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第52話 没落貴族、奇妙な面子で会談する。

 放課後、わざわざ迎えに来た案内人とアムとともに応接室に向かう。グーグーはその間に学園内を見て回るとかで、今日は別行動だ。でも、呼べば来てくれるらしい。


「こちらでお待ちくださいませ」


 学長室を通り過ぎ、突き当りにある大きな扉が開き、小さな前室にアムと二人残された。椅子があったので座って待とうかどうしようか逡巡していると、後ろの扉が再び開き、ヴィルトトゥムに連れられた、キィ、ヴィ先輩、ルド先輩が入ってくる。


「あ、先生」

「おや。君の方が先でしたね」


 にっこりと笑うとアムと目を合わせる。何やら通じ合っているような感じである。


「キィも呼ばれたんだ」

「うん。父が来ているから来いって。急遽」


 二人で仲良く話している後ろでは先輩方がなんだかぼそぼそと話していた。さらにその後ろではヴィルトトゥムとアムが打ち合わせしている。そんな風に十分ほど待っただろうか。内側の扉が開いた。


「おやおや、勢ぞろいだな!こちらに入り給え。ヒュドラル=ユーグランスも入って構わないぞ」


 開けてくれたのは、縦横たっぷりの男性だった。見上げると首が痛いほどに大きい。ぱかん、と口が空きそうになり、ぐっと引き締める。

 目の前には漆黒の軍服ついた徽章がじゃらじゃらと揺れていた。上質な羊毛織の黒地の軍服に、光沢のある黒糸の縫い取りがしてある。多分騎士団の所属だ。


「ほら、入りなさい」


 はいったはいった、とさらに中に促され、中にぞろぞろと入る。

 入ると正面の奥には、斑点模様の椅子に座って、どこか尊大な雰囲気を漂わせた父と、疲れた雰囲気の学長、そして先ほど案内してくれた男性、あとは目元のしわがどことなく人のよさそうな気配を漂わせる中年男性がいた。

 

「よく来たね。ま、とりあえず紹介させてもらおうか。この珍妙な椅子に座っている、偉そうな男がヴィリロス・フィリア・アウルム=プラテアド=ルプスコルヌ。この巨漢がアルサス・フラルゴ・ベニニタス・トランクイリタース公爵。毒気の抜けたようにみえる男がセド・サリクス・ボナム・オケアヌス侯爵だ。あいさつおし」


 失礼といえばあまりに失礼な紹介の仕方を学長がする。それに合わせ、僕らはそろって礼をする。夕べ、カウダに及第点をもらえた礼である。なんだかぺこぺこを忙しないが、仕方がない。

 そして、学長に促されながら順に名乗り、最後が僕の番だった。


「ルプスコルヌ伯爵継嗣・コラリアが第一子、ルセウス・ミーティア・ルプスコルヌでございます。若輩者ではございますが、男爵の地位を授かっております。以後お見知りおきいただければ幸いでございます」


 正式な名乗りを上げる。僕の場合は祖父であるルプスコルヌ伯爵の跡継ぎである母、コラリア・ルプスコルヌ子爵の長子なので、そのような名乗りになった。一応これでも男爵位を持っているので、正式に名乗る時には欠かしてはいけないらしい。


「お前の息子とは思えないほど丁寧じゃないか」

「そうですね。コラリアの血筋じゃないですか?」

「何を言う。僕だってきちんとしてたじゃないか」

「…外面はね。あんたは昔から、結構無遠慮だったよ」


 挨拶をした後は、一気に打ち解けた雰囲気になる。父と彼らは旧知の間柄らしく、遠慮なくぽんぽんと話が進んでいく。生真面目にあいさつしたのがばからしくなるくらい、気やすい雰囲気だった。

 そして、名前からそうではないかと思っていたが、軍人さんがルド先輩の、そして人がよさそうな男性がキィのお父さんだという。よくよく見ればパーツは似ているかもしれないが、全体的には雰囲気や骨格が似ていない。うっかり目があって、ちょっと引きつりながらもにっこりと笑って返すと、二人とも嬉しそうに笑い返してくれた。


「ま、とりあえず、お茶にでもするかね」


 丁寧な言葉づかいでないことから、おそらく学長にとっても彼らは身内の範囲なんだろう。あきらめたようにため息を吐く。(見た目は)若いはずなのに、急に老けた感じだった。


「じゃあ、アムレト=アルカ、お茶の用意を頼むよ」


 僕ら子供が緊張している中、まるで意に介さない様子でアムは感情を読ませない笑みを浮かべ、お茶の準備に取り掛かり始めたのだった。



「ま、単刀直入に言うと、僕が王太子になったから、君たちに後継者候補になってほしいってことだな」


 とりあえずお茶とお菓子を楽しんでいると、父が何でもない感じで切り出した。大人組は学長以外は知っていたらしく、特に意に介していない様子だったが、ヴィ先輩とキィの手からフォークが落ち、ぱかりと口が開く。その一方でルド先輩はしたり顔でうなづいていた。学長も予測はしていたようだが、ちょっと驚いた感じである。


「キュアノス、アーギル君、無作法ですよ」


 ぱかん、と口を開けた二人のことをオケアヌス侯爵が注意し、そのまま顎を指でくいっと持ち上げて口を閉じさせる。ヴィ先輩とも知り合いらしく、先ほどからアムの手の届かないところを何くれとなく面倒を見ている。かなりの世話焼きだ。


「いや、でも…父上」

「いやもでもないでしょう。騒ぎ立てるんじゃありません」


 穏やかに微笑んだままでぴしゃりと息子も叱る。結構、しつけには厳しいらしい。


「まあまあ、サリー、驚くのも無理はないだろう。かわいいものじゃないか。ヴィリロスもそのいきなり飛んで、結論だけ言う癖を改めろ」


 トランクイリタース公爵がとりなす横で、ルド先輩は、なぜだか父を憧れの英雄でも見るようなまなざしで見つめていた。いつもとは雰囲気があまりに違う。目がもう、なんというかキラキラしている。


「話にならん。マニュ…いや、ヴィルトトゥム、説明を。ああ…もう、ヴィリロスには通訳が必要だね」

「はい、承りました。この一月ほど、こちらのヴィリロス・プラテアド=ルプスコルヌが城に留め置かれていたのは、なんだかんだで噂になっていたので、君たちも知っていたでしょう?」


 キィも先輩二人もこくこくとうなづく。僕は知っていたけれど、彼らもなぜか知っていた。なんでも、伯爵以上の貴族の間では、結構噂になっていたという。父が城に呼ばれて長期滞在しているということは、後継に関して何らかの動きがあるのではないかと。

 そんなわけで、ヴィルトトゥムの話を要約すると、一か月近くに及ぶ()()()()の結果、父が王太子に任命されたこと、そして心身不調の国王に代わり、国政の一部を担うことになった、ということである。

 多分、かなりの部分が省略されている。おそらく、物理的な話し合いがあったんじゃないかと思うけれど、語られることはなかった。父は結構気が短いのである。


「ルセウス・ミーティアだけでは、後継候補として足りないということでしょうか」


 いったんぷるりと頭をふるい、熱っぽい視点を収めてから、ルド先輩が口火を切った。この中で一番地位が高い学生は侯爵位を持つ先輩だ。彼は空気の読み方がうまい。学園内で高慢ちきな雰囲気を醸し出していたのだって、それが求められていたからだろう。


「うん。その読みは正しい。ラル先輩の息子にしては頭がいいな」

「失礼だな、お前は。これでも第一騎士団の団長なんだぞ」


 文句を言いつつ、トランクイリタース公はうれしそうである。父が営業用の笑みを浮かべていないので、多分かなり近しい存在だったんだろう。それに、多分この人、僕は何回か見かけたことがある。顔は見たことないが、後ろ姿に見覚えがあった。父の顧客の一人じゃなかろうか。

 

「早く言えばそういうことだな。逆に訊くが、ルドヴィウス、うちの息子が王に向いていると思うか?」

「…………う…あ、えー…。いいえ」


 ものすごく言いづらそうにこちらを見ながらルド先輩が言う。父を前にしていっていいのか迷っていたようだ。


「うん。僕もそう思う。現時点では、だが」

「条件だけだと最高だから、アタシは悪くはないと思うけどねぇ。というか、そのつもりだと思ってたよ。この子たちは側近候補だとね」


 ふう、とため息を吐く。血で血を洗う後継争いを目の前で見た学長は、後継候補を競わせるのにあまり乗り気ではないのだ、と言った。


「最初から結論ありきはよくない、とヴィ、失礼、王太子は考えたんだよ。条件さえ整えれば側近が優秀であれば何とかなるのはルセウス君でもうちの息子でも一緒だから」


 なるほど、とみてみれば、ここに集めたのは王位継承者になりえるものだけだ。属性の数が多く、魔力量も平均以上。そして王家の血を比較的濃く引いている。


「身内のときはヴィでいいぞ。ま、サリーの言う通りだ。君たちは、今後の努力次第で王になる資格を得られる。あくまでも今後次第だが。そして、王になれなくともいい地位を得られるだろう」

「それで保護者と一緒に呼んだんだよ。どう思うね、あんたがた。王になりたいかい?」

「お、わ…私は目指したいと思います!」


 ヴィ先輩がきっと決意したように父を見つめ、宣言する。そういえば、入ったばかりのころ、周りから王位に近いとか何とかいわれていたことを思い出す。それに、多分彼は学長のためにもそうしたいんだろうな、と思い至った。


「私は、辞退したいですが…その様子だとそうもいかなそうですね」

「おや、聡いな」

「国力の問題もあるのでしょう?」

「うむ、そうだ。先の戦争で伯爵と侯爵家の後継が死亡し我が国の国力はが大きく削られた。なんだかんといっても、公爵家は力があったから生き延びたものが多かったが」


 国防の一端を担うトランクイリタース伯爵の言葉には実感がこもっていた。

 あと、爵位は伊達じゃない。高位貴族ほど、膨大な魔力とそれを使う能力が求められる。逆に、後継者が基準に達していない場合、降格もあり得る。だから、学生時代には属性や魔力を増やす努力をするし、魔力の多い異性を求める傾向にあるのだ。親の魔力はかなりの割合で遺伝するのだ。


「王になるにせよならないにせよ、君たちには全属性になってもらうし、魔力の底上げもしてもらう」

「……自分は相反する属性が一つだけ欠けているんですが」

「なに、歴代最高の聖女が当代にはいる。死にはしない。全力で回復しよう」


 そういえば母は聖女だったなぁ、と思い出す。僕とは違い、大っぴらに回復魔法も使える。父の足の回復を行っているところしか見たことがないので、さほど力があるとは思っていなかったが(あまり回復していなかったので)、実はすごいらしい。


「あの、俺…いえ、私は全属性があるのですが、そこまで魔力が増えるとは思えないんですが」

「ああ、大丈夫だ。僕の見立てだと、君の器はそんなに小さくない。無意識に抑えている部分があるのだろうから、一度命の危機にでも瀕すれば、だいぶ増えるんじゃないか?」


 ざっとキィの血の気が引いていく。にやり、と笑った父の顔はとても悪そうだった。


あけましておめでとうございます。大した量でもないのに、気づけば書き始めて二月経過してました。これからは書けるといいなー…。自己満足ですが、ぜひ、最後まで終わらせたい。

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