまとっているような感じだった。
「下劣な人族が。貴様ごときが私に話しかけるなどおこがましいんだよ。次は外さない。死ね。」と、エルフは殺気だった形相でこちらをにらんでいた。黒影は、この状況が飲み込めず脳がオーバーヒートしたのと、恐怖で、泡を吹いて失神してしまった。
それからどれだけの時間がたったのだろう。急に周りが騒がしくなった。朦朧とする意識の中、黒影は目を覚ました。しかし、目を開けることができない。どうやら目隠しをされているようだ。幸い猿ぐつわはされてないようだが、声を出せるような雰囲気でもなかったので大人しくしようと、黒影は考えていた。すると、鍵がかかるような音がした。周りも何やら湿っぽく、急に静かになった。
イデレーション(解放せよ)
と、女性の声が聞こえたと思ったら、急に視界が開け、手足も自由になった。そこは、予想していた通り薄暗く、鉄格子で仕切られた部屋のようだった。そう、ここは牢屋であった。
「おい、どういうことだよ。何で俺が閉じ込められなきゃいけねーんだ。おい!」黒影は混乱した。すると、牢屋の外にいたエルフが、
「黙れ、人族風情が口を開くな。貴様は一週間後処刑される。この町の者からの石打の刑にあってから火炙りの刑だ。恨むなら人族に生まれたことを恨むんだな。我々の積年の恨み、毅さまに払わしてやるから覚悟しておけ。」と、冷酷に言い放ち、去っていった。
「おい待てよ、俺がなにしたってんだよ。ここじゃぁナンパしただけで死刑かよ、おい!答えろよ、おい~」
突然の死刑宣告!?どうする黒影!!次回9月8日(日)更新予定
謝罪
この度は先週の25日に更新すると言っておきながら週遅れになってしまい誠に申し訳ございませんでした。翌日にテストを控えており、執筆する時間がありませんでした。誠に申し訳ございませんでした。