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第6話 没落貴族、混乱す。

着いてから五日経った今日、学校に連れていかれることになった。すぐさま連れていかれなかったのは、身の回りの品があまりにひどいと言われたからである。


 洗浄魔法があるし、成長もするからということで持っていた服はごく限られていたのだが、それでは不十分であったらしい。グラディウスとバシリウスが昔、父が着ていた服を慌てて取り出してきた。はやりすたれのない型ならば、問題なく使えた。


 さらに言えば、学校に入ったことがなかったので、文房具などに必要な学用品を持っていなかった。筆記具は父のを借りていたし、使うのもほとんどは石筆と白墨だった。


 仕方がないことなのだが、当然のようにドルシッラに馬鹿にされた。まあぁ、こんなものも持ってないの、と言われたが持ってないものは持ってない。


 その日の午後に、これでも使えばいいわ、と目の前に汚れた筆記具をぶちまけられた。だが、すべて拾ってありがたくもらったら、おびえたように見られた。どうやら侮辱したつもりだったようだ。


 でも、物に罪はないし、質はとてもいいものだったのだ。使用済みではあるが、手入れさえすれば普通につかえそうなものばかりであった。


 文房具を只で手に入れた、とグラディウスにほくほくと報告したら、ものすごく微妙な顔をされた。


「いいか、拾った文具を使っているなどと絶対言うんじゃないぞ。貧しいことは悪ではないが、あの学校においては弱みになりえる。余計なことは言わず、堂々としていろ」


「はい。そうですね」


 あまり僕は気にしないけれど、無難にいい返事をしておく。


 貧しいのは事実。何て言ったってほとんどが借り物か貰い物だ。事実だから傷つかないというのとは違うが、それくらいのこと、言う方が馬鹿だと思っている。色々な事情というものがあるのだ。


 そもそも、今日の服もすべてお下がりだ。虹蜘蛛の糸で織られた白のシャツに、薄墨羊の毛で織ったベストとズボン。とても上質で、地元にいたら絶対身に着けなかったものだ。


 自前なのは母がこっそり入れていてくれた新しい下着。後はこの間も履いた十角牛の靴だ。


 それでもどこからみても貴族の子どもと言われたので、ちょっと安心する。


「お前は聞かれたことに答えるだけでいい。余計なことは言うのではない。余計なこともするなよ」


「はい、叔父様」

_____________________________


 と、言われてすべて無難に答えはずだった。


 実際のところ、質問されたことにしか答えていないし、要求されたことしかやっていない。言われたとおりに妙な水のようなのものに手を突っ込み、言われたとおりに魔法を使って見せただけである。


 それなのに………。


 何故、学院長だけでなく、大勢の教師が湧いて出てきたのだろうか。目の前で喧々諤々と議論がなされている。


 その一方で、叔父は僕の後ろで頭を抱えていた。これだけ優雅で典型的な頭が痛い、という仕草を目の前で見たのは初めてかもしれない。


「本当に、この子は子爵の子なのか?いや、プラテアド家の血を引いているというのはあるが…」


「まだ、授業を受けていないのだろう?学校に行っていないと聞いたが」


「杖も持っていないわね」


「魔道具の類も一切身に着けておらぬ。誰かが介在した気配も感じられぬな」


「しかも、この子、何も言わなかったし」


 頭の上を色々と声が飛び交っている。僕がやったことは非常識であったらしい。ただ単にそこにあるろうそくに火をともし、火の大きさを調整してから真空状態にして消しただけである。


 そんなことできちゃったりする?と聞かれたので、はい、と言って実践しただけである。


「あのう、グラディウス叔父様。僕は、何かしてしまったのでしょうか」


「お、お前…この期に及んで、この事態の異常性を理解していないのか?!杖なし、無詠唱だなんて!」


 とは言われても、さっぱりわからなかった。父に教えられたとおりに極力魔力の無駄を省き、動作を最小にして無詠唱で魔法を行ったのだ。


 杖など無駄なだけだし、いずれ要らなくなるのだったら、最初から頼らない方がいいというのが父の主義だった。


「杖って、補助輪のようなものでしょう?ない方が、反応が早いと言いますし。詠唱だって、獲物を狩るのに、音がしたら駄目じゃないですか」


 僕にとって、魔法は魔道具を作るか狩りをするときに使うものであった。狙いをすまして仕留めるのに、音がしたら獲物に逃げられてしまう。


「君は、父親に魔法を教わったんだね?杖なしで行うように言われたのかい?」


「はい、そうです。杖は頼りすぎるとよくないと、使ったことはありません。補助輪でない、増幅装置のような杖はめったに手に入らないから、ということでした。詠唱は、さっき言ったとおり、狩りには邪魔なので」


 いかにも魔法使いといった、一番年を取ったように見える白髭の男性に問われ、それに答える。すると、他の教師たちもじっと見つめてきた。


「あのね、ルプスコルヌ君。杖なしの詠唱なんて、中級魔術師以上しか、しないわよ。さらに言えば、貴方の年で無詠唱っていうのははっきり言えば異常。普通は上級でも大変だからやらないの。アタシだってできるけど、やりたくないもの。面倒くさい」


 うんと短くした紫色の髪をした印象的な女性が、あきれたように言う。周りの先生方も頷いている。彼ら曰く、多大な集中力がいるために、戦時中や護衛時にしか使わないと言った。


「でも、話すより思い浮かべて発動する方が圧倒的に早いんですよ。詠唱時間が短縮出来たら本を読む時間がぐっと増えるではありませんか」


 同意を得るように力説するが、まわりは首を振るだけである。どうやら僕の主張は受け入れてもらえないようであった。

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