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第22話 没落貴族、必須授業に臨む。

 キィと一緒に昼食をとることにして、食堂にいった。先日とは違う味を期待して今日は魚を頼む。でも、魚の種類は違うけど、色合いがこの間と同じで、ちょっとガッカリだ。


 一方でキィは肉定食を頼んでいた。しかも超特盛。大きく違う体格も納得だ。頑張って食べよう。僕も多分、そのうち大きくなるはずなんだ。たぶん。


 彼は気持ちのいい少年だった。はきはきしていて、卒がない。僕の言葉が足りないところをさりげなくフォローしてくれる。僕の周りは、ヴィ先輩か叔父のような、比較的ぐいぐい来るタイプが最近多かったので、さりげない親切というのが新鮮だ。

 

 いろんな話をした。特に彼の家族の話だ。妹はかわいいが、ちょっと手を焼いているらしい。妹のオケアヌスは、いままで離れたことがないから、寮で別々になって少し不安定なのだと言った。さっきは怖かったけど、かわいいところもあるという。


「元々、ピエタス孃とマールは同じ学校に行っててさ。…どんなに頑張っても妹は万年二位だったんだ」


 この学校に来る前の学校で、二人は犬猿のなかだったという。パンタシアもあの通りの性格だから、とにかく馬が合わなくて喧嘩はしょっちゅう勃発していた、と彼は言った。僕もちょっとパンタシアは苦手だ。


「本当に仲が悪くて。俺か先生が止めに入るんだけど、偶にはたかれたりしてたよ。俺は、もう女子に夢なんて持ってない」


 それにしても、伯爵以上の貴族は家庭教師で済ませる家庭も多いのに、珍しい。現在のオケアヌス家の当主は彼らの父で、侯爵であった。パンタシアは学力はともかく、《《勉強のため》》に来ていたという。


 ――――社会勉強かな?あの性格だし。


「そうなんだ。通りで口が滑らかだったわけだ。キィもおんなじ学校に行ってたんだね」


「ああ。…こう言うと恥ずかしいんだけどさ、うちは名ばかり侯爵なんだよ。だから、あんまり金がなくてさ」


 家庭教師を雇うのは金がかかる。学校に行けば、一対一ではないが、一通り学べる。さらには金のある一般庶民ともつながりが持てるという利点がある。商家など、たとえ名ばかりでも貴族と縁を結ぶために優秀な娘や息子を学校によこすのだ。


 家を継ぐのはキィで、オケアヌスは嫁に出るというから、人脈作りということもあっただろう。社交界にしょっちゅう出ることができない貧乏貴族にとって、庶民との人脈は大切だ。


 ―――そう考えると、うちの両親はわりと凄かったんだな。


「うちもだよ。だから、基本的には自給自足だった」


「本当か?!プラテアド家所縁なのに!」


「僕、最近まで自分がプラテアドの孫だって知らなかったんだ。普通の子爵の子どもだと思っていた。だから、畑でも色々作ったし、果樹園で果物も栽培してたよ。お酒もジャムも作っていたし、家事は一通り得意だよ」


 言った途端、キィから固い握手を求められる。彼も裏庭で使用人と一緒に畑を作っていたらしい。あれでオケアヌスは手芸が得意で、作品は家計の足しになっていたのだとか。人は見た目によらないものである。


 気取った貴族ばかりで、なかなかそんな風に受け入れてくれる相手はいなかったそうだ。


 僕とキィは一通り食べて話すうちに、すっかり意気投合していた。


___________________________________


 午後は、全員が必修の魔法基礎学であった。ここでは班を作り、できるものができないもののサポートをするらしい。担当教官はヴィルトトゥムである。


 いつの間にかグーグーも合流し、僕の肩にいつものように陣取っている。周りには幾人か魔法生物を連れている学生がいたが、ほとんどは小動物か鳥型だった。グーグーは周りを観察しているらしく、念話も入ってこない。そういうところはグーグーは賢い。


 一人一人、ヴィルトトゥムの助手から紙を渡され、番号を見て指定された机につく。「六」と書いてあった。六番の机には女の子が二人と、男が三人いた。一人はなんとキィだ。いそいそと彼の隣に座る。


 グーグーは大人しく机の下に入り込んだ。多分寝るつもりだ。


 メンバーはメモリアとレギオーという名前の子たちが女の子で、フィーニエンスとシーワン=アダマンテウスが男の子だ。レギオーはヴィ先輩と従兄妹らしい。


「はい、それでは席に着いたかな。これからしばらくはこの班で動くからね」


 ヴィルトトゥムが考慮したのか、パンタシアもアディもオケアヌスも、それぞれが別の班になっていた。


「じゃあ、今日はまだ教科書が人数分ないから、あとから各班に大きく図と手順を書いた羊皮紙を渡す。あと、必要なことは黒板に書くので、石板なり羊皮紙なりに書き留めるように」


 大きな黒板があり、彼が説明していく。今日がごくごく初歩の段階で、一番必要な下位の魔力回復薬の調合だ。聞くのがメインだが、分かり易い。


 これから先、魔術の授業が立て続けに行われると、魔力切れの学生が続出するらしい。これはそのためのものだ、と言われた。確かに幼い頃、魔力を複合的に使うと、魔力切れを起こして寝込んだ。そのたび、この類の薬を飲んだものだ。


「……さて、ここからは実践に入る。これは、正確に材料が切れて、正確に魔法陣が書け、きちんと魔力が通せれば誰でもできる。ただし、『正確に』『きちんと』というのが難しい。その加減を今日は学んでいこう。お互いに協力し合うように。終わらないものがいる場合、連帯責任とする。さあ、班ごとに材料や何かを取りに来なさい」


 番号順に材料と道具を取りに行く。僕はセクティオと呼ばれる調合用の刃物を取ってきた。革のカバーが先にかかっている。切れない配慮がされていた。


 ついでに助手から手順を書いた羊皮紙も渡され、刃物は一人一人手渡しするように言われた。他のメンバーはメンバーで魔法陣用の小さな羊皮紙や筆、薬草などを取りに行っている。


 班に戻ると、それぞれ必要なものを整えた。


「ええと、じゃあ、配りましょうか。はい、キィ。それから、メモリアさん。フィーニエンスくん。レギオーさん……」

 

「あたくしのことはレギオー嬢と呼びなさいって言ったでしょ?これだから下位貴族は嫌なのよ」


「そう。じゃあ、レギオー嬢、こちらをどうぞ」


 僕がそう言うと、つん、とカウダのように鼻を突きあげ、もったいぶったように手を引っ込める。黙っていれば美人の部類だが、感じ悪い。


「ねえ、レギオーさん、さっさと受け取ってくれない?ぼくの分、受け取りたいんだけど」


 どうしたものかと思っていると、ものすごくどうでもよさそうにシーワン=アダマンテウスが言った。彼の苗字のシーワンはファグアン王国の王族の名前だ。当然、レギオーよりも身分が高い。分かり易く彼女は黙って刃物を受け取った。


「はい、シーワン=アダマンテウスくん。これで全部だね。後は…」


「薬草はシーワン=アダマンテウスくんが並べてくれた。後はやるだけだ」


 キィを見ると、そう答えてくれた。机の上にはそれぞれの席に綺麗に薬草が並べられている。


「サビーでいいよ。長くて面倒くさいだろ」


 確かに、呼びにくい。サビーはとてもクールだった。


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