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第8話 没落貴族、未知の生物にであう。

 アーギル・ルヴィーニ・スクートゥムと紹介された人は、微妙な人だった。今、判断するのは失礼かもしれないが、何となく、本当に何となくだが近寄りがたい。というか、近寄りたくない人であった。


「仲良くやれそうか?」


「よくわかりません……」


 翌日、改めてグラディウス叔父に問われ、そんな風に答えるしかなかった。ハンサムだし、頭はよいというし、あたりは優しかった。それでもなんとなく、怖かったのだ。ちょっと距離を取りたい。


「兄上も、そうだったが、そういう勘は馬鹿にはならない。大事にしておきなさい。だが、その相手と一緒に暮らすというのだからなぁ」


 僕の非常識さ(らしい)を知ってから、叔父は妙に過保護になった。今日も、一緒に買い物に来ている。学院長から示されたものを買い、すべて家に運ばせた。ほとんどが既製服などだったので、嘆かわしいと言っていた。


 毎日僕に付き合っていて仕事はいいのか、と思わず聞いてしまったほどであるが、父関連だと言ったら納得されたそうだ。


 一方でドルシッラからはあたりが強くなった。前みたいに遠回しではなく直接嫌味を言われたり、偶に突き飛ばされたりしている。でも、よけると勝手に転んだりつんのめったりしているので、結構面白い。


 言っていること、やっていることが彼女はかなり幼稚なので、あまり実害に合わないというか、喜劇を見ている気分になる。憎めないというか、何というか。


 本能的に恐怖を覚えるスクートゥムと暮らすよりも、もしかしたらドルシッラの方がずっとましかもしれなかった。


「どうしたらいんでしょう」


「うーん…。ペットでも買うか?護衛をできるやつでも。あの学校は規定を満たせば持ち込み可だぞ」


 ペット!魅惑の響きだった。我が家には乳や毛を採るための家畜や近所の野良猫、野良狐などはいたが、家畜ではない動物は新鮮である。いつか飼ってみたかった。


「飼いたいです!あ、でも、管理とかお金とか僕、どうしましょう」


 我が家でペットを飼わなかったのはまだ僕に管理ができるか自信がなかったのと、家畜意外に金をかけようと思わなかったからだ。


「ペットは贈ってやろう。兄の領地からの上がりはそのまま公爵家に収められている。帳簿つけとかはするくせに、受け取らないからたまっているんだ。お前にそこから小遣いをやることは兄から了承を取り付けている」


 何と、父には領地があったらしい。最低限の管理はしているが弟である叔父にほぼ丸投げなので、金は受け取っていなかったのだという。叔父はそこから自分の分を引き、残りはとっておいてくれたらしい。


「お前の父は優秀だった。いや、いまでも優秀なのだ。いい公爵になるだろうに」


「なぜ、父の爵位返上は認められないんですか?」


 実質管理もせず、妻の田舎に隠遁している状態であれば、むしろ取り上げられても仕方ないだろうに。


「まあ、それは大人の事情だ。学校に行き始めれば少しずつ分かってくるだろう。今は………、知らない方がいいかもな」


 微妙な言葉で叔父は会話を打ち切った。大人というのは秘密が多い生き物だ。


___________________________________


 そこからパルフェなるものをカフェでおごってもらった。食べたことがあるかと聞かれ、アイスクリームならあるが、パルフェは絵でしか見たことがなかったと言ったら、ものすごく哀れまれたのだ。


「なかなか旨かったろう?また、今度来たら別のものをおごってやろう」


 どうやらかなり甘党らしい叔父は、可愛らしいカフェに行く口実を見つけて満足そうだった。確かに周りに男性は結構いたが、彼のような厳つい男性は少数である。


「はい。もっと色々食べてみたいです」


 知識と経験が重なり合うときの満足度は最高だ。そんなことを言うと、また、微妙な表情でこちらを見られた。


「まあいい。これから行くのは魔法生物も取り扱うところだ。普通の動物でもいいが、成長度合いとお前の必要性から考えると、魔法生物のがいいだろう」


「魔法生物は知恵があると言いますよね。その分扱いが難しいのだと聞きましたが、僕に扱えるでしょうか」


「おそらく大丈夫だろう。お前が年相応ならば勧めないが、その妙な自制心があれば大丈夫だ。ただし、食われないようにしなければならないがな」


 叔父も軍で契約した魔法生物を扱っているという。天馬と呼ばれる馬の一種だそうだ。気が荒く、叔父にしか懐かないのだという。だが、そこがとてもかわいいのだと、言った。


 魔法生物は知恵が高いものが多い分、下手をすると食われることがあるという。精神だったり肉体だったり、その部分はいろいろだが、味方に付ければ非常に心強い。


「そこでダメならば、何軒通ってみるといい。通りにはピンからキリまで幾つも同系統の店がある。ただし、絶対に私から離れるんじゃないぞ」


 そう言って梯子をしていく。


 一件目の叔父おすすめの店は、大型の騎乗する魔法生物が多く、寮生活には向かないと言われた。相性の比較的よさそうな一角馬もいたが、ピンとまでは来なかったのでやめておいた。


 二件目は鳥型の魔法生物が多かった。だが、なぜだかどの子とも相性が合わず、あきらめる。


 三件目は手のひらサイズや肩乗りサイズの小型が多く、あまり護衛にはならないだろう、と叔父に諭された。


 四件目はちょっと怪しげな店だった。ぱっと見はそう大きくはない。さびれた感じすらする。


 だが、一件目の叔父のなじみの店が紹介してくれたところだったので、中にとりあえず入る。同業者が紹介するのだから、悪いところではないだろう。


「すまない。ソロモンの紹介で来た。この子のための魔法生物を探しているのだが」


 叔父が声をかけたのは、鮮やかな瑠璃色の髪をした十代半ばくらいの少女だった。猫のような大きな目がかわいい。彼女にソロモンというここいらでは有名な動物商の紹介状を渡す。


 中を開け、改める其の雰囲気は十代のものではない。きっと擬態しているのだろう。あの学院長もだけれど、魔力が豊富な者は擬態していることが少なくない。


「確かのホンモノだ。まあ、ソロモンの旦那からの紹介じゃ断れないね。どんなものをお探しで?」


「部屋で飼えるくらいの大きさで、そこそこ知能があり、いざとなれば護衛になれるようなものだ」


「そりゃあ、旦那、なかなか難しい注文だ。……う~ん、まあ、ちょっと見てみるか。気に入っても相性ってもんがあるからね。とりあえず、見てみるといいよ」


 冷やかしでないと思ったのか、すんなり案内してくれる。店の奥の不思議な真ん中で分かれた布がかかった入り口を通る。


 すると、そこは異国風の設えになっていた。南国風というのだろうか。明らかに外から見た空間と広がってる空間の対比がおかしいのだが、空間魔法の使い手なのかもしれない。


「わぁ、天幕に絨毯!この植物文様から見るとルドゥン風ですね」


「よく知ってるね、坊や。そう、亡国ルドゥン風だよ。ここの中の動物は好きに見るといい。アタシと仮契約してるから、牙をむいたりできない」


 触れたりしても大丈夫、と言われたので、自由に見て回る。叔父は安心したのか、絨毯の上に胡坐をかき、香草茶をもらって飲んでいた。


 そうして、しばらく見て回った後、僕が見つけたのは不思議な生き物であった。大きな赤いビロウドのクッションの上でそれは寝ていた。


 小さく、真っ黒くて、艶がないぼそぼそした毛をしており、背中には奇妙なものが左右対称に張り付いていた。鼻の長さからみると犬かもしれないが、ちょっと違う。


「わあ…なんだろ?」


 思わずつぶやくと寝ていたその生物が目を開ける。


 すると、吸い込まれそうな金色の瞳と血のように赤い瞳と目が合った。

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