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閑話 わたくしと愛しい子どもたち。 ー カウダのつぶやき。

 わたくしの名前はカウダ。真名は別にありますけれど、愛しい坊ちゃまにいただいた新しい名前です。


 飛び猫として生まれ、どれほど経ちましたでしょうか。幾つもの年を経た気がいたします。あら、わたくしの年ですか?


 まあ、正式な歳をレディに聞くだなんて、野暮というものでございましょう。こういう者は何となく、でいいんですのよ。なんとなくで。探るような輩がいたら、張り倒しておしまいなさい。


 こほん。脱線しましたわ。

 

 …ええ、わたくし、ずっと主がない魔法生物として暮らしてまいりました。主を持った方が本来の力は発揮できますが、主を持たない魔法生物も珍しくはありません。偉ぶった人間に使われるなど、まっぴらごめんですもの。


 そんなわけで、ごくまっとうに野生の魔法生物として生きてまいりました。生きるうちに子どもも何匹も育てましたわ。わたくしの子どもたちは力が強く、賢くて、自慢の子どもたちです。体ももちろん丈夫です。たくさんの子たちが有力な魔法使いにつかえておりますの。もちろん、自分で選んでですのよ。


 さて、一生、主を持たず、暮らしていくと思っていたわたくしですが、8,9年ほど前ですかしら。細かいことは覚えておりませんわ。


 とにかく、お城の庭でくすんくすん泣いている、可愛らしい男の子に出会いました。大きな瞳に涙をためて、それでも必死にわんわん泣くのを堪えていて、とてもとても可愛らしかったわ。そして、何よりも礼儀正しい坊やでした。


「ぼくのこと、なぐめてくれるの?とびねこさん。ありがとう」


 涙でぬれた丸い頬に、ちょっと鼻を押し当てて挨拶すると、坊やは姿勢を正し、丁寧にあいさつをしてくれました。ちゃんとした淑女に対する礼でしたわ。


 わたくしはその気になればどの方とでも話せますの(ちょっとした自慢ですのよ)。けれど、なかなか話したいと思う方はいないものですわ。猫風情、と見下す方々ばかりですもの。


 それでもこの坊やとは話してみたいと思いました。


『まあ、坊や。とても紳士ね』


「お話しできるの?!」


 これがわたくしとうちの坊ちゃん、アーギル・ルヴィーニとの出会いでございました。


 この子ならば主にしてもいいわ、と契約を結んだのが、それから三日後でした。


 彼の保護者であるリューヌ・カタリナと当代の王には以前からスカウトを受けていたので、悔しがられましたけれど、坊ちゃまならばと言っておりました。


 なにせ、今までわたくしに声をかけてきた方々と違って、どんくさ…いえ、にぶ…いえいえ。ええと、何と申しましょうかしら…。


 あの、努力家ですのよ、ぼっちゃまは。けれども、若干、方向がずれているというか、絡まっているというか。


 ……とにかく放っておけませんでした。この子をわたくしの子どもたちと同様、独り立ちさせなければと思ったのですわ。


「カウダ。うちのヴィーを頼んだよ。あの子はヴィリロスとおんなじあだ名なんだけどねぇ。あの子みたいになればって、そう、あだ名をつけたんだが、いかんせん要領が悪い。努力は怠らないから、あんたの助けがあれば、いい男になるだろう」


 たまに晩酌をするリューヌ・カタリナにそうよく言われたものです。今では大分しっかりしたので、頼まれることも減りましたけれど。


『お任せ下さいな。わたくし、前々国王の契約猫を育てたんですのよ。隣国の魔法学校の校長の契約猫もわたくしの子ですわ』


 そうお約束して、はや幾年。立派になったと思った坊ちゃんですが、思わぬところでとても子どもじみたことをしておりました。


『坊ちゃん!あんな小さな子に威嚇するだなんて、何を考えているんです!しかも、あの子はヴィリロスの子どもだって言うじゃありませんか。わたくしの孫を助けてくれたヴィリロスの子どもをいじめるだなんて、許しませんよ!』


 ルセウス・ミーティアとうちの坊ちゃんとの初対面の顛末を、男子寮のガーゴイルたちから聞くと、そう叱りつけました。いつもとあまりにちがう、とガーゴイルたちが心配するほどに、感じが悪かったそうです。


 坊ちゃんはご両親との縁に恵まれなかった分、おばあ様であるリューヌ・カタリナのことになると、大変に心が狭くなるのです。姉上のカリタのこともそうですかしらね。その部分だけは本当にお子ちゃまなのですわ。


 だから、叱りつけつつも、あまりに坊ちゃんが不遇をかこうようであれば、わたくしは正面からルセウス・ミーティアと対立する覚悟でありました。


 ところが、ルセウス・ミーティアは妙に大人びた子どもで、しかもなんと!大精霊様を連れていたではありませんか。おまけにヴィリロスと並ぶほどの魔力を持っておりました。


 これは大変な相手が来たものだ、坊ちゃまが色々とあたるに違いない、かわいそうに、と思ったものの、そんな心配をする必要はない相手でございました。


 子どもは初日から、坊ちゃんが理不尽に言いつけた仕事も嬉々としてこなし、自ら率先して動く、変わった子でした。あまりに大精霊様に気安いので驚きましたが、それだけの力を持っているのだと、大精霊様はおっしゃっておいでです。


 彼のお方が契約を破棄できないほどの力だとか。あれは、なかなかいる人間ではありません。しかも、全く自覚がないのです。


 学校が始まって少ししたのち、わたくしはリューヌ・カタリナから晩酌に呼び出されました。


 こっそりと学長の私室に向かい、入ると人間の形に姿を変えました。晩酌をするときにはこの格好が一番です。猫の時には感じられない味覚が人型だと味わえるのですわ。


「カウダ、お前さんには悪いけど、もう一人、面倒を見ておくれでないかい」


 彼女はこの数日で、すっかりと老け込んだ様に見えました。彼はなかなかの問題児のようです。


 色々と引き起こしたあれやこれやを聞くと、納得でした。悪気がないのが何とも厄介です。


 彼女はわたくしへの賄賂でしょうか。貴重なクラーケンの干物と好物の東方の穀物でできた酒をわたくしに寄こしました。


「言われなくともそのつもりですわ。あれは放ってはおけません。グーグーさまはそこのところが疎いようですから、わたくしが教えて差し上げなくては」


 頼まれるまでもございません。坊ちゃん同様、危なっかしくて見ていられませんでした。リューヌ・カタリナの許可さえ得たならば、わたくしが指導するつもりでおりました。


「頼んだよ。お前さんが頼みだ」


「わたくし、自分の子も拾った子も含めて百匹以上の一流の飛び猫を育てましたのよ。立派に育てて差し上げますわ」


 わたくしは、これ以来、命が尽きるまでルセウス・ミーティアとかかわることとなったのです。



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