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とある日の兄妹の日常

作者: 紅蓮舞々

ITアイティー企業に勤めており将来を有望視されている青年のもとに、ある日ひとりの女の子が訪ねてきた。どうやら彼女は両親を失い、親戚もいないため、イケメンでそこそこかねのある俺に養ってもらう算段のようだ。しかたあるまい・・・男というのは、可愛い女の子に頼られてはノーとはいえない愚かな生き物だな・・・。

 そして、天涯孤独てんがいこどくな女の子との不思議な同居生活が始まるのであった・・・」

「おにぃ。ごはんできたよー」

「俺を『おにぃ』としたっているこのポニーテールの彼女こそ、その天涯孤独てんがいこどくでいずれは俺の嫁となる女の子・・・現在の好感度は数値にして八十!バカな・・・!?まだ上がるだと・・・!?」

「あ、このハンバーグ我ながら美味い」

「そう。そして彼女の料理は実に美味である。俺の女となるのに相応ふさわしい腕前だ」

「ごはん食べるときくらい静かにしてくんない?」

「くくく・・・照れているのだな嫁よ・・・いや、気が早いな。今はまだ、その段階ではなかったか・・・」

「静かにしないと明日からおにぃの分作らないからね」

「・・・・・・(箸でハンバーグをカットする)」

「こんどチーズ入れてみよっかな」

「・・・・・・(カットしたハンバーグを口に運ぶ)」

「ってかおにぃ。私と結婚したいの?」

「んぐんぐ・・・バカを抜かせ。この俺が血の繋がりのある実妹じつまいを女として意識しているわけがなかろう。気色悪い」

「だよねー。大学が近いからってことで、三年間会ってなかった独り暮らし中のおにぃの部屋に今日から同居を始めたってだけの妹相手に、変に意識してたらキモイしね」

「なぜそんな説明口調なんだ妹よ」

「なんとなく?」

「そうか。なんとなくか・・・ところで妹よ」

「ん?なに?」

ちちでかくなったな」

「キモイ死ね」

「おいおい。三年ぶりに再会した最愛の兄相手に『死ね』はあんまりじゃないか?」

「人として最底辺の相手(さいあい)たるおにぃにはご褒美なんじゃないの?さげすまれると興奮するでしょ」

「実の兄にドM属性を付与するな。第一、そういうのは彼女に言われて興奮するものだろう?」

「おにぃに彼女なんていないでしょ」

「ふっ・・・浅はかな妹よ。特別に教えてやろう・・・俺にも彼女くらいいるのだよ」

「はいはい。どうせ画面の中の可愛い女の子でしょ」

「そうだな・・・画面の中には違いない・・・くく、こんど紹介してやろう」

「タノシミダナー」

「そっちこそどうなんだ妹よ。その容姿だ・・・言い寄ってくる男はたくさんいるだろう?」

「そりゃいるけど。ぶっちゃけ私の好みじゃない男ばっかでさー。彼氏がいればおにぃなんかの部屋に住まずに済んだかもしれないのにね」

「お兄ちゃんは悲しいぞ・・・大学生にもなって彼氏ひとりいない妹なんて・・・そんな子に育てた覚えはありません!」

「おにぃに育ててもらったことないじゃん。むしろ実家にいる頃は私がおにぃの世話してたじゃん」

「ふっ・・・昔のことを持ち出してくれるなよ妹よ。過去は過去・・・今の俺は妹が知っている俺ではないのだよ・・・」

「見たところ相変わらずの中二病だけど?」

「見た目に惑わされるな。そんなことでは悪い男に騙されるぞ」

「可愛い女の子にちょっと声かけられただけでその気になっちゃいそうなおにぃには言われたくないかなー」

「ふっ・・・それは男をその気にさせる女が悪いのだ。どうせそういう女はすぐに股を開くビッチなのだから、その相手が俺であっても問題ないとは思わないか?」

「ごめん。ちょっとなに言ってるかわかんない」

「低能め・・・」

「ところで真面目な話になるんだけどさ」

「なんだ?安心しろ。ベッドは譲ってやる」

「なんで同じ部屋で寝る前提?」

「なんでとはおかしなことを言うものだな。ここにはベッドのある俺の部屋と、今食事をしているキッチン兼居間の二部屋しかない。しかれば同じ部屋で寝るのはしかたのないこと・・・違うか?」

「おにぃがここで寝ればいいじゃん」

「はっはっは。おもしろい冗談を言うようになったじゃあないか。四月とはいえ夜はまだ少し寒い。それなのに床で寝ろとは笑わせてくれる」

「私おにぃと一緒の部屋で寝るなんてやだよ。襲われそう」

「おいおい実の妹に欲情するほど節操なしに見えているのか俺は?」

「さっき嫁とか言われたし」

「あんなのもは冗談に決まっているだろう・・・残念ながら俺とお前には同じ血が流れている。実の妹に手を出す兄がどこの世界にいるというのだ」

「まるで血の繋がりがなかったら手を出すみたいな言い方だね」

「血の繋がりがなければセーフだからな」

「くたばれ鬼畜きちく野郎」

「とにかくそういうわけだ。ベッドは使わせてやるが、俺は部屋を譲る気はない」

「おにぃ・・・お願い。私、部屋にだれかがいると眠れないの・・・」

「そんな目をうるうるさせながら言っても譲らないぞ」

「ちっ」

「なんなら添い寝してやろう。昔はよく一緒に寝ていただろう?」

「やだよ。きんが移る」

「安心しろ。俺はいたって健康だぞ」

「そんなことより真面目な話がしたいんだけど」

「なんだ。ベッドの所有権のことではなかったのか?」

「それも大事だけど、私たちのこれからについて」

「すまない・・・妹であるお前の気持ちは嬉しいが、法律がそれを許してくれないのだ・・・」

「じゃなくて。おにぃ、今無職なんでしょ?」

「バカを言え。IT企業に勤めるエリートな好青年だと冒頭で述べたであろう?」

「冒頭ってなに。ってかさっきは好青年なんて言ってなかったし」

「俺以上の好青年は日本中を探し回っても見つからないだろうな・・・運命を呪うぜ・・・」

「私、高校時代にバイトしてたからそこそこお金あるんだよね。だから良心を失って、ママたちにも見捨てられたおにぃを養ってあげようと思って」

「ふ・・・妹の手など借りずともよい・・・」

「そうなの?私のお金頼りに一緒に住むのオーケーしてくれたのかと思ってた」

「そんな最低な兄がいてたまるか。心配せずとも貯金がある。まだしばらくは大丈夫だ」

「そっか。じゃあとりあえず通帳見せて?」

「なぜ妹に通帳を見せなければいかんのだ・・・バカなのか?」

「これからは私がおにぃのお金を管理してあげる。だーかーらー。おにぃの貯金がいくら残っているのか知っておきたいの」

「交換条件だ。俺の通帳を見せろというのなら、お前の通帳も見せてもらおうか」

「別にいいけど?」

「バカな!?兄妹きょうだいとはいえ他人ひとに通帳を見せるということは、相手に自分の経済力を知られるということだぞ!?人はかねで動く。そうなったら相手との関係性にもなんらかの変化が起こってしまう!それでいいのか!?」

「おにぃに見せたところでどうにかなるわけないじゃん」

「お、俺に見せてもいいと・・・?」

「うん。だっておにぃだし」

「そ、そうか・・・では『おにぃになら見られてもいいよ』と言ってくれたら見てやってもいいぞ。あ、照れた感じで頼む」

「はいこれ。私の通帳。おにぃのは?」

「あ、ども・・・これが俺のです。はい・・・」

「どれどれ・・・ってあと十万しかないじゃん!?おにぃ引き落としいつ!?」

「お前・・・なぜ三十万も持ってるんだ・・・」

「いいからいつなの!?」

「家賃は月末。携帯とクレジットカードが十日。それ以外は二十五日だ」

「クレジットカード!?まさかおにぃ、働いてないのにクレジットカード使ってるわけじゃないよね!?」

「そんなわけあるか。使ってたのは働いてる頃に決まっているだろう?」

「そ、そうだよね・・・いくらおにぃでもそんな間抜けなことするわけないか」

「ああ。しかしリボ払いというやつがあと十万ほど残ってる」

「おにぃ・・・」

「どうした妹よ」

「働こ?ってか働け。私もバイトするから」

「案ずることはない。俺はたったいま三十万を手に入れた」

「それ私のお金のことだよね!?さっき私のお金には頼らないって言ってたよね!?」

「それはそれ。これはこれだ。ひとつ勉強になったな。妹よ」

「はぁ・・・ちなみに、家賃と今月の携帯代はいくらなの?」

「家賃は八万。携帯は先月課金したからな。ざっと五万だ」

「バカなの!?無職なのに課金って死にたいの!?」

「しかたがあるまい・・・目の前に期間限定のキャラがいたら、お前だって手を差し伸べずにはいられなかっただろうさ。これでも抑えたんだ。むしろ『よく耐えたね』と褒めてほしいものだ」

「すごく上から!?ち、ちなみにだけど・・・今月は課金してないよね・・・?」

「実は春のピックアップキャンペーン中でな」

「わかったそれ以上は聞きたくない」

「訊いておいてそんな言い草はないだろう」

「おにぃの貯金が十万で私のが三十万・・・合わせて約四十万・・・家賃が八万で携帯代が私のも含めて六万・・・光熱費と食費はいくらかな・・・おにぃが管理できてるとは思えないから訊いても無駄だろうし・・・」

「なにをぶつぶつ言っているのだ?今月いくら課金できるか計算しているのか?」

「私はゲームに課金してないから!あとおにぃは今後課金禁止!もし課金したら携帯止めるから!」

「止めるくらい構わん。今はWi-Fiがあるからな」

「ネット代含めてなかったー!?五千円くらい!?もっと安い!?」

「たぶんそのくらいだったはずだ」

「把握しとけよ!」

「・・・父さん、母さん。お元気ですか。妹の言葉遣いが悪いです。昔はお兄ちゃんっこだったのにどうしてくれるんですか。育て方間違たのではないですか。兄は悲しいです」

「おにぃは黙って皿洗いでもしてて」

「はい・・・」

「今月は大丈夫にしても、来月は・・・ああもう早急にバイト決めなきゃ!キャンパスライフを満喫まんきつするはずだった私の輝かしい大学生活が・・・」

「そんなにいいものじゃないと思うぞ・・・?」

「いいからおにぃはさっさとバイトでもなんでもいいから見つけてきて!」

「今は皿を洗っているので・・・」

「ってかおにぃ・・・私がいなかったらどうするつもりだったわけ?」

「とりあえずパソコンを売って、他に高値で売れそうな物がないか部屋の中にある物をくまなく探して・・・」

「それ全然解決になってない!就職とまでは言わないけど、バイト探したりとかしてなかったわけ?」

「なかなかいい条件の募集がなくて・・・」

「選り好みできる立場か!この際ブラック企業でもいいから働いてお金稼ご?会社がつらくなったら頭くらいはでてあげるから」

「妹に頭撫でられて慰めてもらうとか死んでもいやなんだが・・・」

「私だってイヤだけど、ブラックな会社で働き続けるなら癒しがあったほうがいいと思うし」

「そもそもブラック企業で働きたくないんだけど・・・」

「おにぃみたいな落ちこぼれはブラック企業くらいしか雇ってくれないよ。免許とか資格とか、なにか持ってる?」

「バイクの免許なら・・・原付だけど」

「へぇ意外。バイク持ってるの?」

「ああ。たまに乗ってる」

「・・・・・・バイクって、たしか税金とられるよね」

「そりゃあな・・・」

「おにぃ。バイク売ろ」

「なんでだよ。移動手段がなくなるだろ」

「徒歩とか電車とか、公共交通機関を利用すればいいよ」

「徒歩は時間かかるし疲れるし、電車とかは時間が決まってるからいろいろめんどうだろ」

「そっか・・・じゃあしかたないね」

「だろう?」

「パソコンとおにぃのスマホ、今から売りに行こ?」

「は?おいおい妹よ。いきなりどうしたと言うのだ」

「課金するからダメなんだよ。スマホやパソコンがあるから課金するんだよ。だったら売っちゃえば課金しなくて済むでしょ?でしょ?」

「スマホは連絡ツールだし、ないと困るだろ・・・」

「働いてないんだから必要ないでしょ。働いたらまた買えばいいよ。それまでは私の番号を貸してあげるから」

「いやいやいや・・・」

「そうだ。バイト先一緒にしちゃえば番号ひとつでいいじゃん。私って天才」

「妹と同じ職場とか恥ずかしすぎて無理なんだが・・・」

「文句ばっかり。そんなんだから彼女もできないんだよ」

「だから彼女はいるって・・・」

「はいはい。おにぃがイケメンだったら、お金持ちのお姉さんに紐になってもらえるのにね」

「イケメンだったらそもそもこんなことにはなってない・・・」

「それは責任転嫁せきにんてんか。言い訳とかみっともないよー」

「ぐぅの音も出ない・・・」

「あ、だれか来たみたい。宅配便かな?私出るね」

「ふ・・・なぜ俺は妹に言い負かされているのだろうか・・・しかし・・・ハンバーグは美味かったな・・・」


「っておにぃ!おにぃに女性のお客さんだよ!」

「なんだ・・・もう朝か・・・?」

「なに寝ぼけてるの!?だれなのあれ!?」

「だれと言われてもまだ確認していないのだから、答えられるはずがなかろう」

「いいから早く出て!」

「しかたのないやつめ。ふむ・・・俺に用があるのなら直々に・・・」

「直々に・・・どうするのかなぁ?マイハニー」

「・・・・・・」

「は、ハニー・・・?あ、あの、おにぃとはどういったご関係ですか?」

「おにぃ・・・あなた、ハニーの妹さんなの?」

「は、はい。今日から一緒に住むことになりました」

「ふーん・・・あたし、なにも聞いてないけど・・・?」

「そ、それはですね・・・」

「あ、あの・・・もしかして、おにぃの彼女さんだったり・・・?」

「そうです。海外留学していて、先ほど帰国したのでサプライズで会いに来たというわけなんです」

「お、おにぃに彼女が・・・こんなダメダメなおにぃに・・・あの、おにぃのどこに惚れたんですか・・・?」

「強いて言えば・・・」

「強いて言えば・・・?」

「ダメ人間なところですかね」

「へ、へぇ・・・そ、それはつまり、おにぃのことを養ってくれているとかそういう・・・?」

「いえ。養ってもらうつもりです」

「・・・失礼ですが、おにぃが無職なことをご存知ですか?」

「え?ハニー。またクビになったの?」

「はい・・・すみません・・・」

「そう・・・ではあたしはこれで」

「えぇっ!?ど、どういうことですか!?おにぃとは別れるってことですか!?」

「まさか。ハニーの職探しの邪魔をしたくないだけです」

「あの・・・おにぃの貯金、あと十万しかないんです・・・」

「それは大変」

「か、彼女としておにぃを助けてくれたりとかは・・・」

「彼氏相手でもお金の貸し借りはしないとふたりで話し合って決めているので。では」

「ちょ、で、でもおにぃは困っているんです!」

「本当に困っていたら、あなたではなく彼自身があたしを頼ってくれるはずです。違いますか?」

「お、おにぃには危機感がないだけで・・・」

「危機感がちゃんとしている人間は、そもそもダメ人間にはなりませんよ」

「そ、それは・・・そうかもですが・・・」

「では失礼します」

「・・・おにぃの彼女、すごい人だね」

「だろう?居酒屋でひとり酒して泥酔しているところを介抱されたのがきっかけなんだ」

「さすがダメ人間・・・これから私、すごく苦労しそう・・・」

「安心しろ。俺がなんとかしてやる」

「おにぃはとりあえず働け」

「はい・・・」


   完

もしかしたらいずれ続編を書くかもしれないし書かないかもしれません・・・。

なにはともあれ読んでくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 妹ちゃんの距離感がすごくいい
2019/04/29 15:24 退会済み
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