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第34話 没落貴族、叔父たちの秘密を知る。

 何というか、かんというか。叔父とヴィルトトゥム先生はただならぬ関係であるらしい。なるほど、叔父が結婚しないわけだ。


 この年齢で独身の男性、それも高位貴族というのは非常に珍しい。しかも、叔父はプラテアド公爵とユベオー侯爵の相続権を持っているという、非常に優良物件だ。少々こわもてだが、見た目も悪くない。


 だが、彼らの様子を見て、得心がいった。なるほど、なるほどそういう関係か。昔から本によく出てくるから、知っている。母好みの本によくあった。まあ、僕としては他人の恋愛ごとに口を突っ込む気はないので自由にやっていただきたい。


「い、いや!ちが…ッ!いや違わないんだが、そのっ」


 先生との際どい(多分)場面を見られた叔父が混乱に陥っている。いいのか軍人として。沈着冷静でなくて大丈夫か。可愛いけど。


「もー、ラーディは相変わらずだな。ごめんね、叔父さんとの絡み、見せちゃって」


 一方で先生は落ち着いている。と言うか、もしかしてぼくに見せるのが目的の一つだったのかもしれない。彼は叔父の頬を怪しく一撫でして、膝から降りると、長い上着を整えた。いつものおっとりとした先生に比べて色気が駄々洩れだ。


「いえ、お気になさらず。愛に貴賤はありません。本当に、この国でよかったですね」


 グーグーに吊り下げられながらだと決まらないが、とりあえず、こういう時に言っておいた方がいいだろうことだけ伝える。僕に同性愛の偏見はない。田舎にもいるし、僕だって誰に恋するかわからない。基本的に同性愛でも異性愛でもどちらでもいい。

 

 幸い、わが国では同性愛は禁止事項ではない。同性婚も一定条件のもとに認められている。その気になれば彼らは結婚できるはずである。だが、禁止されている国もある。禁止されていなくとも、認められていない国のほうが多い。


「お前は何でそんなに落ち着いてるんだ!普通はっもっと!もっとこうっ!…大体お前を抱えているその男は何者だ!!不審者めっ」

「いやですね、叔父様。グーグーですよ」


 混乱に陥っているのか言動に脈絡がない。そう言えば、叔父の前では人型になったことがなかったなぁ、と思い出す。大体僕も、この部屋で初めてグーグーが人間になれることを知ったのだから、当たり前だ。


「は?グーグーとは犬だった気がするが」


 非常に不可解、という顔をする。眉間の皺がますます深くなった。普段に比べて表情筋がいい仕事をしている。


「そうです。僕と契約している魔法生物です。ね?グーグー」

「おう。そうだ。そこのオジサマがこいつを連れてきたな。…けどまあ、いい加減訂正させてもらうとな、オレは魔法生物じゃないぞ」


 まだ気づいてなかったのかよ、と大いに呆れたような声が頭の上から降ってくる。


「何、君。まだ、魔法生物だと思ってたわけ?」


 信じらんない、と言った態で珍しく先生が目を見開きながらこっちを見た。鈍いのか、とつぶやいた。何とも、失礼な。まあ、敏感なほうではないようだが。


 そんな我々のやり取りをよそに、叔父は取り残されたように椅子の上である。最初こそ感じが悪かったが、こうしてみると可愛い人だ。


「ええ。僕が契約できるくらいですし、ちょっと力のあり余った魔法生物だと思ってましたけど」


 違うの?と肩越しにグーグーを見ると、ものすごいどや顔をして言った。


「オレ様は超!超!高位精霊だ。ま、普段は都合がいいから魔法生物でいいけどな」


 ……それは知らなかった。

______________________________


「すまない。取り乱した」


 先生がお茶を入れに行ってくれている間に、叔父にそう言われた。恋人の部屋の所為なのか、いつもよりずっと表情が若く見える。考えてみれば父よりも年下なのだ。若いはずである。


「いいえぇ。隠してらしたんですよね。秘密がばれたらそうなりますよ」


 にっこりと笑って返す。母にばれたくないことがばれた時の父も似たような反応していたので、そんなところに血のつながりを感じる。


「……ルプスコルヌ家の…いや、義姉上の笑い方だな」


 叔父の母を言い表す言葉が「あの女」ではなく義姉になったことに驚きを覚える。何があったんだろうか。


「そうですか?顔は父似だといわれますが」

「いや、中身は母親に似ている。もちろん兄に似ているところもあるけどな」


 そう言うと、はあーと大きく一つため息をついた。


「ところで、お前のそれはどうにかならんのか?」


 僕の腹をぎゅう、と抱えているグーグーを指さして言った。この間と同じように抱えられている。確か人僕もどうかと思うが、当のグーグーはご機嫌だ。


「気にすんな!こいつ、抱き心地がいいんだよ。魔力がじんわり漏れ出してるしな。犬の時よりも身体が大きい分、うまい具合に吸収できる」


 一気に食べるより、じわじわ吸収するほうが好みだそうだ。


「ルプスコルヌ君は、今、これ以上魔力増やしても困るから、しまい方を先に覚えてしまった方がいいかもしれないね。…はい、お茶。ラーディとグーグーはネグルム茶。ルプスコルヌ君には牛乳入れたからね。追加の牛乳も砂糖も机の上に置いておくから、あとは好きなように」


 細かな気遣いが嬉しい。それにしてもネグルム茶も牛乳も結構高級品だ。子どもに出してくれるなんて太っ腹である。フラーグムの砂糖漬けも添えてあった。


「さて、今日は色々と腹を割って話そう。聴かれたことにはちゃんと答えるように」

「ラーディ、偉そうだよ。この子は君の部下じゃないんだから」


 叔父の隣に腰を下ろしながら先生が言う。そうしていると、自然で夫婦のようであった。かなり付き合いは長いのかもしれない。


「いえ、大丈夫です。…先生、ちょっとお母さんみたいですねぇ」


「それは、微妙な言われようだけど。まあいいや、それより先に、ラーディから言うことがあるんでしょう?」


 ぽん、と叔父に膝に手を載せる。彼が嵌めているたくさんの指輪が星のように煌めいた。服こそ地味だが、やはり華やか人だ。


「そうだ。そちらが本命なのだが。お前の父が、城に軟禁された。強制的にルプスコルヌ家から離縁されるかもしれん」


 寝耳に水の話に、僕のことを抱えているグーグーの手に思わず爪を立ててしまった。


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